エトフォルテ防衛戦線ヒデ! 第6話 それぞれの覚悟

 エトフォルテにドラクローたちが戻ってから、2時間後。
 長老と団長たちを失った今、ドラクローたちはエトフォルテの今後を話し合うため、十二兵団の会議室に力・技・心の部のリーダー格の者たちを緊急的に集めた。
 ヒデは、ドラクローに「わかる範囲で日本のことを説明してほしい」と頼まれ、この話し合いの場に参加した。
 居合わせたリーダー格の者たちは、ほとんどがヒデから見て十代~二十代前半の若者だ(宇宙人の年齢の数え方は日本人と同じではないだろうが、あくまでイメージだ)。ドラクローが事前に、集めた者の事をヒデに教えてくれた。
 ドラクローたちの幼なじみで、心の部の団長ジャッキーの妹で副官のジャンヌ。複数の親族が団長になれない規則上、試験こそ受けていないが実力は団長と同等だという。ドラクローとジャンヌの外見は18歳程度で、弟妹的なタイガとムーコは16,17歳程度といったところである。
 力の部の団員で、スレイと同期だった猪族の巨漢ハッカイ。年はたぶん、ヒデと同じか2,3歳上だろう。重量級の柔道家やプロレスラーを思わせる体型で、身長は2メートル近くありそうだ。堅そうな短髪と気性の荒そうな顔つきはまさに猪そのものに見えた。
 その弟分である、鳥族の少年で新人団員(ドラクローたちの団長試験と同時期に団員募集も行われたという)のカーライル。黒い翼と尾羽は、カラスを思わせる。やや小柄で幼く、日本人の感覚で言えば中学2,3年生くらいだろうか。
 ハッカイは団長でこそないが、若手団員たちの兄貴分として慕われ、カーライルは力の部の新人団員たちの中でトップクラスの戦闘力を持つという。
 さらに、イナバ団長の優秀な副官で、船の情報分析を統括する、眼鏡をかけた鼠族のモルル。きれいに切りそろえられたショートヘアには白と茶色が入り混じり、モルモットのようだった。利発そうな顔立ちで、ハッカイと同じ年頃に見える。実際、ドラクローは彼女とハッカイのことを「先輩」と呼んでいた。
 
 そして四十代後半と思われる者が二名。
 技の部のヨルザ団長の父でこの船の技術主任でもある、体格の良い猿族の男性リーゴ。刈り込んだ黒い髪に険しい顔つきは、森の王者ゴリラのごとき貫禄だ。
 ドラクローたちの育ての親でもある、孤児院の院長で犬族のハウナ。通称おかみさん。かつては心の部の団長だったという。背が高く、細身ながらも力強そうな雰囲気を漂わせ、亜麻色の長髪を紐で結っていた。
 

 「最悪の状況になった」
 ドラクローは、ジャンヌたちに陸地で起きたことを説明した。皆、顔も服も煙や血で汚れ、疲労の色を隠し切れない。
 説明が一通り終わると、リーゴが鋭い声を上げた。
 「ドラクロー。ここになんで日本人を連れてきた」
 リーゴの鋭い視線の先にはヒデ。ヒデは、威圧されて返答に困ってしまった。
 「こいつ、本当に頼りになるの?」
 続けてジャンヌがにらみつける。蛇族ということもあり、ヒデは古くからの諺『蛇ににらまれた蛙』を思い出し、ますます返答に困ってしまった。
 「ヒデは命がけで俺たちを助けてくれた。信用できる」
 ドラクローがなだめようとするが、ジャンヌは引き下がらない。
 「あいつらが、この男と同じ国の戦士たちが、お祖父さまたちを殺したのに、信用なんてできない!」
 「俺たちには情報が足りなすぎる。ヒデがいないと何もわからないんだ」
 「わかってる!!だけど…お祖父様も、兄さんも…」
 ジャンヌはしくしくと泣き出した。ムーコとハウナが落ち着かせようと、そばに寄った。
 「ヒデ。エトフォルテを襲った連中がわかるか」
 ドラクローが話題を切り替える。ヒデは、自分が知る限りの情報を伝えた。祖母が亡くなってから、いずれヒーローを批判する団体に入るつもりでいたので(結局台風のあとの一件で入らなかったが)、ヒデはヒーローの情報を時折チェックしていた。
 「あれはレギオン・シャンガイン。ヒーロー庁主導で最近活動を始めたヒーローです。メンバーは全7名。武装として、あの巨大ロボ『シャンガイオー』を所有しています」
 「俺たちを襲った理由はなんだ」
 「ネットニュースでは、この船から出た電波のせいで、街中の通信機能がおかしくなった。それで、エトフォルテを敵と判断したとあります」
 「そんなはずはないぜ!!」
 タイガが机をたたいて立ち上がる。
 「衛星兵器に攻撃される直前まで通信を送ったけど、落下したときエネルギーを重力制御装置(グラビート)にほとんど回した。だから、最低限防衛に必要なエネルギーしかなかった。陸地に向かって長距離通信の電波だって送れなかった!!
 送れるくらいなら、オーロック団長は俺たちを陸に送らなかったはずだぜ!!」
 タイガの言うとおりだった。ヒデは頷いて、もうひとつわかっていることを説明する。
 「墜落直前まで皆さんが送った通信を、シャンガインは、そしてこの国のヒーローを管轄する政府の機関『ヒーロー庁』は知らないということ。エトフォルテが衛星兵器に攻撃されたということも。
 そもそも、衛星兵器が本当にあるのかもわからないけど…」
 「彼らが、こちらの送った通信を理解できなかったという可能性は?」
 モルルの質問にヒデは少し考えこんでから、言った。
 「僕個人の考えですが、理解できなかったとは思えない。
 海外には宇宙人から技術提供を受けたヒーローもいると聞いています。宇宙からの通信を理解する術はあったはず。
 何より、シャンガイオーに皆さんは日本語で通信を送りました。僕ともこうして話している。それを問答無用で攻撃するなんて、まともじゃない」
 「まともじゃない連中なのはわかっているんだよ、日本人!!ぶっ飛ばすぞ!!」
 巨漢のハッカイが怒鳴りつけた。そんな彼をハウナが制止する。
 「ハッカイ!話の腰を折るんじゃない!
 日本人。やつらが襲ってきた理由がわからないならそれでいい。
 私は単純に聞いちゃうよ。あいつら、また襲ってくると思う?」
 「おそらく。7日後、次の日曜日にまた」
 「明日ではないのね」
 「確実ではありません。しかし、ヒーローも悪の組織も日曜になると活発化する傾向にあります」
 「なんだよ、その変な傾向は」
 「そういう傾向ってことにしとけ。話が進まないから」
 ツッコミを入れたカーライルにタイガが答える。
 ヒデは補足した。
 「次の日曜日までに、メンバーを失ったシャンガインは体勢を立て直す。そしてエトフォルテを倒す。
 その様子を編集して、やつらはテレビ放送すると思います」
 テレビ放送、という単語に皆が不思議そうな顔をする。ヒデは、その内容を正直説明したくなかったが、隠せばもっとまずいことになると思い、意を決して説明した。
 「ヒーローの戦闘の現場を撮影して、格好良く編集。その様子を電波に乗せて、国民に見せるのです。ヒーロー庁の国策で、それに民間企業も数多く協力している。
 おそらくそう遠くないうちに、エトフォルテを連中が襲った映像が日本中に流れます。シャンガインが侵略宇宙人を、獣人を殲滅した、と編集されて。
 以前、反ヒーロー団体の冊子で読みました。そうやってヒーローの活躍する様子を見せて、国民がヒーローを信じるようにしているんです」
 そして、獣の特徴を持った人間、通称『獣人』は、海外では独自のネットワークを築いて悪事を働いているという。そうでない獣人もいて、普通の生活を求めて平和的に活動しているというが、ヒデも海外の事はあまり詳しくない。
 日本ではそれほど獣人の悪事は聞かれないが(なにせ毎年新手の悪の組織が生まれているから、海外の獣人組織が入ってくるすきがないのだという)、エトフォルテの皆の外見でシャンガインが敵と判断した可能性もある。
 その点を慎重にヒデが説明したところ、
 「オメー、ふざけんなよ!!みんなの殺された様子が、見世物にされるってのか!!
 しかも見た目!!見た目で敵と判断するって、なんだよこの国!!」
 ハッカイが机に拳をたたきつけた。歯を食いしばるも、怒りの空気が彼の全身から漏れている。
 怒りと恐怖が会議室を支配する中、さらに諦めと絶望が顔をのぞかせた。
 「7日後にまたあれが来るのか。状況は本当に最悪になってしまった」
 リーゴの発言に全員が凍り付いた。このいかつい顔の年長者の顔に刻まれた絶望感は、娘を失ったこともあるだろう。相当なものがあった。ドラクローは何とか空気を変えようとする。
 「主任。諦めたらだめだ。俺たちが諦めたら、戦えないみんなも諦めてしまう」
 「だが、娘のヨルザも、ほかの団長たちもみんな死んだ。食料なんかも燃やされた。
 すぐそばにある陸地は敵だらけだ。上陸なんてできない。そもそも、エトフォルテは動けない。これが最悪でなければ、何なんだ」
 ドラクローがタイガに目配せした。今度はタイガが説得を試みる。
 「浮上は無理だけど、応急修理すれば海上航行はできるだろ。そうしたら…」
 「逃げたところで連中が追ってくる。仮に浮上できたとしても、宇宙に浮かんだ衛星兵器がある。逃げられるところなんて、ない!!」
 リーゴがさらに絶望的な表情で叫び、頭を抱えた。
 「最悪なんて言葉は生ぬるい。もはや、エトフォルテはお終いだ」
 「どらあああ!?主任、終わらせちゃ駄目だろう!!」
 ドラクローが慌てて制止するが、もう遅かった。
 あまりにあまりなリーゴの発言に、その場に言わせた全員が騒ぎ出した。真っ先に反応したのはジャンヌだ。今にも首を吊りかねない真っ青な顔でつぶやいた。
 「殺されて見世物になるなら、自分でお祖父さまたちのところに…」
 「ヌーちゃん、早まらないでよ!!」
 「ジャンヌ!!馬鹿なことを言うんじゃない!!」
 ムーコとハウナが止めに入る一方で、タイガたちもパニックを起こしていた。
 「おかみさんもジャンヌもムーコも、とにかくもうちょっと落ち着け!」
 「落ち着いている場合ではありません。急いで今後のことを考えないと!」
 「こうなりゃ全員で陸に向かって、玉砕に行くしかないぞ!黙って死を選ぶくらいなら!」
 「…玉砕。やはり、お終いだ」
 「カーライル、オメーちょっと黙ってろ!そして主任!俺たちを勝手に終わらせんな!」
 ハッカイとカーライルがもみ合いになり、ドラクローが慌てて間に入る。
 「喧嘩してる場合じゃないだろう、みんな!!頼むから落ち着いてくれ!!」

 傍で見ていたヒデは、会議がどんどんまずい方向に向かっているのを痛感した。
 駄目だ。このままでは大喧嘩になり、会議どころかいろんなものが終わってしまう。
 ヒデは、決意した。
 「皆さん!ちょっといいですか!」
 大声をあげて、ヒデはドラクローたちの話し合いを中断した。
 「皆さんは今、このエトフォルテを、仲間を守るための話をしている。そうですよね?」
 「オメー、当たり前のこと言ってんじゃねえよ!ぶん殴られたいのか!!」
 ハッカイが再び怒鳴る。かなり迫力があったが、ひるんではいられない。
 「ならば、みんなの話をまとめるためにこうしましょう。
 これから書くものを用意して、これから必要だと思うこと、今これが足りない、逆にこれはできるということを、どんどん書いていってください。
 そうして出た意見を、絶対にやらなければいけないこと。その次にやったほうがいいこと。さらにその後で対応したいこと。この3つに分けましょう。そうやって、優先順位を決めて、一つずつ片付けていくのです。
 みんな、エトフォルテのために懸命に考えた意見です。意見を書いている間、そして意見をまとめている間、ほかの人の意見を批判してはいけません。その決まりの中で、やってみませんか?
 今のままでは、感情のぶつけ合いです。皆を守るために、きちんと話し合いましょう。
 お互いの意見を、尊重して!!」
 みんな、あっけに取られていた。
 ややあって、ハッカイが口を開いた。
 「日本人。なんで、おれたちエトフォルテのためにそこまでするんだよ。
 ここにいるだけでもやばいのに。オメー、故郷を敵に回すぞ」
 ヒデは、はっきり言った。
 「僕はヒーローが嫌いです。そして、スレイさんが僕の夢を応援してくれた。
 だから今度は、スレイさんの仲間の助けになりたい。故郷が敵になるなら、それでいい」
 地元にいる知人や自宅のことがちらりと頭をかすめたが、これ以上は考えないことにした。
 自分は、この人たちを助けたいのだ。
 ハッカイは納得したわけではないようだが、それ以上何も言わなかった。ドラクローが仕切りなおす。
 「とにかく、ヒデの提案通りにやってみよう」
 ほどなくして、メモ用紙と鉛筆のような筆記用具が用意された。ヒデは腕時計を見て記入時間を15分とり、5分経つごとに合図をした。
 こうして、9人のリーダー格による意見が出そろった。意見が書かれたメモ用紙を、ヒデはドラクローたちの力を借りて大きく3つに分けた。ヒデはみんなと会話ができても、エトフォルテの文字は読み書きできないからだ。
 その結果は、かいつまめば次のとおりである。

 最優先事項
 ・また襲ってくるかもしれないヒーローに対する対策。力の部団員の大半が亡くなるか大けが。戦力を大至急確保する必要あり。
 ・食料生産区を攻撃され、食料が失われた。長居するなら余裕はないので、できるだけ早めに確保したい。
 ・けがの治療のための薬も、今後を考え早めに確保したい。
 ・亡くなった者たちをきちんと弔い、埋葬したい。
 
 次に優先する事項
 ・エトフォルテの修理。推進翼と対空砲台は、手持ちの資材では不可能。浮上および飛行も不可能。
 ただし、光学防壁(シドル)と重力制御装置(グラビート)は応急修理で限定的に使用可能となった。完全修理にはあと10日程度必要。海上航行は15日程度修理すれば可能。まずは光学防壁と重力制御装置を完全修理。そのあとに海上航行のための修理を行う。

 さらにそのあとで対応したい事項
 ・子供や老人たちが環境の変化を不安に思っている。気持ちを落ち着かせたいが、ヒーローへの対策、エトフォルテの修理ができなければ余計不安になる。
 ヒーロー対策と海上航行のための修理後に、これは対応する。

 「信じられない。本当に意見がまとまった」
 ドラクローが驚きの声を上げる。ヒデはブレーンストーミングと呼ばれたこの会議方法を、町のイベント企画会議で教わっていた。
 だが、まとめてお終いではない。
 「ここからが本番です。最優先事項をこなすために、何をすればいいのか考えましょう。
 まず、エトフォルテの皆さんの衣食住です。水は何とかなるんでしたね、タイガさん」
 「海水変換機(アクリース)は大丈夫だ。水は海からいくらでも用意できる」
 「薬草はまだあるけど、これからを考えると代用品が欲しい。どれだけここにいるか、わからないから」
 涙を拭いて落ち着きを取りもどしたジャンヌが、医薬品の状況を説明した。
 「食料生産区を襲われて、食料を燃やされちゃった。全部ではないけど、長居をするなら余裕はないよ」
 「衣食住ではないけれど、亡くなったみんなをきちんと葬ってやりたい。でないと、悲しい気持ちがますます強くなる。これは早めにやるべき」
 さらにムーコ、ハウナの意見に皆が頷く。
 しかし、最大にして最優先にして対応しなければならない事項が残っていた。
 「ヒーローがまた攻めてきた時の戦力がなければ皆殺しだ。戦闘を担当する力の部の団員の半数近くが死ぬか、ケガで動けない。なによりみんな、びびっちまってる。
 さっきの連中、シャンガインは絶対にまた攻めてくる。いや、ほかのヒーローもきっと」
 そう言って、ドラクローはヒデに向き直った。
 「ヒデ、アンタの知恵を借りたい。なんとかならないか?」
 皆がメモを書いている間に、すでにヒデの頭の中でこれからの作戦は考えてあった。
 「シャンガインが1週間後の日曜日に攻めてくるまでに、準備を整えるしかない。あなたたちの許可をとれるなら、作戦があります」
 「どんなだ」
 「ヒーローと敵対していた、悪の組織の残党たちがいる。残党たちは独自のネットワークを築いて、今も反撃の機会をうかがっていると聞きました。
 そのネットワークに介入して、同志を募る。そこから戦力と、生活に必要なものを手に入れるという作戦です」
 「俺たちに悪党と手を組めっていうのか、お前は!!」
 リーゴが悲鳴に近い声を上げた。それはそうだろうとヒデも思う。だからこそ、落ち着いた口調を保って、言った。
 「手を組む相手は、もちろん選びます。暴力丸出し、殺人鬼みたいな連中は断り、真にエトフォルテを助けてくれる者を加えましょう」
 「でも、みんな悪い人たちなのでは?」
 モルルの質問にヒデは答えた。
 「敵対した理由はそれぞれと聞いています。中には、僕のように組織に属さずヒーローたちを憎んでいる人もいるはずです。
 協力してくれる人は、きっと現れます」
 われながら危険な作戦だと思う。だが、戦力と必要なものを調達するにはこれしかない。
 ヒデ自身は悪の組織とのつながりは全くない。しかし、ヒーローがこの世の春を謳歌する一方で、敗れた悪の組織の残党たちが独自のネットワークを築き、虎視眈々と仕返しの機会をうかがっているというのは、日本人なら誰もが知っている公然の秘密だった。
 実際、残党たちが一斉蜂起して、複数のヒーローがスクラム組んで戦ったことも、この国ではよく起きている。
 その残党たちの中に、少しでもまともな者がいることを願うしかない。
 「うまくいくといいけど。明日あいつらが来たらと思うと心配だよ」
 カーライルが不安げにつぶやく。ヒデは自分に言い聞かせるように、言った。
 「これからやることは全て賭けになります。シャンガインの気が変わって、明日にでも攻めてきたら、はっきり言ってお終いです。7日後に来るなら、勝機はあります」
 「そのお終いな状況になったら、残っているみんなで戦うしかない」
 ドラクローが暗い顔で呟き、ヒデのほうへ向き直る。
 「ヒデ。そうなる前に、お前だけでも…」
 ドラクローが言わんとしていることを、ヒデは即座に理解した。
 だから、彼の言葉を遮った。
 「僕も全力で力になります。ここでみんなと最後まで戦います」
 「ヒデ。しかし…」
 ドラクローが言いよどむ。ヒデを後で風海町に帰す、と約束したのはドラクローだ。そのことはヒデも承知している。
 だが、この状況で自分一人帰るわけにはいかない。帰ったところで、警察や消防署、ヒーロー庁に問い詰められて、ショッピングセンター炎上の罪に処せられるのがオチだ。
 今さら自分一人助かって、平穏な生活に戻りたいとは思わない。あの燃え盛るショッピングセンターで、自分はエトフォルテの人たちを守ると決めたのだ。
 「ドラさん。僕は覚悟を決めました」
 「…そうか。
 だが、お前だけ覚悟を決めても、どうにもならない」
 ドラクローはきっぱりと言い放ち、この場に集まったエトフォルテの仲間たちを見つめた。
 「俺も、いや俺たちも、全力を尽くす!全員、覚悟を決めろ!
 何としてもエトフォルテは生きていかなきゃならない。ヒデを信じて、策を練る。そして生き延びる!!」
 「しょ、正気か、ドラクロー!?こいつは日本人だぞ。本気で信じるつもりか!?」
 リーゴが拒否感をあらわにし、鋭い表情でドラクローをにらみつける。ドラクローはこのいかつい年長者に臆することなく、言い返した。
 「わかってるよ。みんなを殺したヒーローと、同じ国の出身だ。
 だが、ヒデがいなきゃ俺たちは陸で皆殺しにされていた。俺たちを守るために、ヒデは全力で戦ってくれた!そんなヒデをスレイ先輩も信じた。ヒデは、信じられる日本人だ!!
 リーゴ主任。そして皆も、ヒデの作戦以外に解決策があるなら言ってくれ。
 もしヒデを信じられない、罰を与える、追い出すというなら、ここにヒデを連れてきたのは俺だ。俺はヒデと一緒に罰を受けるし、出て行ってもいい!!俺は正気だし、本気だ!!」
 ドラクローのその言葉と態度に、ヒデは壮絶な覚悟を、本気を感じた。
 しばしの後。
 「やるしかない!!」
 「わ、私も!!」
 「ヒデ!!オレもアンタを信じるぜ!!」
 ジャンヌが、ムーコが、タイガが立ち上がった。
 残るハッカイ、リーゴ、モルル、カーライルも続いた。
 「仕方ねえなあ。とりあえず信じてやるよ、日本人」
 「もう後には退けない。どうせ死ぬなら前向きにだ。娘もそれを望むだろう」
 「リーゴ主任。死ぬためではなく生きるためにやりましょう」
 「絶対にみんなで生き残ってやる!」
 最後に残ったハウナは、ヒデをまっすぐ見つめて、言った。
 「スレイはうちの孤児院で育った。ジャッキーはいつも子供たちの病気を診てくれた。二人とも言っていた。エトフォルテの皆を守るために頑張ると。オーロック団長たちも、長老たちも同じ気持ちのはず。
 ヒデって言ったね。スレイのことを思って協力してくれることに、感謝する」
 頭を下げたハウナは、表情を引き締めて続ける。
 「だからこそ私は、厳しいことを言っちゃうよ。
 死んでいった皆の思い、ドラクローたち私の子供を裏切るような真似をしたら、私は問答無用でアンタを船の外に投げ飛ばしちゃうからね!!」
 ハウナの厳しい視線を正面から受け止めて、ヒデはその言葉を胸に刻み込んだ。
 自分はこの人たちとともに戦うと決めた。そのために多くの事を仕掛けていく。ふと父の教えを思い出した。
 仕事をするに大切なのは、誠意と責任だ。
 「十二兵団の皆さんに恥じないよう、誠意を尽くし、責任を全うします」
 「その言葉を、嘘にしないでちょうだいよ」
 ハウナは、ほろ苦い微笑を浮かべた。


 

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