50話更新を機に、これまでを振り返ってみる。

 小説「エトフォルテ防衛戦線ヒデ!」を50話まで書きました。
 約2年。中途半端に投げ出すまいと、試行錯誤しながらここまで来ました。
 今回の創作雑記では、小説を書き始めたきっかけを詳しく振り返ってみます。


 このサイトを始めるよりかなり昔。
 私はいくつか趣味の小説を書いて載せていたのですが、途中で中断し玩具・模型レビューサイトに転向しました。
 いつか小説をまた書きたいな、という考えはあったけれど、きちんと最後まで書ける自信がなくて、結局書かずじまいでした。

 そして、今から10年くらい前。
 アメコミヒーロー大集合映画が日本で公開されました。
 ネタバレになるためタイトル名は伏せますが、私は衝撃的なラストシーンを目の当たりのするのです。
 それは、
 「助けられた市民が『ヒーローが怖い』『街が壊れた責任をヒーローに取らせろ』と言う場面がTV報道で流れる」
 シーンでした。
 もう、文体を崩してでも率直な感想を書くと、ビビった。
 日本のヒーロー番組と全然違う!?と。

 日本の代表的なヒーロー。そう、日曜日の朝に流れるあのヒーローたちにも劇場版があり、ヒーロー大集合ネタももはやお約束。いつだって助けられる市民が拍手と声援を送り、ハッピーエンドで終わるのが当たり前。
 市民がヒーローに対し恐怖心を覚え、苦情を言うなんて。日本ではまずありえないと思いました。しかしよくよく思い返すと、さらに以前のアメコミヒーロー映画でも似たようなシーンはあったのです。
 さて、このアメコミヒーロー大集合映画はその後も続き、時にはヒーローに対し、戦いで家族を亡くした市民が面と向かって苦情を言う場面もありました。アメコミヒーローの世界では、ヒーローと世間の人々(いうなればモブ)の立場は限りなく近く、それゆえに苦情を浴びせられたヒーローが苦悩する場面も多々あります。自分の行いは正しいのか。ヒーローやってていいのか。世間は自分をどう思うか、と。

 一方の日本のヒーローを振り返ると。
 ヒーローに思いきり苦情をぶつける市民というのはあまりいない印象で、壊れた建物はいつの間にか元通り。悩み苦しみはあるにせよ、最終的には悪がいなくなって万歳。劇場版では前の年のヒーローがなんやかんやで現れ、みんなで仲良く悪と戦い、楽しくやっている。
 違うんだなあ、と思いました。アメリカではヒーローになることが決して楽しいことではなく、むしろ厳しい現実に向き合うほうが多い。
 近年、日本ではヒーローになったほうがむしろハッピーで、みんなヒーローになれるよ、むしろなっちゃいなよ、とヒーロー化を推奨している節もある。

 ヒーローが毎年新たに生まれる日本があったとして、それが50年近く続いたら。
 そこで暮らす世間の人たちは、どんなことを考えて暮らしているんだろう。ある時そんなことを考えました。
 ヒーローから芸能人や政治家に転身する人もいるだろう。
 ヒーローを応援する政治家や、ヒーローを管理する役所だってできるかもしれない。
 ヒーローがハッピーエンドを迎えても、1年たったら新たな悪の組織が暴れだす。そしてまた新たなヒーローが現れる。
 そんな世界では、きっとヒーローの都合がいつでもどこでも最優先されてしまう。
 果たしてそんな世界で暮らす日本人は、拍手と笑顔でヒーローを応援できるんだろうか。
 ヒーローが権力を握ったら、どうなるのか。

 そんな世界観を思いつき、「いつかちゃんとした小説にできたらいいな」くらいの気持ちで、あるシーンを断片的に書きました。

 『ヒーローが溢れかえって威張り散らしている日本。ある夜、お腹をすかせて地球にやってきた宇宙人が、ショッピングモールに入り込み、警備員に見つかる。
 宇宙人と警備員は店の売り物を一緒に食べて仲良くなるが、そこに悪堕ちしたヒーローが現れて暴れだす。
 ヒーローを撃退したものの、宇宙人と警備員はヒーロー第一主義な社会の荒波に巻き込まれ…さあこれからどうなる?』

 「エトフォルテ防衛戦線ヒデ!」の冒頭は、こんな感じで、もう6,7年前には原型を考えていたのでした。
 これ以外にも、
 「日本のヒーローの都合に世間の人が巻きまれたらどうなるのか?」
 というネタを、私は思いつくまま書き連ねては、PCの奥に眠らせておいたのです。
 いつかこれらのネタを、ちゃんとした小説にできたらいいな、と思いながら。
 でも、きちんと書いていける自信がありませんでした。公開する以上は定期的に話を載せなければならない。
 自分にできるのか?本当にやれるのか?覚悟はあるのか?
 そう思うと、公開する自信が持てなかったのです。

 転機になったのは、2019年から2020年にかけて起こった出来事。
 千葉出身の私は令和元年台風で被災し、その後の新型コロナウィルス流行や家庭事情で、身の回りが激変しました。
 「この先さらに大変なことがあるかもしれない」
 「やっておきたいと思ったことをやらないと、絶対に後悔する」
 そう思い、眠らせていた数々のネタを2020年の秋から練り直し、少しずつ書き溜めて2021年の5月から「エトフォルテ防衛戦線ヒデ!」は始まりました。
 翌2022年に、SKIMAでかげつき様にキャラクターデザインをお願いし、イラストの力によって、当初のネタにはなかった様々なシーンを新たに書くことができました。
 そして今。本編の話数は50話に達しました。もちろん、この先も話は続きます。
 というか、頑張って続けます。必ず。


 最後に。
 もし今、この記事を読んでいるあなたの頭の中に書いてみたい話の断片があったら。
 いつかのネタ、あるいは“種”にするつもりで、思いつくままに書いてみるといいかもしれません。
 自分の書いてみたい物語を。世界観を。誰かの人生を。
 すぐに公開する必要はありません。
 自分の中の覚悟が決まった時、物語の種同士が掛け合わさって、思いがけない物語が花畑のごとく咲き乱れるかもしれませんよ。

 ……と、最近の朝ドラの影響をもろに受けた文章で締めくくってみました。

2023年08月25日