エトフォルテ防衛戦線ヒデ! 第97話 映画とバトルに魅せられて(中編)

 時は流れ、和彦は小学5年生になった。
 古今東西の映画を見て、木刀を振り、日本舞踊を学び続けた。小学4年生からは、町にできた総合格闘技道場にも通い始めた。
 丸っこい肥満体型は引き締まり、とうとう師匠からこう言われた。
 「やっと舞台映えする顔つきになった。よし和彦。舞台に出ろ」
 この年の春。和彦は町内の文化会館で開催された演芸大会に、新選組をモチーフにした剣舞で初舞台を踏んだ。
 重厚な日本歌謡曲に合わせ、和彦は斬って斬って、斬りまくる。師匠に託された演舞用の刀(ジュラルミンでできた新品!師匠がプレゼントしてくれたのだ!)が、ステージライトを浴びてきらめく。
 初舞台は、観客の大きな拍手と喝采で終わった。
 やりとげた!本気で練習してきた日々は無駄じゃなかった!
 和彦は大きな充実感を味わい、衣装から私服に着替える。
 ホールで残りの演目を見ていくことにしたのだ。町内にある落語やカラオケの同好会が、30組近く出演している。
 軽妙な落語に笑っていると、客席に自分と同じくらいの小学生男子がいるのに気が付いた。
 なんとなく気になり、演目がすべて終わった後、和彦は彼に話しかけてみた。


 少年は、登美山颯斗(とみやま・はやと)と名乗った。
 風海町にある歯科医院の子で、あだ名はトミー。学校は同じだったが、当時和彦とはクラスが違ったので、面識がなかった。
 トミーは顔立ちがよく、歯科医院出身だけあって歯が綺麗。そのままでもカメラ映えしそうだな、と和彦は思う。
 トミーは和彦の剣舞の感想を聞かせてくれた。
 「はっきりいって、カッコ良かった。俺と同じ小学生がこんなに刀を振っていいのか!?ありなのか!?って」
 「世の名だたるアクション俳優は、俺と同じ年のころから格闘技や武道を一生懸命やっていた。俺も追いつかなきゃ、と思ってる」
 「へえ。君、俳優目指しているのか」
 「いや、映画監督。血沸き肉躍るバトルや、知恵と勇気を絞って立ち向かうサスペンスを描きたい。そのために、剣舞や格闘技を勉強してる」
 「へえ~。映画監督。ありだな!」
 登美山は和彦の話を真剣に聞いてくれた。
 そして自分の夢を語った。
 「俺はお笑い芸人を目指してる。ゲーム好きだから、ゲームをネタにした笑いを極めたい。そのためには、身近なところから笑いの勉強をしないとな」
 「それで演芸大会に」
 「落語はいろいろ勉強になるんだ。なにより面白い」


 話しているうちに、二人は意気投合。
 やがて、トミーが言った。
 「和彦。中学で映画撮る部活作ろう。映画研究部。兄ちゃんから聞いたんだけど、文科系の部活は4人いれば設立できる。部活として活動すれば、学校から予算もらえるぞ」
 トミーの兄はギターをやっていて、中学で軽音楽部を作った。彼は4年前に卒業したが、軽音楽部は今でも活動している。
 「4人じゃ映画は撮れない」
 話を最後まで聞け、とトミーは言う。
 「要は、正規部員が4人いればいい。役者やスタッフは、興味のあるやつに声をかけて集めればオーケー。ネットで面白動画投稿が流行っているんだ。興味のあるやつは絶対たくさんいる。演技や撮影を通してお前は監督の才能を、俺は笑いの才能を伸ばせる。映画を見た人はハッピーになる。つまりみんなハッピーだ。やろうぜ」
 ちょうど、ネットで動画投稿サイトが流行り出した時期でもあった。
 和彦の中で好奇心とやる気が一気に膨らむ。
 「よし、やろう!」
 二人はさらに話を進めていく。
 映画の発表の場は、11月の文化祭。ここで発表するとして、中学入学後に脚本を書いて仲間を集めるのは、遅すぎる。
 脚本と役者・スタッフを小学校にいる間に用意しておき、入学後に映画研究部を設立。5月から撮影を始めるのがベストだ。
 そのためには、正規部員をあと二人確保しなければならない。
 トミーが提案する。
 「和彦がその気なら、正規部員を一人俺が確保する。ビデオカメラに詳しい奴だ。絶対役に立つ」


 演芸大会の翌週の土曜日。
 町内の図書館で和彦が待っていると、トミーがビデオカメラに詳しい友人、一原涼(いちはら・りょう)、愛称イッチを連れてきた。二人は昔から友達で、クラスが一緒だった。
 イッチはのんびりした口調で夢を語る。
 「将来は動画編集者になって、面白動画一杯作ってみんなに楽しんでもらって、お金を稼ぎたいなあ」
 ぽっちゃりしていて、カメラよりは食べ物に詳しそうなやつだなと、和彦は思う。
 あとでわかったが、実際彼は食いしん坊。硬いビスケットを食べすぎて顎関節症(がくかんせつしょう)になりトミーの実家の歯科医院にかかったのが、友達になるきっかけだった。毎週ゲームを一緒に楽しんでいるという。
 和彦は尋ねる。
 「トミーから、ビデオカメラに詳しい、って聞いたんだけど」
 「父さんが詳しいんだ。うちはエアコンの修理業者なんだけど、父さんカメラが趣味で、結構レベル高いよ」
 イッチも父の撮影を手伝っているので、カメラの扱いや動画の編集には詳しいという。
 スマートフォンが世に出るのは、もう少し後のこと。この当時、本格的に動画を撮るなら撮影はビデオカメラ一択であった。
 「父さんのおさがりだけど、ビデオカメラ持ってる」
 そう言って、イッチはデイパックの中からビデオカメラを取り出す。
 少し前の機種だが、手ブレに強く、動く被写体をくっきり撮影できると評価の高い物だ。映画作りに申し分ない。
 さらに話していくと、イッチにはかなりの撮影技術と知識があると分かった。
 これならいける。和彦は映画研究部の話を切り出した。
 すると、
 「トミー。カズさん。ぼくも入れてもらいたいなあ」
 イッチは即答。和彦は快諾。
 こうして小学5年生の時、トミーとイッチが映画研究部設立メンバーとして加わった。
 なんでカズさん、とさん付けなのか聞いたら、イッチはのんびり言った。
 「監督ってことは、みんなのリーダーだろ。リーダーは、さん付けで呼ばなくちゃ」
 和彦に、リーダーとしての自覚が生まれた。


 あと一人の正規部員は小学校卒業までに確保するとして、和彦、トミー、イッチは計画の次の段階に進んだ。
 映画の脚本づくりだ。どんな話をやるかで、集める役者候補もロケ地も変わってくる。
 脚本は、和彦が書く。
 「とりあえず、バトルかサスペンスで行こう!」
 と、ざっくり方針を決定。町内で撮影できそうな場所を想定しながら、まず7本、下書き程度のストーリーを書いた。トミーとイッチ、さらに師匠にも読んでもらって、3本まで候補を絞った。
 師匠は和彦の映画制作について、ひとつ釘を刺していた。
 「俺は多少助言やコツは伝える。小道具を貸したりする。が、現場と脚本はお前が仕切ること。将来の仕事の予行演習だと思って、本気でやれ」
 最終的に、
 『忌まわしい因習が残る村で殺人事件が起きる!』
 という、この国の探偵小説へのリスペクトをこめたストーリーで、決めた。クライマックスに銃撃戦も入れる。
 下書き程度のストーリーに肉付けし、脚本とする作業が始まった。
 両親の持っていた脚本づくりの教本などを参考に、日々の勉強と踊りの稽古、格闘技の練習の合間を縫って、和彦はせっせと脚本を書いた。
もちろん、将来に備えて合間にネタ帳を書くことも忘れない。一日一殺(いちにちいっさつ)を目標に、バトル映画のいいところをネタ帳に最低一つ書いていく。軍隊の戦術論なども読みまくった。
 

 季節はめぐり、和彦は小学6年生になった。
 この年の11月下旬。とうとう脚本は完成。タイトルは『震える沼』。
 町はずれの沼で死体が見つかって、それが連続殺人の始まりに……、というストーリー。すでに町のあちこちをめぐって、沼以外の撮影場所も目星をつけてある。
 和彦は自宅にトミーとイッチを招き、完成した脚本を見せた。
 二人の反応は、上々。
 トミーが満足げに頷く。
 「いけるぞ和彦、絶対!普通の中学生は、ここまで殺人ネタ満載の映画なんて撮らない。まずそれでお客の興味を引ける。何より話が良い!レトロな探偵小説のノリがたまんねーぞ!ありだわ、これ!これで主役やれるなんて、俺最高だわ!」
 トミーは主人公の探偵役。和彦は鼻高々だ。
 「ああ。撮るからには本気でやる。血のりはケチらないぜ」
 すでに身近なもので作る血のりのレシピも、勉強済みだ。
 撮影担当のイッチが質問する。
 「相手役の殺人犯は、誰にやってもらうの?」
 和彦は声を潜める。
 「……実はこの殺人犯。絶対にこいつがやったらいい!ってやつをモデルにした。それこそ、探偵と対になる、もう一人の主役として」
 別に自宅だし、両親も外出しているから声を潜める必要は無いのだが。大事な話なので、慎重に言うべきだった。
 「できることなら、俺はそいつに正規部員として一緒に映画を作ってほしいと思っている」
 「え、誰なのそれ?」
 イッチの質問に、深呼吸して答える和彦。
 「うちのクラスの真稔秀春(しんねん・ひではる)。みんなヒデって呼んでる」
 トミーは、やっぱりなあ、と大きく頷く。
 「俺も思ったんだ。これ、絶対殺人犯ぽくない穏やかで優しいところが、ヒデっぽいなあって。ぜひやってもらおう」
 6年生進級時のクラス替えで、和彦とトミーはクラスが一緒になっていた。イッチは隣のクラスだ。
 「さすがトミー。真稔の優しい感じが、殺人犯としてドラマに映えると思った。優し気なまなざし。いい顔。いい声。周囲からも普段は慕われているところが」
 イッチが不安そうに言う。
 「でも、真稔くんやってくれるかなあ。うち、お祖父ちゃん町内会の役員やっているから、いろいろ聞いてるんだけど。真稔くん、お祖母ちゃんと二人暮らしでいろいろ大変みたいだよ」
 「お祖母さんとの生活に支障が出ないように、撮影スケジュールを組む」
 ほかの部活からも協力者を募る以上、迷惑になるような撮影スケジュールは組まない。
 だが、イッチはさらに不安を吐露する。
 「真稔くんのお祖母ちゃん、昔学校の国語の先生だったらしいよ。孫が殺人犯演じるなんて聞いたら、怒るかも」
 「先生か」
 「うん。教わった大人の人たちも多いみたい」
 お祖母さんは真稔千代(しんねん・ちよ)と言って、「千代先生」という愛称で親しまれていた、という。優しくまじめで礼儀正しい真稔秀春の性格は、たぶんお祖母さんの影響なのだろう。言われてみれば、彼は人にものを教えるのも上手い印象だ。
 「この映画、かなり人が死ぬから、お祖母さん気にするかも……ほかの大人も」
 普通推理小説だと死人は3人から5人くらいだが、『震える沼』は倍以上の11人が死ぬ。そして血のりをバンバン使う。
 残虐だと思わない大人のほうがおかしいくらいだ。
 やってもらおう、と乗り気になっていたトミーが、急に不安になる。
 「大人ににらまれたらやべーな……」
 たしかにやべーな、と和彦も思う。両親はTV局勤めをしていた時分、視聴者の反応には敏感だった。
 もっとも、それを気にしていたら何も作れないのだが。配慮を超えていく勇気も時には必要。でなきゃ11人も死ぬ脚本なんて書けるもんか。
 何よりこの自信作は、ぜひヒデにやってもらいたい。和彦は強い気持ちで脚本を書いたのだ。だから言った。
 「ヒデがやらないなら、この脚本はお蔵入りにして別の脚本を書く」
 しばしの沈黙の後。
 たしかに、とトミーが切り出す。
 「正直、この役をヒデ以外のやつが演じる場面を想像できない」
 イッチ、苦笑い。
 「まあ、ぼくも真稔くんがいいな、とは思うんだ」
 二人の言葉で、和彦は腹をくくった。
 「俺からヒデに話す。来週調理実習で、俺は班が一緒だから、その時に」
 

 一週間後。
 調理実習を終えた和彦とトミーのもとに、イッチがやってきた。
 イッチが尋ねる。
 「真稔くん、どうだった?」
 トミーが、はあ、と深くため息をつく。
 イッチがおそるおそる聞く。
 「……失敗したの?」
 トミーが和彦をにらむ。
 「なんだよ、和彦。あの説得は。カレー食うなり『この味だ。ヒデ!お前とならやれる気がする!中学で一緒に映画を作ろう!』って」
 和彦は頭を下げた。もう、気まずくてたまらない。
 「だって、調理実習中だし、あいつ女子と楽しそうに話してたから、殺人犯を演じてくれなんて……言えなかった……」
 「そりゃ食事中に女子の前で殺人犯はないけど」
 優しくて料理が上手なヒデは、女子の人気も高かった。
 「とにかく、一緒に映画を作ってほしい、ってことだけは伝えたくて……」
 トミー、深い深いため息。
 「はあ……。あんな勧誘したら、絶対無理な撮影に付き合わされると感じただろうよ。イッチ。真稔には断られた」
 和彦は途方に暮れた。
 「……脚本は一から書き直す」
 トミーも肩を落とす。
 「そのほうがいい。この殺人犯は、ヒデ以外にはやってほしくない」
 イッチも力なく頷いた。


 数日後。
 和彦が下校しようとすると、なんとヒデから声をかけてきた。
 「八十島くん。映画研究部の話だけど、参加するよ」
 「ほんとかい!?」
 「お祖母ちゃんの手伝いもあるから、そこは配慮してもらえると助かるな」
 「もちろん!配慮するさ!」
 やった!
 今この瞬間、和彦は己の映画の成功を確信した!
 喜び勇んで自宅に戻り、書き上げた台本を抱き上げて歓喜の声を上げる。
 翌日から、和彦は脚本をもって、トミーとイッチとともに映画に参加してくれそうな仲間に声をかけて回った。
 ネタバレ厳禁だから、脚本の内容は他言無用だぞ。仲間たちにそう言い含めた。


 そして、学校は冬休みを迎えた。
 ふと和彦は、自宅で我に返ってみる。
 ヒデは映画研究部に参加すると言った。
 和彦も一緒に映画を作ろう、とは言った。
 が、役者を、それも殺人犯をやってくれと一言も言っていないことを、思い出した。
 そして、最も致命的な過ちに気が付いた。
 ヒデに脚本を見せていない!
 あいつ、裏方として参加するくらいの気持ちかもしれない。殺人犯やってくれ、なんて言ったら降りるかも……。
 やべーな。ちゃんと説明しないと。
 和彦は、冬休み明けに説明するつもりだった。
 が、冬休みが明けると同時に、和彦はインフルエンザにかかってしまった。幼いころのトラウマで、冬場に風邪をひくと滅茶苦茶体調が悪くなり、思考がぐちゃぐちゃになる。
 やっとの思いで快復し、登校を再開した13日後。
 和彦はヒデに脚本の説明することを、完全に忘れた。


 そのまま小学校を卒業し、中学校へ。
 4月初旬。部活動申請を正式に済ませた後、和彦は脚本の内容をヒデに説明した。
 そう。ここに至るまで、和彦はヒデに脚本を見せることを完全にすっぽかしていた。全部インフルエンザのせいだ。
 果たして、ヒデの回答は、
 「なら断る!」
 ああ、やっぱり!
 いちおう、お前は主役だと言ったのだが、
 「殺人犯なんて演じたら、お祖母ちゃんが悲しむ!大体、犯人なら主役じゃないよ」
 和彦は食い下がる。
 「おい!!探偵や刑事が活躍できるのは殺人犯がいるからだぞ!!殺人犯がいなかったら、探偵も刑事もただの人!殺人犯こそが真の主役!!」
 「理屈はわかった。でも断る!殺人犯は人を殺す。お祖母ちゃんにそんなシーンは見せられない」
 再三、ヒデは断ってきた。
 和彦は、本当に困ってしまった。
 すでに役者及びスタッフ候補に脚本を見せ、20人近く集めていたからだ。
 ヒデに断られたら作品が成立しない。この自信作は世に出ない。
 作品が死ぬ。それは創作者としての死でもある。
 いや。それ以前にヒデは正規部員として採用したのだ。ヒデが抜けたら部が成り立たない!
 作品、そして映画研究部の死におびえた和彦は天然パーマ頭を抱え、本気で泣いた。
 「お前をイメージして、もう脚本書いちゃったんだ!!ほかのやつには絶対やらせたくない!俺はこの作品に賭けているんだ!」
 ヒデが冷たく正論で返してくる。
 「それは君個人の事情だろ」
 そうだ。俺個人の事情だ。
 だが、脚本のウケが仲間内で良かったのも事実なんだ!
 お前が殺人犯を演じれば、絶対間違いないんだ!
 演じなければ何もかも終わってしまうんだ!
 和彦の感情は高ぶり、目元から熱い物があふれだす。演技ではなく、本当に泣き出したのだ。
 涙に任せて、和彦は無茶苦茶な泣き落としを敢行する。
 「ほかの部員も脚本読んで『これはヒデにしかできない』って言ってる!!頼む!!やって!!お願い!!」
 「なんで先に外堀を埋めてるんですかー!?」
 ヒデが思わず敬語でツッコんでくる。
 彼は確実に動揺している。ここはさらに攻めるしかない。
 和彦は間髪入れず土下座した。
 「頼む!映画研究部に入ってくれ!お前には絶対役者の才能があるから!」
 「いや、才能あるって言われても……たぶん、僕には無いよ」
 「そんなことない!」
 「いや、本当に才能ないってば!」
 「ある!」
 「ないよ!」
 「あるって言ってるだろ!」
 「ないから!」
 再三断るヒデに、だんだん和彦は腹が立ってきた。
 とうとう土下座したままヒデをにらみ上げ、ブチ切れた。
 「おいいいいい!俺が才能のない人間を殺人犯にすると、本気で思ってんのか!やれよ!」
 「……ちょっと!君、何もかも滅茶苦茶だよ!」
 「俺は滅茶苦茶は言う!が、作品に対しては嘘偽りなく本気で取り組んでる!つまり!俺が選んだからには、ヒデ!お前には間違いなく才能がある!だから入れ!やれ!入部と殺人犯を認めるまで、俺は土下座を止めないから!」
 「もう脅迫じゃないか!……わかった!わかったから土下座やめて!」
 とうとうヒデは、和彦の土下座に押し切られる形で、きわめて仕方なくという感じで、映画研究部への正式入部と殺人犯を演じることに、同意してくれた。
 「とりあえず、脚本僕にも見せてよ」
 和彦はヒデに脚本を貸した。


 二日後。
 ヒデは脚本を返して、一言。
 「話は面白かった」
 「ホントかい!」
 「ただ、僕は本当に殺人犯を演じられるのか、不安は尽きないけど」
 その不安を自信に変えて、のびのび演技してもらうのが監督の仕事だ。
 「お前は才能あるから!それに大丈夫!俺達ならやれるから!」
 和彦はそう言って、手を差し出す。
 ヒデは苦笑しながらも、握手に応じてくれた。
 「無許可の脚本は、これっきりにしてよ」
 と言い添えて。


 それから間もなく。
 ヒデと和彦のクラスに、女子生徒が転入してきた。
 名前を、大滝李紗(おおたき・りさ)という。
 「小学校では『オタキ』って呼ばれてました」
 自己紹介でそう名乗ったオタキは、千葉県北部にある『浜園市(はまぞのし)』出身で、なんとキックボクシングの経験者。家族そろって釣り好きで、風海町の釣り船民宿によく来ていたという。
 活発で体の切れも良さそうなこのスポーティな少女が気になり、和彦は話しかけてみた。
 オタキは自分の身の上を語る。
 「父さん、勤めていた会社をリストラされちゃった。そしたら民宿をやっていたおじいさんが、うちを継いでみないかって」
 おじいさんは高齢で身寄りがなく、釣り船と民宿を引き継いでくれる人を探していた、という。大滝一家は民宿経営を決断。移住の際にちょっとしたゴタゴタがあり、転入が遅れたそうだ。
 「私も釣りは好きだからね。ま、民宿は父さんと母さん、あと姉さんがやっていくから、私は格闘技を極めていく。この町には格闘技道場があるんでしょう?実は通おうと思っててさ」
 「ああ。俺もそこに通っている」
 「あんたも格闘技をやってるんだ」
 「俺は映画を作る修行の一環で習っている」
 「映画か。私も好きだよ。アクション映画、いいよね」
 いい反応だ。和彦は思い切って聞いてみた。
 「なあオタキ。映画研究部に入って、格闘技のスキルを活かしてみないか。オタキは身体の切れがいいし、きっとアクションが映える」
 オタキ、ビックリ。
 「えー、ちょっと……!初対面の女子に向かって『お前の身体の切れがいい』とか、言っちゃうんだ!」
 「いや。見ていて本当に体の動きに無駄がなかったから」
 毎日何かしらのアクション映画を見て、日本舞踊と格闘技を続けていれば、他人の身のこなしから運動能力を推し量ることができる。和彦から見て、オタキの身体の切れはトップクラスであった。
 そう説明して、しばしの後。
 オタキは明るく笑った。
 「誉め言葉として受け取っておくよ。じゃ、映画研究部、入れてもらおうかな。正規部員で」
 「ホントかい!」
 「私の動きが本当にアクションに映えるのか、興味がわいた。やるよ」


 

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