クリスティア王国で起きたブロン一派とユメカムコーポレーション、そしてデストロを交えた三つ巴の死闘を制したエトフォルテとリルラピス女王たち。
同盟関係を結び、ブロンたちの悪事と日本政府の疑惑を公表してから、もうすぐ3ヶ月が経過する。
彼らは着々と、ともに戦うための準備を続けていた。
最優先事項は、二つ。
エトフォルテの完全修理。そして日本から攻めてくるであろうヒーローたちへの防衛対策。
エトフォルテは、クリスティア王国から金属資源の提供を受け船の完全修理を開始。十二兵団の指揮系統を編成しなおし、ヒデを中心に想定されるありとあらゆる敵、すなわち日本のヒーローたちの出方を研究する。
クリスティア王国から派遣された魔術機構師エイル・フェイスフルが、エトスと魔術の共通点を探り各々の武装を強化していく。
クリスティア王国は、ブロンの支配下で乱れた騎士団を再編。魔術による戦闘手段を、ヒーロー武装の弱点を突いていく形で強化していく。日本から復興支援にやってきた作業員たちのケアをしつつ、ユメカムとデストロによる破壊活動からの復興を図る。
ブロンがヒーロー武装への転換を図ったのは魔術の発展には悪影響。だが、今後ヒーローたちと戦ううえで、彼らの戦術を学ぶことは必要不可欠。ブロンがヒーロー武装を日本から大量購入したことは、怪我の功名であった。
お互いに、やるべきことは山積みだ。
ヒデはドラクローに同行し、リルラピス女王たちと何度も防衛対策を話し合った。
その中で、ヒデからみんなに必ず守ってほしいこととして、ひとつ提案した。
「無理せず、疲れたら休むように。安心して休めるようにしましょう」
疲れを押して頑張らねばならない瞬間があるのは、百も承知。だがそのためにも、休息で力を蓄えるべきである。
何よりリーダーがきちんと休まないと、ついていく仲間も安心して休めない。無理をして疲労をためこむと、精神的にも身体的にもいいことは何もない。最悪、怪我人または病人、あるいは死人が出る。
実際、ヒデもそうだった。故郷を襲った台風の後、体力の限界まで近所の片付けを手伝ったら体調を崩し、5日間寝込んだ。近所の人の中には、疲労が原因で作業中に怪我をした人もいる。不幸中の幸いで、死人は出なかったが。
軍師の仕事を続けながら、ヒデは仲間たちが落ち着いて休めるように心を砕いた。
クリスティア王国首都ティアーズの、政府中枢に当たるクリスティア城。
新女王となったリルラピスは、城内の会議室で近衛騎士ウィリアムとアレックス、首都防衛騎士団の隊長となったグラン、経済大臣に復帰したパズートを始め、総勢20人の仲間たちと今後の防衛対策について会議していた。
現在、夕方4時。グランが現状を報告する。
「首都防衛騎士団は、新入団員の調練に励んでいます。気骨のある者たちが多数加わってくれました」
リルラピスはブロンによって乱された騎士団の規律を正し、悪事を働いた騎士・兵士たちを処罰した。
かなりの人数が騎士団から去ったわけだが、
「女王様のために頑張りたい!」
「我が国の魔術の底力を見せてやる!」
と、首都だけでなく地方から次々と志願者が集まってくれた。グランは彼らを指揮・調練し、この先の戦いに備えている。
リルラピスは報告書を読み、満足し頷く。
「ありがたいことです。魔術の強さを磨きつつ、ヒーローとの戦いに備えましょう。私も頑張ります」
クリスティアの王は、優れた政治家にして強き魔術師であらねばならない。リルラピスは日々の政務の合間を縫い、戦闘訓練も地道に続けている。
パズートが釘をさす。
「頑張りすぎは厳禁ですよ、女王様」
「わかっています。パッさん」
パズート、困り顔。
「公(おおやけ)の場でパッさんはやめてくださいぃ~」
くすりと笑うリルラピス。
「もう無理です。叔父上と玉座の間で対峙した時、みんな聞いてしまいました」
もともと『パッさん』は、リルラピスら王室の親しい者だけが使っていた呼称である。
が、ティアーズでの決戦。パズートは玉座の間で、リルラピスに暴言を吐いたブロンへ反論。
その時ブロンが言ってしまったのだ。
「パ、パッさんのくせに生意気だぞ!!」
パズートは負けじと、
「ワシは王室の教育係として、一国民として、死ぬまで王女様の味方でいる。魔術をもってクリスティア王国を守り続ける!」
と、絶対の忠誠を宣言。
その姿に感じ入ったウィリアムが、同行する騎士たちの前でさらに言ってしまったのである。
「パッさん、よく言った!!」
と。
以来、パッさん呼びが政府内どころか国民中に広まってしまった。
同席する仲間たちも、苦笑い。
医療を担当する中年の女性大臣が言う。
「玉座の間であなたが見せた勇姿は、子供たちの間でも忠臣の鑑(かがみ)として話題になってます。『ぼくたち、わたしたちのパッさん』と」
アレックスが冗談めかして言う。
「歴史の教科書に、『忠臣パッさん』で未来永劫載るぜ。注釈で本名載せなきゃな」
天を仰ぎ、パズートが嘆く。
「逆だろ!普通注釈にニックネーム!」
そしてリルラピスに懇願する。
「女王様!ワシもうすぐ70歳でいつ死ぬかわからんから、この際はっきり言っときます!歴史の教科書にワシの本名『パズート』だってきちんと載せてくださいよ。『パッさん』が本名みたいに載ってたら、恥ずかしすぎてあの世に行けません。化けて出ますから!」
リルラピスが苦笑してなだめる。
「約束します、パズート。ニックネームは注釈に」
「頼みますよ、本当に」
「本当です。いったん休憩しましょう。エトフォルテから送られた、水ようかんを食べて」
水ようかんは、ヒデの手づくりである。
「水と魔術の王国にぴったりではないかと」
と言って、差し入れしてくれたのだ。
城内の冷蔵庫(クリスティアならではの魔術機構搭載のもの)で冷やしたものを、メイドが持ってきた。
クロモジの楊枝にさして口に含めば、ひんやりした程よい甘さと、ツルリとした食感がたまらない。みんな、幸せいっぱいに水ようかんを食べている。
リルラピスは思わず呟いていた。
「とても美味しい……。疲れが吹き飛びます。エトフォルテは素敵な料理人がいて幸せです」
グランが同意する。
「そうですね、女王様。ぐん……ではない、料理人ハルの腕は確かです」
意味ありげに笑うウィリアム。
「そう。この水ようかんは訳アリ料理人ハルからの差し入れだからな、みんな」
大臣たちは、
「はあ、そうですか……それにしても美味しいですね、これ」
と、疑問もそこそこに水ようかんを頬張った。
“料理人ハル”というのは、ヒデが料理人として活動するときの名前である。
クリスティア王国政府内でヒデの素顔を知るのは、リルラピスを始めブロンとの決戦に同行したごくわずかに限られる。
軍師ヒデの名前と姿で料理人活動すると面倒だし、イメージの問題もある。
何より、できるだけ素顔は隠した方がいい。
少し前にヒデからこのことを相談されたエトフォルテとクリスティアのみんなは、考えた末こんな結論に至る。
『いっそ素顔をさらして料理人やることにして、別名で活動すれば?』
というわけで、本名の真稔秀春(しんねん・ひではる)の一部を用いて『料理人ハル』と名乗ることにしたのだ。訳アリでエトフォルテに協力する、素性は内緒の料理人として。
クリスティア王国政府からエトフォルテに派遣されている魔術機構師にして、演劇の玄人でもあるエイルは言った。
「多少声が似てるくらいで、仮面の軍師ヒデと料理人ハルを結び付ける人はいませんわ。堂々としていれば、意外とみんな気が付かないものです」
とはいえ、である。ヒデはみんなに念を押した。
「料理人やってる僕を、間違っても『軍師』とか『ヒデ』と呼ばないでくださいよ」
リルラピスが冗談めかしてフォローする。
「大丈夫。あなたのプライバシーは、いざとなったら女王権限で守ります!」
「国家権力は行使しなくていいですから!」
そんなわけで、ヒデは料理人ハルとして時折日本の料理やお菓子を、クリスティア王国政府に差し入れしている。
ヒデ、もとい料理人ハルが軍師の合間を縫って、こうして差し入れをしてくれる。
リルラピスは感謝すると同時に、ちょっとハルがうらやましい。
リルラピスは菓子の類が好きだ。時間があるときは、ケーキやクッキーを焼いてみんなに振舞っていた。
しばらく菓子作りはご無沙汰だ。時間ができたら、息抜きも兼ねて自分も菓子を作りたい。
そういえば、とアレックスが言う。
「巴、リハビリが終わって戦闘訓練に参加できるようになったって。リル。今度の休みにアタシ、エトフォルテに行っていいかなあ?巴と訓練したい」
「もちろん。巴の予定が合うなら」
「やった!巴の近接格闘の腕前は、並大抵の奴じゃ太刀打ちできないレベルだからな。本当に勉強になる」
これについては、リルラピスも同意見。
巴がもしクリスティア王国に生まれていたら、比類なき近接格闘術と魔術の組み合わせで瞬く間に騎士になっていただろう。
リルラピスはリハビリ完了のお祝いを考え、いいことを思いつく。
「お祝いのケーキでも焼こうかな。巴だけでなく、エトフォルテのみんなの分も焼いて」
ひゅう、と口笛を吹くウィリアム。
「それはいい。女王様のレーズンケーキは絶品だ」
干しブドウをふんだんに使ったケーキやクッキーが、リルラピスの十八番である。
パズートが懐かしさに目を細める。
「重点復興地域にいたころは、よくみんなで作って食べましたなあ。子供たちと一緒にお菓子作り教室なんてのも」
アレックスがお腹を抱える。
「思い出したら腹減っちゃたよ」
苦笑するグラン。
「ではみんなで仕事をひと段落させ、ケーキ作りといきますか、女王様」
仲間たちも賛成してくれる。
「ええ。みんなの分も焼きます。一緒に食べましょう」
久々のケーキ作り、楽しみ。そのためにも、仕事を頑張ろう。
軽く伸びをして肩コリをほぐすと、リルラピスは仲間とともに会議を再開した。
同じ日の夜7時。
クリスティア王国南部海域に停泊しているエトフォルテの食堂では、ちょっとしたお祝いの食事会が開かれていた。
ドラクローが開会を宣言する。
「俺たちを採掘場でデストロから救ってくれた久見月巴が、怪我から完全復帰した。心の部の許可が下りて、明日から正式に戦闘訓練に加わる。所属は力の部だ。巴!自己紹介、よろしく!」
食堂に設置された壇上に、巴が上がる。
巴は日常生活に支障がなくなるまで回復してからは、ムーコやアルが着ている十二兵団女子団員の標準制服を着て、簡単な仕事を手伝っていた。
完全復帰後は、元魔法少女フェアリンの経験と特技の柔術を生かすべく、戦闘専門の力の部に所属する。神器はクリスティア王国に返上したので、ユメカムが使っていたスマートウォッチで身体能力をヒーロー並みに強化して戦う。
戦闘に備え、巴のリクエストで制服にアレンジが施された。和の意匠がふんだんに取り入れられ、パッと見は濃い灰色の袴を身に着けた、戦う大和撫子(やまとなでしこ)といった感じだ。巴自身の所作にも無駄がなく、組紐で結った黒い長髪を静かに揺らして壇上に上がる姿は、凛とした和の武芸者の空気をまとっている。
巴は壇上で一礼。厳かに決意を示す。
「改めまして、久見月巴です。皆さんに救っていただいたこの命。エトフォルテとクリスティア防衛のために全力をもって戦う覚悟です。好きなものは柔術と着物。好きな言葉は握・即・極(あく・そく・きょく)。握ったら即座に極めるので、今後ともよろしく」
ヒデを始め、エトフォルテの仲間たちは改めて巴を歓迎した。
壇上から降りた巴を、ジャンヌが微笑んで出迎える。
「巴、いい自己紹介だったわ」
「私のリクエストで心の部のみんなに素敵な戦闘服を仕立ててもらったから、戦いへの決意と感謝を伝えたくて……」
うんうん、と満足げに頷き、ジャンヌがみんなに呼びかける。
「みんな。巴は柔術メインだけど、他の武術の投げ技や捕縛術にも詳しい。気になったらぜひ声をかけてね」
威蔵が質問する。
「他の武術。例えば?」
巴が答える。
「母はもともと合気道から武道を始めて柔道に転向。父は柔道をやりながらプロレスや相撲も研究していました。久見月流柔術はそういう影響を受けています。あと、警察の捕縛術なども少々」
威蔵、感嘆。
「その若さで流石だな」
巴、苦笑い。
「威蔵さんにはかないませんよ」
さらにムーコが付け加える。
「日本の着物にも詳しいよ。昔、モデルさんをやっていたんだって」
これはみんな初耳で、驚いた。
ヒデは息を飲む
「モデルさんでしたか!」
巴がはにかみながら解説する。
「あ、一般的なファッション誌じゃなくて、着物とか和装品を扱うカタログ誌や和装所作教本のモデル。中学一年生までやってました」
母の実家が呉服店だった縁で、巴はカタログ誌にモデルとして参加。神社などで使われる巫女服や、日本舞踊の衣装などを着た。巫女服はモデル以外でも、馴染みの神社から頼まれ正月や祭礼の手伝いでも着ていたという。
巴が和服の着せ方に詳しいだけでなく、所作も丁寧なのは今までの積み重ねがあったからだ。
モデルや和服の話をもっと聞かせてほしい、と、仲間たちは巴に話しかける。
ヒデとドラクローとタイガは、その様子を少し離れたところで見守る。
ドラクローが安堵する。
「固さがいい感じで抜けてきたな、巴は」
保護された当初、おかみさんことハウナの叱咤激励があったとはいえ、巴はユメカムに加担した後悔もあってか、ちょっと言動が暗く固かった。
治療期間中、ムーコやジャンヌら心の部の面々と話したことで、ずいぶん気が楽になったらしい。今巴は食事をしながら、仲間たちと親しく語り合っている。
ヒデも同意する。
「そうですね。改めて、仲良くやっていけそうです」
固さと言えば、とタイガがヒデに向き直る。
「ヒデ、いつも丁寧だけど、ちょっと固くない?もうちょっと気楽に話していいんだぜ」
「一足先に社会人になったから、周りがみんな年上で」
時々蕎麦を食べにくる和彦たちを除くと、周りの人間はヒデよりはるかに年上だ。お客さんたちも年上だから、必然的にヒデは丁寧な言葉遣いが普段の生活でも染み付いていた。
「友達の和彦とは違っただろ?」
「それはまあ。今となっては、職業柄と言うか長年の癖と言うか……すみません」
ニコニコしながら語りかけるタイガ。
「オレみたいに話してもいいんだぜ。オレの声コピーして、歌ってくれた時みたいに」
ドラクローが驚く。
「オレの声……?まさか、クリスティア王国に行く前のアレ、やったのか」
「やったんだよ、兄貴」
「マジか。すっかり忘れてたぞ、俺」
しみじみ呟くタイガ。
「歌が上手くなったオレはこんな感じなのか~。……って、感動しちゃったよ、兄貴」
アレ、とは何か?
クリスティア王国の騒動に巻き込まれる直前。ボイスチェンジャー付きの首輪が完成。
不意打ちでボイスチェンジャー付きの首輪を身に着けジャンヌの声になったドラクローを、ヒデは思わず笑ってしまった。
ドラクローはお返しに、みんなの声をコピーして歌を歌え、と言ったのだ。その時、タイガ、ムーコ、ジャンヌ、アル。4人が『ヒデによるボイスチェンジライブ』に名乗りを上げた。
クリスティアでの騒動を片付けてしばらくしてからこの約束を、ヒデは果たしたのだ。みんなの前で見せるのは恥ずかしかったので、4人を集めてこっそりと、一曲ずつ。
ちなみに、歌の音源は動画サイトに掲載されているカラオケ音源を利用した。ユメカムを倒した後、監督官たちが持ち込んだタブレット端末を改良しエトフォルテで使えるようにしたのだ。
同性のタイガはともかく、女性3人の声をコピーした時を思い返すと、もうヒデは赤面し、エトフォルテの甲板から海に飛び込みたくなる。
というか。ヒデは恥ずかしさと怒りに任せて抗議する。
「タイガさん。なんでドラさんに言っちゃうんです!」
恥ずかしいから歌ったことは内緒にして、と4人に言い含めたのに!
謝るも、あまり罪悪感を見せないタイガ。
「あ、悪い。でもヒデの歌うまかったし、オレみたいに振舞うヒデは新鮮だったから、兄貴に知ってもらいたくて。面白いから」
なんだなんだ、とみんながタイガの周りに寄ってくる。
タイガから事の成り行きを聞いたジャンヌが、ニヤニヤする。
「たしかにあれは面白かった。私の声になったドラクローより面白かった」
ドラクローが苦笑いを浮かべて尋ねる。
「どう面白かったんだ?」
「『女の子になっては駄目~』って感じで始まるけど、最終的に私の立ち居振る舞いに寄せて、私の声で歌うヒデは芸達者だったわ」
この評価を自分は男として喜ぶべきか?悲しむべきか?
ドラクローがツッコむ。
「ヒデをバカにしてるのか?」
「褒めてるの。そもそも歌が上手いのよ、ヒデ」
ヒデは率直に言う。
「素人レベルですってば」
ヒデは中学時代の映画撮影の一環で、和彦の叔父(元演歌歌手)にカラオケスナックで歌唱指導を受けた。その後は就職して、町内会の宴会や和彦たちと遊んだ時に歌うくらいである。特別多く歌ってきたわけではない。
人前に躍り出て、さあ歌います!というほどの度胸は、無い。
ちなみに、和彦はかなりうまかった。J-POP、洋楽、演歌、民謡。なんでもござれ。
『アメリカに行って演歌や民謡をリクエストされて歌えませんじゃあ、日本人のプライドに関わるからよ』
人前に出たら真っ先に歌う度胸もある、生粋のエンターテイナーであった。なにせ和太鼓と三味線まで扱える。民謡研究家の叔母と剣舞の師匠が教えてくれたのだ。
それに比べたら、ヒデ自身は完全に素人。楽器の類は全く扱えない。
ジャンヌがさらに言う。
「謙遜なんてしなくていいんだから、ヒデ。上手いにもいろいろあるけど、曲の特徴と歌い手の個性を真似るのが上手い、ってとこね。軍師を演じられるのも納得」
「そ、それはどうも」
照れくさくなって、ヒデは麦茶そっくりのエトフォルテ茶を飲む。
「私らしさを精一杯出さなきゃ!って感じで頑張ってくれるところが好印象」
ジャンヌの評価に胸をなでおろすヒデ。
良かった。下手で聞いてられない!なんて評価じゃなくて。
実際のところ、ヒデは歌を歌うとき、聞いてくれる人を盛り上げよう、楽しませようという気持ちでいっぱいいっぱいなのだ。
ヒデの歌声を振り返り、さらに楽しげに笑うジャンヌ。
「ムーコとアルの声をコピーした時は、そりゃもう可愛いのなんの」
ヒデはむせた。
お構いなしに、ねー?、とムーコとアルに同意を求めるジャンヌ。二人ともニッコリ頷く。
「ちゃんと私たちの特徴をとらえてて、嬉しかったな」
「そうですね。あれが、人間の感情の豊かさなのですね。私も見習いたいです、博士」
機械人形に、女声で歌った自分の振る舞いを見習わせるのはどうなんだろう。人工知能の発達には悪影響では?
ヒデは困ってしまい、まきなを見る。
まきなは笑いを必死にこらえながら、
「い、いいんじゃないかしら……ふふふ」
終いには笑い出す。
たまらず叫ぶヒデ。
「博士!ここは止めて!」