エトフォルテ防衛戦線ヒデ! 第107話 こんな日本でごめんなさい

 露口はワインを一口飲んでから、己の過去を語り始める。
 「俺は子供のころ、歴史が大好きだった。とくに戦国武将の兵法とか、人材育成ってやつに憧れた。自分も人や組織を育てて、社会の役に立ちたい。そう思ったよ」
 「いいですね、そういうの」
 ハルの言葉に、微笑む露口。
 「歴史好きなら、一度は憧れるよな、そういうの。俺が高校生のころ、パソコンが身近になった。コンピューターを駆使した新しいビジネスが生まれはじめた時代に、高鞠さんの父親が始めた会社が『高鞠未来ビジネス』だ。デジタル新時代を生き抜くためのビジネスの知恵を授ける、いわゆるビジネスアドバイザーの専門会社」
 露口は新たなビジネスの未来に憧れた。
 会社には最新鋭のコンピューターが揃えられ、日本各地から未来のビジネスを担う若者が集まってくる。何より、本社は華の東京だ。
 「組織構造学や古来の兵法を大学で学び、未来のビジネスに尽くしたいと思った。だけど、両親に反対された。デジタルなんてよくわからんし、お前本当にやれるのか、って。とうとう俺は両親と大喧嘩して、家出した。俺は東京でみんなの役に立つ仕事をする!蕎麦農家なんてダサくてやってられるか!と、ひどい台詞をたたきつけて……」
 ハルは蕎麦屋として、思わず、
 「ひどい!」
 と言いかけ、やめた。
 今の露口の顔色を見れば、心底己の発言を反省しているとわかるからだ。
 「まあそんなわけで、俺は東京の大学で組織構造学や古今東西の兵法とかを学んで、高鞠未来ビジネスに10年くらい在籍した。自分の好きな勉強をして、仕事をして約15年。楽しかったよ。いろんな組織を見て、組織が上手くやっていけるようにアドバイスをして……。でも……」
 露口が肩を落とす。
 「ハル君。俺は天に誓って、アドバイスした他の会社に迷惑をかけるような真似はしなかった。だが働くうちに、高鞠さんが裏でひどいことをしているのがわかってしまったんだ。昔あった週刊誌、『週刊大旋風』は、高鞠さんのそういう裏面を大々的に報じようとして潰された。俺は、いや。あの会社にいた人たちは、みんなそう思ってる」


 週刊大旋風。
 それは、ヒーローのスキャンダルを中心に報じていた週刊誌である。20年近く前、天下英雄党が結成される直前に廃刊した。編集部にいた者達が、事故や火事で次々と死んでしまったから。
 生き残った者を中心に結成され、新たに発刊されたのが『週刊スピンドル』。先日雄駆照全名誉長官を『お馬鹿様』と罵倒して嘲笑った女性記者・荒潮帆稀(あらしお・ほまれ)を筆頭に、ヒーローの醜態を白日の下にさらして人気を得ている。
 それはそうと、なぜ今大旋風の話題が出てくるのか?
 軍師ヒデとしては、気になる。
 が、ハルは露口の話を最後まで聞くことにした。


 露口は、さらに語る。
 「あの人の周囲で、不審死や行方不明になった人がいる。何人も。大旋風はきっと、高鞠さんが何かしらの悪事に加担した証拠をつかんでいたんだ。殺人、あるいは暴行か何かの。だから消された」
 これにはハルも驚いた。
 今や国会議員、しかも総理である男が、殺人や暴行だなんて!驚きすぎて悲鳴すら上げられない。
 苦々しくため息をつく露口。
 「本当のところはわからない。だけど、あの人のビジネス指導には強引なところがあって、高い金を払って指導を受けたのに、トラブった挙句廃業した会社があるのは事実だ。海外の会社とも揉めた、って」
 ジューンの取材を手伝った貨物船のミラー船長も、詳しくは知らないが、と添えたうえで言っていた。


 『ここだけの話、わが社のお偉いさんは高鞠総理を信用していない。あの男が総理になる前、かなり腹を立てる出来事があったらしい』


 この出来事は、おそらくビジネス指導でのトラブルなのだろう。
 「高鞠さんを恨んで、暴力に訴えたいと思っている人は、確実にいる。暴力はいけないことだけど……」
 世間の常識で言えば、自分の主義主張を通すために暴力を振るうのは悪いことである。
 しかし、精神的に追い込まれるなどして、衝動的に暴力に走る人がいるのも事実。
 ハルにもわかる。事情はどうあれ、自分は衝動的に強盗ヒーローを金属パイプで撲殺した。胸が痛い。
 己の気まずさを悟られぬよう、平静を保ってハルは露口に問う。
 「高鞠総理は、自分に仕返ししようとした人を暴力的な手段でつぶした。先手を打った、というわけですね」
 「ああ。高鞠さんが違法すれすれな手段で他社を強引に黙らせた話は、本当にあったからね」
 「あったんですか」
 「あったんだよ。上層部がうまくごまかしたみたいだけど、社内ではバレバレ」
 露口はさらにワインを飲み、高鞠総理の邪悪な一面を吐き出していく。
 「あの人は爽(さわ)やかなビジネスマンに見える。なにせ昔は自分から『爽やかクロちゃん』なんて名乗ってたんだから」
 爽九郎、という名前をもじったニックネームだろう。
 「だが、裏ではすごく陰湿で暴力的な部分がある。言ってみれば、『ドスグロちゃん』だよ」
 「ど、ドスグロちゃん……」
 露口は酔った勢いに任せて、高鞠総理のどす黒い人格を強調したいのだろう。それに『ちゃん』がつくと、シュールだ。ハルは口にせず、そう思った。
 「高鞠さんはあの頃から、ヒーロー応援に熱心だった。要するに俺が言いたいのは、支援者の高鞠さんがいないと困るから、ヒーローたちが大旋風ごと悪事をもみ消した、ってこと。あの人ならもみ消しを歓迎するだろうね」
 「歓迎、するんですね」
 露口が唇をかむ。
 「ああ。俺も、あの人にやられた……」


 とうとう露口は、自分が高鞠総理を恨む理由を話してくれた。
 「高鞠さんは、俺がとある会社に対して行ったビジネス指導の成果を、全部自分のものにした。成果だけじゃない、俺が手にするはずの報酬を、すべて横取りしたんだ」
 露口は怒って、高鞠に抗議した。
 自分が主担当なのに、横取りなんてあんまりじゃないか!と。
 たちまち、社内で露口に対しすさまじい嫌がらせが始まった。
 「もう、思い出したくないほどひどい……。俺の一件が週刊誌に載るだけでも、高鞠未来ビジネスは大打撃だったはずだ」
 誰にも言えなかったんですかか?ハルは問いかけようとして、やめた。
 言えるくらいなら、露口はとっくに言ってここにはいない。
 露口の肩が、大きく震える。
 「高鞠さんに近い社員たちは、俺に告げ口させまいと脅してきた」
 マスコミにバラしたら、ただでは済まさないぞ!
 高鞠さんに逆らうのは、ヒーローにたてつくのと同じなんだからな!
 言葉責めだってひどいが、拉致・監禁に近い仕打ちもされた、という。もはやパワハラどころか犯罪だ。
 「高鞠さんの邪悪な裏面が、どんどん見えてきた。強引なビジネス指導。失敗の隠蔽。とどめが、大旋風の一件。俺はもう、怖くて何も言えなくなって……」
 露口は心身を病み、退職して東京を去った。そして故郷に帰った。


 昔を思い出し、辛くなったのだろう。露口が涙ぐむ。
 「あれだけ家業を、農業を馬鹿にして、逃げ帰ってきた。それ見たことか。ざまあみろ。そう言われても仕方ない。けど、両親は黙って俺を家に入れてくれて……食事を出してくれた。暴言も、東京での失敗も、一度も責めなかった。本当にありがたかったし、申し訳なかった。だから今度は俺が、両親の分も頑張らなきゃ、って……」
 露口は蕎麦農家を継いだ。
 蕎麦を育てながら、地元の農家と連携し、農作物を販売する新たな組織を作った。大学と高鞠未来ビジネスで得た知識と経験は、幸い無駄にならなかった。


 露口は涙をぬぐう。
 「組織構造学の知識を生かしたくて、俺はここの復興支援を申し出た。現地に集まった農家をまとめて、頑張りたいと思ったのさ。まさか強制労働に駆り出された上に、宇宙人に出会うとは思わなかった」
 苦笑いを浮かべる露口。
 「ちなみに高鞠未来ビジネスは、今はもうない。そのあたりの事情、ハル君は知っているかな?」
 ハルは、反ヒーロー団体の冊子で読んだ内容をそらんじる。
 「高鞠爽九郎が国会議員となった後、会社はヒーロー庁の業務を支援する別会社に生まれ変わった、と」
 「そうだ。ヒーロー庁の仕事の一部を請負い、結構な報酬を得ている。総理の関係会社だけに、ずるい!という声も絶えないよ。あまり良くない評判も聞いている」
 露口は、農場の人たちと楽し気に語り合うドラクロー、リルラピスらに視線を向けたのち、ハルに語り掛ける。
 「組織の人格はリーダーの人格。会社であれ、異世界であれ、宇宙船であれ、同じだと思う。エトフォルテとクリスティア王国のリーダーは素晴らしいよ。応援したい、手伝いたいという魅力にあふれてる。そんな人たちの手伝いができたことを、嬉しく思う」
 「僕もです」
 ハルも、軍師として、料理人としてドラクローたちと一緒に頑張れることを嬉しく、そして誇りに思う。
 「ハル君。50過ぎのオジサンのくどい昔話と思うかもしれないが、絶対に忘れるな。高鞠さんに気をつけろ」
 露口の口調がさらに熱く、怒りを帯びていく。
 「あの男は、ある意味名誉長官より危険だ。自分が主導権を握るためなら何でもする卑劣な男だ。そして、自分の過ちを絶対に認めない。他人の手柄は全部自分のもの。とにかくずるい。反対する者は強引につぶす。ああいうドスグロちゃんがトップに立つ組織が絶対に清らかであるはずがない。あるはずがない!ドスグロちゃんの周りには、ドスグロちゃんしか集まらないんだから!」
 「必ず覚えておきます」
 ハルの返事に大きく頷き、ワインをグイ、とあおる露口。
 そして、がっくりと肩を落とす。
 「そんなドスグロちゃんたちが与党になってしまった国なんだよ、日本は……。まあそもそも、敵対していた偉風満帆党の凪下示啓(なぎした・じけい)元総理と取り巻きたちが、ドスグロちゃん以上のダメダメちゃんだったから、みんな天下英雄党に期待して投票しちゃったんだけど……」
 ダメダメちゃんな偉風満帆党が選挙で大敗し、天下英雄党が与党になりすでに10年が経過している。
 ヒーローたちの失態や醜聞はそのころからあったけれど、偉風満帆党はそれ以上にひどかった。だから世間は、天下英雄党とヒーローに期待してしまったのだ。


 ハルと露口が語り合っていると、葡萄農家の甲野がドラクロー、リルラピスらとともにやってきた。あちこちテーブルを回って、みんなと話をしてきたようだ。
 すぐそばには、農場のリーダーである伊橋、ヘリパイロットの舞上、車両整備師のヒョロもいる。日本人のみんなは顔が赤い。結構、飲んでいるようだ。
 一方のドラクローとリルラピスたちは、酔っている風には見えない。エトフォルテ人とクリスティア人は、総じてアルコールに強いようだ。
 甲野が上機嫌で尋ねてくる。
 「ハル君。露口さん。なんの話をしてたんだよ」
 高鞠総理のどす黒さを、とは言いにくい。
 かといって、適当なごまかしは露口の気持ちを無下にする。
 ハルはこう答える。
 「天下英雄党の話を少し」
 「……そうかい。せっかくだから俺も話したいね」
 「どうぞ」
 甲野がドラクローとリルラピスの方を向き、ゆっくりと語りだす。
 「エトフォルテとクリスティアの人たちにとっちゃ、天下英雄党は敵なんだろうけど……。これだけは忘れてほしくない。素薔薇大臣、昔はまともだったんだよ。農業や畜産業に手厚ぅ~い補助金をつけてくれたりね」
 手厚い、を強調する甲野。
 「素薔薇さん、本当にまともだった。7年くらい前、俺は山梨に視察に来た素薔薇さんとじかに会ったんだ。あの頃は、子供オヤジなんて風じゃなかった」
 甲野はくだんの補助金のおかげで、ワインの製造設備を全部更新できたそうだ。
 「みんな素薔薇さんに感謝してる。あの人に助けられた農家は、多いんだ」
 うんうん、と伊橋が頷く。調味料メーカー出身だけに、原材料である大豆などの生産事情には詳しいのだ。
 話を聞いたヒョロが、天を仰ぐ。
 「娘の素薔薇椎奈が夢叶統子と仲良くして、ヒーローのおかしな魅力に取りつかれた。素薔薇さんも、取りつかれてしまったのかな……」
 伊橋が怒りをあらわにして言う。
 「その娘に、頭が馬鹿になる毒でも盛られたのかもよ。そうでもしなきゃ、あの人子供オヤジになんてならないわ」
 実際に素薔薇椎奈(フェアリン・エクセレン)と戦ったウィリアムが、聞いている。
 素薔薇椎奈は、父親の頭をパーにする何かをした、と。
 舞上が関西弁で首をかしげる。
 「子供がそんな毒、どこで手に入れるんやろ?」
 ハルは推論を口にする。
 「ユメカムの伝手(つて)。あるいはヒーロー同士の横のつながり、でしょう。実際、超薬や麻薬に手を出して破滅したヒーローも、少なくないですから」


 ヒーローがあふれかえるこの時代。
 輝かしいヒーローが生まれる一方、どうしようもない悪事に加担し破滅するヒーローも絶えない。ヒーローが超薬をやるどころか、超薬密売に加担した例だってある。
 伊橋が、心底うんざりした顔で言う。
 「はあ……。世も末。まあ、私達大人が天下英雄党に投票しちゃった手前、偉そうに言っちゃいけないんだけどさ。天下英雄党の前の、偉風満帆党なんかさらにひどかったのよ。農業のことなんかちっとも考えやしない。それどころか、農家を平気で馬鹿にする大馬鹿大臣だっていたんだから!」
 そうだそうだ!と同意する農家たち。
 ドラクローとリルラピスは信じられないという顔で、あ然としている。
 ハルもその大馬鹿大臣には心当たりがある。が、何を言ったか語ると食事がまずくなると思い、黙っていた。
 うんざり全開なため息をつく伊橋。
 「周りが大馬鹿ばっかりだから、素薔薇さんだって愛想つかして天下英雄党に移籍したのよ」
 もともと素薔薇晴夫は偉風満帆党の議員だったが、農業の振興を図るため天下英雄党に移籍した。農家の支持が厚かった彼が移籍したことで、天下英雄党の人気はさらに上がった。


 さらに深いため息をつく伊橋。酒を飲んだせいで、感情の浮き沈みが激しくなっている。怒りとうんざりは消え去り、ひどく落ち込みはじめた。
 「天下英雄党もヒーローたちも、それで勢いづいた。私たち大人も歓迎した。今日本が抱えている問題も、エトフォルテとクリスティア王国で起きた問題も、もとはといえば私たち大人が天下英雄党を与党に!ヒーローによる日本を!なんて、望んだのがいけないんだわ……。私達、大馬鹿大臣より馬鹿だった……」
 ドラクローとリルラピスに向き直り、深く深く頭を下げる。
 「ドラクロー団長もリルラピス女王も、こんな日本でごめんなさい。私たち日本人が迷惑かけちゃって……」
 伊橋の口調には、強い後悔と謝罪の気持ちが滲んでいる。
 気が付けば、すぐそばにいる日本人たちがみんな、ひどく申し訳なさそうな表情になっている。
 酒を飲んでいない自分も、そんな表情になっているだろう。ハルも思う。


 そうだ。
 雄駆照全率いるヒーロー庁とヒーローたち。
 彼らを支える高鞠総理の天下英雄党。
 ユメカムを始めとしたヒーロー支援企業がいなければ、エトフォルテとクリスティア王国でひどい出来事は起きなかったのだ。
 やつらさえいなければ!
 何も起きなければ!
 そんな怒りと申し訳なさに駆られてしまう。


 しかし……。
 ハルはもう一度考えてみる。
 もし本当に、何も起きなかったら?
 自分はドラクローやスレイとは出会わなかった。
 当然、軍師ヒデにもならない。
 クリスティア王国で露口たちとこうやって語り合う時間さえ、起きないということだ。
 何も起きなければ良かった、と思うのは、これまで出会った人たちに対してとても失礼な思考だ。ハルは自分が情けなく、ますます申し訳なくなった。


 ドラクローが居住まいを正し、真っ直ぐな目で言う。
 「伊橋さん。謝らないでくれ。ヒーローや天下英雄党は許せないけど、農場のみんなにも、エトフォルテに協力してくれるみんなにも、俺は感謝してる。農作物を分けてくれたことも、組織改革のことも、本当に……。だから、ちゃんとみんなが日本に帰れるまで、エトフォルテが必ず守る。みんなが、きちんと家に帰れるようにする」
 リルラピスも、ゆっくりと落ち着いた口調で言う。
 「もちろん。クリスティア王国もです。ヒーローのことは、また別問題。父は復興支援に来てくれた皆様を信じていました。私、皆様のこと、そして日本のこと大好きです。父の信頼は、私が引き継ぐ。そしてエトフォルテとともに守り抜きます。必ず」
 この場にいる日本人の申し訳なさを一気に吹き飛ばす、二人のリーダーの力強い言葉であった。
 ハルは心が温かくなる。そして、軍師ヒデとして、ドラクローたちとともに頑張ることを誓った。


 最年長の賀茂じいさんが、どこからともなくやってきた。新たなワインを開栓し、大声で称賛する。
 「素晴らしい若人(わこうど)の主張を聞いたああ!次代を担う素晴らしい若人のために、皆の衆!今一度乾杯しようじゃあねえかああああ!」
 申し訳なさ全開だった伊橋も笑顔だ。
 「ええ!今日は飲みましょう、大いに飲みましょう!若いあなたたちもぜひ飲みなさい!」
 酒の力による感情の浮き沈みはすさまじい。さっきまでの暗い落ち込みが、もはや夜空を彩る打ち上げ花火だ。この場にいる日本人のテンションが、一気に上がる。
 「飲もう!飲もう!」
 ドラクローとリルラピスのテンションも上がる。
 「おう!飲むぞ女王様!」
 「はい!飲みましょうドラクロー団長!」


 飲食再開となれば、いろいろ用意するものがある。休憩を切り上げよう。
 ハルが調理場に戻ろうとすると、賀茂じいさんが手を引っ張ってきた。
 「おいハル、お前も飲めい!」
 「今日は料理人で運転手だから、遠慮します」
 「おめえ俺の酒が飲めんちゅうんかああ!」
 「車の運転もありますし……」
 「一緒に酒飲んで語りあおうじゃあねえかああ!」
 「まあまあ」
 なんとか手を放そうとするが、
 「女王様と総団長の決意が聞けねっちゅうんかいい!」
 「聞いてました!けど、飲酒運転するわけにはいきません!」
 賀茂じいさんは酒と、さきほどのリーダー二人の言葉に完全に酔ってしまっている。手を放してくれない。
 「若いんだから、酒飲んでお前も決意を示さんかいい!」
 弱った。
 困っていると、ムーコが新しい料理を持ってきた。
 「こちらの料理をどうぞ」
 温かな湯気がたちのぼる肉料理だ。エトフォルテで飼育されている、大きなモグラのような家畜『モーグ』の肉を煮込んだもので、日本で言えば『豚の角煮』に近い物である。味付けは塩麹風。今日の食事会のために、エトフォルテの食材もいろいろ持ち込んでいる。
 賀茂じいさんが肉に目をやり、よだれを垂らさんばかりの笑顔を浮かべる。
 「うほ!いい肉!」
 やっとヒデの手を放してくれた。
 「ムーコさん、助かりました」
 「調理場の様子見に行ったついでに、料理を預かってきたの。ハルさんがおじいさんにからまれてて、ビックリしちゃった」
 ハルはムーコの助け舟に感謝し、小さく頭を下げる。
 羊さんナイスだ!と、甲野が語りかけてきた。
 「それにしても、なんて真面目なハル君!ま、飲酒運転はクリスティアでも重罪だ。あとで土産に俺のワイン渡すから、みんなで飲みなよ。感想聞かせてくれ」
 「いいんですか?」
 「瓶二、三本なんてケチは言わん。樽でドーン!とな」
 お酒が飲めない人には葡萄ジュースもあるんだ。ぜひジュースの感想も聞かせてくれ!と甲野は言い、さらに朗らかに笑った。


 謎の黄色い果実。
 高鞠総理の知られざる闇。
 素薔薇大臣の過去と豹変。
 日本人の申し訳なさ。
 薄暗い点はあったけれど、試験農場での食事会は盛況となり、夜は更けていく。
 最後に農場の人たちからたくさんのお土産(野菜やワイン、お菓子など)を渡され、ハルたちは帰路に就いた。
 お土産はエトフォルテのみんなに、大好評だった。


 

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