エトフォルテ防衛戦線ヒデ! 第106話 感謝の気持ちをめしあがれ!

 クリスティア王国本島西部にある試験農場は、日本近海に転移し魔王との戦いが終わった後、河川環境の改善と食料の安定供給のため、日本の土木・農業技術者の協力を得て作られた。日本から持ち込まれた果樹や穀物、野菜も多数植えられ、食文化交流の場になることも期待されていた。
 ブロンの陰謀でバルテス国王が亡くなった後、ユメカムとブロンによるクリスティウム採掘のため、ここに集められた農家や技術者は次々と北部の採掘場に強制連行された。ユメカムらが倒された今、採掘場から帰ってきた者たちは農作業を再開している。
 車両整備工場の細井(ほそい)ことヒョロらは車で、ヘリパイロットの舞上(まいじょう)はヘリで農業用資材や農作物を運ぶなどして、みんなすっかりここに馴染んでいる。


 試験農場には、日本から男性医師一名と、男性看護師と女性看護師がそれぞれ二名ずつ派遣されている。ユメカムやブロンの陰謀を全く知らずに、復興支援を申し出て巻き込まれた人たちだ。採掘場での強制労働は終わったが、男性の医師と看護師の三名は強制労働で負傷し医療活動ができない状態だ。日本から持ち込まれた医薬品はそれなりにあるが、不足しているものもある。
 ドラクローとヒデは、組織改革について伊橋に相談した後、農場の医療事情について相談を受けていた。
 「クリスティア王国のお医者さんの助力もあるんだけど、日本の医薬品の知識は持っていないの。エトフォルテに、日本人の医者がいると聞いたわ。そっちの活動もあるから、無理のない範囲でいい。力を貸してもらえたらありがたい」
 二人は、医者兼義肢開発者であるまきなに相談した。
 まきなは試験農場で足りない医薬品を確認すると、すぐにエトフォルテがレギオン・シャンガインとの決戦直前に手に入れた大量の医薬品と照合した。
 その結果を、まきなが告げる。
 「エトフォルテの人たちが使わない、日本人の治療に使う薬を試験農場に回すことができそう。私も、試験農場の人たちの医療活動を手伝いたい」
 ドラクローとヒデに異論はない。
 まきなとアルは週一回、試験農場で医療活動を手伝い始めた。


 エトフォルテの組織改革が形になり、農場における医療活動も順調に進んだある日。
 エトフォルテとクリスティア王国の両リーダーは、クリスティア王国で働く日本人に感謝の気持ちを伝えるため、試験農場で食事会を開くこととした。
 エトフォルテに農作物を分けてくれたことへのお礼。
 組織改革への協力のお礼。
 そして、クリスティア王国を救うために最終決戦で車両を調達してくれたことへのお礼を、改めて伝えたいのだ。
 ヒデは『料理人ハル』として、料理の手伝いに参加する。
 食事会の準備のため、ヒデ、もといハルは会場となる建物の下見にやってきた。
 案内してくれるのは、ワイン用の葡萄を栽培する山梨出身の小柄な男、甲野(こうの)。会場となる建物は、ユメカムが復興支援のために建てたものだ。カマボコ型の大きな体育館、といった外観で、中はサッカーができるくらいに広い。
 建物の4分の一くらいは、日本でもよく見かけるガスコンロや大型冷蔵庫などの調理設備で占められている。甲野が教えてくれた。
 「この建物は、農作物の加工調理場。採れたものをここに運び込んで、瓶詰調味料やお菓子にしたりするわけ。前に地元の人たちと試食会なんかもやったから、今回の食事会にも使えるだろう」
 「ええ、とてもいいと思います」
 「そうそう。俺が育てた葡萄。俺が強制労働中もなんとか育って、無事にワインになってたよ。ハル君、蕎麦屋だろ?蕎麦とか和食全般に合う味わいなんだ。ぜひセットで出してみてくれ」
 「甲野さん、ありがとうございます」


 下見から5日後の夜。
 準備が整い、食事会が開催された。
 クリスティア王国の出席者は、リルラピス、ウィリアム、アレックスと王国政府の大臣4名。
 エトフォルテからは、ドラクロー、ムーコ、タイガ、ハッカイ。
 ハルは心の部の団員10名と、料理人として参加する。
 「ヒデさん、じゃないハルさん。料理の手伝いさせてよ。魚の扱い得意だからさあ」
 「私、給仕がしたいです」
 ということで、孝洋とアルがついてきた。
 さらに、
 「じゃ、私はアルの保護者兼なんでもやるお手伝いということで」
 まきなも手伝いを申し出る。
 アルはドラクローたちに蕎麦を振舞ってから給仕というものが好きになったらしく、時間ができると着物やメイド服を着て料理人ハルの仕事を手伝うようになっていた。まきなはアルの服をいろいろ選んで楽しんでいる。
 まきなが手伝ってくれるなら、あれが作れる。ハルはまきなに頼んだ。
 「博士、カレー仕込んでくれますか?」
 「もちろん!」
 エトフォルテに来て間もないころ、みんなでカレーを作った。まきなはその時、
 「私カレーには結構こだわるの」
 と語った。
 あれからまきなは空き時間に、エトフォルテで栽培されている薬草や香辛料を独自に研究して、オリジナルのカレー、通称『博士カレー』を本当に作ってしまった。美味しいうえに体にも良い。カレー南蛮にしても美味しい。
 ただし仕込みに時間がかかるので、頻繁には作れない。エトフォルテで作った時は、ものすごい争奪戦になる。


 食事会は、リルラピスとドラクローのあいさつで幕を開けた。
 あいさつは、まずリルラピスから。
 「デストロとの戦いでは、多くの皆様にご協力いただき、我々の勝利につながりました。今まで大変不安な思いをさせてしまいました。もう二度と、大好きな日本の人たちにこんな思いはさせません。今日はクリスティア王国の料理とお酒もいっぱい持ってきました。私たちの感謝の気持ち、たっぷり味わってくださいね!」
 女王様ありがとー!と、歓声が上げる。
 そして、ドラクロー。
 「みんなが車を運転してくれたおかげで、仲間を助けられました。ここで作られた野菜や蕎麦が、俺たちに楽しくて美味しい思い出をくれました。そして、エトフォルテの組織改革に力を貸してくれたことに、心から感謝します。エトフォルテからも美味しいものを沢山持ってきたので……今日はめいっぱい楽しんでください!」
 団長殿サイコー!と、さらなる歓声が上がる。
 食事会は、とても明るい雰囲気で始まった。


 ハルは料理人として、蕎麦を始めとした和食メニューを作っていく。
 「料理人ハルよ。これは運んでいい皿かい?」
 サツマイモ農家出身にして元神剣組二番隊の奥山半次が、大きな声をかけてきた。農場からも料理係が十数名参加しており、半次はその一人だ。
 「半次さん、お願いします」
 体格もデカければ声もデカい。そんな半次がうっかり自分を『ヒデ』と呼びやしないかひそかに心配していたが、そんなことはなかった。
 事前に威蔵が教えてくれた。
 「半次はああ見えて、守秘義務を順守する」
 威蔵は正しかった。彼はハルの指示に従い、調理場でせっせと働いた。
 食事会は大盛況。調理係は目まぐるしく働いた。
 しばらくしてから、半次が会場の様子を教えてくれる。
 「エトフォルテの料理も、ハルの蕎麦も、博士のカレーも大好評だぜ!やったなあ、おい!」
 大変だが、明るい感想を聞けばさらにやる気が出てくる。楽しい!
 開始一時間半で、やっと調理のペースがゆるやかになった。
 休憩中はせっかくなので、会場にいる人たちと話そう。事前にみんなで決めていた。
 ハルは休憩をもらうと、同じく休憩に入った半次と一緒に会場に足を踏み入れた。


 会場は農場や車両整備工場で働く日本人であふれかえり、料理に舌鼓を打っている。テーブルと椅子はあるが、好きな場所に移動して酒を注ぎあい、みんな楽しく語り合う。エトフォルテから参加した者達も、すっかり場に馴染んでいる。
 クリスティア王国の主食はパンで、食事スタイルは日本で言うところの洋食。パンにいろいろ載せる、つけるなどして食べるのだ。水稲はこれまでのクリスティアにおいて、米粉にしてパンの原料にしてきた。日本近海に転移してから日本式の炊飯方法が広まり、米飯も国内で普及している。一般的に普及している酒はビールとワイン。もともとの食生活が日本人にもなじみがあるので、ここにやってきた日本人たちは食事に困らなかった、という。
 色とりどりの料理と酒の香り。にぎやかな雰囲気が合わさると、食事会というよりお祭りだ。
 みんなが楽しそうに過ごしているのを見て、地元で祭りの手伝いをした時をヒデは思い出す。蕎麦の屋台もやったし、時には綿菓子を作って子供たちに売ったりもした。
 半次が農場の人たちに、自分を
 『エトフォルテにいる訳アリ蕎麦屋のハル』
 として紹介して回る。農場には
 「じつはおれも飲食店にいたんだよ」
 という人も多く、ハルが料理人と聞くといろいろ話したがった。飲食店でバイトするうちに農業に興味を持ち、農家になった、という人も少なくないのだ。
 様々な料理の話ができることは、ハルも料理人としてとても楽しい。
 早くに亡くなった自分の母・春那(はるな)は料理教室の講師だった。専門は洋食で、家には母の遺した料理のレシピ本がずらりとあった。もともと自分の料理好きは洋食から始まった。今の自分の料理人としての専門は蕎麦・和食だが、自宅では勉強も兼ねいろいろ洋食も作っていた。
 話の中で昔を思い出すハル。ふと、そのままにしてきた自宅はどうなっているか気になった。
 日本を離れもう3カ月以上経過している。置きっぱなしにした母の形見の本は、この先どうなってしまうだろう……。不安になったが、これ以上考えないことにした。


 しばらくすると、年配の杖をついた農家が、しわがれた声でハルと半次に話しかけてきた。
 「おめえが、半次の話してた宇宙人専門の凄腕蕎麦屋かいい」
 なんて肩書だ。ハルは半次に小声で抗議する。
 「なんですか、この肩書」
 顔をしかめる半次。
 「賀茂(かも)じいさんが勝手に言ってるんだ。俺は、宇宙船にいる訳アリ蕎麦屋としか言ってない」
 「蕎麦屋のハルよおお。おれは褒めてるんだぜええ。宇宙船で蕎麦屋やるなんて、度胸あるよおお。だから凄腕蕎麦屋よおお」
 いちおう、誉め言葉であるようだ。
 「半次さん。こちらの方は?」
 「賀茂じいさんだ。凄腕コーヒー農家」
 「凄腕ですか」
 「ああ。単身エチオピアに渡って長年コーヒー作ってたんだ」
 賀茂は、復興支援でやってきた農家の中では最年長の76歳。小柄で日に焼けた皮膚は黒く、日本人離れしたコーヒー農家の空気をまとっている。高齢で杖がないと歩けないから、クリスティウムの採掘場には連行されなかったという。
 凄腕、と称された賀茂が、誇らしげに笑う。
 「コーヒー作って50年以上経つがよおお、宇宙船に乗り込んだ蕎麦屋ってのは初めて見たなああ。龍の団長もたくましくて好きだぜええ、おれはよおお」
 年のせいか、エチオピア暮らしが長いせいかはわからないが、賀茂は話し方が独特だ。とにかく年季の入った低い声で、しかも語尾が強い。
 「コーヒーがクリスティア王国で受けまくって、復興当初から転売が絶えねえもんだからよおお。女王様の親父様に頼まれて、おれが来たってえわけよおお」
 缶コーヒー転売の話は、すでにハルも聞いている。
 「クリスティア王国で育つんですか、コーヒー」
 コーヒーは亜熱帯で育つ植物である。クリスティア王国は日本の茨木・福島・宮城沖にある。日本でコーヒーが育つとしたら、沖縄や九州地方のはずだが……。
 賀茂が不敵に笑う。
 「蕎麦屋のハルよおお。固定概念に囚われちゃあいけねええ。魔術機構のおかげで、疑似的に亜熱帯が再現できるんだよおお」
 光の魔術機構で畑全体を光の膜で覆い、さらに炎の魔術機構を併用して亜熱帯環境を再現した温室を形成。コーヒーが育てられる環境を再現した、というのだ。
 「しかも、この国は水がいいから植物の育ちが早いんだよおお。もう少ししたら4年前に植えたコーヒーの木から、豆獲れるぜええ」
 「本当に!?」
 「本当よおお。量は少ねえが、宇宙人にも分けられる。飲めよおお」
 願ってもないことだった。
 「みんな喜びます!」
 ハルが一度陸に戻って買い込んだインスタントコーヒーは、すでに飲み切っている。エトフォルテにはコーヒーがない。飲んだドラクローたちも気に入って飲んだものだから、すぐになくなってしまった。
 クリスティア王国に今残っているコーヒーは、ブロンが日本から大量に購入したものだが、なにせ国民の大好物。ちょっと分けてください、とは頼みにくい。だって、もう日本から手に入れることは不可能だから。
 ハルは気になったことを聞く。
 「植物の生育、早いんですか?」
 半次が答える。
 「早いんだよ。だから蕎麦も、エトフォルテにたっぷり分けられるほどあったのさ。コーヒーは木として育つから時間がかかったが、それでも普通に育てたものよりはるかに早い」
 「なぜなんでしょうね」
 賀茂がシンプルに答える。
 「水がいいんだろおお、水がああ」
 水がいいだけで、そこまで早く育つものなのか?
 そこに、農場のリーダーである伊橋がやってきた。
 「何の話してるのよ。……クリスティア王国で作物が早く育つ理由?そりゃきっと、水を作物に撒く時、水の魔術機構を通すからだわ。科学的根拠はないけど」


 農場では、付近を流れる川の水と地下水が使われている。用水路の取水口や井戸にはクリスティウムを使った水の魔術機構が取り付けられており、魔力を流すと水の魔術が発動。細かなごみや汚れを浄化するという。
 「この魔力を流すやつ。日本人でもできるのよ」
 「できるんですか。どうやって?」
 「作業を始める前に『今日も頑張って作業します』『美味しい野菜を作るために頑張ります』と、神様にお祈りするような真面目で優しい気持ちを込めて、魔術機構に触れるだけ」
 「それだけ!?」
 あまりに簡単なので、ハルは拍子抜けする。
 「それだけよ。魔術は心で放つものなり、って言うでしょ。浄化装置は簡単な魔術機構だから、普通の日本人でもきちんと気持ちを込めれば使えるわ。100メートルを全力疾走したくらいには、疲れるけど」
 考えてみれば、巴や夢叶統子、素薔薇椎奈もクリスティア王国の神器ティアンジェルストーンを使えた。ストーンが失われた古代魔術の結晶であることを抜きにしても、魔術が日本人でも使える。つまり、日本人にも空気中の元素を引き寄せる『魔力』があるという証明だ。
 「すごいですね、魔術機構」
 伊橋が自分のことのように胸を張る。
 「水の魔術機構で汚れを取り除く時、植物を頑張って育てるぞ!って気持ちを込める。あの気持ちが水に乗って、植物の生育を助けてるのよ。私はそう思ってる」
 「そういうものですか」
 「そういうものよ。ハル君だって、料理作るとき、食べる人のこと考えて、真面目に一生懸命作るでしょ。優しさや愛情をこめて」
 「もちろんです」
 「まずはそういう気持ちが大事。優しさとか愛情ってやつがなきゃ、優れた技術持ってても駄目だからね。いい気持ちは、いい人、いいものを育てるのよ」
 伊橋の言うことはもっともだ。魔術が心から放たれる以上、それが植物の生育に良い影響を与えたとしても、おかしくない。
 

 伊橋が高らかに胸を張る。
 「本当に、クリスティア王国はいい国。一次産業を志す者にとっては夢の国ね」
 一次産業とは、農業、畜産業、林業、漁業など自然を扱う産業のことだ。
 「私たちの気持ちのこもったきれいな水が植物を元気に育てて、家畜だってすくすく。魚だってピッチピチ。いやもうほんと、ここで働けることを幸せに思うわ」
 でもそういえば、と、伊橋が振り返る。
 「あの黄色い果実だけは育たたなかったわね」
 「黄色い果実?」
 ハルの問いかけに、半次が意味ありげに目配せしてから言う。
 「軍師ヒデと俺、まきな博士とアルが、ここのパソコンで見た『F』ってやつだ。ユメカムが直々に持ち込んだ、レモンみたいなやつ」
 ハルは思い出す。
 見た目はレモンだが、皮が薄い黄色い果実。まきなは枇杷に近い果肉かしら、と食べたそうにしていた。
 「賀茂じいさんは農場に残っていたから、見てたんだろ、育成状況」
 半次から話をふられた賀茂が、顔をしかめる。
 「ありゃあ、よくわからんかったなああ。普通の畑に種まいても駄目。コーヒー用の魔術温室にもまいてみたけど、発芽しねえ。監督官は育成条件とか全くわかってねえし、そんなもん、育てるのは無理だわああ」
 ハルは呆れる。
 「育成条件の分からない植物を、育てさせたんですか?」
 「夢叶統子の指示だから、必ず育てろ!としか言わんのよおお。んなもんの芽が出るもんかいい」
 いくらなんでも無茶すぎる。こんなの植物学者だって育てられないだろう。
 伊橋が首をひねる。
 「あれ、すっごく大事に監督官たちが扱ってたけど……。そんなに美味しかったのかしら、『F』。ハルくんはどう思う?」
 ハルは考え込む。
 「美味しいか、何かしらの栄養に長けていたなら、ここに持ち込んだ果実を試食するはず。だれか、監督官が『F』を食べてるところを見た人はいますか」
 誰もいない、という。
 となると……。
 ハルは嫌なことを想像する。
 「最悪、毒物か超薬の原料だったのかも……」
 伊橋がわざとらしくおびえる。
 「ハル君。いやなことおっしゃる~」
 「すみません」
 「でも、案外そうかも。あれだけ悪いことしたやつらよ。ヤバイ薬の原料育てて、売りさばいてぼろ儲け!くらいは考えるでしょうよ。……今となっては考えても仕方ない。もう全部灰になっちゃったし。忘れましょ」
 それだけ大切なものなら、育成方法くらい作業する者に伝えても良いと思うが……。
 だが、考えても仕方ない、とハルも思うことにした。
 『F』を保管していた倉庫は、リルラピス派率いる解放部隊と監督官たちの戦闘により焼け落ちた。農場を占拠していたユメカムの監督官たちは、戦闘で全員死亡している。
 今となっては、『F』がどんな効能を持っていたか、だれにもわからない。


 その後他の農家たちと話して歩くうちに、ハルは組織改革に協力してくれた露口に出会った。
 半次が用事を思い出し別の場所に行ったので、ハルは露口と二人で話すことにした。
 「ハル君。クリスティアで作った蕎麦はどうかな」
 「最高です。露口さんは、蕎麦農家としてクリスティア王国の復興支援に参加したんですよね」
 「ああ。蕎麦の栽培が軌道に乗ったら、日本から蕎麦職人を大々的に呼び寄せる計画もあったんだよ。料理による異文化交流さ。バルテス国王は蕎麦を始め、さっぱりした味わいの日本食を好んでいたからね」
 蕎麦農家である露口は、料理としての蕎麦にも詳しい。ハルは久々に蕎麦屋として、露口と蕎麦談議に楽しく花を咲かせた。
 「甲野君が育てた葡萄のワインは、蕎麦にもぴったりだ。ハル君も飲むかい?」
 「まだ調理の仕事がありますし、運転もありますので……」
 今日、自分は車両の運転手も担当している。飲酒運転するわけにはいかない。


 蕎麦談議がひと段落すると、露口がこう言いだした。
 「なあハル君。君はきっと、ドラクロー団長と軍師ヒデとは親しい仲だろう」
 「まあ、それなりに」
 ハルは内心、身構える。
 露口は、自分が軍師ヒデと同一人物だと気づいたのだろうか?
 「俺は、団長と軍師に本当に感謝している。高鞠さんの側にいた俺を、疑わずに信じてくれた。俺の過去を聞きだそうとしなかった。二人ともリーダーの鑑だね」
 思わず
 「ありがとうございます」
 と言いかけて、ハルは言葉を変える。
 「あー……。うん。団長と軍師も、きっと喜ぶと思います」
 「俺も思い出したくなかったし、事実かどうかわからない面も含んでるから、昔話はしなかった。けど……。やっぱり、俺を信じてくれた人たちに伝えたい。君なら、団長と軍師の友人として、うまく伝えられるだろう。今から話すことは、50過ぎの酒飲んだオッサンの昔話として聞いてくれ」


 どうやら、自分が軍師ヒデとは気づかれていない。
 ヒデはホッとすると同時に、露口の昔話が気になった。


 

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