エトフォルテ防衛戦線ヒデ! 第57話 きずな美談の裏側で

 リルラピスが、再び巴に言う。
 「まさか、破壊神の話なんて信じられないとでも」
 「そういうわけでは……。地震が不自然なほど増えているのは、わかっています。作業員にも地震に巻き込まれて、亡くなった人がいる。ブロン王もユメカムも、作業員の身の安全なんて考えてないから。何か対策を取れるなら、するべきだと思いますが……」
 巴は、なんて歯切れの悪い言い方をするのだろう。ヒデがそう思う隣で、ドラクローがいら立ちを隠さず舌打ちする。対策が必要だというなら、採掘を今すぐやめろ、と言わんばかりの顔をしている。
 リルラピスが問う。
 「この採掘は、日本の高鞠総理や雄駆名誉長官、そして素薔薇大臣も承知しているのですか」
 再び首を横に振る巴。
 「私は詳しいことを知らされていません。少なくとも椎奈の父の素薔薇大臣は、ここの実態を知らされていないはずです」
 巴の話に、ヒデは奇妙な説得力を感じていた。
 素薔薇大臣はこの数年、国防大臣になって舞い上がったせいか、やることなすこと子供っぽい。ヒーローのやることになんでもOKを出してしまうというのは、ネットニュースや週刊誌で公然と報じられていた。
 もっとも、それを強い口調で糾弾するメディアはいない。そんなことをすれば、ヒーロー批判を許すまじ、とヒーロー庁がたちまち圧力をかけるからだ。
 巴が言う。
 「私が採掘場の実態を知ったのは、1か月くらい前です。椎奈と統子から聞かされました。……知らなかったんです。こんなことを、日本人にもさせていたなんて」
 リルラピスが驚きながらも、念を押す。
 「本当に?」
 「本当です。私、日本で治安維持活動をしていたから……」
 悪の組織との戦いを終えたヒーローは、引き続き悪党退治をするよう、ヒーロー庁に要請される。なにせ組織を潰しても、残党はもちろん新たな悪の組織がひっきりなしに現れる。警察や自衛隊では処理しきれず、戦力が必要不可欠。要請にこたえるのは任意だが、報奨金がもらえるのでほとんどのヒーローがこの『治安維持活動』に参加する。
 中には、報奨金だけもらってほとんど治安維持活動しないヒーローもいる。報奨金の出どころは国民のヒーロー税。これでいいのか!!と、ヒデは反ヒーロー団体の本で読んだことがある。
 「二人は言っていました。王女様たちがブロン王の暗殺を図っている、と。採掘場が狙われる可能性が高いから、フェアリンが常駐したほうがいい、と。それで私が派遣されて……初めて実態を知りました」
 アレックスが、いら立ちを隠さずに口を開く。
 「お前。地震を止めなきゃいけないことも、この採掘が間違ってるってことも、わかるだろ!!アタシたちに協力してくれよ!!」
 巴が幼い子供が嫌がるように、強く頭を振り拒否する。
 「アレックス、ごめん!!私にはできない!!」
 「なんで!!」
 アレックスの問いに、巴は答えない。
 アレックスがさらに問い詰め、怒鳴る。
 「昔、子供を格闘技で元気にしたいってアタシに言ったろ!!作業員はみんな子供がいてもおかしくない連中だぞ。子供がこれを知ったらどう思うのか、わからないのか!!」
 「わかってる!!わかってるけど……!!私には、監督官のいじわるを食い止めるのが精いっぱいなんだ!!」
 さらに気まずそうな巴。泣き出しそうになっているのが、岩陰からうかがうヒデにもわかった。
 湿った夜風にのって、ガラ場の砂塵が舞う。仮面越しでもはっきりわかるほど、機械油の匂いが漂う。
 自然破壊と過酷な労働の匂いだ。
 本当ならここは森の香りに包まれた、素晴らしいところだったのに。美味しい水の湧水地として、クリスティア人の心のよりどころとして、大切な場所だったのに。今や自然と人の命が踏みにじられた、忌まわしい場所になってしまった。
 リルラピスが、怒鳴るアレックスを止めた。巴は、何か大きな心の枷にとらわれている。このままでは会話ができそうもない。
 だがここに一人で来ている以上、彼女には説得に応じる余地がある。採掘場を取り巻く現状をなんとかしたいと、思っているのもわかる。
 いちかばちかだが、外部からさらに強い刺激を与え、巴の心の枷を壊すしかない。
 ヒデはドラクローを促し、二人で岩陰から身を出した。


 巴は、ヒデ達の姿を見てぎょっとした。エトフォルテがサイバー攻撃直後に動画サイトに流した映像を、見ていたのだろう。
 「え、エトフォルテ!?なんでここに!?」
 ドラクローが、落ち着いた口調で言う。
 「俺たちは今、王女様に協力している。あんたの説得を王女様たちに任せるつもりだったが、俺たちも話がしたくなった。とりあえず、あんたがユメカムを裏切れない、というのはわかったよ」
 ヒデが続く。
 「裏切れない事情を、私たちに話してほしい。事情はどうあれ、このままだとあなたは強制労働を野放しにしたことになる。世間にばれたらどうなるか、よく考えることだ」
 ヒデの言葉に、巴がびくり、と震えた。
 年下の女性を一方的に責めるのは、最低の行いだ。正直、やりたくなかった。だが、それでもヒデは言わなければならない。気まずさを悟られないように、事務的かつ冷静な声音で、巴を促す。
 「本当に作業員のことを思うなら、あなたが今すべきことは、黙秘ではないはずだ」

 しばしのあと。
 とうとう、巴は事情を話し始めた。
 「……すべては、私がフェアリンになったせいなんです」


 話は4年前。クリスティア王国が日本近海に転移し、日本のヒーローと魔王軍の戦いが始まり、しばらくしたころにさかのぼる。
 中学二年生の巴は、格闘技大会に出場した。大会にはドーピング検査が義務付けられており、規定に従い巴は試合10日前に検査を受けた。
 結果、まさかの失格。違反薬物の反応が出てしまった。
 両親が格闘家で自身のコーチでもある手前、検査に引っかかりそうな薬やサプリメントは飲まないよう家族で気を付けてきたのに。巴は失格した挙句、1年間の公式戦出場停止処分を受けた。
 巴はすさまじいショックを受けた。今の日本でドーピングに一度でも引っかかることは、スポーツ選手にとって死活問題に発展しかねないからだ。
 悪の組織が作り出す超常的な違法薬物が、日本では『超薬(ちょうやく)』と呼ばれ、闇で普及している。ある時格闘家が超薬を飲んで試合会場で怪物化し、大勢の人を殺すという大惨事が発生。それまでも薬物は厳しく取り締まられてきたが、事件を機にさらに厳罰化。スポーツ業界におけるドーピング罰則も、強化された。
 スポーツ選手が検査に失格した場合、1年間の公式戦出場停止。2度目があれば競技資格を永遠に失う。もし超薬認定された薬物の成分が出ようものなら、ヒーロー庁運営の刑務所に直行となる。たとえ、未成年であっても。
 巴の検査は超薬の反応こそ出なかったが、失格は最悪のイメージダウンとなった。巴の両親は格闘家としても慈善家としても知られている。両親のイメージ悪化も避けられない。
 両親の顔に、泥を塗ってしまった。
 同じ学校の夢叶統子と素薔薇椎奈がフェアリンとなり戦っていたことは、早々に公表されていた。けれど、巴にはどうでもよかった。なんとかドーピングの悪印象を払拭して、両親の名誉を回復したい。そして格闘技の世界に戻りたい。そう考えていた矢先、統子と椎奈が声をかけてきた。
 暗い顔をしている巴のことが気になった、と二人は言った。
 「ワラにもすがる思いで、二人に何とかならないか、と頼んだ。そうしたら二人に言われた」
 『実は一緒にフェアリンをやってくれる人を探している。ヒーローになって人助けをすれば、ドーピングのイメージを吹き飛ばせる。ユメカムの力で悪印象が広まらないようにしてあげる』
 と。


 アレックスが呆然となり、言う。
 「アタシに教えてくれたきっかけと、全然違うぞ。もともと3人とも仲が良くて、友達として協力したんじゃないの?」
 巴がフェアリンになった詳しいいきさつを、エトフォルテに保護されたグランは知らなかった。ヒデが謎海流攻略前にヒーロー図鑑などで調べても、わからなかった。ほかのヒーローの場合、この手の“きずな美談”は結構詳しく載っているのに、グレイトフル・フェアリンはわりとシンプルだった。図鑑に公表されている情報では、巴はもともと仲の良かった二人を助けるためにフェアリンに志願した、とだけ。ドーピングの“ド”の字も出てこなかった。
 巴が気まずげに言う。
 「同級生だけど、特別仲がいいわけじゃなかった。悪くもなかったけど。ユメカムの広告戦略で、私の失格は世間で報じられなくなった」
 ヒデはドーピング検査の厳しさを格闘技好きの和彦や、格闘技道場に通っていた同級生から聞いていた。怪物化の悲劇以降、試合前の検査はもちろん会場での持ち物検査も徹底的に行われているという。
 これだけやっても、違反事例や悲しい事件が後を絶たない。だから新聞やTVでも頻繁に取り上げられる。ヒデもいろいろ見聞きしてきたが、巴の事件は覚えがなかった。ユメカムが情報と印象を操作したのは、間違いない。
 ドラクローが言う。
 「二人はお前の恩人。だからフェアリンを続けるのか」
 すると巴は、首を横に振る。
 「違う。私、魔王を倒したらフェアリンをやめるつもりだった。格闘技をやりたかったし、もともと神器はクリスティアのものだから、返さなきゃとも思ってた。素薔薇大臣も、いずれ復興支援を縮小する、って聞いてたから、そのタイミングでやめようと……」
 意外だ、とヒデは思う。素薔薇大臣はそんなことを考えていたのか。
 「だから2年前。二人にやめてもいいか相談したんだ。そうしたら!!」
 統子にこう言われたという。


 『今やめるなら、ユメカムに違約金を払ってもらう』


 「……い、いやくきん?」
 ドラクローは違約金が何なのか、よくわからないらしい。リルラピスたちも目が点になっている。
 ヒデも、唐突過ぎる単語に思考が止まってしまった。
 巴が、声と体を震わせて言う。
 「私、ヒーローになるときにユメカムと契約した。契約書、ものすごいページ数でちゃんと読まなかったんだけど、書いてあったの」
 ユメカムはヒーロー支援企業。ヒーローが企業と契約書を結ぶことは、おかしいことではない。
 問題は巴がサインした契約書の内容である。
 それは、
 『ユメカムの許可なくヒーローをやめる場合は、違約金を払う』
 というものだった。
 さらに、違約金として指定された額は、巴がもらってきた報奨金(巴はヒーロー庁が出す公的なものと、ユメカムが出す独自のもの2種類をもらっていた)を全て当てたとしても、到底届かないめちゃくちゃな高額だった。
 つまり、巴はユメカム、ひいては夢叶統子が許可するまでやめられない。やめるならとんでもない額の金が必要。ということだ。
 「どうしてもやめたいなら、違約金を払え。足りないなら私の両親に請求すると……!!」


 ドラクローが怒鳴る。
 「なんだその契約は、ドラァ!!」
 怒りと連動して、太く硬い尻尾が跳ねる。尻尾はガラ場の岩を砕いた。
 びくん、と身をすくめる巴。声が、体が、震える。
 「こんなめちゃくちゃな契約だとは思わなかったの!!おまけに椎奈には、『クリスティア王国がまだまだ大変な時にやめるの?』と言われて……やめるにやめられなかった」
 話を切り出したとき、クリスティアではバルテス国王が亡くなっていた。まだ一般に明かされてはいなかったのだが、統子と椎奈は立場上知らされていたらしい。
 「クリスティアのことは統子と椎奈が担当するから、私は日本国内で治安維持活動してほしい、って言われた。違約金を払いたくないから続けていたら、この採掘場に行けと……。監督官が作業員をいじめるのは止められるけど、採掘は止められない。これ以上ユメカムに反抗的な態度を取ったら、私、統子と椎奈に何されるかわからない!!」
 そして今に至る、というわけだ。
 アレックスが言う。
 「めちゃくちゃな契約を無理やり結ばされたと、2年前世間に言えば良かったじゃないか」
 統子たちはそれも想定済みだろう。ヒデは解説した。
 「アレックスさん。内容はめちゃくちゃでも、契約したのは彼女だ。無理やりではない。 “自己責任”で処理されて、違約金を払わされる」
 日本では、天下英雄党とヒーローの都合が最優先される。3人のうち2人が、政府に近いヒーロー支援企業と政治家の娘たち。後から入った格闘家の娘の都合は、間違いなく後回しにされる。
 仮に違約金を払ってやめた場合、椎奈と統子は、
 『巴が自分の都合を優先し、違約金を払って戦いを投げ出した』
 と吹聴するだろう。世間は巴を責める。当然両親も。何より違約金を払ったら、生活が成り立たなくなる。八方ふさがりだ。
 アレックスが憤る。
 「……要するに統子と椎奈は、巴を違約金で脅してこき使ってるってことかよ!!」
 巴はとうとう泣き出した。
 「私があの時、契約書にサインしなければ!!フェアリンにならなければ!!ドーピングの汚名を消そうとしなければ……!!報奨金なんて欲しくなかった。私、両親みたいに格闘技を続けたかっただけで……!!」
 そして、作業着のポケットからティアンジェルストーンを取り出す。
 「ごめんなさい王女様、アレックス。神器は返します。私を、あなたたちの気のすむようにしてください!!死ねというなら、死にますから!!」
 昔と今の出来事が、巴の心を混乱させている。とうとう巴は、泣きながら地面に座り込んでしまった。円盤型のティアンジェルストーンの上に、巴の涙がぽろぽろと流れ落ち、ランプに照らされて光った。
 あまりにあまりないきさつに、ヒデはかける言葉を失う。きらきらと可愛らしい魔法少女フェアリンのきずな美談の裏側で、金銭の絡んだおぞましい事情が渦巻いていたとは……。

 リルラピスが膝をつき、そっと巴の涙をぬぐう。
 「巴。私の気が済むようにして、と言いましたね」
 「……はい」
 リルラピスは、優しく言う。
 「採掘を止めないと取り返しのつかないことになります。破壊神の話は嘘ではないのです」
 そして、ティアンジェルストーンを握る巴の手に、自分の手を重ねた。
 「どうか、私たちに協力してください。日本とクリスティア王国を守ると誓った、あの日のように」
 「でも、私が裏切ったら、違約金を……」
 リルラピスは、はっきり言った。
 「私たちは採掘場を解放した後、首都を制圧しに行きます。叔父上の王位をはく奪し、クリスティアで叔父上とユメカムが何をしたか、王として世間に公表します」
 ユメカムの悪行は、異世界交流国際法に明らかに違反している。
 「協力してくれるなら、私があなたをかばいます。ヒーロー支援企業にあるまじき行為をしているユメカムに、あなたは立ち向かった。違約金を払う必要はない、と」
 リルラピスが、ヒデに視線を向ける。
 どうかあなたからも、巴を守るための言葉を言ってくれませんか。
 ヒデは、リルラピスのまなざしにそんなメッセージを見た。だから、言った。
 「協力してくれるなら、私もあなたを守るために手を打つ」
 涙をぬぐう巴は、疑わし気だ。
 「……軍師ヒデが?本当に?エトフォルテは、日本のヒーローが嫌いでしょう?」
 「否定はしない。だが今の私たちは、クリスティアで困っている人を助けるのが仕事。もちろん、あなたも」
 でまかせではない。巴がきちんと協力してくれるなら、ヒデは守る気でいた。
 ドラクローが心配そうに尋ねる。
 「ヒデ。本当に手を打てるのか?こいつは自分の意思でヒーローをやる、って契約したんだ。契約書がめちゃくちゃでも、王女様がかばっても、ユメカムに協力した責任は消せないぞ」
 当然の心配である。
 だが、これまでのいきさつを聞いたヒデには、かすかな望みがあった。
 「団長。今はまだ推論ですが……。統子と椎奈が、ドーピング検査からすべてを仕切っていた可能性がある。巴さんを、仲間に引き込むために」
 「なぜそう思う?」
 「統子と椎奈にとって、検査失格から後の出来事があまりにも都合よく進みすぎている」
 統子と椎奈が、失格して落ち込んだ巴を励ましてフェアリンにスカウトする、というきずな美談は、
 『巴がドーピング検査に突然失格する』
 という事実がなければ成立しない。ドーピングに常日頃注意していた本人にもコーチである両親にも思い当たる原因がないのに、いきなり失格は不自然すぎる。
 それに、友情のある仲間なら、巴が辞めたいと言った時に多少なりとも話を聞くだろう。違約金を振りかざしたりしない。もともと巴への友情が無く、利用するために近づいたなら。巴へのひどい仕打ちも納得できる。
 神器複製をめぐり装着者を死なせた責任をマティウスに負わせ、監督官の暴れぶりを放置している現状を思えば、ユメカムは戦力になりそうな女の子を仲間にするために、ドーピング検査の捏造くらいやりかねない。
 「検査の時点から巴さんの加入が仕組まれていた、とわかれば、彼女の心を追い込む形で契約に誘導させたことになる。正当な契約とは言えない」
 もちろん、ヒーローとしてこれまで活動した責任は問われる。が、作業員を守れれば、ユメカムの横暴に反旗を翻し立ち向かった、という印象を世間に与えられる。リルラピスのフォローが入れば、世間も巴を執拗には責めないだろう。
 ヒデの説明を聞いてもなお、ドラクローは難しい顔。
 「エトフォルテで日本のネットが見られるとは言え、ドーピング検査の裏側まで俺たちで突き止められるのか?」
 安請け合いができない以上、巴の前でヒデははっきり言った。
 「あとでエトフォルテに通信を入れて、ネットを調べてもらうとことから始めないと。残念ながら確実に突き止められる保証は、今のところない。物的証拠も処分されているでしょう。しかし、検査が細工された事実を証明できる手掛かりが、どこかに残っている可能性はある。私はそれを信じます」
 「……難しいな。だがヒデの言う通り、都合がよすぎる展開は不自然だと、俺も思った」
 ドラクローは頷き、巴に力強く言う。
 「巴。あとはお前の覚悟だけだ。作業員を助けてくれるなら、俺たちが味方だ。ドーピング検査の裏側を調べるよ」
 リルラピスとアレックスも、フォローしてくれる。
 「巴。エトフォルテの人たちは、信頼できます。信頼できないのは、日本政府とヒーロー庁。そしてユメカムと叔父上です」
 「リルの言うとおり。エトフォルテなら間違いねえさ」
 しばしの沈黙の後。
 巴は涙をぬぐった。その顔に、ほのかな明るさが宿る。
 「わかりました、みなさん。助ける手伝いをします」


 巴は、落ちていた木の枝で地面に採掘場周辺の絵を描き、詳しいことを教えてくれた。
 作業員たちは、毎朝9時に宿舎の前で体操してから仕事を始める。監督官たちも朝礼で全員出てくる。
 ただし、宿舎にはけがをして寝込んでいる者が20人近くいるという。巴はさらに教えてくれた。
 「作業員を助けた後、車を使うなら車庫は宿舎の西側。そこに監督官たちが使うバスと、クリスティウムを運ぶためのトラックがある。鍵は全部車庫にあるはずです」
 さらに、監督官について教えてくれた。
 「彼らは全員ヒーロー武装と、能力強化のスマートウォッチで武装してます。そうだ。監督官用の宿舎の奥のオレンジ色の建物に攻撃はしかけないでください。鉱脈を広げるための爆薬や予備のヒーロー武装がある。誘爆したら大変だから」
 これは安全のために覚えておかなければならない。
 採掘場の内情と敵の配置がわかったことで、作戦の大筋が決まった。


 明日の朝9時。作業員たちが体操のために集まる直前に、巴が監督官たちをできるだけ一か所に集める。そして、フェアリンに変身して攻撃する。
 同時に、リルラピス・エトフォルテ合同軍が周囲を巡回する警備ロボを蹴散らし、見張り担当の騎士たちを制圧する。
 作戦が決まり、リルラピスが礼を言う。
 「ありがとう。巴」
 ヒデは巴に頼みごとをした。
 「巴さん。言いにくいとは思いますが、ドーピングで失格した時のことを思い出せる限り教えてください。いつ、どの大会の検査か、わかる限りの情報を」
 巴は10分かけて、大会の情報を教えてくれた。ヒデは情報をメモする。あとでエトフォルテに調べてもらおう。
 さらにヒデは言う。
 「巴さん。もう一つお願いが」



 

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