エトフォルテ防衛戦線ヒデ! 第23話 害敵必討~残り2人~

 
 時間を少しさかのぼり、エトフォルテ甲板上部にできた裂け目の中。
 飛び込んだシルバーは、自分の体が弾力のある白いロープにからめとられたことに狼狽した。
 「なんだこれは!?」
 ロープには接着剤が塗られている。はがせなくはないが、とにかくべたつく。シャンカッターを取り出しビームの刃で斬ろうとしたが、ロープにはビームを弱める加工が施されているうえに、弾力性が強すぎて切断できない。
 よくよく見ると、裂け目内部はこのロープが縦横無尽に張り巡らされている。下層までいけなくはないが、どこを通っても必ずロープに触れる。つまり、べたつきを回避するのは不可能だった。
 上に戻ればさっきの獣人たちが待ち構えている。下層は獣人の住処。どっちに進んでも危険だが、先に進んだグリーンの生体反応はまだ残っている。グリーンと合流して戦えば何とかなるかもしれない。
 わずかな希望を抱いて、シルバーはべたつくロープをかいくぐり進んでいく。
 蜘蛛の巣に引っかかった蝶はこんな気持ちだろうかと、しつこいべたつきにイラつきながら。


 時間をさらにさかのぼること、金曜日。
 ヒデは空き時間に、エトフォルテ内部の居住区に走った大きな裂け目を見つめていた。
 昼空を映し出す空の一部が真っ黒に割れている。裂け目の先は甲板上部だ。
 甲板上部の裂け目を防護板で覆うことは木曜日の会議で決まったけれど、万が一板を破られて侵入されたときの対策をとらねばならなかった。
 だが、その対策が思いつかない。 
 いちおう、「何らかのトラップを仕掛けよう」とは決まった。が、あとで修理する手前裂け目の中に爆弾を仕込んでシャンガインを爆殺、なんてできない。時間も限られているから、複雑な仕掛けもできない。結局木曜日の会議では決められず、ヒデは金曜日の夕方を期限にしてトラップを検討しなければならなかった。
 「むう…」
 ヒデは居住区の天井に走った裂け目をにらみ、どうしたらいいか考える。なかなかいい案は出てこない。
 「むう…」
 「むう…」
 自分の「むう」に重なるように、可愛らしい「むう」。気が付くとそばにムーコがいた。どうやら悩んでいる自分をリラックスさせようとしたらしい。邪魔しちゃったかな、と苦笑いするムーコに、ヒデは相談してみることにした。
 ムーコは小首をかしげてから、言った。
 「私は戦力適性低いから参考にならないと思うけど…。あの裂け目に入ったシャンガインを動けなくするか、弱らせればいいんじゃないかな」
 「弱らせる」
 映画研究部にいたゲーム好きの友人を、ヒデは思い出す。モンスターを戦わせるゲームが好きな彼は、自分の戦術をこう語っていた。
 『毒!!あるいは麻痺!!睡眠!!さもなくば混乱!!相手を状態異常にして弱らせてから攻める!!これだよ!!』
 とはいえ、毒液だの麻痺や睡眠を誘発するガスを仕込むのは「これじゃないよ!!」である。裂け目の下には皆の生活があり、シャンガインもマスクに防毒機能は仕込んでいる。
 「さもなくば混乱」
 「混乱?」
 「あの中に入ったシャンガインがパニックを起こすようなトラップを作れないかと」
 居住区に降りた後もシャンガインがパニックの余韻を引きずり、満足に戦えなくなるシンプルなトラップ。果たしてそんなものを作れるのか。
 二人で話し込んでいると、目の前を羊族の老人が通りかかった。昔のドラマに出てくるような三輪トラックの荷台に、白いフワフワした綿のようなものを大量に積んでいた。
 「団長さん。シャンガインに焼かれなかった畑のモチフワット収穫しておいたんで、倉庫に入れておきますぜ」
 「よろしくお願いします」
 ムーコがぺこりと頭を下げる。老人はトラックを動かしていたが、段差に引っかかり車体が揺れ、白いフワフワが荷台から落ちてしまった。ヒデとムーコはフワフワを回収して老人に返す。
 フワフワを掴んだヒデはびっくりした。
 「ずいぶんモチモチしてますね」
 綿のようにフワフワした見た目とは裏腹に、モチフワットは掴めばはっきり押し返してくる弾力性と、触っていて癖になりそうなモチモチ感をたたえている。ムーコが教えてくれた。
 「このモチモチ感がモチフワットの特性。モチフワット繊維100パーセントのロープは、専用のカッターじゃないと斬れないくらい弾力があるんだ。私達羊族が品種改良した綿花で、エトフォルテの服にも使ってるよ」
 十二兵団の制服にもヒデの軍師服にもモチフワットの繊維が使われていると、ムーコは補足した。実際にはほかの繊維も混ぜているのでモチモチ感はないけど、とも。モチモチ感はともかく、制服の耐久性の高さはすでにマティウスが実証していた。陸で戦ったマスカレイダーやシャンガインの武器が強力すぎただけで、十二兵団の制服の防刃・防弾性能は地球に存在するミリタリーギアをはるかに超える、とはマティウスの弁。これはその性能を支えている大切な綿花なのだ。
 モチフワットを握ったときの感触をヒデは思い出す。
 あの弾力性。100パーセントのロープは専用のカッターじゃないと斬れない。
 ヒデはムーコに質問した。
 「100パーセントのロープは、量がありますか?」
 「作業のためにそれなりに」
 「ロープの管理はどこで?」
 「心の部で編んでいるから心の部の団長が…って、私か」
 その瞬間、ヒデの中で仕掛けるべきトラップの姿がはっきり思いついた。
 「今から対策会議を開くので、一緒に来てくれませんか」
 「えええ!?私戦力適性低いよ!?」
 しゃかしゃか手を振って断ろうとするムーコだったが、ヒデはなんとか説得した。最終的に、
 「むう…。まあ、考えるだけなら……」
 困り顔を崩さないが、ムーコは会議への参加を了解してくれた。

 対策会議に参加した仲間たちに、ヒデは思いついた作戦を説明する。
 それは、居住区上の裂け目内部にモチフワットのロープを張り巡らせるというものだった。
 「ビームコートスプレーを吹いたロープを、なるべく隙間を小さくして蜘蛛の巣のように張り巡らせます。中に入ったシャンガインはロープを斬りたくても、ビームの威力を抑えられて斬れない。それどころか弾力に跳ね返されて中を進めなくなる。四苦八苦して下層にたどり着いたときには、ストレスで頭が疲れ切っているでしょう。途中でからめとられて、動けなくなる可能性も」
 果たしてそううまくいくかと、みんな半信半疑だ。タイガは裂け目内部に張り巡らせたロープの絵をかいて、首をひねった。
 「ロープ張るだけなら爆薬や毒液よりマシだけど…。ヒーローと戦ったことのある威蔵に、ロープを試し斬りしてもらおう。それで斬られたら、光線兵器だって通用しちゃうからな」
 威蔵にロープを斬ってもらったところ、威蔵の刀は跳ね返されてしまった。威蔵は驚いている。
 「想像以上の弾力性。これにビームコートスプレーを吹けば、奴らの武器でロープを斬ることはできないだろう」
 威蔵の評価で通称『蜘蛛の糸トラップ』の採用がほぼ決定的になると、今度はムーコから提案してきた。
 「蜘蛛の糸みたいに張るなら、ロープに接着剤を塗っておくといいかな、って。ドロヌマイモの接着剤、たっぷりあるよ」
 ドロヌマイモとは、エトフォルテで栽培されている芋の一種。泥の中で育つこの芋は独特のぬめりを持ち、皮ごとゆでてぬめりをとってから料理に使う。ぬめりを含んだゆで汁は心の部が集め、接着剤に加工するのだという。
 「あの接着剤はかなりベタベタする。専用の剥離剤がないと取れないくらい」
 「あー…。俺たちみたいに毛の生えた種族にゆで汁が絡むだけでも最悪なんだ」
 タイガがうんざりした声を出す。人間よりも身体能力が高いエトフォルテ人が嫌がる粘着性なら、ヒーロー相手にも効くはずだ。
 蜘蛛の糸(接着剤付き)トラップが採用されると、ヒデはさらに閃いた。
 「シャンガイオーの中に投げる爆弾。空中迷彩で仕掛ける網。全部接着剤でコーティングできませんか。連中が簡単に取り除けないようにしましょう」
 「すげえな。ムーコの提案でシャンガインに勝てそうな気がしてきたよ」
 「わ、私はロープと接着剤のことしか話してないよう…。戦力適性低いし…」
 タイガに絶賛されたムーコは、喜ぶどころか困惑している。ドラクローは笑って励ました。
 「俺たちが思いつかなかったことを提案したんだ。もっと胸を張ってくれ」
 モチフワットのロープは修理作業でも使うので、蜘蛛の糸作戦に使う分はムーコたち心の部が大至急編み上げることになった。突然のことでヒデは申し訳なく思ったが、一晩やればきちんと用意できるからと、ムーコと心の部の団員たちは胸を張る。
 「医療と生活担当の心の部でも、戦いの役に立つってわかったから。私たちも頑張るよ」

 翌日の土曜日。
 裂け目の中にロープを張り巡らせ、技の部の団員たちが接着剤を塗りつけていく。
 ヒデはドラクローたちと甲板上部からその様子を確認した。 
 「この裂け目を覆う防護板を破壊したシャンガインは、中に飛び込む。その体に接着剤が引っ付き、四苦八苦しながらほかのロープに触れつつ居住区を目指す」
 ヒデはシャンガインが飛び込んだ後の様子を思い浮かべる。最新のスーツと飛行能力を持つとはいえ、ベタベタになった体でどれだけ俊敏に動けるだろう。頭の中はストレスでぐちゃぐちゃだ。
 中でからめとられて、シャンガインが身動き取れなくなればそれでいい。万が一居住区に抜け出たら、待ち構えている守備隊が仕留める。
 そして居住区内の守備隊を束ねるのは、
 「オレだな」
 ハッカイである。


 そして日曜日の今。
 ベタベタになりながら蜘蛛の糸を通り抜け、シルバーはやっと居住区につながるところまでやってきた。
 体も心もへとへとでベタベタだ。早く外に出ようと、シルバーは無防備に両足を居住区のほうに突っ込んだ。
 その両足を誰かがつかんで、思いっきり引っ張った。
 誰かはもうわかっていた。エトフォルテの獣人たちだ。
 「それ!!背中の飛行装置をつぶせッ!!」
 鳥獣人たちが両足を引っ張り、さらに別の鳥獣人が、剣でシルバーの背中を斬りつけた。背中に装着された反重力飛行装置が火花を上げる。
 悲鳴を上げてシルバーは居住区に落下していく。墜落直前、腕の変身ブレスレットを操作してぎりぎり飛行装置を作動させる。最後の力で装置が働き、なんとか軟着陸できた。
 が、シルバーの目の前には今、二十人近い獣人たちが待ち構えている。
 「緑の次は銀か。地獄の歓迎会にようこそ」
 ずんぐりした巨漢の獣人が、低い声で笑う。尻尾の形や体毛の色からして、猪の獣人だろうか。
 「先に来たグリーンをどうした!!」
 くい、と猪獣人が指で示したその先に、金属の柱にはりつけにされたグリーンがいた。ぐったりとうなだれて動かない。生体反応のディスプレイもいつの間にか消えている。死んでいるのは明白だった
 「へとへとになって蜘蛛の糸トラップを抜けてきたあのデブ。ついさっきみんなで止めを刺したんだぜ」
 猪獣人の周囲には、猿や馬を思わせる獣人が武器を構えている。
 「ハッカイさん!!おかげでやれました!!」
 獣人たちが殺意と感謝に満ちた歓声を上げる。シルバーは獣人たちの所業に戦慄した。
 「グリーンを痛めつけて、縛り上げて!!お前らなんて残忍なんだ!!」
 「うるせえ!!お前らは、この街の逃げ回った年寄や子供をポーズ決めながら殺して回っただろうが!!オレの知り合いのじーちゃんたちも殺してカッコつけやがって!!」
 「お、俺はその時いなかった!!」
 「だから関係ねえ、ってか!!つまんねえうえにくだらねえ野郎だ!!上にいたやつから通信機で聞いたぞ。間に合わせメンバーのくせに俺たち殺す気満々なんだろ、ええ!?」
 「だから俺を間に合わせって言うなよ!!」
 猪獣人ことハッカイは棍棒を構えた。金属製の厳ついこと極まりない凶悪な棍棒に、鎖鉄球が合体している。ハッカイは鎖鉄球を豪快に回し始めた。
 「オレ一人でブチ殺してもいいが、それじゃあみんなの気が晴れねえ。オレはテメーを動けなくなるまで叩きのめす!!そしたらみんなで歓迎するぜ!!」
 体にまとわりついた接着剤はシルバーから脚力を奪い、蜘蛛の糸をくぐり続けたことで脳内の疲労は限界に達していた。シルバーはハッカイがぶん投げた鉄球をなすすべもなくくらい、勢いそのままに吹き飛んだ。
 だから逃げろって言ったんだ!!レッドの馬鹿が!!間に合わせで加入した俺がこんな目にあうなんて…。
 絶望と後悔に埋め尽くされて遠くなるシルバーの意識に、得体のしれない何かが湧きあがる。


 「手ごたえあったあ!!」
 ハッカイ、会心の雄たけび。こげ茶色のエトスを纏った鉄球は、シルバーの体を大きく吹き飛ばした。
 吹き飛ばした先は、子供たちが遊ぶための砂場だった。砂場に倒れたシルバーは、突如手足を広げて砂場でのたうち回る。
 痛みに苦しむにしてはおかしい。まるで全身に砂をまぶすような…。
 この奇行をハッカイは理解した。シルバーは砂を全身にまとって、接着剤のベタつきを抑えたのだ。
 砂場から立ち上がって戦いの構えをとるシルバー。ハッカイは、相手が発する殺気が変わったのを感じた。さっきまでエトフォルテに向けていた蔑視や恐れが消え、ただこちらを殺そうとしている。目元まで砂まみれなのに、それを気にするそぶりを見せない。
 死を目前に控え闘争本能が目覚めたとでもいうのか。
 そんな考察は、はっきり言ってどうでもいい。素手で来るというなら猪族の武術『猪斗相撲(ちょとずもう)』の出番だ。ハッカイは体を低く構え、鼻息荒く叫んだ。
 「来るなら来いや!!こっちも素手で叩き潰したる!!」

 
 「くらえ!!シャイン・ハンド・クラッシュ!!」
 「ぐおおお!?」
 レッドの固有武装シャンガントレットのビーム掌底を腹部にくらって、吹き飛ぶドラクロー。ビームコートスプレーを吹いた制服に穴が開く。だが、その下に着たベスト型の防具はひび割れながらも原型をとどめている。エトスを流した肉体には鈍い痛みが残るが、まだ動ける。
 ドラクローは制服と防具を脱いだ。人間とほとんど変わらない頭部の首から下、龍族特有のごつごつした鱗に覆われた上半身があらわになる。
 それを見たレッド、嫌悪感に満ちた声を出す。
 「なんておぞましい体なんだ!!」
 「お前らにとっておぞましくても、これが俺たちエトフォルテなんだよ」
 ヒデの事前のアドバイスもあったので、レッドの反応にそれほど怒りを覚えなかった。ドラクローの反応が面白くなかったのか、レッドは拳を構えなおす。
 「服と防具でビーム対策してきたようだが、もう着れないな。次はお前の体にぶら下がってる汚らわしい飾り物を叩き落としてやる!!」
 体にぶら下がってる汚らわしい飾り物とは、尻尾のことだろう。尻尾はエトフォルテ各部族の誇りだというのに。
 ほかのメンバーを仕留めた威蔵とジャンヌが側に来た。
 「団長。助太刀が必要か」
 威蔵は刀をいつでも抜ける構えをとっている。
 「気持ちだけで十分。十二兵団の団長として、敵の大将は俺が倒したい」
 意地を張るな、一緒に戦えと言われるか。返ってきた言葉は、
 「見事。大将戦に懸ける心意気は宇宙人も同じだな」
 ふっ、と笑う威蔵。こういう状況での心理は、地球人も同じであるらしい。互いの尊厳を懸けた大将戦に援軍は無粋だ。
 「宇宙の真理ってやつだろうな」
 仮面の下でドラクローも笑みをこぼす。ジャンヌは苦笑交じりに肩をすくめ、包帯が巻かれた尻尾を揺らした。
 「見届けるよ、ドラクロー。尻尾を馬鹿にしたあいつを、思いっきり叩きのめして!!」
 「まかせろ!!」
 もしヒデや威蔵がいなかったら、力任せの龍神拳で正面から殴りに行き、ドラクローはとっくに殺されていただろう。元来ドラクローは戦いの場において熱血かつ直情的に走っていく性質だった。だが、新しい仲間の存在がドラクローを冷静にさせた。そして今朝の出撃前の特番で、レッドの武装の詳細は分かっている。
 全力で戦え。そのための策を練り、冷静に動け。策はすでに頭の中にある。
 ドラクローは脱いだ制服を右手に持って駆けだした。
 「頭に服をかける気か!!わかるんだよ!!」
 叫んだレッドの拳が光弾を放つ。最小限の動きで光弾を避け、ドラクローは跳躍の体勢に入る。
 「尻尾は飾りじゃない!!第三の手にして足だっ!!」
 尻尾を甲板に叩きつけると同時に足で跳躍。尻尾のない者から見れば、かなり大きくトリッキーな軌道を描いてドラクローは跳んでいた。その軌道にレッドは反応しきれなかった。空中で身をひねったドラクローは、レッドの頭に脱いだ制服をかぶせる。
 制服を外そうと慌てて両腕を上げるレッド。これが狙い目だ。
 レッドの背後に着地したドラクローは腰をひねり、尻尾を回してレッドの右わき腹を強打する。
 「ぐえええ!?」
 苦悶に満ちた悲鳴を上げて吹き飛ぶレッド。ドラクローは事前にヒデから教わった人体の急所の一つ、肝臓を強打したのだ。
 人間の急所を、腕以上の重さがある龍族の尻尾で強打した。ドラクローの想像以上に肝臓強打は効果抜群だった。エトスはスーツの上から内部の肉体へ見事に衝撃を与えている。
 レッドに回復の隙など与えない。一気に仕留める!!
 ドラクローは拳にエトスを溜めて駆けだした。レッドが己の両拳をこちらに向けた。
 「吹き飛べえええ!!」
 レッドの絶叫とともに、両腕のガントレットが光をまとって飛び出す。空飛ぶ籠手にドラクローがぎょっとしたのは一瞬で、すぐに避けることができた。このギミックも、事前の放送で見ていたのだ。防具でもある籠手をまるまる飛ばして攻撃するなんて、完全に取り乱した証拠だ。
 しかも飛ばしたガントレットは戻ってこないという。こんな機能まで全て公開してから戦いに行くなんて、こいつらはもはや戦士ではない。俺たちの同胞を殺して回った間抜けな悪党だ。
 「わかってたんだよッ!!怒轟拳(どごうけん)!!」
 ドラクローは渾身の龍神拳を放った。レッドは両腕を十字に構えて防御する。ドラクローの猛攻は止まらない。ガードの上から何度も何度も殴りつける。
 ついに、
 「ぐああああああ!!??」
 レッド、さらなる絶叫。龍神拳はレッドの両腕を骨折させた。


 だらんと垂れた腕を見つめて、レッドは悲鳴を上げる。
 最新鋭のスーツも武器もロボも破られた!!獣人ごときに!!
 いや、地球人の軍師ヒデが入れ知恵さえしなければこんなことには!!
 痛みをこらえてマスク内部のディスプレイを見ると、シルバーの生体反応がいつの間にか消えていた。
 シルバーの言ったとおりだった。逃げればよかった!!
 だがもう遅い。反重力飛行装置を操作しようにも、腕を折られては操作できなかった。
 そしてピンクを殺した蛇獣人と、ブルーを殺した日本人。虎や兎の獣人たちが多数銃を構えてこちらをにらんでいる。
 さらに、グリーンとシルバーの死体を抱えて、大柄な猪獣人たちがやってくる。
 レッドの心と膝は崩れ落ちた。その心に、どす黒い感情が流れ込む。

 ドラクローはハッカイに聞いた。
 「先輩、グリーンとシルバーを倒したんだな」
 「小太りはみんなが止めを刺した。間に合わせのほうはしぶとくていけねえ。勢いあまってオレがやっちまったよ」
 ハッカイがそう言って、砂まみれのシルバーの死体を示す。その胴体には大きな手形が残っている。エトスを込めたハッカイの張り手に、シルバーの体は耐えられなかったのだろう。
 最新のレギオン・シャンガインは、ついにリーダー・シャンレッドを残して全員死亡した。

 

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