エトフォルテ防衛戦線ヒデ! 第13話 ジャークチェイン

 
 一方、ヒデたちは時雨の渡したスマホから解析した、薬の隠し場所に到着した。
 そこは缶詰工場から、車で1時間ほど走ったところにある山の中。農業用の資材を置いてあったであろう、古い倉庫だった。
 この山のそばには高速道路がある。礼仙兄妹は東京都に住んでいたという。東京湾にかかる横断道路を使えば、薬の運搬は容易かったに違いない。
 都会はヒーローと悪の組織の戦いが激しいから、結果的に警察も悪事には敏感になる。海を挟んだ田舎の山なら大丈夫だと、横流しをしていた母親と彼氏は思ったのだろう。
 アルが、銀色のスタイリッシュな形状の金属製懐中電灯(まきなが作ったアル専用の装備だという)で、倉庫の中を照らす。懐中電灯は、横流しの実態を明るみにした。
 ちょっとした体育館くらいの広さの倉庫内に積まれた、大量の段ボール。アルを除く3人は、驚きを隠さない。この倉庫は古いけれどそれなりに清潔で、薬品を保管するための保冷庫、倉庫の温度・湿度を調整するための空調装置まで付いている。埃っぽくかび臭い倉庫を想像していたヒデは、この光景に驚いた。
 アルが倉庫内を分析した結果を告げる。
 「消毒液、鎮痛剤、抗生物質。20種以上の病気の治療薬などあわせて、5トン以上」
 ヒデは薬品の量以上に、この古い倉庫に電気が通っていることが気になった。
 「電柱も発電機もないのに、保冷庫や空調装置はどうやって動かしているんだ?」
 アルが倉庫の一角を、ヒデに示す。そこには、スマートフォンの充電に使うモバイルバッテリーを、スーツケース並みに大きくしたような装置があった。
 アルによると、あれは特殊充電バッテリー。あの一台で、ここにある保冷庫などを半年は動かせるという。
 威蔵がバッテリーを見て呟く。彼は万が一に備えて、刀を携帯していた。
 「これは、ヒーロー支援組織や大企業が使うものだ。ちょっと薬をくすねる小悪党が手に入れられるものではない。横流しのバックには、大規模な組織が絡んでいる」
 まきなが暗い声で、威蔵に続く。
 「威蔵君の言うとおり。一般に出回っていない特殊な薬も相当あるわ。
 これを横流しするなんて、普通は無理。絶対」
 医者の目から見ても、この状況は異常ということか。

 アルがさらに、状況分析結果を告げる。
 「あの奥のケースには、拳銃が入っています」
 アルが示す方向には、明らかに医療品の段ボールとは違う、武骨な金属ケースが置いてある。中に衝撃を与えないよう、アルがケースを開けた。同じ拳銃が全部で9丁。予備の弾丸や改造用の部品も収められている。
 ヒデが昔、映画の撮影で使ったリアルなモデルガンと同じ型だ。9mm弾を使用する、イタリア製の流麗な外観の銃。
 『アクション映画に一番映えるデザインだよ』
 と、親友の和彦が語っていたのを思い出す。モデルガンを和彦に渡され、家で扱い方を練習したことも思い出した。
 『お前は手練れの殺人犯だから、銃の扱いは歯ブラシを扱うようにナチュラルに!!』
 と繰り返し言われ、練習のためにミリタリー本や動画サイトを何十回も見ながら、銃を構えたものだ。
 「この拳銃は、薬を売った見返りとして受け取ったと推測。もう一つ拳銃を納めるスペースが空いています。おそらく、彼氏か母が抜き取ったと推測できます」
 アルの解説にヒデはため息をついた。
 「つくづく、とんでもない連中です」
 まきなは医薬品の積まれた箱を一通り見てから、ヒデに言った。
 「医療品、量としては十分だけど、薬がエトフォルテの人たちに使えるかきちんと調べないとね。あと、大事な問題が一つ」
 「あの子たちの母親とその彼氏ですね」
 「二人とも、スマホを持ち出されている。子供が警察に行ったと思い込んだら?」
 「二人は、人目につかないところに逃げ出すでしょう」
 ヒデの分析に応えるように、アルが声を上げる。
 「自動車のエンジン音。この倉庫に接近してきます」
 「やはりここに来ましたか」
 4人は倉庫入口の搬入用シャッターを開け放していた。倉庫の向こうの道から、白いセダンが一台近づいてくるのが見える。
 彼氏と母親がやってきたのだ。
 
 
 彼氏と母親は、倉庫の入り口に止めたセダンを降りる。そのまま足早にヒデたちと数メートルの距離まで、接近した。
 ヒデたちは、倉庫の中で礼仙兄妹の母親とその彼氏と向き合う。
 翼の言った通り、母親も彼氏も身なりがよく、高そうな服を着ている。母親は一見すると清楚で穏やか。彼氏は活動的なスポーツマン。二人とも年は30代後半か。犯罪とは無縁な風貌で、薬の横流しをしているとは誰も思わないだろう。
 母親が警戒心をあらわにした声を上げる。
 「リョウジ!!こいつらあたしたちの商品に、手を付けようとしてる!!」
 彼氏の名前はリョウジだと、事前にヒデたちは聞いていた。にもかかわらず時雨たちは、この男を名前ではなく『彼氏さん』と呼ぶ。
 その理由は、
 「パパと同じ名前で呼びたくないから」
 時雨は悔しそうに呟いた。すでに亡くなっている礼仙兄妹の実の父は、『礼仙 良治(れいせん・りょうじ)』という。
 彼氏と父は下の名前が同じだった。

 彼氏が、拳銃を構える。
 「お前ら、どこの組織の連中だ!」
 薬を盗みに来た商売敵、とでも思ったのか。拳銃は減音器(サプレッサー)付である。そのままヒデたちに撃ってきた。
 ぷすぷすぷすっ、ぷすっ。
 小さな破裂音が4回。放たれた弾丸は、どれも当たらなかった。アルがすべて手で払ってしまったからだ。
 「博士と同志への攻撃。敵と認定します。博士、命令を」
 「武器を取り上げて、彼らをとらえて。攻撃を許可するわ」
 威蔵が刀を、アルが懐中電灯を構える。
 彼氏は隣にいる母親に、銃を預けた。
 「お前らもジャークチェインで改造手術かなにかを受けたクチか?
 じゃあ、銃よりももっといいもので殺してやるよ!!」
 好戦的な笑顔を浮かべ、彼氏が右手を持ち上げる。その人差し指には指輪があった。
 夜の闇の中で、指輪が妖しく、赤い光を放った。光が彼氏の全身を包み込む。数秒後光が収まると、彼氏の体は血のように赤い蟹を思わせる鎧を装着していた。
 「どうだ!!ジャークチェインで手に入れた変身リング!!俺の強さを見せてやろう!!」
 彼氏は己を誇示するように、蟹バサミつきの右腕を上げ戦闘態勢をとる。

 ヒデのそばで、威蔵が呟く。
 「レギオンかフェアリンの敵対組織から流出したアイテムを、使ったな」
 冷静で事務的な口調。変身した彼氏を、威蔵は脅威とは見ていないらしい。
 「こうなってはおとなしく引き下がるまい。軍師。斬っていいか」
 「敵の脅威判定を更新。博士、彼氏の生け捕りは困難と判断」
 続けて、アルも状況分析。まきながヒデに目配せする。
 ヒデは、アルと威蔵に指示した。
 「殺害を許可します」
 アルが懐中電灯を、彼氏に向ける。
 「命令、実行します」
 そしてライトのスイッチを操作した。
 ライトの光が強くなる。彼氏は、目くらましとでも思ったのか。
 「そんなんで俺が動けなくなるとでも…ぐええ!?」
 自信に満ちた彼氏の言葉に苦悶が走る。懐中電灯の光は、刃になって数メートル先の彼氏の腹部に突き刺さった。
 アルが、機械的な口調で解説する。
 「これは2WAYビームレイピア。懐中電灯でもあり、ビームの刃でもある私の専用武装です」
 解説している側から、ビームレイピアの刃は、一瞬で70センチ程度まで縮む。
 自慢の鎧をあっけなく貫通された彼氏は、痛みと死への恐怖からか絶叫。蟹バサミを振り回しヒデたちに突進してきた。
 アルとともに並び立った威蔵がすっと刀を構え、抜刀。
 ビームレイピアと刀が一閃。
 彼氏のまとった鎧は、二人の刃でバツの字型に容赦なく斬り裂かれた。
 バキっ、と鎧の砕ける音。彼氏が倒れ、蟹型の鎧が赤い粒子と化して消える。
 彼氏の着ていた服は、斬られたラインで真っ赤に染まっていた。
 死にゆく彼氏は、瞳を母親に向ける。 
 「ゆ、ユイカっ…たすけ…」
 そして、そのまま息絶えた。
 
 「リョウジイイイイ!!」
 彼氏が瞬殺されると思わなかっただろう。母親ことユイカは、恐慌をきたし背を向けて逃げ出した。
 アルが素早くユイカを叩きのめす。そのまま倉庫内にあったロープで彼女を拘束した。
 手足を縛られ、地面に転がったユイカが口汚くわめく。
 「ば、化け物おおお!」
 ヒデはユイカのそばに寄り、アルが取り上げた拳銃をつかむ。静かに、口を開いた。
 「薬を横流しし、子供をいじめておいて、それを言いますか」
 「あ、アンタたち、子供のことを知っているのね!!」
 「ここを教えてくれたのは時雨君です。もうあなたたちと一緒にいたくないと言って、教えてくれました」
 ユイカの顔が醜悪にゆがんだ。
 「あたしたちの商売が成立しなくなるじゃない!!」
 「子供の安全よりも、自分たちの悪事のほうが大事ですか」
 こういう相手には、とことん静かに淡々と話しかけるに限る。そのほうが相手の生の感情を、本心をぶちまけさせることができるからだ。
 「当たり前でしょ!!悪い!?」
 結果、ユイカは恐ろしく醜い本心をぶちまけた。わかっていたことだけど、ヒデは呆れるしかなかった。
 「悪いですよ」
 ヒデはかつて映画撮影で教わったとおり、拳銃の動作確認を済ませ射撃体勢をとる。リアルなモデルガンで練習した動きを10年以上たった今でも覚えていたから、自分でも恐ろしく思えるほど滑らかに一連の動作をこなせた。
 その様子があまりに手慣れたように見え、ヒデを殺しの玄人のごとく感じたのか。ユイカは、さらに甲高い声で喚き散らす。
 「あ、あたしはあの子たちの母よ!!母を殺すというの!!」
 ヒデは、静かに言った。
 「ここに来る前、私は時雨君に聞きました。
 ママを見つけたら、どうしますかと。なんて言ったと思います?」
 「ママを助けてと言ったでしょう!!そうでしょう!!」
 「一瞬で楽にしてやってほしい、と言っていました」
 ヒデのこの言葉に、ユイカは心底信じられないという表情で絶叫した。
 「なんで!!あたしは、母よ!!」
 わかっているくせに。ヒデは真実を告げた。


 「あなた、本当は時雨君たちの母でも何でもない。今殺した男の彼女ですよね」


 ここに来る前、時雨は家を飛び出した経緯をヒデたちに話してくれた。
 礼仙兄妹の両親は、大きな製薬会社に勤めていた。両親は家で仕事の話をあまりしなかったが、1年ほど前、時雨は両親の話をたまたま聞いてしまったという。
 同僚の男性社員が薬をどこかに横流ししている。なんとかしてやめさせなければ、と。
 その直後、両親の乗った車が事故を起こした。父は死亡。母は軽傷だったが、事故のショックのせいか、性格が変わってしまった。家にあった物を片っ端から処分して、とある街のマンションに引っ越した。それから母は子供たちへの優しさが無くなり、会社の同僚男性こと『リョウジ』を家に連れてくるようになった。時雨たちは母と彼氏に家事を押し付けられ、事あるごとに物を投げつけられたり、ひどいことを言われたりした。
 兄妹は必死に耐えた。
 母の性格が変わったのは事故のせいなんだ。いつか母は、昔のように優しい人に戻ってくれる。
 そう、信じたかった。
 だが。
 「ママは、ママじゃない人がなりすましていたんです」
 ある時それに気付いた時雨は、母に成りすましたこの女をひそかに探り続けた。
 そしてついに、突き止めた。
 両親が告発しようとしていた同僚が『リョウジ』だったこと。
 リョウジのパートナー『ユイカ』が、ジャークチェインで整形手術を受け、礼仙兄妹の母に成りすましていたことを。
 そして、
 「あの人たちはぼくたちを、ジャークチェインで悪い人に売り飛ばそうとしていた」
 もう、時雨は家にいられないと思った。あの二人は横流しのことを巧みに隠していたから、警察に行っても信じてもらえないかもしれない。
 どこか遠くに逃げるつもりで日曜日に家を飛び出し、早朝の高速バスに乗り、知らない町まで逃げた。彼らのスマホを持ち出したのは、横流しのためのやり取りをさせまいという、せめてもの抵抗だった。
 知らない町をさ迷っていた兄妹は、まきなとアルが潜伏していた建物の敷地に入り込み、保護されたのだという。
 時雨は偽母親たちのことを探る過程でジャークチェインの存在も知っていたが、スマホのセキュリティ解除まではできない。時雨はまきなにスマホを使えるようにしてもらい、ジャークチェインのエトフォルテ求人広告にエントリーしてもらったのだ。ロボット研究者でもあるまきなにとって、スマホのセキュリティ解除は簡単だったという。


 信じられない、そんな馬鹿な、という顔をするユイカ。
 「あなたの本当の顔を見せてもらいますよ」
 ヒデはそう言って、アルを促した。
 ユイカの背中に回ったアルは、右の手のひらをユイカに押し付けた。
 「電流掌底、発動します」
 アルの右手から、バチバチとすさまじい電流が放たれる。電流に耐えられず悲鳴を上げるユイカ。
 その悲鳴が、苦痛にゆがむ顔が、青白い電流に包まれて次第に別のものになっていく。
 十秒後。
 「高圧電流であなたの体内の“変身装置”を、狂わせました」
 アルがそう告げて、電流を流すのを止める。ユイカの顔は全く別人のものになっていた。犯罪とは無縁ともいえる清楚な母の顔から、絵に描いた悪辣美女と言わんばかりの顔に。
 電流に息も絶え絶えになりながら、ユイカが声を絞り出す。その声も、全く別物になっていた。
 「なんで、ばれたのよ!!」


 ヒデは、解説した。
 「時雨君の家族の血液型は、みんなO型です。
 おそらく知り合いと血液型占いの話を、スマホでしていたんでしょう。その時あなたは、自分はA型だとはっきり言った。
 時雨君はそれであなたを見張り、あなたが本来の顔に戻る瞬間を目撃した」
 ユイカの口元が、おおっ!?と言わんばかりの驚きを形作る。
 「それに、時雨君たちのお母さんの本名は、『礼仙 美夜乃(れいせん・みやの)』です。
 彼氏があなたを呼んだ名前は、ユイカ。全然違うじゃないですか」
 口をあわあわと震えさせ、真っ青になるユイカ。
 まきながヒデのあとを継いで、言った。
 「あなたたちのスマホを解析して、私たちはここに来た。彼氏が会社から薬を持ち出し、あなたが売りさばいてた。
 横流しを知った時雨君たちの両親を殺害して、あなたは美夜乃さんに成りすました。事故の保険金を受け取るために。
 事故のショックで性格が変わったと周囲の人は思い、あなたと距離を置く。そのスキを利用し、あなたは社員の立場でさらに薬を横流しした」
 真名子伊織のような人間が登録しているジャークチェインだ。他人に完全に成りすますための整形手術(いや、“変身手術”か)や偽装身分も、スマホやパソコン、金を用意すれば思いのまま。
 それが、ヒーローだけでなく悪の組織、その残党が毎年生まれるこの日本の現実。
 悪の組織から流出した技術や人脈が、インターネット経由で簡単に人を犯罪へと走らせる。だから子供たちは小学校の頃から、改造手術の恐怖や妖しいアイテムに手を出すなという啓発教育を繰り返し受ける。新聞やTVにも啓発広告が載る。ヒデがゲドーの改造手術の事を知っていたのも、それが理由だ。
 静かに怒りを込めて、まきなが続ける。
 「そう遠くないうちに、あなたは子供たちを改造人間手術の闇医者に売る手続きをしていた。時雨君は感づいた。
 だから、逃げ出したのよ」


 まきなの説明が終わると、ユイカは悔しそうに首を振り回して叫んだ。
 「ああ。こんなことになるなら、子供は早く処理しとけばよかった!!
 いおりんに、早く素材として渡していれば!!」
 いおりん。素材。
 ヒデは、嫌な予感がした。
 「いおりん、とは誰ですか」
 「真名子伊織(まなこ・いおり)に決まってるでしょ!!
 いおりんの組織はうちのお得意さんで、あたしの体を礼仙美夜乃そっくりに変えたのもいおりん!!
 あの女に成りすましてうまいこと横流ししてたのに!!いおりんの組織のおかげで、なんとかばれずにすんでいたのに!!
 高い金払って、元の姿に戻れる手術まで受けたのに台無しッ!!」
 なんという運命のめぐりあわせ。すると、横流しの黒幕はゲドーか、その系列組織ということになる。ゲドーの暗躍は今でも新聞やTVで話題になるが、この横流しに絡んだ出来事は、改造生物の大暴れよりはるかに生々しく、おぞましい。
 礼仙夫妻と彼氏は製薬会社の中では地位が高かったらしく、貴重な薬を扱う権利を持っていた。彼氏一人では持ち出しが難しい薬も、同じ立場の協力者が増えれば容易になる。とはいえ、地位の高い社員でもここまでできるものなのか、とヒデたちは疑問に思っていた。だが、ユイカの恨み節で疑問が解けてしまった。
 こうなると、わからないのはユイカと彼氏が兄妹を手元に置いていた理由だけ。だが、兄妹を素材としか見ていない以上、いい理由であるわけがない。拳銃を握るヒデは怒りを覚え、さらに力がこもる。拳銃が、震えた。

 ユイカは、ヒデの手元を見て、急に声音を変えた。まるで友人を遊びに誘うような、軽く甘い声音で語り掛けてくる。
 「ねえ、あんたたちだって、善人ぶって子供助けたけど、ジャークチェインを使ったでしょう。
 あたしを殺すくらいなら、一緒に仕事しましょ。いおりんにとりなしてあげるから、手を組みましょうよ。
 ねえ、ねえ。子供を素材にするのは、無しでいいから」
 ふざけるな。そう怒鳴りつける代わりに、ヒデはユイカの額に減音器付の銃口を押し当てる。
 そして言った。怒りをひたすらに鎮めた、冷たい声で。
 「あなたが頼りにしていた真名子伊織は、今日私が殺しました」
 「冗談でしょ!?」
 「本当です」
 「今の冗談いおりんが聞いたら、あんたの命は無いよ!!」
 その“いおりん”に何が起きたか知っているヒデにとって、もはやユイカの脅し文句はブラックジョーク同然。ジョークに笑う代わりに(そもそも笑う気になれなかった)、感情を押し殺した冷たい声を絞り出す。
 「冗談かどうか、あの世でいおりんに直接聞いてください」
 さすがにこれで、ヒデの言葉に嘘はないと悟ったらしい。ユイカはガタガタ震え、目を血走らせ喚き散らす。
 「ねえちょっと!!話を聞いてよ!!私がこんなことをしてきた理由をわかってよ、ねえ、ねえッ!!」
 エトフォルテのためとはいえジャークチェインを使ったから、自分も人の事は言えない。だが、ヒデはユイカが悪事に走った理由など知りたくなかった。
 これ以上この女から聞き出すことはない。時雨との約束通り、一瞬で終わらせる。
 「知りませんよ」
 それだけ言って、ヒデは引き金を引く。
 命を奪う銃声が、ぷすっ、とあっけなく鳴った。

 

 前の話    次の話