エトフォルテ防衛戦線ヒデ! 第80話 ティアーズ大決戦~せまるタイムリミット~

 首都ティアーズ城内にある広域結界制御室では、エイルたちが魔力を操作し、必死にデストロに立ち向かっていた。


 広域結界は地下に蓄えられた大量のクリスティウムが含有する魔力で光の壁を形成し、首都ティアーズをすっぽりと覆う。さらに光の腕を形成して、敵を叩きのめす。超強力なこの魔術機構は、日本のヒーローが相手にする巨大怪物やロボとの戦いを想定して造られた。
 300メートルサイズのデストロに立ち向かうことも、魔術師たちも一応想定はしていた。だが、想定と実戦は全然違う。とにかくデストロがタフだ。タマネギに手を生やしたような姿の破壊神は、何度殴りつけても起き上がってくる。
 外の様子を映すモニターでは、光の腕がデストロと取っ組み合いになっている。
 球体型の魔術機構操作盤で、エイルは結界から光の腕を形成。エイルは、光の腕をぶちこんで体内の再生核を握りつぶしてやろうとした。
 が、デストロもそれは想定しているらしい。腹部のガードがとにかく硬い。腹部に腕を伸ばしても、すぐにいなされてしまう。
 デストロは何度も結界を殴りつけ、ひび割れを作る。割れ目から大量に生み出したミニトロを、絶え間なく結界内部に送り込んでいる。
 クリスティウムの残存量を確認している弟のライトが、悲鳴同然の声を上げる。
 「姉さま!クリスティウム残存量、6割を切った!」
 デストロの攻撃が激しすぎて、想像以上の速さで結界維持の魔力を奪われている。魔力を完全に失ったら広域結界は消滅する。デストロがティアーズを蹂躙し、全員死んでしまう。
 別のモニターでは、騎士グラン率いる騎士と兵士、そして軍師ヒデたちエトフォルテの十二兵団員たちが、城壁に殺到するミニトロの大軍勢を、死に物狂いで迎撃している。
 彼らのためにも負けられない。エイルは歯を食いしばり、魔力を流し続ける。苦しい声が、もれる。
 「ううっ……」
 魔力は心の力。人の心に限界無し、と言えど、心と肉体は密接な関係にある。魔力を絶え間なく流して結界を操作することは、疲れ切った肉体に鞭を延々とたたきつけるに等しい行い。エイルも、結界操作を補助するほかの魔術師たちも、皆呼吸は荒くなり、汗が絶え間なく全身から吹き出していた。
 辛い。苦しい。だが逃げれば、間違いなく全員死ぬ。絶対に逃げない覚悟で、エイルたちはここにいる。
 だが、覚悟だけでは乗り切れない限界が近づいていた。
 エイルはここにいない仲間たちに、悲痛な声で呼びかける。
 「ウィリアム。アレックス。急いで!」
 フェアリンを倒して神器ティアンジェルストーンを回収できれば、デストロの注意はエトフォルテが出している誘導電波に向くはず。それまでなんとか耐えなければ!


 慰霊広場でフェアリン・エクセレンとフェアリン・ジーニアスと対峙したウィリアムとアレックスは、市街地に戦いの場を移していた。
 ウィリアムはエクセレン、アレックスはジーニアスが相手だ。
 二人はフェアリンたちと対峙する直前、エトフォルテから借りた無線機を使い、移動の合間に戦いの方針を孝洋たちと話して決めていた。


 ウィリアムは孝洋に言った。
 「孝洋。君の狙撃銃でフェアリンを撃ってほしい。僕は蜃気楼のマントで姿を消して、魔術弓だ。銃と矢で奴を惑わし、仕留める」
 無線機の向こうにいる孝洋が、不安そうに言う。
 『狙撃銃でやつらの体を守るアブゾーバーは破れないけど……』
 「ひっきりなしの銃弾と矢で惑わせ、精神的に追い込むのが目的だ。アブゾーバーが弱体化すれば攻撃も通る。僕は君がいる建物の位置を把握し、君の射線を確保しながら立ち回る。頼むよ」
 ヒデの書いたヒーロー撃滅指南書にもあった。ヒーローを弱らせる選択肢の一例。毒。あるいは麻痺。睡眠。さもなくば混乱、と。フェアリンを精神的に混乱させ追い込めば、心の力で発動する魔術は弱体化する。神器も例外ではない。
 孝洋は納得してくれた。
 『わかった。アレックスさんの援護は?』
 「アタシはハルバートの接近戦で行く。弾丸が当たっちゃ困るから、援護はいい」
 そして、と言い添える。
 「城内での打ち合わせでも言ったが、ジューンのドローンで狙うのはユメカムを仕切っているジーニアス一択だ。やつが悪事を口にすれば、それが証拠になる。つかず離れずでドローンを操作して、音声を拾ってくれ」
 『オーケー、任せて』
 ジューンの力強い返事が聞こえる。最後にウィリアムは言った。
 「二人に同行する騎士マグネスとニケルは、手分けして戦いの様子を撮影だ。この戦いの記録は、あとで必ず必要になる。僕らの戦いだけでなく、外から襲い来るデストロの様子も撮影するように」
 マグネスとニケルが、緊迫感に満ちた声で答える。
 「了解です!命に代えても、撮影します!」
 「騎士ウィリアム、騎士アレックス!ご武運を!」


 光学迷彩を発動する魔術武装『蜃気楼のマント』で姿を消したウィリアムは、絶え間なく鳥奏曲(ちょうそうきょく)で鳥の鳴き声を口ずさみ、屋根から屋根へと飛び移り、矢を放つ。

 ぴぴぴ……。ちゅん、ちゅん……。
 
 鳥奏曲は風の魔術で拡声され、エクセレンの周囲を包み込む。爽やかな鳥の鳴き声が、否応なく彼女の耳に入り込む。
 「鳥奏曲とともに、お前の身体を射抜いてやろう」
 静かな言葉に確実な殺意を載せ、ウィリアムは矢を放つ。この声もまた、風の魔術で拡声される。
 突風と電撃をまとった矢が、さわやかな鳥の鳴き声の合間を縫ってエクセレンに襲い掛かる。
 さらに、時折キューン、と風を切って、孝洋の銃弾が飛んでくる。銃弾はエクセレンの足元を確実に狙っていた。
 銃弾がエクセレンの右足を彩るハイヒールのつま先に当たる。身体がよろける。すかさず飛んでくる電撃矢。辛うじて身を捻って直撃を避けたが、矢はエクセレンの頬をかすった。
 バチィッ!、と痛々しい音がして、エクセレンの頬に赤い線が走る。
 エクセレンが息を切らし、憎々し気に顔をゆがめ、怒鳴る。
 「はあ、はあ!姿を消して襲うなど!正々堂々、姿を見せなさい!」
 悪行三昧のお前たちが言うな。そういうかわりに、ウィリアムは再び、鳥奏曲を口ずさむ。
 デストロが襲い来る戦場で、鳥の鳴き声が奇妙に澄み渡る。

 ちゅん、ちゅん……。ほう、ほー……。ぴゅぴゅー。

 更に放たれる電撃矢をかわし、エクセレンが毒づく。
 「レパートリー、いくつあるのよ!」
 ウィリアムは答える。
 「30以上だ。さあ、良く聴かないとわからないぞ。今から奏でる鳴き声が、ナタネスズメかソウテンツバメか」
 「鳥の名前はどうでもいい!」
 逆上したエクセレンが、大きく垂直に飛び上がる。
 「隠れてばかりの卑怯者めーっ!」
 地面に向けてロッドを振り、四方八方に光の魔術を乱射した。無数の光線が雨あられと地上に降り注ぐ。エクセレンはウィリアムを探せないなら、あたり一帯をまとめて吹き飛ばす選択をしたのだ。
 姿を消しているウィリアムの側に光線の雨が迫ってきた。舌打ちして退避するも、数発当たってしまった。
 周囲の光を操作して姿を消す蜃気楼のマントには、光の魔術への耐性がある。ウィリアムの体は無事だったが、マントに内蔵された魔術機構が壊れた。羽飾りをまとったウィリアムの鎧があらわになる。
 エクセレン、間髪入れずに必殺技を発動。
 「そこぉ!フェアリン・エクセレンフラッシャーッ!」
 真っ赤に輝く極太の光線がウィリアムを襲う。
 光線は市街地の建物をいくつも吹き飛ばし、爆風でウィリアムも吹き飛ばされた。
 さらにエクセレンは、さきほど狙撃銃の弾丸が飛んできたと思われる方向に向き直り、極太の光線を放った。


 エクセレンが放った光線は、三階建ての騎士団詰所の隣にあった建物を、盛大に吹き飛ばした。
 詰所の屋上では、孝洋が狙撃でウィリアムの援護を、ジューンと騎士マグネス、ニケルがドローンとカメラで戦場を撮影していた。
 自分たちのすぐ隣の建物が吹き飛ぶのを見て、絶句する4人。
 呆然となり、英語で呟くジューン。
 「I can’t believe it(信じられない)……」
 あと数メートル光線がずれていたら、4人まとめて死んでいた。
 ややあって、通信機が鳴る。ウィリアムだ。孝洋が出る。
 『すまない。狙撃銃による援護はストップだ』
 「何があったんすか?」
 『今の攻撃で矢筒を壊された。かくなる上は、僕も接近戦で行く』
 

 通信を終え、がれきの中で身を起こしたウィリアムは、自身の装備を再確認して舌打ちする。
 身体は問題ない。が、さっきの攻撃で蜃気楼のマントを破かれた。挙句、矢筒を壊されて矢を失った。壊れた矢筒に残っている矢はあと一本。
 この様子を見たエクセレンが、余裕たっぷりに笑う。
 「これでもう、姿を消して口笛で惑わす戦術は使えない。おまけに、矢があと一本しかないじゃない」
 弓術士としては絶望的な状況だ。だが、あきらめるつもりはない。
 ウィリアムは呼吸を整え、弓を背中に背負う。一本でも矢が残っているなら、弓は手元に残しておく。二本のナイフを抜き両手で構える。
 焦ってはいけない。戦いを再開するまでもう少し呼吸を整えたい。
 逡巡の後、ウィリアムはゆっくりと切り出した。
 「さっきの話。パパにパーになってもらった、とはどういう意味だ」
 問答によって時間を稼ぎ、体力回復を図るのだ。
 エクセレン、すぐには答えない。ウィリアムは質問を重ねる。
 「パーとは、まさか“馬鹿”と言う意味か?」
 そして、素薔薇大臣と過ごした時間を思い出して、言う。
 「復興支援当時、僕は素薔薇大臣と話した。お前のお父さんは、農業や植物に詳しく、万民の食料に思いを巡らせる立派な人だった」
 クリスティア王国のきれいで美味しい水を生かし、農作物を沢山作れるようにしよう。素薔薇大臣はそう言って、河川環境の改善と食料の安定供給を目指す試験農場を整備した。クリスティア王国の農作物だけでなく、日本から持ち込んだ野菜や穀物も育てられるようにしたい。日本・クリスティア双方の美味しい農作物を互いに食べて、仲良くしていこう。笑顔で話していた素薔薇大臣に、バルテス国王に似たものをウィリアムは感じていた。
 誰かの笑顔のために一生懸命頑張る、リーダーの大切な心を。彼には試験農場を整備する素晴らしい能力もあった。
 それが今やヒーロー庁の言いなりで、子供オヤジと揶揄される始末。
 権力に狂ったにしても、狂いすぎだ。そこにさっきの“パー”。
 「素薔薇椎奈。お前、素薔薇大臣に何をした。頭をおかしくする毒でも盛ったのか」
 エクセレンが、底意地の悪い笑顔を浮かべて言う。
 「盛った、とでもいえば満足?」
 やはり何かやったのか。ウィリアムは、信じられなかった。
 「ますます満足できないな。なぜ親に対してそんなことができる」
 「私と統子がきらきらと輝くヒーローであるために、パパは邪魔だった。それだけよ」
 「親子の情というものを持ちえないのか、お前は」
 エクセレンが鼻で笑う。
 「あんたたちだって似たようなものでしょ?リルラピス王女は、ブロン王が邪魔だから逆らった。叔父と姪の情はどこに行ったの?」
 邪魔だから逆らったわけじゃない。複雑な思いがあったのだ。ウィリアムは言い返そうと思ったが、やめた。
 さらに調子づくエクセレン。
 「それにしてもウィリアム。あんた物好きね。王女のいとこだかはとこだか知らないけど、たかがその程度の関係で、王女の近衛騎士になって私たちにたてつくんだから」
 「……僕の家が代々近衛騎士として仕えているのは事実だ」
 ウィリアムは、かみしめるように思いを口にする。
 「だが、それだけじゃない。国を導くに値する素敵なお方だから、守りたい、支えたいと思う」


 幼いころからウィリアムはリルラピスと過ごすことが多かった。時には家族ぐるみで山野に赴き、自然のことを学びもした。
 王の長子であるリルラピスは国のすべて、政治、経済、軍事、果ては自然保護までなんでもやらねばならない立場にある。その苦労は並大抵ではない。
 だけど、彼女はめげない。苦労の中でみんなを、そして自分自身が笑顔になれる道を、いつも懸命に探していた。水の魔術を愛し、水によって育まれる自然を愛するリルラピスは、本当に素敵な姿をしていた。
 その姿を、親戚として身近に見てきたからこそ、ウィリアムは迷わず近衛騎士を志した。王室のために命を懸けて戦う近衛騎士は、家業だから、などという単純な理由でやれるものではない。自分はリルラピスを、人として、リーダーとして、そして親戚として誇りに思うからこそ戦うのだ。
 「王室は国民の安寧のために全力を尽くす。その王室を守るのが近衛騎士。ヒーローになってちやほやされたいだけのお前と、一緒にしないでもらいたい!」
 ウィリアムの決意に、心底気分が悪そうな表情を浮かべるエクセレン。
 「お国のために、ってやつ?やだ、マジ異世界人。気持ち悪くて吐き気がするんだけど」
 さらなる疑問を、ウィリアムは怒りとともにエクセレンにぶつける。
 「日本のヒーローだって、政府に従い国民のために尽くす義務がある。ヒーロー庁が定めているはずだ。それを無視してこの横暴。日本政府も知ってのことか!」
 「馬鹿正直に私たちが、パパたちに全部話すわけないでしょ。ましてや、パパはパーだし。まあ、政府でも知っている人は知っているけど」
 クリスティアで起きたことは、ユメカム単独の悪行ではない。日本政府やヒーロー庁も知っているのか!
 ウィリアムもひそかに予測していたことではある。が、当人の口から聞くとショックだ。
 「自国民を海の向こうで強制労働させるなど!」
 「別にいいでしょ。クリスティウムが手に入れば最終的に日本の利益になるんだし」
 「魔術機構が使えなければ、誰もエネルギーを取り出せないぞ」
 「使えなくても、手段はいくらでも思いつくわよ。ヒーローを甘く見ないことね!」
 「ずいぶんヒーローの力を信じているんだな」
 「当然でしょ。ヒーロー、特に強くてかわいい魔法少女である私たちは、永遠に何をやっても許される!」
 いつまでも少女でいられるような口ぶりだ。そういえば素薔薇椎奈(エクセレン)と夢叶統子(ジーニアス)は、フェアリンに変身すると若干幼くなるように見える。死んだ巴はほとんど変わらなかった。
 「神器に若さを維持する機能はない。何か細工でも施したのか」
 「あんたたちも知らない若さの秘訣があるのよ。そのために私たちは……あ、いや、なんでもない」
 エクセレンが、急にひどく困った表情を浮かべる。
 表情から察するに、若さの秘訣に関する話は禁句だったようだ。
 まあいい。とウィリアムは思う。どうせろくでもない話だろうし、問い詰めたところでこいつは話さない。
 今は若さの秘訣を知ることではなく、こいつを倒して神器を回収することだ。問答の間に呼吸は整い、体力も回復した。
 「この先は、問答無用で行く!」
 ウィリアムはナイフを構えると、風の魔術を発動して突風をまとい、エクセレンに襲い掛かった。


 一方。ジーニアスと戦うアレックスは、炎の魔術とハルバートを駆使して接近戦を繰り広げていた。
 ジーニアスは距離を取りつつ、光の魔術で多彩な光線を放つ。アレックスは光線を避け、とにかく距離を詰めていく。獲物を追いかけ、かみ殺さんとする狼のように。
 接近戦が得意、というのもあるが、もう一つ理由がある。ジューンが操作する撮影用のドローンだ。
 ユメカム社長令嬢のジーニアスが、強制労働をはじめとした悪事の顛末を口にする姿をドローンで撮影したい。上空に浮いたドローンに気づけば、ジーニアスは壊そうとする。ドローンを死守するためにも、アレックスは全力で接近戦を挑まねばならなかった。
 市街地を駆け巡り、路上に落ちている物も駆使して、アレックスはジーニアスを攻撃する。
 飲食店で使われる食用油を運んでいたのだろう。油の樽を積んだ荷車が置き去りになっている。アレックスは樽を両手でつかむと、全力でジーニアスに投げつけた。
 「火だるまにしてやる!」
 立て続けに炎の魔術を発動。火球を樽に向かって殴りつけるように放つ。
 樽が爆裂し、あたり一面に香ばしい匂いが漂う。
 火だるまになったジーニアスは、素早く回転して風をまとい、炎を消し去った。不可視の防護膜アブゾーバーで守られた肉体は、火傷ひとつ負っていない。
 アレックスは内心舌打ちする。魔術は心で放つもの。心の力が弱ればアブゾーバーも弱体化するのだが、まだジーニアスの心は折れていないようだ。
 今度はジーニアスがこちらに向かってきた。蹴りを繰り出し、アレックスを攻め立てる。
 「私たちにたてついて、ただで済むと思わないことね。仮にこの場をしのげたとしても、お次は日本政府がヒーローを大勢連れてくるわよ!」
 安っぽい数の暴力だ。アレックスは鼻で笑い、ハルバートをジーニアスにたたきつける。
 「お前たちこそ、ただで済むと思うなよ。採掘場でお前らがやらかした証拠は、全部軍師ヒデが回収した。もうバラす算段だってついてるんだぜ」
 ハルバートをかわすジーニアスの顔色が、変わる。ヤバっ!、とでも言いたげな顔だ。
 「そんなことは想像もできなかったのか?社長令嬢のくせに頭悪いな」
 ジーニアスが距離を取りつつ、反論する。
 「頭悪いのはリルラピス王女でしょう。魔術にこだわってヒーロー武装の導入を拒否しなきゃ、ブロン王と仲違いすることもなかったのに。ブロン王、王女が言うことを聞かなくて困る、っていつも言ってたわ」
 ロッドを振り、アレックスに光線を放つ。
 紙一重で避けるアレックス。そのままキレた。
 「リルを馬鹿にするな!」
 「長い目で見れば、日本とヒーローに、そしてユメカムに頭下げてれば良かったと、あんたもいずれ思うでしょう。そして、馬鹿王女についていったのは間違いだったと……」
 「絶対に思わないね!」
 アレックスはハルバートを握りしめ、リルラピスへの思いのたけをぶちまける。
 「アタシ、リルのことも、バルテス国王のことも好きだ!みんな、家族や友達を、国民を大切に思う素敵な人たちだから、アタシもそうありたいと願った。この人たちみたいに強くなって、守りたいと思った!」


 父と三人の兄に囲まれて育ったアレックスにとって、リルラピスは姉のような存在だ。みんなのために一生懸命に頑張る姿が、とても素敵な姉。アレックスはそんな彼女と、彼女の家族を守りたかった。だから、近衛騎士を目指した。
 今に至るまで、魔王との戦いやバルテス国王の死など、大変なことがたくさんあった。でも、それでも、近衛騎士を選んだことは、間違いじゃないとアレックスは言い切れる。
 リルラピスは、みんなを信じて、みんなを守れる王様になりたいと言った。素敵なことだ。自分はその素敵な仕事の手伝いをしている。
 己の責務を誇りに思うと同時に、アレックスはジーニアスの、そしてユメカムの行いが心底理解できなかった。
 「ジーニアス。お前は違うのか。ユメカムはみんなの夢を守るって、会社のスローガンで言ってただろ!」
 ジーニアスは軽やかに跳躍して建物の屋根に乗り、アレックスを見下して言う。
 「会社は会社。私は私。私は、自分と椎奈がヒーローとして強く楽しく輝ければそれでいい。そのために会社を利用しているだけ」
 アレックスは呆れるしかない。
 「よく親が何も言わないな!」
 「親を黙らせるくらいわけないわよ」
 「なんてやつだ!」
 もはやこいつは人ではない。親への敬意、他人への思いやりを置き去りにして、平然と人を傷つける化け物だ。人間離れした見た目でクリスティア王国を蹂躙した魔王軍が今のジーニアスを見たら、自分のことを棚に上げて気味悪がるに違いない。
 さらに胸を張り、ヒーローを高らかに語るジーニアス。
 「みんな自分は可愛いもの。私達みたいなことをしている日本のヒーローは、いくらでもいる。他人のために頑張るなんて、寒気がするわ」
 ここまで堂々と言えるお前に寒気がするぞ。
 嫌悪を覚える一方、好きなだけ言ってしまえ、とアレックスは思う。ドローンがすべて撮影している。
 「ヒーローがみんな同じだって?巴は違った!」
 「でしょうね。だから利用しがいがあった。フェアリンをやめたら格闘技を再開して、日本の子供を元気にするんだ、ってきれいごと抜かしていた脳筋女。違約金をちらつかせたら、泣く泣く私たちに従ったわ。慈善家の両親を困らせたくないと。きれいで間抜けな脳筋女。あなたも巴と同類ね」
 巴と同類。
 その言葉を聞いたアレックスは、心の底から湧き上がるジーニアスへの怒りと、そして巴への親近感を抑えることができなかった。
 「そりゃ光栄だ。アタシは巴を誇りに思ってる。あいつは最期まで他人のために身体を張った。立派だった!」
 採掘場で働かされている人たちを救うために頑張った巴。
 神器をクリスティアに返したい。その約束を守って、デストロに殺された巴。
 彼女の姿を思い出したとき、アレックスの内なる怒りが炎の魔術を発動させた。魔術機構搭載のハルバートが轟々と燃え盛る。
 「ジーニアス!絶対にアタシが殺す!」
 アレックスは灼熱の炎をまとい、ハルバートを構えて突撃した。

 

 
 

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