クリスティア城内の広域結界制御室に、エトフォルテから借りた通信機から報告が入る。
「王女様の援護に向かった騎士から報告です。ブロンを撃破したと!王女様は広域結界を支援するため、城に向かっています!」
魔術師から報告を受けたエイルは、ひとまず安堵する。
だが、まだデストロは健在。広域結界を今にも破らん勢いだ。
弟のライトが、結界を維持するクリスティウムの残存量を切実な声で告げる。
「クリスティウム、残り3割に到達!このままじゃ、修復も維持も追い付かない!」
制御室にいる魔術師たちも懸命に魔力を注ぎ、結界の維持を助けているが限界だ。すでに20人近く、魔力を注ぎすぎて倒れてしまった。
王女様が戻ってくる前に、結界を維持できなくなるかも……!
エイルが絶望しかけたその時、制御室の扉が勢いよく開いた。
王女様が戻ってきたのか!?
と思いきや、そこにいたのは初老の山羊ヒゲ、元大臣のパズートであった。なぜかパズートは、騎士と手をつないでいる。相手の騎士はさらに別の騎士と手をつないでいる。
「パズート様、いったい何を!?」
パズートが早口で言う。
「避難民が魔力の提供を申し出た!一万人以上の手が、ワシにつながっている!皆の魔力も、ワシの魔力も使ってくれい!」
魔力は心の力である。志を同じくする者同士が手をつなぐと、大気中から元素を引き寄せる力が大きくなり、高出力の魔術を発動できる。日常及び戦闘時の大規模魔術使用においても基本となる動作だ。
が、一万人以上でやった例は、ない。
果たしてうまくやれるのか。
「パズート様。危険すぎますわ」
広域結界を維持するために必要な魔力は膨大だ。魔術を行使すれば使用者は少なからず体力を失う。魔力の大量消費は命に係わるのだ。下手をすると避難民が一気に死んでしまいかねない。
エイルはパズートの申し出を受け入れるのをためらう。
パズートがじれったそうに叫ぶ。
「クリスティア魔術師心得第二条だ!心をつないで魔力をつなぐ。つないだ魔力が絆に変わる。ゆえに絆も終わり無し、だろう!」
「しかし……!」
「何もしなければ広域結界が破られ全員死ぬ!いいか、魔力は心の力!生きるために心を一つにしてやるから、絶対に生き残れる!クリスティア王国の絆を、破壊神に見せつけてやるんじゃ!」
王室の教育係として、リルラピスたちと苦楽を共にしてきた元大臣の眼差しと言葉には、有無を言わせぬ強さがあった。
エイル自身、パズートとは長い付き合いだが、今この瞬間、彼に最高の男気を感じた。
「ええ!やってやりますわよ!」
同じころ。
市街地で激しい戦闘を繰り広げる、近衛騎士アレックスとフェアリン・ジーニアス(夢叶統子)。
ジーニアスのボディブローがアレックスに突き刺さる。身体をくの字に曲げて、アレックスが無人の店に吹き飛ばされた。
吹き飛ばされたのは、女性向けの服屋だ。華やかなドレスがたくさん飾られている。
ボーイッシュかつ好戦的なアレックスが、ガーリッシュかつ華やかなドレスまみれになり倒れる。苦し気にのたうち回るのを見て、皮肉たっぷりにほほ笑むジーニアス。
「ふふ、お似合いね」
店には大きな鏡があった。試着室のものだ。
鏡には自分の姿と倒れているアレックス。そして店の内外の様子が映し出されている。
ふとジーニアスは、鏡の中に映る外に、ファンタジー風の異世界にそぐわない黒い物体が浮いているのを見た。驚いて振り返る。
外に浮かんでいたそれを確認して、ジーニアスは思わず叫ぶ。
「ドローン!?」
ジーニアスの驚きは、ドローンに取り付けられたカメラを見て恐怖に転じる。
今までの言動を、ドローンで盗撮された!
ドローンの撮影映像をモニター付きコントローラーで注視していたジューンは、ジーニアスの視線がこちらに固定されたのを見て、英語で思わず舌打ち。
「Found out(バレたわ)!」
孝洋が叫ぶ。
「ドローンを戻して、ジューンさんは逃げて!」
「ダメ!戻したらここがバレる」
ジーニアスが追いかけてくれば、確実に自分たちが見つかってしまう!
今度はウィリアムの様子を撮影していた、男性騎士マグネスが声を上げる。
「ああ!騎士ウィリアムがピンチだ!助けに行かないと!」
ジューンは焦った。こっちにこそヘルプが必要なのよ!
孝洋がさらに声を張り上げる。
「ドローンを戻して!」
「でも……」
「早く!」
孝洋に怒鳴られ、ジューンは慌ててコントローラーを操作する。
女性騎士ニケルが、脱出を促す。
「急いで荷物をまとめ……て、アンタ何してるのよ!」
孝洋が狙撃銃を構えている。
「みんな先に逃げてくれ。俺はこいつでフェアリンを食い止める」
マグネスが戸惑いながら言う。
「お前フェアリンに勝てないだろ」
孝洋は自信たっぷりに言う。
「玉の扱いなら、俺のほうが上だぜ!あ、ジューンさん。アレ貸して!」
「アレって!?そうだ、私はこれを1個持っていくわ」
「これって!?」
マグネスがじれったい声を上げる。
「二人とも早くしてくれっ!」
ジーニアスは、猛スピードで踵を返したドローンを追いかける。最初は壊そうと思ったが、追いかければ操縦者を見つけられる。操縦者は、自分たちの行いをドローン以外でも記録している可能性がある。
見つけて確実に始末してやる!
孝洋は狙撃銃のスコープをのぞき込む。フェアリン・ジーニアスがドローンを追って、こっちにまっすぐ走ってくるのが見えた。さらにその背後、壊れた店内でアレックスが慌てて身を起こすのが見えた。
「復興支援を馬鹿にしやがって……!」
残念ながら、この狙撃銃でフェアリンを射殺することはできない。だが、足止めはできる。足止めさせられれば、決着はアレックスがつけてくれる。
孝洋はフェアリン・ジーニアスの進行方向を見て、慎重かつ前向きな気持ちで狙いをつける。
迷わず、撃った。
フェアリン・ジーニアスの左足に、超高速で飛来した狙撃銃の弾丸が当たる。
全身を守るアブゾーバーで貫通しなかったが、吸収しきれなかった衝撃でよろめき、転んでしまう。顔面を石畳に盛大に打ち付けた。
「銃声!?」
銃声と弾丸の方角を探り当てると、銃を構えた仮面の男が立ち上がり、隣の建物に飛び移るのが見えた。
あの男がドローンを操作しているのか!
転倒によって、苛立ちは最高潮に達する。ジーニアスは鬼の形相で男を追いかける。
孝洋はサッカーで鍛えた脚力を使い、隣の建物の屋上に飛び移り、さらに狙撃銃でジーニアスを撃つ。
今度はかわされる。ジーニアスが大きく跳躍し、自分の目の前に降り立った。
こうなることはハナから想定済み。ここからが勝負だ。
ジーニアスが可憐な魔法少女の衣装のまま、憎悪に満ちた表情で孝洋をにらむ。
「ドローンを、今まで撮影した映像をよこせ!」
すごい顔だ。ファンが見たらショックで倒れかねないほど暴力的だと、孝洋は思う。
この悪徳魔法少女!そう言い返したかったが、慎重にやらなければ。ヒデのように。
「早くよこせ!」
いらだつジーニアスに、孝洋はゆっくりと言う。
「あ、あっちの建物に操作しているやつが」
そう言ってジーニアスの背後を指さす。ジーニアスが釣られて後ろを向く。
すでにドローンはジューンが回収していて、建物を離れている。誰もいない。
今だ!
孝洋はポケットから閃光弾を取り出し、素早く安全ピンを抜く。
ジーニアスが鬼の形相で振り返り、怒鳴る。
「ふざけてんのか!」
ふざけてんのはお前だ!
ジーニアスが光の魔術を放つより、孝洋が閃光手榴弾を放つほうが早い。ひょい、とはなった閃光弾は、ジーニアスの目の前で炸裂した。
孝洋は目をつぶり、すぐに顔を背け横っ飛びに伏せている。あらかじめ効果はエトフォルテで試していたが、フェアリン相手でも効果は抜群。しかも今回は顔面数センチ手前で炸裂している。
意識を閃光で完全に刈り取られたジーニアスは言葉を失い、大きくよろめく。
そのまま屋上から転落した。
十数秒後
「うううっ……」
閃光弾から、なんとか回復したジーニアス。体に大したダメージはない。だが脳内はパニックで大ダメージを受けている。
いつから自分の言動はドローンで撮影されていた?
ほかのカメラとかで撮影されていたらどうしよう?
まさか、これも軍師ヒデの罠?
ここにいない軍師ヒデより先に、ジーニアスは目の前の敵に対処しなければならなかった。
アレックスが追いかけてきたのだ。鎧はひび割れ、額から血を流して満身創痍と言った体だが、斬撃、刺突で猛威を振るう彼女のハルバートは健在。
ぜいぜいと荒い呼吸を整えつつ、アレックスがハルバートを構える。
「ジーニアス、いや統子。逃げられやしねえんだ。アタシと戦え!」
ハルバートが灼熱の炎をまとう。
ジーニアスは死にたくない、負けたくない一心で、叫ぶ。
「……異世界のくせにいいい!!」
「異世界の力があったから、偉くなれたんだろうが!」
アレックスが燃えるハルバードを突きの体勢で構える。彼女が地面を踏みしめると、ゴウッ、と炎が爆ぜる。そして、爆風とともに突進。まっすぐ突き刺してきた。
ジーニアスはこの時、自分が傷つかずに助かることだけを考えていた。
だから、ギリギリまでアレックスを引き寄せて、ジャンプして避けた。ハルバートの熱風が頬を撫でるが、ダメージはない。
飛んだ。避けた。助かった!
このままさっきの慰霊広場に逃れ、機動兵器フィオーレに乗れば……!
ジーニアスは、大きくジャンプして避けたつもりだった。
が、これまでの戦いの疲労と閃光弾で意識をかき乱されたせいで、思ったより飛距離を稼ぐことができなかった。
一方のアレックス。何が何でも、敵を倒すことを考えていた。
避けられた。壁に刺さったハルバートを抜け。追撃だ!
巴のためにも、こいつはここで殺す!
両者の戦いに対する姿勢の差が、ここではっきり出る。
体を捻りながらハルバートを壁から抜いたアレックス。すぐさま燃える斧刃をジーニアスの背中へ振り回した。
逃げの姿勢に入り、心の力が弱まったことで、ジーニアスの身を包んでいた不可視の防護膜アブゾーバーは弱体化。斧刃は、ついにアブゾーバーを斬り裂き、肉体に到達。斬撃と火傷は彼女の背中を痛めつけた。
ジーニアス、絶叫。
倒れたジーニアスは、はいつくばってアレックスから逃げようとする。戦うことなど、もはや考えられない。
が、すぐに捕まった。
孝洋が建物を降り、アレックスに駆け寄ってきた。
「アレックスさん。お疲れ様です」
「まだ終わってねえよ。こいつに聞くことがある」
アレックスはジーニアスを引き起こし、胸ぐらをつかんだ。そして壁に寄りかからせる。
ジーニアスが、涙を流しか細い声を絞り出す。
「……ゆ……るし……」
誰が許すか。
アレックスは統子を許す気も生かす気もない。が、巴のためにやらねばならぬことがある。
「統子。4年前巴を仲間に引き込むために、ドーピング検査を捏造したな。どこの闇業者に頼んだ!言え!」
「……し、しらない……」
アレックスはジーニアスの胸ぐらをつかみ、ずりっ、と強く壁に押し付け摺り上げる。
ジーニアスは痛みで、さらに泣き叫ぶ。
「お前が指示したんだろ!」
涙を流し、大声で釈明するジーニアス。
「……ほんとに知らない!金を渡して指示は、したけど……闇業者は、人材部が選んだから……!」
ヒデが昨夜教えてくれた。ユメカム人材部は、偽広告を使い日本人労働者を集めていた部署だ、と。
そばで聞いていた孝洋が、わなわなと震え憤る。
「……ずっと前から、悪さしてやがったんだな!」
憤るのは当然だ。クリスティア復興支援を志していた彼は、ユメカムを信じていたのだから。それが闇業者を使ってドーピング捏造した挙句、偽広告をばらまき強制労働。こんなのを昨日今日でできるわけがない、とアレックスは思う。孝洋もそう思っているだろう。
おそらくずっと前から、ユメカムは闇業者とつるみ、クリスティア以外でも悪事を働いていたのだ。
「人材部の誰が担当だ!」
「……思い、だせな、い」
「思い出せよ!」
「……人材部、に、まかせ、きり、に……」
命惜しさに真実を語るかと思いきや、ジーニアスは闇業者の詳細を全く知らない。
アレックスは、自分史上最大の悔しさを覚える。死んだ巴の潔白を証明したかったのに!
胸ぐらをつかまれたジーニアスが、さらに声を絞り出す。
「……も……う、ほん、と……ごめ……ん……」
もはやこの世では意味のない謝罪である。仮に生かして日本に帰したところで、真実が明るみになれば誰も許さないだろう。統子は社会的に炎上して死ぬ。
ならば、アタシの炎をもってこいつに引導を渡してやる。
「あの世で謝れ!巴や、復興支援に来た人たちに!」
アレックスはハルバートに内蔵された炎の魔術機構を発動する。絶望して立ち尽くすジーニアスの左肩に、燃え盛る斧刃を振り下ろす。
ユメカムコーポレーションを指揮する社長令嬢は、灼熱の斧刃で真っ赤に燃えたまま袈裟懸けに両断される。断末魔は、爆炎の中に消えた。
一方そのころ。
近衛騎士ウィリアムとフェアリン・エクセレン(素薔薇椎奈)の戦いは、エクセレンが優位に立っていた。
「無様ね。最後の矢を使えないまま、あんたは死ぬ」
エクセレンの光の魔術で鎧を砕かれ、倒れるウィリアム。
悔しいが、接近戦ではエクセレンに分があった。残り一本の矢を活かす余裕を作らせてもらえない。致命傷は常時発動している不可視の防護膜アブゾーバーで避けているが、今度当たったら確実にエクセレンの攻撃は身体を貫通するだろう。
エクセレンが止めを刺すべく、手にしたロッドを振り光の魔術を発動しようとする。技名を叫びながら、可愛らしいポーズを決めて。
「フェアリン・エクセレンフラッ……きゃあ!」
ポーズの途中で突如、光の弾丸がエクセレンに直撃する。
光の魔術を放ったのは、騎士マグネスとニケル。首都防衛騎士団の電子記録署に所属する二人も、攻撃用の魔術が使える。ただし、威力は極めて低い。エクセレンはよろけただけで、ダメージを受けていない。
ニケルが震える声で叫ぶ。
「こ、こ、今度は私たちが相手だ!」
ウィリアムは焦る。
「駄目だ、逃げろ!」
エクセレンが容赦なくロッドを振りかざし、もう一度ポーズを決めようとする。
「お望み通り!フェアリン・エクセレ……」
さらに割って入ったのは、高速で鳴り響くパシャシャシャシャッ、という機械音。
エクセレンの視線が目まぐるしく動く。
「私に技を撃たせてよ!」
ウィリアムも音の出どころを見た。
ジューンだ!
カメラを構えるジューンを見て、エクセレンが戸惑い叫ぶ。
「なんでジューン・カワグチ……!?」
TVにも出た有名人がここにいることに、驚きを隠せないエクセレン。
ジューンがカメラを降ろし、ポケットから何かを取り出した。そして叫ぶ。
「ウィリアムさん!フィニッシュを決めて!」
そして、何かを投げた。
スプレー缶の煙幕弾だ。事前にエトフォルテの武装を確認していたから、ウィリアムも効果を知っている。殺傷性はないが、爆発すると黒い煙をもうもうと吐き出すのだ。
煙幕弾は、エクセレンとウィリアムの前で爆発する。
マグネス。ニケル。そしてジューンは、命がけでウィリアムが反撃する隙を作ったのだ。
ウィリアムは体力を振り絞る。
絶対にエクセレンを仕留める!これが最後の攻撃だ!
「くそっ!せこい真似を!」
煙幕で視界をふさがれ、狼狽するエクセレン。立ち込めた煙は、なかなか収まらない。
煙まみれの中で、ウィリアムの挑発的な声。
「エクセレン。いや椎奈。お前は鳥奏曲とともに止めを刺すと宣言しよう。さあ、良く聴かないと分からないぞ……」
馬鹿な男だ。口笛を鳴らして、最後に残った矢を撃つらしい。攻撃の手口を明かすなど!エクセレンは内心、鼻で笑った。とっとと煙幕を抜け出してしまえばいい。
いやちょっと待って。煙幕を抜け出した瞬間を狙われるかもしれない。
ならば、煙幕が晴れるまでここにとどまり、敵が鳥奏曲を鳴らした瞬間を狙う!
煙幕は晴れない。鳥奏曲も聞こえない。
エクセレンは焦る心を落ち着かせる。
来い!鳥奏曲を鳴らして!鳴った方向に、ありったけの光の魔術を叩き込んでウィリアムを殺す。そしてこの場を離脱し、統子を連れて脱出する!
エクセレンは煙幕の中で、最後の集中力を研ぎ澄ます。
来い!来い!鳥の鳴き声!
そして、ついに鳥の鳴き声を聞いた。
「キキャァァァッ!」
身の毛もよだつ怪鳥の鳴き声が聞こえた。真正面から。
「えっ!?」
これまでのような、澄み渡る野鳥のさえずりを想像していたエクセレンは完全に虚を突かれた。
しかも真正面からなんて!完全に想定外。
真正面から二本のナイフを両手に構えて突進してきたウィリアムに、エクセレンはすぐ反応することができなかった。
ウィリアムは風の魔術を発動し、ナイフを握る手と全身の動きを速めている。
鎧にあしらった鳥の羽飾りが、風をまとって荒々しく舞う。
「告死鳥アビスヴァルチャーの鳴き声、覚えたか!」
ウィリアムは不可視の防護膜アブゾーバーの上から、鋭い殺気をまとった高速斬撃を浴びせる。
虚を突かれたエクセレンは防戦一方。容赦なく襲い掛かるウィリアムのナイフが、ついにアブゾーバーごとエクセレンの両腕を斬り裂く。ダメ押しの蹴りを腹部に突き刺す。エクセレンは吹き飛び、壁にたたきつけられる。
悲鳴を上げ、ずたずたに引き裂かれた血まみれの腕で腹を抑えて苦しむエクセレン。もはやロッドをつかんで光の魔術を発動することは、不可能であった。
ウィリアムは身をひるがえして距離を取ると、残った最後の矢を弓につがえる。魔力を込めると、矢は突風とともに高圧電流を帯びた。
かろうじて身を起こしたエクセレン。壁に寄りかかって悲鳴を上げる。
「やめて!わ、私を殺したら、国防大臣のパパが、日本政府が黙ってないんだから!」
今さら、自らパーにした父親の威光を振りかざすのか。
ウィリアムは口笛を吹き、皮肉たっぷりにほほ笑む。
「上等だ。お望み通り、我らは日本政府と一戦交えよう」
「私を生かしてくれればパパに話を……」
「パーにした父親と会話が成立するのか?」
ひいっ、と、エクセレンが引きつった声を上げる。ウィリアムをビビらせて逃げる機会を得ようとしたようだ。無駄なあがきである。
少し気になったので、ウィリアムは “パー”の話をもう一度してみる。
「素薔薇大臣をパーにするために、お前は一体何をした?正直に言え」
おそらく毒を盛るか何かしたのだろう。命惜しさにエクセレンは話すかもしれない。
しかし、返ってきたのは、想定外の答えだった。
「……言えない!」
「今さらだな。さんざん己の悪事を誇っていたくせに」
さらに魔力を込めると、高圧電流がバチバチと矢からほとばしる。ギリギリと、弓の弦がきしむ。
これにおびえて本当のことを言うか。
と思いきや、さらにエクセレンは首を横に振る。
「言えない!あれの秘密は、少しでも言っちゃいけなかったのに!私、言っちゃった!私たちの若さもパパのパーも、あああ……のことを知られちゃった!」
涙を流して、己の発言を悔いるエクセレン。肝心の部分がどもって、ウィリアムはうまく聞き取れない。
この様子だと、
『素薔薇大臣をパーにした秘密』
と、
『エクセレンとジーニアスが変身すると若干若返るように見える秘密』
には、つながりがあるらしい。
だがもう、エクセレンは正直に話さないだろう。たとえ生け捕りにしたとしても。
エクセレンが泣き叫ぶ。
「やっと統子と二人で、きらきら輝けると思ったのに……!」
浮かれ気分で他国どころか自国民を苦しめ、きらきら輝こうなど!もはや4年前に助けられたことに恩を感じたことさえ、ウィリアムには恥ずべきことだ。
「もはや聞くに値せず。いけっ!」
ウィリアムはついに、矢を放つ。
突風と高圧電流をまとった矢はエクセレンの左胸に深々と突き刺さる。刺さった箇所から高圧電流が流れ、エクセレンの体を内側から感電させ、焦がしていく。
電流が体内から体外にむかってあふれ出す。エクセレンは悲鳴の代わりに、口から大量の黄色い電光をバチバチと吐き出した。
黒焦げになったエクセレンに慎重に近づき、生死を確認するウィリアム。死んでいるのを確認し、死体から変身アイテムのティアンジェルストーンを回収した。
そして、騎士マグネスとニケル、ジューンに礼を言う。
「3人ともありがとう。助かった。孝洋は?」
ジューンが言う。
「ジーニアスを食い止めると言って……。あ、通信機が鳴ったわ」
通信機の向こうから、孝洋の声。
『ジューンさん、無事?』
「今、ウィリアムさんがエクセレンを倒したところ」
『そりゃあ良かった!こっちもケリがついたんだ。アレックスさんに替わるよぉ』
今度はアレックスの明るい声。
『ウィリー、やったな!ジーニアスのストーンは回収した。そっちに向かうから、封魔の箱にストーンを入れてくれ』
ウィリアムは了解し、通信を終える。騎士マグネスが、メタリックブルーに彩られた封魔の箱を用意し始める。
城に戻るには、孝洋たちが乗ってきた車を使う。エクセレンとジーニアスの死体は、このまま置いておき後で回収することにした。
二人を待つ間、ウィリアムは気になったことを呟く。
「しかし、エクセレンは最後に何と言ったのだろう」
『……のことを知られちゃった』
とは、一体?
実際には “パー”と“若さ”に何らかの関係があることしか、ウィリアムにはわからない。おそらく、その関係を少しでも話してはいけなかったのだ。
ジューンが言う。
「はっきりわからないけど、私には『みのこと』と聞こえた」
「みのこと……」
気になるが、今考えてもわからない。あとで考えよう。
ウィリアムはこちらにやってきたアレックスと孝洋を迎えると、ティアンジェルストーンを二つ封魔の箱に入れた。
これでデストロは、フェアリンことティアンジェルの力を感じなくなったはず。
やつの注意はエトフォルテに向くか?全員で広域結界のほうを見てみる。
広域結界の外では、デストロが容赦なく広域結界に攻撃を加えている。
攻撃の手を緩める気配は、ない。
全員、この光景に血の気が引いた。アレックスがわなわなと震え、呟く。
「あいつ頭に血がのぼってもう、神器とか関係ないのかも!」
デストロは何が何でもティアンジェルどころか、ティアーズを破壊しないと気がすまなくなってしまったに違いない。
それでも、やらねばならぬことがある!
ウィリアムは言う。
「城へ!広域結界を支援する!」