エトフォルテ防衛戦線ヒデ! 第87話 再会

 採掘場での戦いで、巴はフェアリン・マイティに変身。300メートル近い上空で必殺技を放ち、デストロの左目を潰した。
 「グギャアアアアッ!?」
 デストロが痛みでのけぞりつつ右腕を持ち上げ、左目にあてがおうとする。空中で身動きがとれないマイティは、デストロの右手で叩き落とされる形になった。
 容赦なく地面にたたきつけられるマイティ。
 「かはっ……!」
 呼吸が止まる。衝撃で全身がしびれて動けない。衝撃のあまり、聴覚が麻痺したようだ。何も聞こえない。神器ティアンジェルストーンが張る不可視の防護膜アブゾーバーの防御力は優秀だと、つくづく巴は思い知る。普通のヒーローならきっと即死だ。
 デストロが発射した光線は、かろうじて上空にそらせたようだ。なんとか、ドラクロー団長とリルラピス王女たちを救うことができた。
 ならば、自分は最期の責任を果たす。
 呼吸を死に物狂いで整え、身体の動きを取り戻す。手足の感覚とともに、聴覚が戻ってきた。
 そのまま意識を集中し、ティアンジェルストーンの力を解除する。フェアリン・マイティは巴の姿に戻った。
 落下地点から身を起こすと、ドラクローとリルラピス、アレックスとウィリアムの姿が見えた。
 良かった。みんな無事だ。これで、神器を返せる。最期の責任を果たせる。
 こちらに走ってくる4人に、巴はありったけの力を込めてティアンジェルストーンを投げた。ストーンはドラクローの足元に落ちる。
 そして叫ぶ。
 「団長さん!!神器を!!」
 アレックスが叫ぶ。その視線は上空に向いていた。
 「はやくこっちに……!!」
 巴が上空を向くと、デストロが落下地点に握り拳を振り下ろそうとしていた。
 当然だ。敵に止めを刺すのは戦場では当たり前のこと。
 そして、ユメカムの悪事に加担した自分が受け入れなければならない罰なのだ。
 迫ってくる拳が、やけにスローモーションに見える。迫りくる拳と死を受け入れた時、ふと巴は、東京にいる両親のことを思った。


 このまま死んだら、自分のことは両親にどう伝わるのだろう。
 団長さんと王女様は、たぶんきっとフォローしてくれる。
 ドーピング検査捏造のことも、軍師ヒデがきっとうまいことやってくれる。
 私の言葉を、思いを、誰かがきっと伝えてくれる。
 お父さん、お母さん。こんなことになってしまって、ごめんなさい。
 この謝罪の気持ちだって、誰かがきっと……。


 ……嫌だ!自分で伝えたい!
 両親に会えないまま、死にたくない!
 ちゃんと自分で謝りたい!
 そう思った時、装着したスマートウォッチを操作していた。ユメカムから支給されたマークⅠで、監督官と同様、身体機能を強化する機能がある。
 振り下ろされたデストロの拳による直撃を、強化された身体機能によるダッシュで避けた。本当に、ギリギリ避けた。デストロのダークグリーンの腕が、目の前数メートルにあった。
 地面にぶつかった拳の衝撃で巴は大きく吹き飛び、飛び散った土や石を全身に浴びた。
 土や石の一発一発が、普通の日本人を即死させる速度で飛んでくる天然の弾丸だ。スマートウォッチも不可視の防護壁アブゾーバーを展開しているが、神器にははるかに劣る。なんとか空中で頭をかばい、頭部への直撃は避けたが衝撃を完全に吸収しきれない。巴の意識は容赦なく撃ち抜かれていく。
 そのまま成す術なく、採掘場の汚れに染まった川に頭から転落。汚れた水を、大量に飲み込んでしまった。
 胸が苦しみで一杯になる。呼吸ができない。身体が沈んでいく。
 そして巴の意識は、ぷっつり切れた。


 それから、どれだけの時が過ぎたのだろう。


 死後の世界って、消毒用アルコールの匂いがするんだな。意識を取り戻して、巴は思った。
 己の死と罰を受け入れて、そっと目を開ける。
 死後の世界って、病院みたいな光景なんだな。自分の視界がぼんやりして定まらないが、なんとなく病院みたいな部屋だ。昔、格闘技の試合で頭を打って精密検査で3日間入院したから、そう思う。
 「う……ああ……」
 自分はベッドに寝かされているらしい。身体が動かない。喉の奥が乾ききって、うまく声が出せない。
 目の前に、人の顔が見える。白くゆるふわな髪の、羊みたいな女の子だ。自分は地獄行だと思ったけど、天使が迎えに来てくれたらしい。
 天使って、白い服着てるものだと思っていた。目の前の天使は黒と言うか濃い灰色の服を着ていて、まるで軍服と武術着を足したみたいな……。
 あれ?この服どこかで見て……?
 次第に巴の視界と意識がはっきりしだした。この子の着ている服は、そうだ。
 「え、エト、フォ、ル、テ、の……?」
 巴の声を聞いた女の子が、ゆっくりと言う。
 「良かった。気が付いたんだね。ここは、エトフォルテの医務室。あなたは川でおぼれた後、ここに運ばれて治療を受けたの」
 「ち、治療……」
 信じられなかった。自分は助かったらしい。あれからどのくらいたったのだろう。ぎこちなく口を動かし、巴は声を絞り出す。
 「さ、採掘場……から、……くらい、経った、ん、です、か」
 「採掘場の戦いから、三週間くらいかな」
 「で、デストロ、は……」
 「大丈夫。やっつけちゃったから。って、私じゃなくてターくんが。主砲を撃って、ドカンと」
 やっつけちゃったんだ。ドカンと。信じられないけど、事実らしい。
 「汚れた川の水の毒素に侵されていたけど、クリスティアの魔術治療とエトフォルテの解毒が効いた。しばらくは全身打撲で骨にヒビの入った箇所もあるから絶対安静だけど、必ず元気になるからね」
 女の子がぽん、と手を打つ。
 「そうだ。ドラくんと王女様たちに連絡しなきゃ」
 女の子が部屋を出てしばらくすると、別の女性が水差しとストロー入りのコップをもって入ってきた。
 亜麻色の長い髪を持つ女性だ。同じ亜麻色の長い尻尾と相まって、巴は犬のアフガンハウンドを連想した。昔の友達が犬好きで、いろいろ教えてくれた。フェアリンを始めたせいで、昔の友達とはほとんど疎遠になってしまったが。この人もエトフォルテ人らしい。
 アフガンハウンドっぽい女性が、笑って言う。
 「私はハウナ。ここで治療を手伝ってる。ムーコから話は聞いた。今ベッドを起こすから、まずは水を飲もうか。喉乾ききっちゃってるもんね」


 巴が目を覚ましてから、4時間後。
 首都ティアーズからリルラピスがアレックス、ウィリアムを連れてエトフォルテにやってきた。
 ドラクローと仮面をつけたヒデ。リルラピスとアレックスとウィリアムが中に入った。医療担当のムーコとハウナも、万が一に備えて室内で待機している。


 採掘場での戦いから三週間近く経過している。再会した巴は、ずっと寝たきりで解毒治療を受けていたから、すっかりやせ細ってしまっている。
 それでも、彼女が生きていたことをヒデは嬉しく思う。採掘場で戦った者にとって、デストロの光線を間一髪でそらした巴は命の恩人だからだ。
 アレックスが、嬉しさを抑えられない声で言う。
 「巴!生きてて良かったよ!」
 対する巴は、病み上がりなせいか、声に張りがない。
 「……ごめん、アレックス」
 「なんで謝るんだよ。解毒がうまく言ったから、あとは安静にして怪我を治せば普通の生活に戻れるって、心の部の人が言ってた。あ、心の部ってのは、エトフォルテの医療担当の人で」
 巴の声が、ますます小さくなる。
 「……アレックス。私、普通の生活に戻っちゃいけない」
 巴がリルラピスに向き直る。
 「リルラピス様。私を、クリスティア王国で死刑にしてください」
 突如放たれた『死刑』に、病室にいる全員の顔が凍り付く。
 巴が、必死に声を絞り出していく。
 「私は、統子と椎奈の言いなりになって、ティアンジェルストーンを返せなかった。ユメカムの悪事に加担して、強制労働を止められなかった。多くの人を死なせました。その罪は、死んで償います」
 リルラピスがひざを折り、巴の目を見てはっきり言う。
 「採掘場で強制労働させられたクリスティア人から聞いています。あなたは常駐している間、ずっとみんなをかばって守った、と。それに、デストロから私たちを救ってくれた。私は女王として、あなたに罪は無いと決定しています」
 「でも、それ以前に殺された人が大勢います。私は、統子と椎奈と同罪なんです」
 やせ細った巴の身が、小刻みに震える。
 「本当ならあの時、デストロに殴られて死ぬべきだった。でも、死ねなかった。日本にいる家族に会いたい、謝らないと死にきれないと思って……。ごめんなさい、みんな。私、死ぬべきなのに。みっともなく生きて、恥をさらしてしまいました」
 アレックスが目に涙をためて、叫ぶ。
 「やめてよ!アタシは巴が助かって、嬉しかったのに!」
 「言わないで、アレックス!私は……、世間に顔向けできないことをした。やっぱり、生き残るべきじゃなかった。罰を受けて死ななきゃいけないんだ!」
 そう言って、巴はしくしくと泣き出した。
 

 ヒデもドラクローもムーコも、リルラピスもアレックスもウィリアムも、かける言葉が見つからない。
 リルラピスが許すとはいえ、ユメカムによる強制労働が2年近く行われたことを思えば、加担した罪の重さに押しつぶされる気持ちも、わかる。
 本当を言えばヒデも巴に、『死にたい』などと言ってほしくない、と言いたかった。
 軍師としてヒデは、ドラクローと話すことが多い。ティアーズでの決戦が終わってから、ドラクローは巴を救えなかったことを悔やんでいると、ことあるごとに話していた。
 だがこの場で励ましを重ねると、巴を押し潰しかねない。それをわかっているから、ドラクローも何も言えないのだろう。


 言葉に詰まっていると、部屋の奥に控えていたハウナが、巴の側にやってきた。
 「だまって聞いてりゃなんてこと言うのよ、この子は。もう、女王様とドラクローの前で悪いけど、わたしゃおばさん根性で言っちゃうからね」
 ふうーっ、と息を吐き、ハウナが巴に言う。
 「強制労働を止められなかったことは、そりゃあ良くない。でもあんたは、ユメカムとデストロに立ち向かった。私が親なら、よく戦った!えらい!ってほめちゃうけどね」
 ハウナのよく戦った!えらい!には、有無を言わせぬ力があった。
 巴が目をそらしながら、言う。
 「そ、そうで、しょうか……」
 ハウナがさらに強い口調で言う。
 「ちゃんと私の方見て、話を聞きなさい!」
 おびえる巴が、ハウナのほうに向きなおる。
 「みんなから聞いた。あなた、300メートルのデストロの目の前に飛んで、目玉を潰したって。こんなこと普通出来ないよ?ドラクローにも女王様にもできなかったことを、あなたはやったの。誇るべきことよ。それだのに、生き恥さらしてごめんなさい、死んで世間にお詫びしますなんて……」
 さらに大きくなるハウナの声。自分の胸をばん!と叩く。
 「これのどこが恥!?『この久見月巴、300メートルの怪物の目玉潰してやったんじゃわい!文句があるなら世間ども、同じことやってみんかい!』くらい世間に言ったって、全然問題ないわよ!」
 じゃわい!みんかい!が、ものすごい存在感を放って病室に響く。
 ムーコが困り果てた顔で言う。
 「……おかみさん。女の子が『じゃわい!』はキツイよ」
 ボーイッシュなアレックスも困り顔。
 「『みんかい!』もちょっとなあ……」
 ハウナ、咳払い。
 「とにかく、アンタは多くの人を救ったの。うちの子供たちもね。ああ、子供ってのはドラクローとムーコのこと。二人はうちの孤児院出身。私もね、あなたにはすごく感謝している。だから生き恥だ、死にたいなんてことは思わず、体を治して頑張って生きなさい」
 そして巴の頬に両手をそっと当て、ハウナは強く言い聞かせる。
 「いい、巴?よく聞きなさい。次生き恥です、死にたいですなんて言ったら、私あんたを本気で……」
 まずい!自分の時と同じ“あれ”を言うつもりだ!
 ヒデは止めようとしたが、遅かった。
 ハウナがとうとう言ってしまった。
 「この船の外にぶん投げちゃうからね!」
 ヒデ、絶叫。
 「ぶん投げちゃ駄目でしょう!」
 アレックスも絶叫。
 「このオバサンなんてこと言うんだ!」
 生きる気力を失いかけた巴を奮い立たせたいのは、わかる。
 が、今こんなことを言ったら、最悪の事態になりかねない。病室にいるみんな顔面蒼白になった。
 「ぶん投げ……」
 巴が呆然と復唱する。ドラクローが大声で仲裁する。
 「巴、本気にしちゃだめだぞドラァッ!おかみさんやめろよ!」
 「だって、この子があんまりひどいこと言うから」
 平素落ち着いているのウィリアムが、本気で怒って抗議する。
 「あなたのほうがひどい!」
 すると巴が、誰も予想しないことを言い出した。
 「それはどんな投げ方なんでしょう?」
 ハウナの目が点になる。
 「何?投げ方に興味があるの?」
 「私の流派、久見月流柔術は投げ技、関節技を主とする武術です」
 「ああ。ヒデがそんなこと話してたわね」
 「私、投げ技や絞め技と聞くと、学ばずにはいられないんです。エトフォルテの皆さんの投げ技は、どんなものなのでしょう」
 さっきまでの絶望とうってかわって、興味津々な顔で巴は言う。
 ハウナ、あっけらかんと投げ技を語る。
 「投げ技なんて、宇宙も異世界も地球も同じでしょ。グワっ!とつかんでガバーっ!と普通に投げればいいだけで、ねえ?」
 ねえ?と問われたのは、ウィリアム。いきなり話を振られて、困っている。
 「きわめて簡潔に言えば、そうなると言うか……」
 格闘技の専門家が聞いたら、頭を抱えそうな解説だとヒデは思う。巴も呆れるだろう。
 と思いきや、彼女はすこぶる真面目に返してきた。
 「投げ技はそこに至るまでが難しいのです。握・即・極(あく・そく・きょく)。握ったら即座に極めろ、と言うけれど、私は未熟で……」
 「そうなの?私、いつも深く考えずにグワっ!とガバーっ!で投げられるわ」
 ヒデはドラクローに、小声で聞く。
 「……本当にこんな感じなんですか?」
 ドラクローが答える。
 「本当にこんな感じなんだよ。おかみさんの本気の投げ技はすごいんだ」
 ムーコが遠い目をする。
 「私、昔おかみさんが本気で投げてるところ見た。すごかった……」
 どういう状況で本気の投げを見たのか気になるが、相当すごいことだけはわかる。
 巴は、ハウナを褒めたたえている。 
 「まさに握・即・極。達人の域に達していますね」
 「やだよこの子は。私みたいなおばさんを達人だなんて……。もっと言って」
 ほめられたハウナが照れ照れしだした。なんとなく、タイガの照れ方に似ている。亜麻色の長い毛をした尻尾が嬉し気に揺れる。
 ムーコがたしなめる。
 「おかみさん。調子に乗りすぎだよ」
 一方の巴。興味が尽きないらしく、声に張りが出てきた。
 「いいんです。私、もっと柔術を鍛えて、人のために役立てたいと思ってたから。いろいろ勉強したくて……」
 なんだか話が変な感じになってきた。
 ヒデたちが呆気に取られていると、ハウナがにっこり微笑み話を締めくくる。
 「だったら、きちんと治療を受けて元気になりなさい。そして、いろいろ勉強して人のために頑張って生きるの。あなたが人のために頑張り続けるなら、私はずっと味方でいちゃうからね。わかった?」
 「わかりました」
 「エトフォルテの武術に興味があるなら、治った後でいくらでもみんなが教えてくれるわよ。投げ技に限らず。ねえ、ドラクロー」
 「お、おう。とにかく巴。まずは治療を受けろ。打撃は俺が教えてやる」
 「はい、団長さん。きちんと治療を受けます」
 巴の顔から先ほどまでの悲愴さが消え、すっかり治療を受ける気になっている。ハウナも満足げだ。
 とりあえず、ヒデもホッとする。
 それにしても、『船の外にぶん投げ宣言』が、こんな流れになるとは……。
 

 巴の治療をムーコとハウナに任せて、ヒデたちは医務室を出る。
 外の通路では、威蔵が待っていた。威蔵の傍には、熊のような大男の奥山半次がいる。彼は作業員たちとの今後を話し合いに、エトフォルテに来ていたのだ。採掘場で伸び放題になっていた髪とヒゲは整えられ(保護された後、クリスティア王国の理髪師が作業員たちを散髪した)、頼れる農家の兄貴分、といった風体だ。
 半次が尋ねる。
 「久見月巴はどんな様子だい」
 ヒデは答える。
 「きちんと治療をうけると約束してくれました」
 半次がほっとする。
 「そりゃあ良かった。ヒョロさんたちも喜ぶよ。採掘場では、あいつにずいぶん助けられたからね」
 アレックスが同意する。
 「アタシたちも助けられた。だからこそ、あいつのドーピング検査とフェアリン加入が、ユメカムに仕込まれたことを確実に証明したい。なんとかできないか」
 すると、威蔵が口を開く。
 「この前は会議が中断になって、言えなかった。時間がかかっても良いなら、ひとつ手がある」
 威蔵が自分の考えを述べる。
 「ジャークチェインを経由して、神剣組に協力してくれた仲間に連絡を取る。超薬に詳しい仲間だ。技の部が調べたもっとも怪しい5件だけでも、調べてみる価値はある。闇業者の横のつながりがあるからな」
 さらに威蔵が説明する。
 「夢叶統子の『人材部に闇業者選びを任せた』という情報が鍵だ。まともな会社の人材部が、闇業者と気軽につながることはできない。ユメカムは昔から闇業者と通じていた可能性が高い。例の5件と並行して、ユメカム人材部を仲間に調査してもらう」
 ヒデは一連の調査の流れを想像し、言った。
 「だとしたら、調査は早く始めたほうがいい。ジューンさんの取材が世に公表されたら、ユメカムは潰れて社員は散り散りになる」
 「軍師の言う通りだ。久見月巴の生死によっては団長たちの判断も変わると思い、この前は提案をはばかったが……。できれば今日にでも方針を決めて、仲間に伝えたい」
 ウィリアムが心配そうに言う。
 「時間がかかる調査だ。君の仲間の迷惑にならないか」
 「時間がかかっても、仕事として確実に調査を続けてくれる。一からの調査は無理だが、ユメカム人材部と5件の闇業者なら、手掛かりとしては充分だ
 時間がかかるうえに、エトフォルテ、ひいては神剣組隊長の仕事を引き受けてくれるなんて、どういう仲間なのだろう?
 ドラクローが質問する。
 「仲間は、どういう立場の人間なんだ?」
 威蔵が答える。
 「警察で超薬を捜査している。犯人を特定できれば、超薬対策取締法で逮捕できる。警察なら、久見月巴のドーピング失格がユメカムに仕組まれたものだと、問題なく世間に公表できる」
 これにはみんな驚いた。
 リルラピスが呟く。
 「神剣組には、警察関係者の仲間がいたのですね……」
 驚いていないのは、半次だけ。
 「われらが隊長。警察と神剣組の関係を話していないのかい?」
 威蔵は、少し気まずげ。
 「俺は、ヒーローを斬ってエトフォルテを守るために参加した。神剣組の実情はエトフォルテと関係ないから、話さなかった」
 おそらく威蔵は、神剣組の守秘事項に抵触するのを恐れているのだ。
 考えてみれば当然。組織の秘密をぺらぺらしゃべってしまうほうが問題である。
 ヒデは言った。
 「組織の秘密を、無理に言うことはないですよ」
 威蔵が首を横に振る。
 「エトフォルテが取材映像を流せば疑惑は公表できるが、根本的に潔白は証明できない。女王様が久見月巴を許される以上、潔白は合法的に示さねば。話せる範囲で、神剣組の実情も明かす。でなければ、エトフォルテもクリスティア王国も、俺の仲間に調査を託すことはできないだろう」
 半次が頷く。
 「そのほうがいい。世間じゃいまだに神剣組を“狂った人斬り革命集団”なんていう馬鹿もいる。そうじゃないことをわかってもらおう」
 おいおい、とドラクローが苦笑いを浮かべる。
 「俺たちは威蔵を、そんなふうに思ったことはないぞ」
 そらそうだ、と半次が言い、意味ありげかつ、豪快に笑う。
 「われらが隊長は義侠心あふれる恋の天使さあ!」
 威蔵が、心底困り果てた表情で言う。
 「それ、ほかの人の前で言うな……。恥ずかしいから」
 恋、と聞き、みんな気になって仕方ない、という感じで、威蔵を見ている。
 ヒデは助け舟を出す。
 「本人が気にしているので、やめておきましょう」
 本音を言えば、ヒデも気になるのだが。


  

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