エトフォルテ防衛戦線ヒデ! 第88話 真実を託して

 巴が意識を取り戻してから、4日後。
 エトフォルテの会議室で、ヒデはドラクロー、ジューン、そしてリルラピスの4人で取材映像を精査し、必要な部分を直していた。


 巴は当初死亡としていたが、生死不明とした。
 生存と正直に報じると、激高したユメカム支持者が巴の実家を襲いかねない、と判断したからだ。生存については、威蔵の仲間である刑事を経由し、巴の両親に伝えることも決めた。
 やがて、リルラピスが神妙な面持ちでヒデに尋ねる。
 「軍師ヒデ。日本政府は強制労働をどこまで知っていると思いますか?」
 ヒデはこれまで、映画をはじめとした創作物や、蕎麦屋の大将が持っていたノンフィクション記事の切り抜き(ほとんどが、生々しい汚職や横領に至る経緯を記している。脅迫食い逃げ男に出くわしてから、大将は警察の仕事に興味を持ち、そういう記事が気になって仕方がなかった)を頻繁に見てきた。
 ヒデは悪人の思考回路を綿密に想像しながら、巴の話を思い出す。
 「巴さんの推測では、フェアリン・エクセレンの父、素薔薇国防大臣は知らないとのことです。エクセレン自身『パパをパーにした』とも言っている。何をしたかはわからない。が、知らない可能性が高い」
 ですが、と続ける。
 「ヒーロー庁の雄駆照全名誉長官と、天下英雄党の高鞠爽九郎総理はどうでしょう。ブロンと相当親密な関係にあり、変身アイテムまで贈っている。ブロンの行いを全く知らなかったとは思えません」
 ましてや、ブロンは繰り返し、
 『名誉長官と総理は、俺が王にふさわしいと言ってくれた』
 と叫んでいた。ブロン自身、バルテス国王暗殺は自分の判断でやった、と言っていた。が、名誉長官と総理が暗殺をあおった、と見えなくもない。
 ドラクローが力強く言う。
 「そこを映像で強調して、連中の逃げ道をふさぐ。強制労働黙認を責めるんだな」
 「ドラさん。そうできるのがベストです。が……」
 「が?」
 ヒデはためらいがちに、名誉長官と総理の『理想的な言い訳』を口にする。
 「知っていても知らなくても、『ユメカムとブロンが勝手にやった』『私たちは知らされていなかった』で逃げきりを図るでしょう」
 ヒデとジューンが採掘場で手に入れたデータや日誌にも、政府の黙認を明確に示す物は見つからなかった。残念ながら、強制労働黙認は証明できない。
 ジューンが苦々しくため息をつく。
 「知りません。向こうが勝手にやりました。いけない政治家の決まり文句。万国共通ね」
 ドラクローが吐き捨てるように言う。
 「卑怯だな!」
 リルラピスも複雑な表情を浮かべている。
 ヒデは頷き、言った。
 「これも卑怯には違いありませんが……。私たちは証明できなくても、疑惑がある、と言える。疑惑を繰り返し強調することで、『日本政府は黙認を、本当にやっていたのかも……』と世間に思わせるのです。ヒーロー庁が、エトフォルテは残虐だ、と何度も繰り返したように。ヒーロー庁に疑惑あり、と強調する。エトフォルテでの取材も合わされば、効果的です」
 さらに言う。
 「この一件をユメカムとブロンだけの責任にしてはいけない。真実がどうあれ、日本政府に強制労働黙認の疑いがあることを、世間に言うべきです。でないと、ヒーロー庁がエトフォルテ攻撃を強行しかねない。残虐な宇宙獣人からクリスティア王国を助ける、とか勝手な名目を立てて」
 リルラピスが、悲し気に目を伏せて言う。
 「となると、私たちは悪者を明確に強調しなければならない」
 ヒデには悪者の一人が、クリスティア王国にとっては恩人であることも理解している。
 だが、エトフォルテとクリスティア王国を守るためには、彼を悪者として報じなければならない。たとえ彼が、本当に何も知らなかったとしても。
 ヒデは心を鬼にした。
 「ヒーロー庁の雄駆照全名誉長官と、天下英雄党の高鞠爽九郎総理。そしてフェアリン・エクセレンの父、素薔薇晴夫国防大臣を悪者にして、世間に糾弾させる。彼らはヒーロー支援企業及び大臣の娘を監督せず、結果的に強制労働黙認に加担した疑いあり、と」
 リルラピスが、決然と言う。
 「ユメカムの強制労働にかかる関与と、エトフォルテ墜落時の対応にかかる関与。この二つを日本政府が私達に納得できる形で説明できるまで、クリスティア王国政府は保護した作業員と監督官を日本国に引き渡さない。もしクリスティア王国の領海をヒーローや自衛隊が侵すなら、私達も害敵必討(がいてきひっとう)の掟を行使し、エトフォルテとともに戦います」
 リルラピスはこの約定を記した紙を取り出す。クリスティア語で書かれ、最後にリルラピス直筆の署名と真印が押されている。すでにクリスティア王国国民議会でも認められた、正真正銘の王命である。
 ジューンは会議室の机に置かれたこの重要書類を取材映像に収めるべく、デジタル一眼カメラのシャッターを切った。


 話し合いの中、ジューンはタブレット端末をひっきりなしに操作し続け、とうとう取材映像を完成させた。時刻は、午後9時を過ぎている。
 みんなで麦茶にそっくりなエトフォルテ茶を飲み、一息つく。ジューンがう~ん、と伸びをしてから言う。
 「外部に公開する映像としては、これでオーケー。あとは、どう公開するか、ね」
 ヒデにとっても、これが最大の問題であった。
 ジューンの所属するスターライトネットワーク、略してSLNは、取材から映像公開までの全責任をジューンに託しているという。
 が、内容が内容である。エトフォルテ墜落3日前にアメリカの探査衛星がエトフォルテ接近を察知していた以上、取材した内容は少なからずアメリカの宇宙防衛に関わることになる。
 最初は動画サイトに投稿すればいい、と思っていた。が、投稿後にトラブルになり、永久に削除、投稿不可、なんてなったら目も当てられない。
 ジューンがアメリカに戻って本社に説明したうえで公開するのがベストだ。が、エトフォルテが今からアメリカに向かったら、クリスティア王国に日本のヒーローたちが殺到する。
 おそらく、ヒーロー庁も天下英雄党も、クリスティア王国でエトフォルテが何かしたことを察しているはずだ。ブロン投獄後に調べた限り、ブロンと仲間たちが電子機器でエトフォルテのことを伝えた形跡は無い。
 が、ユメカムの連中は本社に伝えている。ユメカムを統率している夢叶統子が死んだ今、指揮系統がどうなっているかはわからないが、遅かれ早かれヒーロー庁に伝わるはずだ。
 ジューンを何とかして日本に送り、飛行機で帰国させることも考えた。が、今や日本近海はエトフォルテの再接近を警戒して、自衛隊や海上保安庁の船が常駐している。とても近づけそうにない。
 ヒデとドラクロー、ジューンとリルラピスは話し合いを続けたが、いい案は出てこない。


 するとそこに、モルルから通信がドラクローあてに入った。
 「ドラクロー。エトフォルテに国際レスキュー通信です」
 国際レスキュー通信とは、世界共通の救難用通信電波である。レギオン・シャンガインのロボと通信するためにエトフォルテも使っており、今後のために船体に周波数を登録してあった。
 「相手は誰だ?」
 「発信者はジューンを乗せた貨物船の船長、ミラーと名乗っています。彼女の取材が終わっていたら、連れて帰ってもいいですか?と」
 貨物船は今、エトフォルテから南方にある海域に停泊しているという。
 さらにモルルは言った。
 「船長はこうも言っています。日本で貨物を降ろして休養中に気になる情報を手に入れた。エトフォルテに関係あることだから、ぜひ伝えたい。ゴムボートでそっちに行ってもいいですか?と。どうしましょう?」
 ドラクローは不安そう。
 「渡りに船、と言いたいが、罠じゃないだろうな」
 ヒデにも不安はある。が、本当ならチャンスだ。
 「ジューンさんと女王様も立ち合いの上で、船長に会ってみましょう」
 ジューンとリルラピスも、同意してくれた。


 ミラー船長は船員2人を供にして、エンジン付きのゴムボートでエトフォルテにやってきた。
 エトフォルテは彼らを迎え入れ、念入りにボディチェックをする。ミラー船長は熟練の海の男、といった風貌で、船長服に包まれた体も大きく、たくましい。船員ともども、悪い人には見えない。十二兵団員は彼らに武器や盗聴器などが無いのを確認すると、会議室に案内した。
 ヒデとドラクロー、リルラピス女王、そしてジューンが、船長たちと対峙した。ヒデは仮面をつけている。
 船長が流ちょうな日本語で言う。
 「おおカワグチ。無事だったか」
 日米を往復する貨物船であるため、船長も船員も日本語はペラペラだという。
 ジューンが微笑む。
 「無事よ。エトフォルテとクリスティア王国のみんなが、助けてくれた」
 船長はヒデ、ドラクロー、リルラピスの顔をまじまじと見る。
 「日本を騒がす軍師と団長に、異世界のプリンセス。みんないい顔じゃあないか。カワグチが信じるのも納得だな」
 「私は仮面をしていますが」
 ヒデが指摘すると、船長は笑った。
 「カワグチが情け無用の残虐軍師を信じて、一緒にいたりするもんか。ああ、別に仮面外さんでいいよ。カワグチの顔を見れば、あんたが信用できる男なのはわかるから」
 ドラクローが尋ねる。
 「顔で人の良し悪しがわかるのか」
 「いい人にいい顔。いい顔は惹かれあうもの。ネパールの偉い坊さんが、昔言ってたぞ」
 船長の言葉に、へえ、とドラクローが感心する。
 「いい言葉だな」
 リルラピスも微笑んで同意する。
 「大切にしたいですね」
 すると、付き添いの船員たちが苦笑しつつ、日本語でツッコむ。
 「出た。船長の嘘かほんとかわからない格言。俺にはそれ、エジプトの王様の言葉って言ったぞ」
 「ぼくには、ローマのエクソシストの言葉だと。みなさん気を付けて。船長はいい人だけど、ホラが好きなんです」
 ヒデが質問する。
 「ホラなんですか?」
 船長は意味ありげに笑う。
 「似たような格言が世界中にある、ということだ。軍師ヒデ。ためしに日本の雄駆照全名誉長官と、高鞠爽九郎総理の顔を想像してごらん。二人とも悪そ~うな顔してるだろ。悪い人柄も顔に出る。そして悪い顔も惹かれてつながっちまうんだ」
 悪そう、を伸ばして強調する船長。
 元ヒーローの雄駆名誉長官は、英雄らしいたくましい顔つき。高鞠総理の顔はスポーツマン風のハンサム。ぱっと見は、いい顔である。
 が、一連の疑惑を思うと信用が全くないのは確か。
 「たしかに」
 ヒデが同意すると、船長が大きく頷く。
 「実際、あの総理は名誉長官の舎弟だ。ここだけの話、わが社のお偉いさんは高鞠総理を信用していない。あの男が総理になる前、かなり腹を立てる出来事があったらしい」
 「そうなんですか」
 「詳しくは俺も知らん。だが、俺たちがSLNの取材を手伝ったきっかけの一つではある。とにかく俺は、そろそろ取材が終わってたら、カワグチを迎えに行こうと思ってたんだよ。エトフォルテがクリスティア近海で動かない、って日本政府からの通達で聞いてたから」
 ヒデもドラクローもリルラピスも、ミラー船長は信用できる、と判断した。
 この船長も、付き添いの船員の顔も、いい人柄がにじみ出ているいい顔だと思ったのだ。


 改めて、ミラー船長が話を切り出す。
 「エトフォルテに急いで伝えたい知らせが二つ。いい知らせと悪い知らせだ。どっちから聞きたい?」
 ドラクローがヒデに目配せする。
 ヒデは瞬時に決めた。
 「悪い知らせから」
 「さすが軍師ヒデ。危機管理意識が高い」
 船長が語った悪い知らせ。
 それは、日本政府とヒーロー庁が、エトフォルテのサイバー攻撃から7割がた回復し、エトフォルテの追撃にそう遠くないうちに取り掛かる、というものだった。
 「俺たち海運業者が戦闘に巻き込まれるのを警戒して、日本政府が知らせてきた。だから、カワグチをアメリカに帰したいと思ったんだ」
 一方、いい知らせはというと。
 「エトフォルテ追撃前に、日本政府がどう動くかがわかることだ。高鞠総理は世界各国に理解を得るため、これから海外遊説に出かける。日本政府の最近の対応には不自然なところが多いからな。うまいこと諸外国を説き伏せてから、攻撃を仕掛けるだろう」
 船長は遊説日程が書かれた日本の新聞を、ヒデたちに渡す。
 総理の出立は今から20日後。期間は7日間だという。
 船長はさらに教えてくれた。
 「海外遊説の行き先はヨーロッパとしか明かされていない。が、まず間違いなく最初はスウェーデンだ」
 ドラクローが尋ねる。
 「そこにはなにがある?」
 ヒデは日本政府の動きを想像し、あることを思い出す。
 「スウェーデンには、獣人保護で有名な世界団体の本部があったはず」
 船長が大きく頷く。
 「スウェーデンではアメリカの次に日本政府の対応を疑問視する声が大きいらしい。この団体が、『獣人は残虐』と繰り返す日本の態度に怒っているようだ。高鞠総理は『エトフォルテが悪党であって、あなたたち真っ当な獣人団体とは違う』と、説き伏せておきたいのだろう」
 ヒデは日程を見て、考える。
 総理の海外遊説にあわせて、ジューンの取材映像を公開するのはどうだ。
 エトフォルテ追撃はヒーロー庁が仕切っているが、日本の公的なリーダーは総理。総理不在で映像が公開されたら、ヒーロー庁も協力している天下英雄党も大混乱するのではないか。
 ヒデはこの予想を、ドラクロー、ジューン、リルラピス、船長に説明する。


 説明の後、船長がこの先の航路を語る。
 「やつらの混乱を誘うには、いいタイミングだ。船は天候にもよるが2週間くらいでアメリカに到着する。当面大荒れの天気にはならないと思うが……。アメリカでカワグチを降ろす分には問題ない。彼女はうちの船に乗り込んで取材していることになっているからな。問題はそのあとだぞ」
 取材映像を公開するのは、SLN。ジューンが本社の許可を取らないといけない。
 到着後にジューンが映像を本社に提出し、すぐに許可が下りて公開されるのがベストだが、きわどいタイミングだ。許可が下りなければ、また悪天候で貨物船が進めなくなれば、総理が遊説を終える。そして追撃が開始される。
 日本のヒーローは、今度こそ力押しの総力戦で来るだろう。クリスティアの広域結界でしのいでも、総力戦でレギオンのロボを大軍で繰り出されたらきっと耐えられない。エトフォルテには主砲と魚雷以外の攻撃手段がないし、あと1ヶ月程度で総力戦に備える防衛対策は不可能だ。
 ドラクローは難しい顔。
 「許可が下りなかった場合がまずいな」
 船長が提案する。
 「データを俺たちの船からSLNに伝送するのは、駄目か?」
 ジューンが首を横に振る。
 「データを送ったら履歴が残る。船長が私のエトフォルテ行にかかわったことがばれるわ」
 船長の取引先は日本。ジューンのエトフォルテ行を手伝ったと知られたら、もう仕事ができなくなる。
 何より、SLNで手違いが起き、送った取材データが無くなった、改ざんされたというのが一番まずい。
 結局、ジューンが直接アメリカに戻り本社にデータを渡すのが確実、ということになった。


 こうして、ジューンはミラー船長の貨物船で、アメリカに戻ることになった。
 ジューンは荷物をまとめると、船長たちが乗ってきたゴムボートに乗り込む。当初ジューンが乗ってきたゴムボートを返そうとしたら、ミラー船長が言った。
 「それはエトフォルテにあげるよ。カワグチを守ってくれたお礼さ」
 エトフォルテの搭乗口で、ヒデたちはみんなでジューンを見送った。
 ジューンが言う。
 「みんな、取材を許可してくれてありがとう。必ず本社に戻って、エトフォルテとクリスティアの映像を公開する。日本のTV局で流れるときは、提携している大江戸TVよ」
 ドラクローとヒデに握手を交わすジューン。そしてヒデに小声で話しかける。
 「万が一総理の遊説までに公開できなかったときのために、予備の映像データをあなたに託す。サイバー攻撃の時のように、動画サイトに投稿して。責任は私がとる」
 ヒデの軍師服に、データが入ったメモリを忍び込ませた。
 「わかりました。ジューンさん、ありがとうございます」
 さらにジューンはリルラピスと握手をし、まきなとアルを抱きしめた。
 「ジューン。アメリカまで気をつけてね」
 「まきなも。アメリカにはあなたの味方がいる。心配しないでね」
 まきなに続いて、アルが言う。
 「ジューン。あなたと出会えて、よかったです」
 「私もよ。アル、まきなを守ってね」
 最後にジューンは、決め台詞とともに、夜の闇でも輝きそうなウィンクを決めた。
 「Have a beautiful day(ハヴァビューティフルディ)!!」
 そして船長は、同行した船員たちとともに、エトフォルテとクリスティアの者へ敬礼。
 「ドラクロー団長。リルラピス女王。カワグチのことは任せてくれ。月並みな言葉だが、あなたたちの幸運を祈る!」
 ドラクローが右拳を闇夜に突き上げる。
 「月並みなんかじゃない。最高の応援をありがとう!」
 リルラピスはすっと両手を構え、印を結んだ。陰陽師のごときこの動作は、航海の安全を祈るクリスティア王国式のおまじないだという。
 「ミラー船長。あなたたちの航路に、ユルリウス神の加護を!」
 こうしてジューンたちは、夜の闇の中でエトフォルテと別れた。


 エトフォルテとクリスティア王国の運命をジューンに託して、20日後。
 朝8時25分。


 エトフォルテでは、ヒデとドラクローたちが、指令室のモニターを注視していた。
 モニターには、日本のTV局の映像が映し出されている。
 この時間、TV局の大半はニュース番組を流している。どの局も内容は似たり寄ったり。天下英雄党の高鞠爽九郎総理が昨夜海外遊説のため、専用飛行機でスウェーデンに旅立った、というのが、トップニュースである。
 大江戸TVでもいつものニュース。SLNの映像が流れる気配は、ない。
 ドラクローが肩を落とす。
 「駄目だったか」
 たくましい龍の尻尾も、力なく垂れている。
 やがて大江戸TVのニュースが終わり、CMに切り替わる。
 いつもなら8時30分から、大江戸TVは旅番組を流す。ヒデも蕎麦屋で準備の合間に見ていたから知っている。
 が、CMが終わった瞬間、ヒデは異変に気が付いた。
 「大江戸TVの画面を全拡大してください!」
 情報解析を担当しているモルルが、大江戸TVの映像を拡大した。
 今TVに映っているのは、旅番組ではない。先ほども映っていた大江戸TVのニューススタジオと、丸々とふくよかなスーツの壮年男性。なんとなく、動物に例えるとタヌキっぽい感じの男性だ。
 アナウンサーかと思って見ていると、男がとんでもないことを言い出した。
 『大江戸TVをご覧の皆様。おはようございます。私、大江戸TV社長の徳沢安家(とくざわ・やすいえ)です』
 徳沢社長は深々と頭を下げる。
 『本来であればこの時間は、旅番組“ぶらり希望の旅路”を放送しています。ですが、非常に緊急性の高いニュースが、わが社の提携情報機関であるアメリカのスターライトネットワーク、通称SLNから提供されました。今からアメリカにありますSLNの特設スタジオに中継を繋ぎ、二時間の特別報道番組を流します。“ぶらり希望の旅路”を楽しみにされていた視聴者の皆様には、深くお詫び申し上げます』
 画面がSLNの特設スタジオに切り替わる。
 そこにいた人物を見て、まきなが声を上げる。
 「ジューン!」
 間違いない。ジューンだ。エトフォルテで行動中に着ていたフットワークの軽そうな服から一転。スーツをピシリと着こなし、ベテランアナウンサーの風格を漂わせている。
 画面の向こうでジューンが、日本語で言う。
 『皆様。おはようございます。ジューン・カワグチです。大変お待たせしました』
 大変お待たせしました、は、エトフォルテへのメッセージに違いない。
 『この度スターライトネットワークの特派員として、私はエトフォルテとクリスティア王国で取材を行いました。エトフォルテは日本ヒーロー庁が繰り返すように、本当に残虐な宇宙獣人なのか?彼らの本当の姿、そして日本近海のクリスティア王国で、ヒーロー庁認定の支援企業が犯した罪を、あますところなく報道します』


 そしてこの後報道された映像は、日本を、アメリカを、そして世界を揺るがすことになる。

 
 

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