木曜日の対策会議の2日後、土曜日。
ムーコは、威蔵の知り合いの農家が分けてくれた野菜の種や苗を、子供たちと一緒に植える種まき会を開催するため、ドラクロー、威蔵とともに三輪トラックで居住区に設けられた畑に向かっていた。
種まき会は今後の食糧確保に向け日本の農産物を研究するためでもあり、子供たちの気分転換も兼ねている。厳戒態勢なのでムーコたちは万が一に備えて制服や拳銃を身に着けての農作業になるが、これは仕方ない。
ちなみに、ヒデはタイガやマティウスと一緒に新しい砲弾やアイテムの試射会をするため、今日は甲板にいる。エトフォルテの総団長でもあり力の部団長でもある手前、ドラクローは試射会に出ようとしていた。
しかしヒデたちに
『総団長にも気分転換が必要』
と言われ、ムーコと種を預かった威蔵とともに、種まき会に出ることになった。
居住区は外の天気を反映させて、春のぽかぽかした人工太陽の光が降り注ぐ。風はそよ風設定だ。ちなみに、エトフォルテ居住区における天気は、基本的に晴れか曇りしかない。船内で使える水に限りがあるので、雨や雪は再現できないようになっている。
畑に向かう道をゆったりした速度で、運転手のドラクローが十二兵団専用の三輪トラックを走らせる。荷台には農機具と一緒に、威蔵が座っていた。トラックの座席は2人分しかなかったからだ。出発前にムーコもドラクローもすまないと威蔵に言ったが、威蔵は気にしない、と言って荷台に乗り込み、ずっと静かにしている。
「威蔵。揺れは大丈夫か」
窓を開けてドラクローが声をかける。威蔵が返してきた。
「問題ない。ところでこのトラック、これが最高速度か?」
「いざというときは結構速く走れるぜ」
「なら、もっと速く走ってもいいのでは?」
何を言ってるんだ、という顔でドラクローが答える。
「限られた広さの居住区だぜ。歩いてる人もいるし、そんなに急いでどうする。十二兵団は安全速度を順守するぜ。日本人は違うのか?」
「同じだ」
シンプルに答えた威蔵。それきり何も言わなかった。
一方、助手席に座っているムーコ。畑に植える種や苗の資料を読みつつ、威蔵のことを気にしていた。
昔農家にかくまわれていた時分に、威蔵は農家から野菜の栽培方法などを教わったという。それでムーコと一緒に、種まき会で子供たちを指導することになった。
ドラクローやヒデが認めた仲間だから信じてはいるけれど、ムーコにとって威蔵は少し苦手な存在だった。
感情の起伏を感じさせないクールなまなざし。基本的に無口。ムーコの身近に今までこんな人はいなかった。戦いのことでは的確なアドバイスをくれる、とドラクローは頼もしげだったけど。
今日は子供たちの息抜きも兼ねた大切な時間だ。クールかつ無口に対応されては困る。
団長として事前に言ったほうがいいかな。とはいえ、あまり細かく指示するのもよくないかも。
いろいろ考えた末、昨日の打ち合わせでムーコは威蔵に言った。
「エトフォルテの土と肥料で日本の植物を育てるのは初めてだから、威蔵さんも気になることがあったら私に聞いてね。子供たちから質問があって、威蔵さんが答えられないことは私が答える。」
「了解。団長」
威蔵は、静かに頭を下げた。
「よろしく頼む」
「い、いえ、こちらこそ…」
想像以上に威蔵が丁寧に返事をしたので、逆にムーコのほうが恐縮してしまった。
トラックを降りて、種まき会の畑へと向かう。
今回用意した野菜は直接畑にまくものと、小鉢(ポット)にまいて苗を育ててから畑に植えるものの2種類に分けられる。畑や小鉢の用意はすでに心の部の団員が済ませていた。
ムーコは威蔵にエトフォルテの農業について、日本語に直した資料を渡しておいた。威蔵は資料をきちんと読んでくれたらしい。資料の所々に赤い印がしてある。
畑に向かう道すがら、ムーコは威蔵に聞く。
「どう?わからないところはあった?」
「地球のものに似た野菜がエトフォルテにあるとわかった。見た目が似ているなら育て方も似ているはず。時間はかかるが、うまく育てられると信じている。子供たちが今日の種まきを喜んでくれるといいが」
表情こそ変わらないが、威蔵なりに子供たちのことを考え、緊張しているのかもしれない。
こういう時は、スレイ先輩の教えだ。
「威蔵さんが農家にいた時のことを思い出して、その時の良かったこと、楽しかったことを思い出せばいいよ。それが子供たちにもきっと伝わるから」
「魂を研ぎ澄ます、という教えだな」
ムーコに言われた威蔵は、少しだけ目を閉じてから、言った。
「いい教えだと思う。俺も見習おう」
種まき会に集まったのは、エトフォルテ人の子供と礼仙兄妹を合わせて30人。
エトフォルテの子供たちが元気よくあいさつする。
「お侍様。今日はよろしくお願いします!!」
威蔵のような剣士を、日本では敬意を込めて「侍(サムライ)」と呼ぶのだと、少し前にヒデが教えてくれた。
威蔵は言った。
「お侍様なんて呼ばなくていい。威蔵でいい」
「では、威蔵様!!」
「様も無しでいい」
礼仙兄こと時雨が呼び方問題に決着をつけた。
「では、威蔵さんで行きますね」
この光景、前も見た気がする。
威蔵が持ち込んだ種と苗は、結構な種類と量がある。とはいえ、これらを全部植えるわけにはいかない。
ムーコは子供たちに説明した。
「威蔵さんの種と苗は、エトフォルテの土や肥料で育てるのは初めて。だから今日は持ってきたものの三分の一を植えてみるよ。それが上手く育てば残りを植える」
は~い、と返事する子供たち。
次いで、失敗したらどうするんですか~?と声が上がる。威蔵が答えた。
「失敗したら植え方を変える。地球のものに似た野菜がここで育っているから、全部失敗することはないはず。とにかく、まずは植えてみることだ」
ここまでは事前の打ち合わせどおりだ。
「何か質問は?」
ムーコが子供たちに問いかけると、兎族の少女が手を挙げた。
「威蔵さん。この赤い実が描いてある種はどんな野菜ですか?」
赤く丸い実の写真が載っている種袋を少女が掲げる。
「それはトマトだ。甘酸っぱい実をつける」
威蔵の回答に少女が驚く。
「甘酸っぱいってことは、果物ですか?」
「トマトは野菜だ。だがその品種は特に甘みが強い。だから果物と同じように食べられると思う。生で食べれば甘くて美味い」
なるほど~、と子供たちが頷く。
今度は牛族の少年。ツル状の苗を握って手を挙げた。
「じゃ、このツルみたいなのはどんなんですか~?」
この苗は、威蔵が隠し蔵に保管しておいたものだ。袋入りの種はともかく、苗は適切な管理をしないとすぐ駄目になってしまう。だが隠し蔵の中で生鮮物は劣化しないのから、今日まで保管しておいた、と威蔵はムーコに言っていた。分けてくれた農家のとっておき、なのだとも。
「それはサツマイモ。甘く栄養のあるイモだ。この品種は特に大きく育つよう品種改良された、食べ応えのあるサツマイモになる。今回の中でとくにおすすめだ」
「生で食べれるの~?」
「生は無理だ。火を通す。煮ても焼いても上手い。菓子の材料にもなる」
今度は鼠族の少女。菓子と言う言葉に反応して、細長い尻尾が嬉しそうに揺れている。
「お菓子にもなるんですか!!」
「なる。いろいろな菓子が作れる。甘くて美味い」
威蔵は淡々としているが、きちんと味や食べ方を子供たちにはっきり聞こえる声で説明している。
説明の締めくくりは
『美味い』
あるいは
『甘くて美味い』
とシンプル。子供たちにはこういう説明のほうが受けるようで、ひととおり説明が終わるころ子供たちは威蔵とすっかり打ち解けていた。
説明の後はみんなで種まき。
農作業用の白い手袋を渡したら、威蔵がぽつりと呟いた。
「日本の軍手にそっくりだ」
日本ではこういう手袋を『軍手』と呼び、農作業で使うらしい。ドラクローが手袋をはめつつ、言った。
「羊族特製の手袋だぜ。モチフワットの繊維が使われているから丈夫だ。着け心地はどうだ?」
「良い。滑り止め加工もされているな。世話になった農家にも使ってもらいたくなる」
威蔵の評価に、ムーコは羊族として内心誇らしかった。
種や苗は種類ごとに植え方が違うから、ムーコと威蔵が子供たちに植え方をきちんと説明し、みんなでていねいに植えていく。
久々にいじる土の匂いをムーコは心地よく感じる。心の部の仕事として農作物の管理がある。ほかの星で採取した植物の生育状況を調べたり、品種改良で新たな農作物を作ったり。収穫時期がくれば心の部が率先して収穫作業をし、収穫祭の準備をする。地球に来る少し前までみんなとしていたことが、ひどく昔のことのように思える。
種まきを半分ほど終えてから、休憩時間をとる。
するとジャンヌがやってきた。愛用の槍を槍袋に入れて携帯している。尻尾が治ったばかりなので、厳戒態勢ではあるが今日まで彼女は非番なのだ。散歩もかねて種まき会を見に来たという。
「どう、種まき会」
ジャンヌに聞かれたドラクローが答える。
「種まきなんて本当に久しぶりにやった。懐かしいな」
子供の頃は、ムーコもドラクローたちとこういう時間を過ごしたものだ。
「何より、威蔵がうまくやっている。子供たちとうまくやれて、よかったよ」
休憩時間も威蔵は子供に引っ張りだこで、いろいろと話しているのが見えた。
「威蔵さん子供ときちんと話せるか気にしてたんだけど、そんなことなかった」
ムーコはそう言って、実は威蔵のクールな雰囲気が苦手だった、ともらした。
ジャンヌは、わからなくはないかな、と笑った。
「私は対策会議で話したから苦手意識はないけど。種まきする威蔵は想像できなかった」
「俺たちが戦いや防衛の話を必要としていたからな。思えば最近、ずっとそんな話しかしていなかった」
ドラクローがしみじみと呟く。
エトフォルテが地球に墜落してから日常会話の9割が防衛のことだったと、今さらながらムーコも思い出す。防衛以外の会話と言えば、空いた時間にヒデと話した料理・食材のこと。ヒデは貴重な空き時間をやりくりして、エトフォルテの料理を勉強しようとしていた。逆にムーコは日本の料理を教えてもらっていた。
とはいえ、最優先は防衛でムーコも団長としての仕事がある。料理の話は、もしかしたら会話の1割にも満たない時間だったろう。
防衛のことを考えずに種まきしたこのひと時が、とても大切で愛おしく思える。
「大切にしたいな。こういう時間」
ムーコは呟く。ドラクローとジャンヌも、頷いていた。
やがて威蔵が子供たちから解放され、ムーコたちのもとにやってきた。
ジャンヌが笑って出迎える。
「お疲れ様。大変だったでしょ」
「大丈夫だ。元気な子供は未来の宝と言う。大切にしなければな」
そう答えてからしばしの間の後。威蔵が声を潜めて、ムーコたちに聞いた。
「ところで、俺の説明はあれで大丈夫だったか」
さっき自分がした説明を威蔵は気にしているようだ。
「子供たちの笑顔を見ればわかるだろ」
何を今さら、な感じでドラクローが言う。ムーコもジャンヌも、威蔵がなにを気にしていたのかわからない。
すると、威蔵はとんでもないことを言った。
「俺は野菜の育て方は農家から教わったが、他人に教えたのは今日が初めてだった」
ええええ!?と、ムーコたちは大声で叫びかけた。
「ましてや相手は子供だから、心配していた。俺は子供と話したこともほとんどないから」
でも威蔵は子供相手にぬいぐるみを直していたから、子供とも話したのでは?
ドラクローに問われた威蔵は、肩をすくめる。
「あの時は孝洋が子供と話している後ろで、ぬいぐるみを縫っていただけだ。
孝洋は俺よりずっと話が上手いから、俺は口を挟まなかった。神剣組にいた頃も、修行と任務以外で人と接する機会はなかった」
ヒーローとも悪の組織とも敵対した神剣組。組織の性質を考えると、仲間以外の人との接点は少なくならざるを得なかったようだ。
「だから先輩隊長たちから、子供たちと仲良くできるようにぬいぐるみの直し方とかを教えられた。
いつか日本を立て直した暁には、きちんと子供に好かれて、子供を好きになれる人間であれ、と。そもそも子供を大事にできないやつに、未来の日本を立て直せないからな、と」
「いい先輩じゃん」
ジャンヌの言葉に頷いて、遠い目をする威蔵。
「いい先輩だった」
神剣組の先輩隊長たちも、ムーコたちにとってのスレイやジャッキーのような存在だったに違いない。
「神剣組が壊滅した後にいた農家は、主とその家族も、一緒にいた神剣組の生き残りも皆俺より年上だ。周りの農家も口が堅いとはいえ、小さい子供はそうもいかない。だから、俺はあまり子供と接点を作らないようにしていた。
本当を言うと、種まき会の説明をうまくできるか、自信がなかった」
あまりに心配したので、威蔵は昨日ヒデに相談したという。
どうやって子供に野菜のことを説明すればいい?と。
「ヒデさん、なんて言ったの?」
「軍師からは
『子供が一番気にするのは苦味や辛味。そういう野菜ではない、甘くて菓子にも使える野菜ならそういうものだ、とはっきり言うように』
と。こうも言われた。
『自分が食べてみて、その野菜をどう食べたら美味しいかを、本の受け売りではなく自分の言葉でわかりやすく伝えろ。何事も勉強だと思い、本気で考え抜いて言え』
と。俺の説明で分かってもらえるといいが」
ヒデらしいアドバイスだとムーコは思う。ヒデの料理や食材に関する話はわかりやすい。わかりやすく伝えようとする気持ちも伝わるし、ヒデ自身がエトフォルテの料理や食材を本気で理解しようとしているのがわかる。
威蔵がそんなヒデを見習って、今日のために頑張ったのも分かる。
「絶対大丈夫。私だっておいしそうだと思ったもん」
「ちゃんと『甘い』『美味しい』って最後に付け加えるのが、律儀なアンタらしいじゃん」
ムーコに続いてジャンヌが笑う。ドラクローも笑った。
「ああ。もっとも俺は、お前は話し上手だと思ってたぜ。戦術、剣術の話がわかりやすい。いつだって、本気で話してただろ」
それを聞いた威蔵は、心底ほっとした笑顔を浮かべる。ああ良かった、と言わんばかりの安堵のため息とともに。
ムーコは初めて、クールさを崩した威蔵の笑顔を見た。これまでの苦手意識が、彼の安堵のため息で霧散していく。
ため息の後、威蔵は言った。
「野菜と芋でこれだけ喜んでもらえるなら、いっそ果樹の苗を用意すればよかった。“あれ”ならきっと子供たちも喜んだだろう」
どうやら威蔵には、植えてみたい果樹があったようだ。
「なにか育ててみたいものがあったの?」
威蔵の言葉が気になってムーコが質問すると、威蔵はこう返した。
「なしだ」
「ないんだ」
「違う。なしだ」
「ないんじゃん」
「いや、だからなしだ」
なぜ威蔵は「無し」を繰り返すのだろう。ムーコとジャンヌは顔を見合わせる。
「つまり、植えたい果樹はなかったんだろ」
ドラクローに再確認された威蔵は、首を横に振った。
「そうじゃない。『梨(なし)』という名前の果樹が日本にある。俺が匿われていた農家は野菜も作っていたが、本業は梨農家だ」
ちなみに、威蔵とヒデたちに種を分けてくれた農家は、威蔵が匿われていた農家の親戚。親戚は米と野菜とサツマイモは育てていたが、梨はなかったそうだ。
ジャンヌがツッコむ。
「ややこしい名前!」
「違いない。だが、とても甘くて美味い」
トマトやサツマイモを解説した時以上に、威蔵の『甘くて美味い』には強い感情がこもっているのをムーコは感じた。なので聞いてみた。
「どういう甘さや美味しさ?」
「とても甘くみずみずしい。食感はシャリシャリとしている。冷やすとこの食感がさらに際立つ。夏の暑い日によく冷えた梨を食べるのは、最高の天然清涼剤だ。この美味しさをエトフォルテの子供たちにも味わってもらえたなら…」
威蔵、再び遠い目。
甘くシャリシャリとした食感の果物。ムーコは心の部の一員として着陸した星でいろんな果実を採取して試食した。だが、そんな食感の果物は食べたことがない。
4人で梨のことを話していたら、礼仙兄妹を連れてエトフォルテの子供たちがやってきた。鳥族の少女が笑って話す。
「礼仙兄妹が教えてくれたんだけど、日本にはいろんな果物があるんだって!!これから夏になったら、スイカや梨が美味しいって!!」
なんと子供たちも梨の話をしていた。奇遇だね、と返すムーコだったが、困った話が始まった。
「総団長!!エトフォルテが動くようになったら、日本に接近してスイカと梨を手に入れてください!!みんなで育てて食べたいです!!」
「いや、さすがにそれは…駄目だ」
ドラクローは心底困り果てた顔。日本のヒーローを殺した手前、近づくのはもう不可能だった。
子供たちはさらに困り顔。
「総団長~!!」
「だから駄目だって!!」
ドラクローの駄目に残念がる子供たち。慰めたくて、ムーコは言った。
「今日植えたサツマイモがうまく育ったら、私が美味しいお菓子たくさん作っちゃう。それで、ね?」
美味しいお菓子のレシピは知ってる?、とムーコは威蔵に聞いてみる。威蔵は少し考えてから、言った。
「サツマイモの菓子か。スイートポテト。芋かりんとう。いきなり団子」
「どれも美味しそう。いきなり団子というのは強そうね」
ジャンヌの感想に同意するムーコ。個人的にはスイートポテトが気になる。
威蔵はさらに解説した。
「しかし俺が思うに、サツマイモの場合一番簡単で美味しい食べ方は焼き芋だ。肌寒い日に食べる焼き芋の温かみは素晴らしい。これだけは、仲間から美味しい焼き方を教わった。今日植えた品種も、焼き芋向きだ」
へえ~、と目を輝かせ笑顔を浮かべる子供たち。
そして礼仙兄妹から素敵なアシストが。
「ぼくも昔子供会で焼いたよ。焼き芋」
「うん。と、とっても美味しかった」
子供たちの興味は梨とスイカから完全に焼き芋に向いた。どんな味がするんだろう、とみんな想像力を働かせている。ムーコも気になり、口にしていた。
「サツマイモが無事に育ったら、みんなで焼いてみたいな」
ドラクローも笑った。
「そうだな。みんなで焼くか。威蔵。団長命令だ。その時は焼き方指導を子供たちに」
「了解、団長。俺の焼き方指導は厳しくいく」
「ええ~!?厳しいの!!??」
子供たちの叫びに威蔵はふっ、と笑って答える。
「冗談だ」
子供たちが笑い、ムーコたちも笑った。
野菜やイモが実る未来を、みんなが楽しみに思っていたその時。
通信機が鳴った。着信音は一番危険な状態であることを知らせる、第一種警告音。
ムーコたちはいっせいに通信機をとる。技の部の男性団員の声。
『ヒーロー襲撃!!総員、防衛体制をお願いします!!』
ドラクローが確認する。
「土曜日に来るとは!数は!」
『機動兵器が1台!随行している船は撮影協力船と判断!甲板で武装試験中の軍師ヒデとタイガ団長が反撃体勢に入りました!!』
通信が終わると、すぐにドラクローが指示を出した。
「ムーコ。威蔵。俺と一緒に戻るぞ!!子供たちは避難だ!!」
「はい!!」
礼仙兄の時雨が敬礼し、子供たちを連れていく。
「ジャンヌ、行けるか!?」
「当然!!休んだ分はきっちり働かないとね!!」
ドラクローは通信機で状況を把握するため、助手席に乗り込む。代わりにムーコが運転席に乗り込んだ。ジャンヌと威蔵は荷台だ。
こういう時は安全速度以上の速さで走っていいことになっている。ムーコは緊急時を知らせるサイレンのスイッチを入れ、アクセルを踏み込んだ。