エトフォルテ防衛戦線ヒデ! 第31話 カメラの裏の真相

 
 撮影協力船に乗っていたスタッフたちを、十二兵団は同志採用面接試験を行った捕虜収容所に連行した。ドラクローとヒデが、彼らを尋問するためだ。
 連行する前に、十二兵団員たちは彼らのスマホやカメラをすべて没収し、隠しカメラなどがないか身につけている服もすべて改めた。さらに船に積まれていた予備のカメラや通信機なども、船の航行に最低限必要なものを残しすべて回収してある。生かすにせよ始末するにせよ、エトフォルテが不利になる情報を発信されていないか調べるためだ。


 目隠しの布を顔に巻かれ、さらにロープで数珠つなぎに連行されたスタッフたち。
 やっと収容所で拘束具つきの椅子に座らされてから、目隠しを外される。
 途端、目の前にエトフォルテのボスである総団長ドラクローと軍師ヒデがいると知り、彼らは恐慌をきたしてわめきだした。
 「俺たち獣人に殺されるんだあ!!卵や寄生虫を植え付けられるぅぅ!!遺伝子をしぼり取られて種が、新種が!!いやああ~っ!!!!」
 拘束されながらも激しく上半身をゆらして甲高く泣き叫ぶこの若手スタッフは、間違いなく想像力のたくましい映画マニア、それも相当なホラー映画マニアだとヒデは思う。元ネタと思われる映画が8本ほど脳裏に浮かんでしまった。ほかのスタッフもつられて喚きだす。
 中間の混乱をきつい口調で制止するのは、サブリーダー格の男。
 「うるさいお前ら!!黙ってろ!!」
 ドラクローは仮面を外し、なるべく落ち着いた表情でスタッフたちをなだめた。
 「とにかく俺たちの話を聞け。卵も寄生虫も遺伝子もしないから」
 するとリーダー格の男が、心底珍しそうに言う。
 「話の通じない悪党かと思ったが、思ったよりいい面構えのお兄ちゃんじゃないか」
 「チーフ!!獣人ほめてどうするんすか!!」
 リーダー格の四、五十代の男は体つきがしっかりしており、スポーツか武術をたしなんでいるようだ。ほかのスタッフからチーフと呼ばれている彼は、怯えた素振りを見せない。
 ヒデは事前に没収した写真入り身分証で、スタッフたちの名前を確認する。
 盛大に泣き叫んだ甲高い声のスタッフは五間(いつま)。
 サブリーダー格は倉木(くらき)。
 獣人ほめてどうするんすか、とツッコミを入れたのは深沢(ふかざわ)。
 残るスタッフの名前を確認し、最後にチーフ。


 『ヒーロー庁戦地映像撮影受託指定業者 
  ハイランドスコープ社
  社長 高島 加集(たかしま かしゅう)』


 高島は修羅場を踏んできた映像制作のプロ、といった風体で、チーフと言う称号がぴったりな風格を備えている。
 ゆえに、ヒデも彼をチーフと呼ぶことにした。
 チーフの反応に、おや、と驚く顔をするドラクロー。
 「そういうあんたも、ターンやシャンガインとは違うな」
 「面構えをほめたことか」
 「いや、なんか……あいつらは俺たちへの獣人嫌いが露骨だったから」
 ドラクローは、面構えをほめられたことを嫌がってはいない。ヒデも軍師として、チーフの落ち着きぶりには助かった。ほかのスタッフたちは黙って震えるか、わんわん泣いているからだ。
 チーフはエトフォルテをまっすぐ見つめて言う。
 「俺はお前たちときちんと話をつけて、仲間と帰りたいんだ。撮影現場から家に帰るまでが映像屋の仕事だ」
 ヒデは思わず口にする。
 「遠足みたいなことを言う」
 チーフは不敵に笑った。
 「実際遠足だ。命がけのな」
 違いない、とヒデは口に出さず思った。ヒーローの活躍を撮影する戦地映像は今でこそドローンが使われることが多いが、一昔前は撮影業者が命がけでカメラを抱え、ヒーローの戦う現場についていったという。


 さて、ここにチーフたちを連れてきたエトフォルテの目的は、三つ。
 一つは、エトフォルテが見えない光線兵器で攻撃されて地球に落ちた事情を、知ってもらうため。
 もう一つは、シャンガインが最初にエトフォルテを襲った時の映像について尋問するため。
 先週の土曜日に流された、エトフォルテ側の音声を大音量のBGMでかき消したあの特番映像。本来なら皆映像の中で日本語を話していたのが、全く聞こえなかった。撮影業者なら、何か裏事情を知っているかもしれない、とヒデは推測したのだ。
 これから行われるヒデとドラクローによる撮影スタッフへの尋問は、カメラで指令室にいる仲間たちも見ることができる。
 なお、三つ目の目的は先の二つの話題にチーフたちがどう反応したかで、対応を決める。

 
 エトフォルテが地球に墜落した経緯は、主にドラクローが説明した。
 自衛のためにシャンガイン達を殺さざるを得なかったこと。日本のヒーローとの全面戦争は望んでいないことを、時間をかけゆっくりと。
 スタッフたちは怯えていたが、チーフも含め全員が黙って聞いていた。


 そしてヒデは、シャンガインのことを質問する。 
 「戦地映像は編集加工して流すのが常。当然、加工前のオリジナル映像が残っているはず。あなたたち、シャンガインが最初にエトフォルテを襲った時の、オリジナル映像を見ていないか」
 スタッフ・深沢が即答。
 「み、見ていない」
 低い声で問い詰めるドラクロー。
 「嘘ならただじゃ済まさねえぞ。お前ら、正直に言え」
 ドラクローはスタッフ全員をぐるりとにらみつける。
 怯えた映画マニアの五間が、また泣き出す。
 「本当だよおお!!薬漬けや拷問は堪忍してえぇー!!」
 彼の想像力のたくましさと甲高い泣き声に、ヒデはほとほと困った。もはや彼の頭の中でエトフォルテは完全に化け物かつ悪党扱い。ドラクローも困り気味に見える。
 サブリーダーの倉木が、必死な顔で抗議する。
 「嘘じゃない!撮影後の映像の管理編集はヒーロー庁本庁舎にある映像編集部がしている。映像編集部に介入する権利は、外部の受託業者の俺たちにはない。そうだろ、チーフ」
 倉木に促されたチーフは、ドラクローとヒデをにらみつける。
 「倉木の言ったとおりだ。そもそも最初の映像は、シャンガインのマスクとシャンガイオーに内蔵されたカメラ、あとドローンの映像しか使われなかったと聞いている。その映像は生みの親のヒーロー庁が全て管理している。シャンガインは何か知っていたかもしれない。だが、お前たちが皆殺しにしたなら誰にもわからない」
 チーフはさらに語気を強め、まっすぐにヒデたちを見つめる。
 「俺たちを薬漬けにして拷問したところで、同じことしか言えない。わかったら俺たちを解放してくれ。俺たちは3年ぶりにこの仕事を受注したから、最近のヒーロー庁やシャンガインの細かい事情は、わからない。嘘じゃない」
 彼はこの手の修羅場をすでに経験しているのか、ヒデたちにしっかりと向き合い一切ひるまない。
 嘘をついている気配はない、とヒデは感じる。とりあえずは。
 「ヒデ。どうする」
 ヒデは少し思案してから、言った。
 「団長。スタッフたちに嘘をついている様子はない。生かして帰そう」
 「おい、もう決めていいのか?」
 「ええ。嘘をついてはいないようだ。彼らを生かして帰そう。薬も拷問も無しだ」
 チーフが問う。
 「本当に帰してくれるのか?」
 ヒデはきっぱり答える。
 「私は嘘はつかない。あなたたちを全員生かして帰す」
 ヒデのこの言葉に、ほっと安堵するチーフたち。


 問題はここからだ。
 尋問の間、ヒデはずっとチーフの目の動きを追っていた。生かして帰すと聞いたチーフは、大きく安堵のため息をもらす。
 その視線がまずヒデに向けられ、すぐそらされる。続けて、もっと小さな動きでチーフの視線がドラクローに向けられる。が、すぐに戻った。
 二度目の動きは本当に小さかったから、ドラクローは気づいていないようだ。
 だが、ヒデは気づいた。これは見逃してはいけない動きだ。


 昼下がりのTVのサスペンス劇場で不自然に視線が泳いだ登場人物は、
 『嘘はついていないけど実は隠し事を……』
 という展開がお約束。
 それをほったらかしたら、さらなる事件が……もお約束だ。ヒデは蕎麦屋のTVでそんな展開を山ほど見てきた。
 祖母を亡くしてからは、仕事が終わると大将夫妻と一緒に夕飯を食べつつ、『実録!!列島警察』なんてタイトルの警察特集番組を何度も見た。大将夫妻はこの手の番組が好きだった。脅迫食い逃げ男の一件以来、警察の仕事に強く興味を持ったらしい。
 こうした番組で得た、取り調べの基本技術がある。
 警察官は取り調べで相手の視線を重視する。嘘や隠し事をする容疑者は、口調や顔色をごまかせても視線が不自然に動く瞬間が、必ずあるという。
 『目は口程に物を言う』
 は、事実なのだ。
 ヒデはチーフの内心を探るため、わざと
 『彼らは嘘をついていない』
 『全員生かして帰す』
 とはっきり言い、身の安全を保証した。
 怯え切ったスタッフたちはともかく、人生経験豊富そうなチーフは、尋問中一度もヒデとドラクローから視線を外さなかった。それが身の安全を確保した途端に、こちらをひそかにうかがった仕草。
 彼は受託業者の社長という立場上、この中で一番ヒーロー庁に近い人間だ。
 嘘以外の何かが絶対ある。


 ヒデは拳銃を抜き、安堵したチーフに厳しい声音で問い質す。
 「ただし、本当に全てを話していればな!チーフ!『俺隠し事はしたけど、嘘じゃないからセーフ』という顔をしたな!何を隠している!」
 「ぐっ!?……な、なぜわかった!?」
 幸か不幸か、ヒデの予測は図星だった。
 「私は軍師。敵の隠し事を見抜き仲間を守るのが仕事。あなたのように秘密を隠し、後々命をおびやかす事態を招いた人間を山ほど見てきた」
 蕎麦屋のTVで見たサスペンス劇場と警察特集番組で、とは、当然言わない。
 隣でドラクローがさすがだ、と言わんばかりに目を丸くしている。
 ドラクローの評価はさておき、チーフの隠し事を暴かねば。
 「言わずにいたことを全て吐いてもらおう」
 チーフの表情がはじめて気まずげに変わる。
 「い、いや、これは……言っても仕方ないと思うが……」
 隠した以上、ヒーロー庁かシャンガインにまつわる情報なのはほぼ確実。エトフォルテに隠し事を明かしたと知れたら、チーフはヒーロー庁に処罰されると恐れているのかもしれない。
 正直気は進まなかったが、ヒデは拳銃をスタッフたちに向けた。
 「アウトだ。あなたの仲間に血を吐いてもらう」
 チーフは血相を変え、拘束された体を震わせる
 「よせ馬鹿やめろ!!俺の隠し事を仲間は知らないんだ!!」
 スタッフたちは銃を向けられた恐怖で、さらに何人かが泣き出す。
 ヒデとしてもやりたくなかったが、気まずさやチーフへの気遣いを見抜かれぬよう、さらに冷たい声音を絞り出す。
 「ならば正直にすべて打ち明けろ。さもなくば撃つ。あなたの隠し事でエトフォルテが傷つくのは困るのだ」
 こちらの気まずさを見抜かれたら、チーフは絶対本当のことを言わない。命乞いが通じると、彼らに思わせてはならない。
 拳銃は技の部に地球人でも使えるようにしてもらったエトフォルテ製。ヒデ自身、毎日この拳銃で射撃訓練をしているから構えに至るまでの動作が滑らかだ。拳銃の安全装置を解除して引き金に指をかける。
 銃とヒデの動作に恐れをなしたか、チーフはついに観念した。
 「全部話す!だから銃を仲間に向けるな。俺だけにしてくれ!」
 ヒデは銃をチーフに向け直す。


 チーフは咳払いしてから、数回深呼吸。そして、
 「隠し事を話す前に、ヒーロー庁における戦地撮影のルールを説明させてほしい」
 と前置きし、話し始めた。
 「戦地で撮影した映像は、撮影から原則三日以内にはヒーロー庁の映像編集部にそのまま回さなきゃいけない。これはヒーロー庁が支給したドローンでも、ヒーロー自前のカメラでも、俺たち受託業者が撮影した場合でも同じだ。撮影者には原則編集権がない。勝手に編集したり三日を超えてから渡すと罰金を取られる」
 ドラクローが不思議そうに言う。
 「ヒーローが自前で撮影しても、映像に手を付けず渡すのか?」
 チーフはさらに解説する。
 「ヒーローをよく見せるものを残し、悪く見えるものを消す。この編集権はヒーロー庁が握っている。ヒーローや俺たちは編集に関わる全権利と引き換えに、活動費や報奨金をもらう。そして編集が済むとヒーロー庁が公式放送局で放送する」
 ヒデは質問する。
 「一部のヒーローは、自分やスポンサー企業名義で独自の動画配信をしているが」
 「そういう場合でも、必ずヒーロー庁のチェックを受けてから流すルールがある。ヒーロー庁ができてから約20年。国内のヒーローのほぼ9割はヒーロー庁に登録して、こうしたルールを守っている」
 ヒデもヒーロー庁の戦地映像の裏側について、反ヒーロー団体の冊子で読んだことはあったが、ここまで詳しい話は初めてだ。
 ヒデはさらに質問する。
 「二度目のエトフォルテ襲撃は途中まで生中継されていた。生中継と録画放送の違いは?」
 「ヒーロー庁が数字を稼げると判断した決戦は、特番として生中継される。昔は決戦の兆候をつかむと、ヒーロー庁が生中継の入札を業者に知らせたりもした」
 「数字を稼ぐ?」
 チーフの言葉にドラクローが首をかしげる。チーフは目を丸くした。
 「宇宙人は視聴率を知らないのか」
 「知らないな。どういう数字だ?」
 「放送の人気を示す数字だ。戦地生中継は業者にとっても稼ぎどころで、派手な戦闘シーンが撮れれば視聴率は間違いなく……」
 ドラクローは、今にも殴りかからん勢いで激怒する。
 「俺たちを殺して人気稼ぎしようと!!」
 エトフォルテの事情を思えば、チーフの言い方はあんまりだ。ヒデも苦言を呈する。
 「私たちの事情を説明したのに、その言い方はない」
 「すまない。無神経すぎた」
 チーフは深く頭を下げる。


 彼がゆっくり頭を上げるまで、ふとヒデは疑問に思った。
 なぜ今回は、現地に撮影業者を派遣し録画放送にしたのだろう。
 マスカレイダー・ターンが華麗にエトフォルテを倒す、というシチュエーションは、生中継にうってつけだったのでは。
 それとも、生中継したくない理由があったのか?
 この疑問は、今チーフに聞いてもわからない。ヒデは彼の話を、最後まで聞くことにした。


 「さて、隠し事はシャンガインがエトフォルテを最初に襲撃した映像について、だ。あれはルールを破って、撮影から五日後の金曜日に回されたらしい。そのせいで土曜の特番放映に間に合わせるため、編集部の連中はへとへとになっていた」
 「なぜ、金曜日に回されたとあなたは知っている」
 「特番放送のあった土曜日の昼。戦地撮影をうちに回してもらえるように、ヒーロー庁の窓口に行ったんだ。今やドローンやヒーローの自前撮影が主流で、撮影会社に仕事が回ってくることは少ない。俺はメールや電話で何度も頼んだが、話にならないから直接担当者に頼みに行った」
 チーフは、へとへとになった編集部員たちと廊下ですれ違ったという。
 「その時、連中の話を聞いてしまった。あいつらはこう言っていた」


 『シャンガイン、ルール違反なのにおとがめなしらしい。金曜日に映像を持ってこられても困るのに』
 『あの映像。俺たち編集部に届く前に誰かが編集してたんじゃないか』
 『それっぽい跡もあったな』


 ドラクローとヒデは顔を見合わせる。
 この事実が意味するところを、ドラクローが口にした。
 「放送用の映像を作る前から、戦地映像が誰かの手ですでに編集されていた?その編集で、長老たちが日本語で敵意がないと伝えたことを誤魔化したのか!?」
 ドラクローの指摘に、チーフは頷く。
 「お前たちが最初の日曜日に日本語を話していたなら、そういうことだ。俺の見立てでは、編集部はお前たちが日本語を話していたと認識している様子はなかった」
 それはつまり、映像編集部が映像を受け取る前に、誰かがエトフォルテの声を日本語でない何かに吹き替えて、さらにエトフォルテが日本の敵ではない、と訴えた映像を消した可能性がある、ということだ。
 「俺が思うに、その痕跡は編集の判別が厳しいものだった。明らかに編集済みの映像なら、編集部も怪しんで作業をためらったはず。だが判別できない上に時間の制約もあった。だからそのまま作業し、終わってから愚痴ってしまった。すれ違った俺が、一週間後にエトフォルテに行くとは思わぬまま」
 ヒデもドラクローも、シャンガインが戦う場面でBGMをあんなに大きく流したのは、音声を上書きして日本語を話していたのを誤魔化すためだと思っていた。
 だが実際には、放送用の編集を始める前からエトフォルテ人の音声が編集されていた可能性がある。
 それをやったのは誰か?
 シャンガインのマスクやシャンガイオーに記録された映像を管理しているのは、生みの親であるヒーロー庁のはず。
 まさか、とヒデは思う。ドラクローも、そしてチーフも同じことを思ったらしい。
 チーフが再び口を開く。
 「編集前の、正真正銘オリジナルの襲撃映像を最初に編集するチャンスがあったのは、間違いなくヒーロー庁の上層部だ。シャンガインに罰がなかったというのも気になる。あるいは、ヒーロー庁も想像できないような悪党がいて、オリジナル映像を超人的な力で編集したか、だな」
 ヒデは問いかける。
 「チーフ。あなた自身はどちらだと思う」
 「わからない。俺の隠し事はこれで終わりだ。オリジナル映像を知りたいなら、ヒーロー庁にお前たちが直接行くか、どこかの悪の組織を調べてみてくれ」
 チーフの口ぶりと態度に、嘘や隠し事は感じられない。
 ヒデは最後に、さきほど気になった疑問『なぜ今回は生中継ではないのか?』を尋ねた。
 チーフが気まずげに答える。
 「……とにかく俺は仕事が欲しかったから、生中継か録画かは気にせずこの仕事を受けた。受けた後で、行先が千葉県沖のエトフォルテで、録画放送だと知らされた。生中継しなかった理由は、わからない」
 こんなことになるなら、引き受けるんじゃなかった。そう言わんばかりに暗い顔をしてうつむくチーフ。
 ヒデはいったん拳銃を仕舞い、ドラクローに目で合図する。これ以上は聞き出せない、と。
 ため息とともに肩をすくめるドラクロー。
 「仕方ない。尋問は終わりだな」


 スタッフたちは再び安堵のため息。
 命の危険が去ったと思ったのだろう。スタッフ・深沢が媚びるような笑顔で口を開く。
 「なあ。なあ。チーフも俺たちも話せることは全部話した。俺たちはただの映像屋なんだ。シャンガイン達とは全く関係ない。日本語が通じて残忍な獣人じゃないなら、早く俺たちを助けてよ。解放してよ。俺たち何も悪くない。ただカメラ回してただけなんだからさあ。頼むよ、ね?ね?」


 その言葉に、ドラクローの眉がぴくり、と動いた。

 

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