話を少しさかのぼり、土曜日。チーフ高島から説教を受けた後。
エトフォルテの幹部と日本人の仲間は会議室で、シャンガインとターンの遺体への細工について話し合った。
ターン襲撃以前、棺桶か遺体に毒や爆弾を仕掛けて返すこともみんなで考えていた。全面戦争しないまでも、ヒーロー庁の人間が痛い目に合えばいい、と。
しかし、これらの案は取りやめになった。
会議の場で、ドラクローは気まずげに切り出す。
「何を仕掛けても誰かの迷惑にはなるだろうが…。毒や爆弾は違う気がする」
日本人への迷惑を覚悟で戦うとはいえ、誰彼かまわず殺すような細工はやめよう。みんなの意見はそこに落ち着いた。
しかし、手を打たねばヒーロー庁がヒーローを大勢繰り出して攻撃してくるのはわかっている。正面からぶつかれば自分たちは負ける。それだけは避けなければならない。
皆で知恵を絞って意見を出し合った結果、こんな結論にたどり着いた。
・ヒーロー庁と天下英雄党の指揮系統を潰す細工を仕込む。
・同時にこちらの攻撃力を見せつける
結論に至るまでの話し合いで、ヒデは仲間たちに解説する。
「チーフは話の中で
『日本のヒーローの約9割は、ヒーロー庁に登録してルールを守っている』
と言いました。そのヒーロー庁がエトフォルテ討伐の指揮を執っている。
裏を返せば、ヒーロー庁が指示を出せなければヒーローは攻撃できない」
巨大ロボや数多の機動兵器に乗るヒーローの大群を戦わずに封じるには、ヒーロー庁の指揮系統を封じるしかない。そしてこちらの攻撃で、機動兵器を壊せること、ヒーローを殺せることを思い知らせる。
指令室に広げられた日本地図の海上には、エトフォルテと自衛隊・海上保安庁の艦船群の模型が置かれている。そこにヒデは、小さな船の模型を置いて艦船群に近づける。これは、ハイランドスコープ社のクルーザーだ。
「エトフォルテを出たクルーザーは、自衛隊か海上保安庁の船に保護される。
棺桶の存在はヒーロー庁に通報される。問題はそのあとです」
シャンガインとターンはヒーロー庁の育成機関『天下英雄学院』の生徒。間違いなく、ヒーロー庁に棺桶は運ばれる。
「チーフの話から、ヒーロー庁がシャンガイン襲撃で隠し事をしている可能性は高い。
シャンガインとターンのマスクに、
『自分たちに不都合なものが映っているかも』
と思ったら、ヒーロー庁は急いで東京の本庁舎に、棺桶を運び解析にかけるでしょう」
ドラクローも頷く。
「隠し事をほかのやつに処理させるくらいなら、自分たちで直接。というわけか」
さらにヒデは解説する。
「それに、シャンガイン達を送り出したヒーロー庁の面子、意地がある。
棺桶や遺体に細工が仕掛けられている、とチーフたちから聞いて
『細工が怖いから別の研究所でじっくり調査を』
なんて、連中は世間に言いたくない。細工による多少の被害を覚悟して、大至急本庁舎で解析すると思います」
ヒーローの側で働いた経験のあるマティウスは、苦笑する。
「その対応、ありえるわ。
ヒーローは、必要以上に面子や意地にこだわる人が多い。そして、自分たちなら絶対挽回できると思うから、多少のダメージを気にしない前提で、強引に速く動こうとする」
まきなとアルが同意した。
「わかるかも。私もアーカイブでそういう場面を何度も見てきた」
「博士に同じ」
ヒデもヒーローの行動について、反ヒーロー団体の冊子で見聞きしたことがある。面子や意地にこだわり、後先考えずに動くヒーローは少なくないそうだ。
結果、民間人を巻き込んで死なせたり、家屋を修復不可能なほど壊してしまったり。だがヒーロー庁公式放送局はそんな場面を絶対に流さないという。当然だ。流していたら公式放送局はとっくに炎上し、誰もヒーローを信じなくなる。
まきなたちが見たアーカイブにはそうした場面こそないが、公式放送局が『ギリギリセーフ』と判断したものは映っていたようだ。
そして話は、解析に戻る。
ヒデは持ち込まれた棺桶の行く末を想定し、解説する。
「僕たちは遺体を変身後の姿のまま清め、棺桶に入れました。ヒーロー庁は棺桶に細工がないと確認出来たら、すぐ変身デバイスの情報をコンピューターにつないで解析すると思う。マスク内臓のカメラのデータは、デバイスに保存されるから」
うんうん、とタイガが首を縦に振る。
「シャンガインはブレスレット。さっき殺したターンはベルトだな」
シャンガイン達を殺害した直後、彼らが装着していた変身ブレスレット内のデータは、マティウスとタイガたち技の部がすべて改めた。映像や戦闘データを転送されていないか確認するためだ。
シャンガインについては、あの日の謎の妨害電波のせいかデータ転送はされていないことを確認している。同時に、最初の襲撃の映像で手掛かりになるものが残っていなかったことも。
ターンについても、データは転送されていないが手掛かりもなかった。
「解析のタイミングが、こちらにとって絶好の攻撃チャンスです」
ドラクローがぽん、と手を打つ。
「ブレスレットやベルトにコンピューターウィルスを仕込む、ってことだな!」
それに対し、リーゴは難しい顔。
「デバイスにデータが保存される。それ、図鑑にも載っていたぞ。俺がヒーロー庁なら、手口を読む。そしてチーフを問い詰める」
俺もそれ考えた、とは、缶詰工場こと孝洋。
「あのヒーロー庁だ。ウィルスを見つけた後
『デバイスのことをバラしたな!』
とか言って、チーフたちに罰を与えるに違いないよ」
実際に孝洋の実家は、ヒーロー庁による『缶詰に怪物の体液付着の可能性あり』の一言で休業に追い込まれている。
別の懸念を示したのは、まきな。
「ヒーロー庁の情報セキュリティレベルは高い。ただ単にウィルスを仕込んだだけでは、見抜かれて発動前にあっさり駆除される」
「ハイパーシャンガイオーを仕留めた戦術性コンピューターウィルスでも?」
ヒデの質問に、まきなは頷く。
「それで狙われる可能性の高い国家機関よ。シャンガイン戦の後、モルルさんたちに手伝ってもらってウィルスを改良したけど、対策されていると考えたほうがいい」
まだ故郷の星が健在で十二部族が戦争していたころは、エトフォルテでもコンピューターウィルスが情報かく乱のため使われていたという。宇宙船に乗ってからは知的生命体と接触しなかったので、久しく使っていなかった。
シャンガイン戦の後、ヒデはモルルやまきなたちと相談し、アルの戦術性コンピューターウィルスにエトフォルテ流の改良を施してもらっていた。
モルルも懸念を示す。
「チーフたちの責任を軽減してウィルスを発動させるには、彼らも知りえない、なおかつここに普通は仕掛けないだろう、というところに、ウィルスを仕掛けて相手に開かせるのがベストです。どうしましょう?」
なら、こんなのはどう?と提案したのは、マティウス。
「ヒーロー庁の認可を受けてここ数年誕生したヒーローの変身デバイスは、ある程度規格統一されている。それらには、図鑑に掲載されてないシークレットシステムというものが搭載されている。私がユメカムで作ったフェアリン用の試作品にもあるわ。
簡単にいうと、変身デバイスの一番大事なシステムのこと。悪の組織に奪われた場合でも、滅多なことでは解析できないようになっている。
そして、ヒーローのマスクがとらえた映像のバックアップも、シークレットシステムに取られている。そこにウィルスを仕掛けられるとは、ヒーロー庁も絶対に考えない。図鑑でも公開していないし、敵が見られない構造になっている。
最期にシャンガイン達が遺した映像を確認しようと、そこを真っ先にチェックするはずよ」
「そこに仕掛けられますか?」
「言ったでしょう。私の作った試作品にもシークレットシステムがあると。
そして、シャンガイン達のデバイスの中身を“すでに確認した”と」
マティウスは大きく胸を張る。
「タイガ団長たちと、シークレットシステム内のデータを一度改めている。だからいけるわ。
システム内に重要そうな映像データが残っている、と見せかけたウィルスを仕掛けるってことで、どうでしょう?」
おお、とヒデたちは歓声を上げた。
その提案にもうひと手間加えましょう、とモルルが乗ってきた。
「発動したウィルスがヒーロー庁のネットワークから、ヒーローにまつわる重要な情報を扱うコンピューターを選別し、それらを攻撃するよう、ウィルス機能を調整します。新たに調整したウィルスは、そう簡単に除去できない。場合によっては完全破壊もできる。指揮系統は混乱。連中はこちらを攻撃できなくなるでしょう」
具体的にはヒーロー庁、天下英雄党、そして天下英雄学院のコンピューターを標的にする。この調整は、今からやれば明日日曜日の朝までには完了する、とモルルは答える。
いっそ国のコンピューターを全部だめにしては、という意見も出たが、それではヒーロー庁と関係ない国民が困ってしまう、ということで却下された。
日本には自衛隊もあるが、指揮系統が完全に独立しているからヒーロー庁と連携できない。また、自衛隊の戦力ではエトフォルテの光学防壁(シドル)は破れないと、すでにマティウスらが分析している。ヒーロー庁が動けないから自衛隊を、という戦術を、日本政府はとれない。
これならいける、と全員が判断し、ドラクローが会議を締めくくる。
「ヒーロー庁。天下英雄党。天下英雄学院。
連中のコンピューターを潰し、動けなくなった隙に日本の防衛海域を脱出する」
そして、エトフォルテの意志と攻撃力を伝えるために、動画を撮影することも決まった。
ドラクローとヒデにをメインにして、ヒーロー庁向けと一般動画サイト向けに2種類撮影することになった。
ヒーローがエトフォルテを強引に襲ったとわかれば、世論を味方につけてさらに連中を混乱させられる。
何より、能力の底が知れない相手を、人は恐れる。そんな相手に近づけば確実に死ぬとわからせれば、たとえヒーローであったとしても蛮勇をふるえない。
遺体を返せば殺傷力は十分見せつけられる。だから、動画ではハイパーシャンガイオーを壊した画像を見せる。アルの戦闘記録を皆で見返し、”首だけ画像”がうってつけだと選択した。
いろいろ考えた末、ヒデは撮影室の背景を真っ黒にし、ドラクローと中に入った。
ドラクローが、ヒデのセッティングした真っ黒な撮影室の中を見回す。
「ヒデ。なぜ背景を真っ黒にするんだ?」
ヒデは説明する。
「黒はしっかりした印象を与えると同時に、見た人に底の知れなさを与える色。
黒い背景の中から男が現れて、ゆっくりと語りだす。すると、見ている人は自然に引き込まれる。ミステリアスな色と語りの相乗効果を一番引き出すのが、黒です」
そういうミステリードラマが昔あり、中学のころ映画研究部で和彦が頻繁に見せてくれた。
『ミステリー冒頭の語りで見た人の心を掴むなら、背景は黒一択!!間違いない!!』
彼は黒い背景の効果をそう語っていた。
「たしかに。エトフォルテが底知れない存在だと見せつければ、連中は戦うのをためらうかもな」
ドラクローはヒデの案を受け入れてくれた。
「なあヒデ。底知れないついでに、連中に対しできることはないか?こっちの事情を説明しただけじゃ、味気ない」
少し考えてから、言った。
「ならばヒーロー庁用の映像で僕は、見た連中が言いそうな言葉を挑発的に読み取ってやりましょう」
「どらああ!そんなことできるのか!すごいな、ぜひやろう!」
想像以上に、ドラクローが提案に乗ってきたので驚いた。
気を取り直してヒデは言う。
「やるのは初めてですが、TVや本で、ヒーロー庁の要人の人となりはおおむね把握しています。だから言動もある程度想像がつく。連中は心を読まれたことを恐れるでしょう」
これも、和彦が黒い背景の効果とともに、教えてくれたことだ。
『俺の好きなミステリードラマの主人公。冷静で頭が切れて、それでいてちょっと挑発的な振る舞いが特徴なんだ。
ここぞというタイミングで、犯人の台詞を先読みしたりしてな。犯人をイラつかせて生の感情を、秘密をぶちまけさせて追い詰めるんだ。この演技は悪役にも活かせるぜ』
映画研究部時代に学んだ技術と知識をフルに使って、敵にとって最もいやらしい形で、胸の内を暴く男を演じてやろう。
そして、事が成った日曜日。記者会見の後。
動画サイトやネットニュースにおけるコメントを見ながら、エトフォルテ人たちは笑顔で感想を口にし、嬉しそうに尻尾を揺らしている。
批判的なコメントは少なくない。だが、残忍な宇宙獣人から一転、福の神とたたえるコメントも多い。
「『団長の顔、男前だった』
『うちの兄、いい体だ!って褒めてた』
だってさ、兄貴。照れちゃうなあ」
「お前が照れてどうすんだ」
なぜか照れ照れするタイガを、笑顔で小突くドラクロー。
一方、顔を曇らせるジャンヌ。
「ヒデのことは、
『手口が邪悪。悪の軍師ヒデめ!!』
『同じ名前の人が可哀そう』
『全国のヒデ氏へ風評被害が!!』
…なんか、腹立つなあ。皆で考えた策なのに、ヒデだけが悪いみたいじゃん」
「仕方がありません」
覚悟していたことだが、ヒデは今更ながら奇抜な偽名を名乗ればよかった、と後悔した。日本中の“ヒデ”氏に申し訳なく思う。
でも、とムーコが慰めてくれる。
「『策略に秀でてそうな感じではある』
『意外といい人なのかも』
って意見もあるし、福の神とも書かれてるし。
応援してる人もいる。だから、大丈夫だよヒデさん」
ヒデは微笑んだ。
「ありがとうございます」
今度はハッカイが、ヒデに問いかける。
「税金のシステムをぶっ壊しちまうとはよお。日本人、これも計算のうちか?」
「いえ。完全に偶然でした」
コンピューターウィルスは天下英雄党、ヒーロー庁、天下英雄学院の情報を優先的に狙うようにしたが、ヒーロー税のことは考えていなかった。ウィルスが、ヒーロー税は重要な情報だと判断、攻撃したに過ぎない。
「これだけ喜ぶ人が多いってことは、みんな高いと思ってたんだな」
カーライルの呟きに、威蔵が答える。
「今年は余剰税が7,8年分は余っていたと聞いている。
悪の組織が毎年現れるから、備えるために高めに設定したと国は言っていた。備えは必要だが、多すぎだ」
ヒデの周囲でも、高いという声は絶えず上がっていた。18歳になってから、和彦ら地元にいた同級生たちは6月になるとみんな憂鬱な顔をしていたものだ。もちろん自分も。
気まずげに笑って、まきなも同意する。
「ちょっと前までヒーロー庁にいた手前、気まずいけど…。私も高いと思ってた、ヒーロー税。
アルを生み出すために力を貸してくれたから、ヒーロー庁には感謝もしていた。でも…。今までみんなが払っていた税金を使って、私より前に始末された人もいたかも…」
アルはヒーロー庁の計画で生まれた。言論封殺という裏の目的を隠して。それにヒーロー税が使われていたことを思うと、まきなの中では気まずさと恐ろしさが沸き上がっているようだ。
そんなまきなの手を、アルがそっと握りしめる。
「大丈夫です。博士には私がいます」
ドラクローが質問する。
「博士。さっきTVに出ていた名誉長官が、博士を勧誘したのか?」
「いいえ。勧誘に来たのは、首都防衛を担当している七星部長よ。
優しそうでいい人だと思っていた。アルが活躍すれば義肢開発のはずみになる。高性能な義肢が身近になる、それが困っている人のためになると言って、私を勧誘して応援してくれたのに…」
技の部の技官が端末を操作し、七星の顔写真を映す。
イケメンヒーローの先駆けだけあり、20年近くたった今でも、素顔は優しさと力強さをたたえている。
孝洋が言う。
「この顔で、博士をだましてアルに言論封殺させようとはなあ。イケメンのくせに、許せないなあ」
人は見かけによらないものである、と口に出さずヒデは思った。今の自分も、偉そうに言える立場ではない。
「孝洋の言うとおり。敵として戦うことになったら、真っ先にこいつ毒撃してやる」
ジャンヌが憤りを示すと、みんなも同意してまきなを励ました。
しばらくしてから、ハウナが再びヒーロー税について指摘する。
「ネットで言っちゃうのもいいけどさ。税金の高さを表立って抗議する人はいなかったの?」
ヒデは自分の知る限りの情報を説明した。
「天下英雄党でも高いという人は少なくなかった。今日の放送には出席していない甘坂統制長官の一派です」
指令室の端末に、甘坂の知的で冷静な顔が映し出される。
「だけど、雄駆名誉長官がアドバイスを聞かず強引に今の額を維持していました。あの顔でにらまれて、ほとんどの新聞やTVは黙らされた。その不満はずっとネットでくすぶっていた、というわけです」
「その強引名誉長官。ネットで文句言った人を罰したりしない?」
ハウナの心配はもっともだ。
「直接国に害を与える発言や計画を載せなければ、大丈夫だと思います」
国はヒーローのことで都合が悪くなると、反抗的な人を事故に見せかけて始末する、という都市伝説はヒデも知っている。実際、ヒデの地元からの苦情を国に伝えた役人は死んだというし、まきなの一件もある。過激な批判団体が処罰された例もある。
ネットで不満をぶちまけた人たちの今後が心配だ。しかし、ネットのあちこちでヒーロー税の高さを指摘し、エトフォルテへの対応を疑問視する声は、すでに万単位に達している。そして動画サイトに投稿したものは世界中の人が見ている。この状況では全員を始末することも、特別刑務所に収監することもできないだろう。
一方、タイガは首をかしげている。
「ヒデの資料やネットで見ると、ヒーロー庁より天下英雄党のほうがホントは立場が上みたいだぞ。名誉長官が税金の額を決めるのって、変じゃない?」
それに答えたのは、マティウス。
「高鞠総理はそれに従った。ヒーロー庁と天下英雄党の結成には雄駆、高鞠の両名が関わっている。
よく言えば二人は仲良し。悪く言えば主従関係。総理は名誉長官の舎弟だという人もいるわ」
ドラクローは端末に映し出された高鞠と雄駆の顔をにらみつける。
「つまり、最初のシャンガイン襲撃がヒーロー庁の陰謀で隠し事があるなら、知っているのはこの二人か」
ヒデは肩をすくめる。
「今回の一件が成功したのを見るに、隠し事は間違いないと思います。
ただ、その詳細がわからない。チーフの言うとおり、ヒーロー庁の想像を超える悪党が介入した可能性もある」
これは今後も調べなければならない。
だが、まずは
「謎を暴くより先に、日本を離れてエトフォルテの修理。だな」
ドラクローの言葉に、全員が頷いた。
そして翌日。月曜日の早朝。
指令室で、ヒデはドラクローたちと行先の最終確認を行った。
「すでにシャンガインとターンを撃破し、戦うのは危険だと連中は認識した。そして、例のコンピューターウィルス。当面はこちらに手が出せなくなるでしょう」
日本の防衛力が及ぶ海域は法律で決まっている。例の船舶航行を制限しているクリスティア王国南側すれすれを通るようにすれば、謎の海流とやらがさらにヒーローたちの追撃を阻むだろう。
あの動画を見たヒーロー庁は、巨大ロボを粉砕する恐怖の手段をエトフォルテが持っていると知ったはず。連中は、コンピューターウィルス解消とエトフォルテ対策にじっくりと時間を割くだろう。そうなれば、少なくとも1か月程度は追撃までの時間を稼げると、ヒデは仲間たちをともに見込んでいた。
何より動画を見た人が大勢いる今、強引にエトフォルテを攻撃することはできなくなったはずである。
ドラクローが今後の方針を説明する。
「俺たちは推進翼と対空砲台を修理し、新天地探しを再開するための水と食料を確保する。
行先は、宇宙人との付き合いが深いというアメリカだ。そして修理を進めながら、衛星兵器の謎を解く」
修理と聞いて、担当主任のリーゴは再び難しい顔。
「修理が一番の難題だ。技術者は問題ないが、資材がない。あそこまでのダメージは、想定していなかった」
「主任。難しいことだけど、みんなで頑張ろう。エトフォルテのために」
ドラクローは、指令室に集まった皆を見渡す。
「仲間を守ること。新天地を探すこと。俺たちはエトフォルテの、十二兵団の魂をもって最後までやり抜く」
エトフォルテの仲間たちが、力強くうなずく。
「そしてヒデ。日本から加わってくれたみんな。これからも、よろしく頼む」
「もちろんです」
ヒデが日本の仲間を代表して、ドラクローと握手を交わした。
力強く、暖かい手。ドラクローから、新たな力を分けてもらえたように、ヒデは感じる。
日本と、そしてエトフォルテの仲間たちも微笑む。
不安と期待、そしてゆるぎない魂を乗せた船の、新たな旅立ちだ。
ドラクローが叫ぶ。
「エトフォルテ、発進!!」