エトフォルテ防衛戦線ヒデ! 第51話 破壊の鼓動に終止符を

 リルラピスの提案を解説するため、パズートが写真を10枚持ってきた。
 魔術機構によるカメラが、クリスティアにはある。日本で言えばインスタントカメラ風の外観で、郵便葉書サイズの特殊紙をカメラに差し込み、魔力を流すと光の魔術が発動。風景を色鮮やかに特殊紙に焼き付けるのだ。
 パズートが言う。
 「これから見せるのは、北部の採掘場の写真だ。まずは、3年前に撮った5枚の写真を見てくれ」
 そこには、緑豊かな森林に囲まれた、石造りの神殿が映っている。神殿から少し離れた場所はすり鉢状にへこんだ盆地で、採掘場らしくトロッコやツルハシが映っている。採掘場自体は、それほど大きくない様に見える。なお、採掘場周辺は『聖域』と呼ばれているそうだ。
 「この採掘場では、我が国の重要施設で『クリスティウム』と呼ばれる天然の魔力鉱石が唯一採れる。大型の魔術機構などに使われる、大切な鉱石だ」
 ドラクローが首をかしげる。
 「魔力は心の力だろう。なぜ鉱石に宿る?」
 「それはあとで説明する。残る5枚の写真を見てほしい。同じ場所を3か月前に、ワシ達の放った斥候が撮影したものだ」
 3年前の光景は見る影もない。
 神殿は壊され、森は大きく切り開かれている。拡大した採掘場には日本から持ち込まれた作業用の機械やトラックが何十台も並び、現代的な宿舎も建てられている。機械の周囲では、作業着を着た囚人風の人たちが働いている。
 ヒデは気になった点を質問する。
 「パズートさん。3か月前の写真で作業している人たちは、騎士タグスの話にもあった、首都で捕まった人たち“だけ”ですか」
 おそらく、それだけではないとヒデは考えていた。
 「クリスティア人もいる。しかし、労働者の半分以上は、日本人。ブロンとユメカムに監視されて強制的に働かされている」
 強制的、という言葉に、この場にいる日本人全員の表情が引きつった。
 「……やはり。クリスティアで機械や車の操縦ができる人は限られる。できる人たちをすぐに増やそうと思ったら、日本から連れてくるしかない」
 そうつぶやくヒデも、平静を装う仮面の内側では、完全に顔が引きつっていた。
 パズートの解説は続く。
 「昨日襲ってきた監督官のような連中が、採掘場を仕切っている。作業している日本人の大半は、監督官に酷使され苛め抜かれている。復興支援で我が国に来てくれた人たちが、無理やり……」
 クリスティアでの復興支援を考えていた孝洋は、到底信じられない、という顔。
 「いくらユメカムがヒーロー庁公認の企業とは言え、日本人に無理やりこんなことをさせたら、世間が気づくじゃないか!?」
 そう。“無理やりこんなことをさせたら”誰だって気づく。
 ヒデはここで、恐ろしい推論に至る。推論を、全身に嫌な汗を流しながらも、口にしていた。
 「最初は、無理やりではないのかも。孝洋君のように復興支援を申し出た人たちを、クリスティアに普通に送って、頃合いを見てから無理やり採掘場に……」
 「嘘だろおヒデさん!?復興支援の仕事は、農作業や土木作業がメインって……。こんなのはマニュアルになかったよお!!」
 孝洋の叫ぶとおり、ヒデも冗談だと思いたかった。
 だが、リルラピスたちが制止しない。
 さらにヒデは、いつか見た飲食業の業界誌を思い出す。
 グレイトフル・フェアリンの一人、『フェアリン・エクセレン』こと素薔薇椎奈の父は、農業大臣でもあった素薔薇晴夫。業界誌は初期の復興支援にも触れていた。
 「たしか素薔薇晴夫が農業大臣だった縁で、この国に試験農場を作ったはず。バルテス国王は復興支援の当初、日本から農業と土木支援の人材を大々的に募った、と見聞きしたのですが」
 試験農場が作られる土地は、河川の氾濫で困っていた土地だ、と聞いている。そこに農場を作るためには、河川を工事し用水路を整備しなくてはならない。
 リルラピスが頷く。
 「ええ。本島西部に、河川環境の改善と食料の安定供給を目指したものが。父が中心になって整備したこともあり、そこはまともに機能していましたが……」
 顔を曇らせるリルラピス。
 ヒデの最悪の推論は、的中した。
 「やはり、農場から?」
 「父の死後、採掘場の急拡大のために、農場の作業員たちが無理やり駆り出されていると斥候から報告が。農場に残っている日本人は、採掘作業に耐えられない高齢者や女性だけ。監督官たちに監視され、閉じ込められている、と。そして採掘が進むにつれて、地震の頻度が増えてきました」
 リルラピスの解説に、とうとう耐えきれないという顔で孝洋が叫んだ。
 「ふざけんなユメカム!!ブロン、馬鹿!!人がやることかよ!!」
 ヒーロー庁と因縁を持つまきなも、困惑を隠しきれない。
 「信じられない。日本政府とヒーロー庁は、そんな企業にお墨付きを!?」
 あああ、と、絶望的な声を上げて、孝洋が泣き出した。
 「実家とエトフォルテのことにはむかついたけど、俺、ヒーロー庁とユメカムはまともにクリスティアの復興支援していると信じてたんだ。俺も復興支援に行きたかったんだ。なんて馬鹿なことをしてるんだ。復興支援を志した、同じ日本人にこんなことをして。俺は、日本人で申し訳ないぃ……」
 最後のほうは、もう言葉になっていなかった。
 ジャーナリストのジューンが、苦り切った顔で言う。
 「農業や土木業に従事する人間は、体力と作業機械の操作能力が求められる。それなら採掘もできると、連中は拡大解釈したのかも。それでもこんな働かせ方、違法よ」
 海外のマスコミに取材制限をかけた理由は、昨日の様な横暴だけではない。強制労働を隠すためでもあったのだ。
 こんな状況を、ユメカム一社だけの力で指示し隠しきれるわけがない。日本政府とヒーロー庁が間違いなく絡んでいる、とヒデは思う。政府経由で発表される情報がいいことづくめなのも、きっとそのせいだ。

 ドラクローはクリスティアの者に何か言いたげだが、うまく口にできないらしい。
 エイルが口を開く。
 「ドラクロー団長。『あんたたち、知っててほったらかしたんじゃねえのか!』とでも言いたげですわね」
 お嬢様口調の中に、本格的に荒っぽい男の口調が混ざった。熟練した演技派の空気をエイルはまとっている。
 気まずげなドラクロー。エイルも気まずげだ。
 「私たちもほったらかしにするつもりはなかった。日本でブロン暗殺成功と首都での一斉蜂起にあわせて、採掘場と農場に攻め込む手はずを整えていましたわ」
 それができなかった理由は、わかっている。
 エトフォルテが日本近海に墜落し、ブロンが日本に行かなくなったから。だからリルラピスたちも動けなくなってしまったのだ
 リルラピスらも気まずげだ。クリスティアとエトフォルテの事情が別物だと、わかっているからだろう。
 リルラピスが言う。
 「試験農場と河川工事で、日本の人たちはみんな貢献してくれました。だから私たちも助けたかった」
 だがタイミングを誤れば、常駐しているブロンの部下とユメカムは口封じで日本人を皆殺しにしかねないと判断し、一斉蜂起のタイミングに合わせたという。
 悪人による口封じの決まり手は、現実でも映画でも『死人に口なし』だと、昔和彦が語っていた。異世界でも同じらしい。
 気まずい空気を切り替えるべく、ヒデは話題を変えた。
 「採掘場と農場に攻め込むための戦力は、健在なのですか」
 ウィリアムが答える。
 「採掘場と農場付近の山中に、全員待機している。うちの父が鍛えた精鋭たちさ。うちは弓術士、狩人の家系でね。山間部での潜伏戦に強いんだ」
 採掘場にはブロン派につかまった騎士たちも送られており、反乱を警戒してか非常に警備が厳しいという。
 一方農場は、ほとんどが日本人で女性と高齢者だけ。採掘場に比べれば、農場の警備は手薄らしい。
 ウィリアムが言う。
 「北部の採掘場を開放すると同時に、西部の農場にいる警備兵を叩きのめして日本人を避難させる。農場は警備が手薄だから、潜伏中の部隊だけで対処できると思う。問題は採掘場だ。採掘を早く止めないと、地震が止まらない。さらに大変なことにもなる」
 そこに、ハッカイが割り込む。
 「弓使いの兄ちゃんよ。ユメカムが悪いとか、日本人を助けたいのはわかったけどよ。なんで、採掘が進むと地震が増える?」
 ウィリアムがリルラピスに目配せする。
 直後のリルラピスの回答は、エトフォルテ側の者たちを唖然とさせた。



 「採掘場のある山の地下には、破壊神が眠っていると言われています」



 破壊神。



 リルラピスのその言葉はあまりに唐突すぎて、ドラクローは一瞬、冗談ではないかとさえ思ってしまった。
 ヒデも同じらしい。仮面をかぶっていなければ、呆れた顔が丸見えだったろう。
 事実、顔に出してしまった者もいた。
 「唐突すぎる冗談だなあ、王女様」
 ハッカイが苦笑いを浮かべ、ダイレクトに言ってしまった。
 しかし、リルラピスの顔は神妙なまま。ドラクローはただならぬ雰囲気を感じ取る。クリスティアの者たちの顔が、真剣そのものだ。
 「ハッカイ先輩。唐突だけど、かなり危険な話の様だ。王女様の話を、最後まで聞いてみよう」
 ドラクローはリルラピスに解説を促す。
 リルラピスは、静かに語り始めた。

 「まだ、クリスティアが地球に転移する、ずっとずっと前の事です。
 どこから来たのか、なぜ暴れたのかはわかりません。その破壊神『デストロ』は現れました。
 デストロは、破壊の限りを尽くして、この国を壊そうとしました。当時のティアンジェルたちも、王国の騎士たちも懸命に戦いましたが、完全には倒せなかった。
 最後の戦いで、ティアンジェルと騎士たちは、国を守るため命を投げ出した。
 己の体を大地と一体化し、魔力鉱石と化した。そして極限まで弱体化させたデストロを大地の下に閉じ込めた。そう言われています。その最後の激戦地こそが、北部の採掘場なのです」
 ティアンジェルを含め、1万人以上の騎士、兵士がその身をささげたという。壮絶な戦いの記録に、エトフォルテの者たちは息をのむ。1万人と言えば、エトフォルテの今の人口とほぼ同じだ。
 「魔力鉱石『クリスティウム』には、かつてのティアンジェルや騎士たちの、デストロを封じ込め、すべての人々を守ろうとした力と心が溶け込んでいる。本来、人間にしか宿らない魔力を含有しているのも、それが理由です」
 ドラクローは呟く。
 「魂が溶け込んだ鉱石。だから魔力が宿るのか。人を守るための、力が」
 ドラクローが先輩たちを想うように。
 ヒデたちにも大切な人がいるように。
 異世界のクリスティアでも、誰かを大切に思い、身体を張ろうとする魂は、受け継がれて力になる。鉱石になるのは驚いたが、ドラクローは驚きよりも、共感が勝った。
 リルラピスはさらに解説する。
 「クリスティウムには、人間の爪や髪に似た修復力が宿っています。削られても、鉱脈は少しずつ戻っていくのです。私たちはクリスティウムを使い、魔術を、国を発展させてきました」
 ヒデが率直に感想を述べる。
 「枯渇することがないのですか」
 「そうです。クリスティアの発展は、クリスティウムなしにはあり得なかった」
 「まさに夢の資源ですね」
 ドラクローもそう思う。
 しかし、
 「うまい話ばかりではない。そうですね、王女様」
 ヒデはずばり、自分の思っていることを言った。
 リルラピスが表情を引き締める。
 「そうです。修復力には限界がある。鉱脈を削りすぎれば、封印が弱まりデストロが復活するおそれがあった。だから代々クリスティア王家は、クリスティウムを必要以上に採掘することを禁じました」
 先祖たちは、デストロを封印した真上に神殿を建てた。神殿で儀式を行うことでクリスティウムを活性化させ、デストロの再生を抑えるために。さらに周囲に植樹し、森を生み出した。神殿一帯を『聖域』とし、国の健やかな発展と豊かな自然の象徴となるように。
 そうやって、クリスティア人は生きてきた。
 だが4年前、魔王メノーの陰謀でクリスティア王国は日本近海に転移した。
 神器を引き継いでティアンジェルになったのは日本人。
 復興支援と称してやってきた日本企業。企業を許可した日本政府。
 さらにバルテス国王の死で、すべてが変わってしまった。


 リルラピスの話を、パズートが引き継ぐ。
 「地球に転移し、多くの国から高値で取引を持ち掛けられたが、バルテス国王は絶対にやってはいけないと、クリスティウムの採掘量を増やさなかった。デストロのこともあるし、採掘量を増やすためには聖域周辺の森を切り開かなければならぬ。自然を壊すことが将来に禍根を残すと、王様は危惧されたのだ」
 ヒデが尋ねる。
 「取引を持ち掛けられたということは、クリスティウムには地球の生活に役立つ要素がある、ということですね」
 「そうだ。雷の魔術機構に使用した場合、クリスティウムに含まれる魔力は地球で言うところの電気エネルギーを生む」
 パズートによると、クリスティウムは握り拳サイズでもかなりの魔力量を持つ。日本の科学者立会いの下分析すると、握り拳サイズの鉱石から日本の一般住宅一戸における電気エネルギー5年分が余裕で生み出せる、と判断された。しかも、エネルギーに転じる過程で有毒物質を一切出さない。
 「さらに、石炭と錬成することで、有毒物質を出さない石炭が出来上がる。軍師たちが昨日乗った機関車の石炭がそれだ。クリスティウムには、物質の特性をクリーンに底上げする効能もある」
 科学雑誌出身のジューン、驚愕し興奮。パズートに抱き着きかねない勢いで身を乗り出す。
 「ドラマティック!!ファンタスティック!!そんなすごい鉱石の情報、日本でもアメリカでも出回ってないですよね!?」
 パズートは答える。
 「電気エネルギーに変換するための魔術機構や錬成は、我が国の4級以上の魔術師でないと制御できない。地球人が魔術を覚えるにしても、長い時間がかかる」
 ドラクローは気になった点を聞く。
 「級。魔術師には等級があるのか?」
 「ある。戦闘用魔術を行使し、精密な魔術機構を製作・制御するには、高度な修練が必要。我が国の魔術師は免許制だよ」
 職業としての魔術師は全11級からなる免許制で、最初は10級から。最上位は特級。この手の魔術機構を使うには最低でも4級以上でないといけない。
 ちなみに、7級は騎士として活動するために最低限必要な級でもある(8級以下の魔術師免許でも騎士団で働けるが、『騎士』とは名乗れない)。
 この場にいる仲間では、リルラピスとエイルが特級。グラン、ウィリアム、アレックスは1級。パズートは3級だそうだ。
 「等級はさておき。魔術を覚えないとクリスティウムを扱えないと聞いた地球の国々は、魔術習得を面倒だと思った。視察に来た人の大半は取引をあきらめた。情報が出回らなかったのはそのせいだ」
 だが、取引をあきらめなかった国が一つだけあった。日本だ。
 そして、取引をあきらめなかった男が一人だけいた。ブロンだ。
 地球に転移してしばらくすると、彼はクリスティウムを輸出し、富を稼ぐべきとずっとバルテス国王に主張し続けた。王室の人間でありながら、ブロンはデストロも自然破壊もどうでもいい、と言わんばかりの振る舞いを続けたという。
 「そしてバルテス国王が亡くなりワシらを追い出してから、ブロンはクリスティウムの採掘量を一気に増やしたのだ。ユメカムが持ち込んだ、数多の機械を使って」
 その結果が、荒れ果てた聖域の写真だ。
 リルラピスは言う。
 「破壊神の活動を抑制するクリスティウムの量が減ったから、破壊神が地下で動き始めた。私はそう考えています。斥候からの報告では、採掘場周辺の揺れが圧倒的に強い。採掘場周辺に地震を引き起こす火山もない。私たちも伝承でしか知らないけれど、代々王家が国民を守るために引き継いだ伝承に、偽りはないと信じています」
 リルラピスはクリスティアの仲間を、そしてエトフォルテの者を見つめ、これからの計画を語った。
 「採掘場と農場にいる人たちを救い、保護する。採掘作業が止まれば、クリスティウムが再生してデストロの活動、すなわち地震も治まるはず。
 首都に攻め込むのは、そのあとにしたいのです。クリスティア人のためだけではない。日本人のためにも、そうしたい」
 なぜなら、と続ける。
 「父と一緒に日本を訪れた時、日本の人たちは私たちに親切にしてくれました。
 試験農場のおかげで氾濫が無くなり、安心して暮らせる人も増えました。作業機械のおかげで、この地域の復興も進みました。父は、日本人を信頼していました。
 ユメカムの振る舞いは許せない。だけど、日本人がみんな同じと思いません。だから、助けたい。父が信じた日本人への想いは、私が受け継いでいく」
 リルラピスの言葉には、力がこもっている、とドラクローは感じる。
 優しく強い、リーダーとしての力が。

 ドラクローは、ふと呟いていた。
 ジャンヌの兄ジャッキーの言葉を。
 「仲間のために精一杯頑張る姿は、人を伝わる。その先に、魂のつながりが生まれる」
 おや、という顔で、パズートが問いかける。
 「ドラクロー団長、それは?」
 「俺の大切な先輩の言葉だ。今俺は、エトフォルテの修理とかを抜きにして、王女様。改めてあなたと一緒に頑張りたい、と思ったよ」
 自分たちがスレイやジャッキーの魂を継いでいくように、リルラピスは父の心を継いでいこうとしている。
 彼女についていくグランやパズートらも、リルラピスの頑張りを信じている。
 はじまりは、エトフォルテに流れ着いたグランへの疑いだった。だが今自分は、自分たちは、リルラピスたちの魂に恥じない生き方をしたい。
 ドラクローの覚悟は決まった。
 「分かった。採掘場と農場の解放をエトフォルテは支援する。いいよな、みんな!!」
 仮面のヒデが頷き、ムーコが笑顔を見せる。
 「ドラくん、そうこなくっちゃ!!王女様、一緒に頑張りましょう!!」
 ハッカイは苦笑い。
 「とりあえず、破壊神とやらが出てくる前にすませてえ。ところで王女様。破壊神てデカイのか?」
 リルラピスが答える。
 「伝承における大きさを地球の単位に直すと、空に浮かぶ300メートル近い大きさの巨人だと…。もう少し大きいかもしれません」
 海に浮かんだエトフォルテの、外から見える部分で一番高いところが地球単位で200メートルくらいだったか、と、ドラクローは思い出す。明らかに、エトフォルテより大きい。
 それだけの高さの巨人が大地を突き破って現れたら、どうなるのだろう。リルラピスらが復活を恐れるのもわかる。
 いや。それ以上にリルラピスはまずいことを言っていなかったか?
 「破壊神が空に浮くって……、飛ぶってことか!?」
 「王室にある古文書の絵では、羽もないのに空に浮いた、と記録されていました。古文書がここにないので、私の記憶ではこれ以上わかりません」
 破壊神の詳細がわからない以上、相手にするのは危険すぎる。
 ハッカイの言う通り、デストロが現れる前に採掘場を解放しなければ。
 ドラクローはジューン、まきな、アルのやる気を確かめ、最後に孝洋。
 「孝洋、やれるか?」
 クリスティアに日本の乗り物が持ち込まれているということで、孝洋は志願してくれたのだが。さっきの話のショックが大きすぎるなら、エトフォルテに返したほうがいいかもしれない。
 ドラクローに聞かれた孝洋は、涙を拭いた。
 「団長。初めて会ったとき俺に言ったろ。『人助けは宇宙の真理だ』って」
 「言ったな」
 「王女様たちが日本人を助けると決めてる。団長たちも。だったら俺もやる。俺一人宇宙の真理に背くような真似は、恥ずかしくてできないよお」
 「無理してないだろうな」
 「今は、何もするな、って言われるほうが無理だ。俺はたいていの車両が運転できる。任せてよ」
 それに、と孝洋は自分に言い聞かせるようにして、言う。
 「今は、戦わなきゃ守れない時なんだ」
 物見遊山で缶詰工場から来たわけでないのはわかっていたけれど、ドラクローは孝洋の表情に一瞬すさまじい凄みを感じた。

 凄みに呆気にとられた直後。
 エトフォルテの持ち込んだ通信機から、甲高い第一種警報音が鳴り響く。
 全員の顔に緊張が走る。
 通信機から、グランの声。

『こちらグラン・ディバイ。オウラムの本部、聞こえますか?我々は、ブロンたちの増援部隊とトンネルで交戦しました!!』



 

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