第二部 蠢(うごめ)く悪意とつながる想い
第25~26話
シャンガイン全員死亡の知らせは、すさまじい衝撃をもって日本を揺るがした。
今、日本は国民がヒーローのために高額の税金を払う国。政治を担う与党は、ヒーローによる日本防衛を支持する「天下英雄党(てんかえいゆうとう)」。天下英雄党は、ヒーローを束ねる公的機関「ヒーロー庁」のボス、雄駆照全(ゆうく・しょうぜん)永世名誉長官を絶対視する。名誉長官は日本初のヒーロー、仮面の戦士『マスカレイダー・ゼロ』でもある。
名誉長官はシャンガインたちの死を悼み、エトフォルテへの怒りをあらわにする。
しかし天下英雄党の甘坂冴恵(あまさか・さえ)統制長官は、
「敵意がないと訴えたのに、一方的にシャンガインに襲われた」
というエトフォルテの言い分から、ヒーロー庁の行いに疑問を呈する。
結局、名誉長官は疑問に答えることなく、シャンガインと同じ養成機関『天下英雄学院』から新たなヒーローをエトフォルテ打倒のために送り込む!と強引に、もとい『英雄的に』決定した。
第27~30話
シャンガインに勝利してから4日後。日本を離れ宇宙人との交流が深いとされるアメリカを目指すことを決めたエトフォルテ。
応急修理がじきに終われば海上航行はできるが、完全修理には資材が足りない。本当にアメリカで修理できるのか、これ以上強力な敵が襲ってきたらどうするか。不安は尽きないが、みんなで協力して頑張ることをヒデたちは話し合う。
さらに2日後。エトフォルテの子供たちの気分転換もかねて、ドラクローは日本で手に入れた野菜を植える種まき会を実施する。種まきを指導するのは剣士の威蔵。種まき会を通じて、ドラクロー、ムーコ、ジャンヌは、寡黙な威蔵の意外な一面を知る。威蔵は、エトフォルテの子供たちに結構ウケた。
同じころ、ヒデはタイガ、マティウス、孝洋らと新兵器の試射会を実施。休憩中、なぜ日本は日曜日になるとヒーローと悪の組織が暴れ出すのか、という話になった。
日本には、日曜日が近づくとヒーローや悪人の闘争本能が強くなる『サンデーファイト理論』なるおかしな傾向がある。このまま日本近海にいたら自分たちもおかしくなるのでは、と恐れを感じるエトフォルテ人。
ヒデが説明に困る中。タイガは、
「オレたちの魂や信頼関係は、日曜日の空気とヘンテコ心理学に負けるほどやわじゃないはずだ」
と、サンデーファイト理論に惑わされない決意を示し、皆を安心させた。
同時刻。新たな日本のヒーロー『マスカレイダー・ターン』が、撮影業者を引き連れてエトフォルテに接近。ターンは問答無用でエトフォルテを襲ってきた。
完全にエトフォルテを馬鹿にするターン相手に、ヒデはエトフォルテ襲撃に関する情報を引き出そうとするが、ターンは何も知らないようだ。容赦なくエトフォルテを攻めようとするターンに対し、エトフォルテも容赦をしない。ヒデはターンを完封する策を実行した。
第31~32話
マスカレイダー・ターンを始末し、エトフォルテはターンに同行した戦地撮影業者を生け捕りにした。
ドラクローとヒデは業者『ハイランドスコープ社』の面々に、シャンガイン襲撃について尋ねる。襲撃時の映像にはBGMが大音量でかぶせられ、エトフォルテ側の声がかき消されていた。業者なら、BGMをつける前のオリジナルの映像について知っているのでは、と思ったのだ。
だが業者は知らない、助けてくれと叫び、おびえるあまり泣き出す者もいた。業者のリーダー、高島(通称チーフ)はドラクローとヒデに正面から向き合い、
「オリジナルの映像は見ていない。嘘はついていない」
とはっきり言い切る。
ヒデはチーフの内心を探るため、全員生かして解放する、と宣言。すると高島の視線が不自然に動いた。ヒデはチーフに銃を突きつけ、隠し事をしただろう、と厳しく問い詰める。
チーフは隠し事を打ち明けた。
シャンガインとの決戦前日、チーフは戦地撮影の仕事をもらいにヒーロー庁の庁舎にいた。そして襲撃映像を編集した編集部員達の会話を偶然聞いてしまった。
編集部員はぼやいていた。特番としてあの映像を編集する前から、何かしらの編集をした痕跡があった、と。そして彼らは、エトフォルテが日本語を話していたと認識している様子は全くなかった、という。
チーフは自分の見立てを語る。
「エトフォルテ人が日本語で敵意はない、と訴えたオリジナルの映像を、誰かが編集して日本語ではない音声に吹き替えた可能性がある」
この事実に驚くドラクローとヒデ。結局それ以上のことはわからなかったが、ヒーロー庁が何かしらエトフォルテに対し嘘や隠し事をしている可能性は見い出せた。
直後、業者の不用意な一言にドラクローは激怒。何でもヒーローの都合が優先される日本の現実と、それに黙って従うチーフたちを、同席するヒデの怒りもあおって八つ当たり同然に責めてしまう。
チーフはドラクローの怒りに向き合い、この国でエトフォルテの信念や理想が通じない現実をわかってほしい、と告げる。
チーフのしっかりした態度を見て、ドラクローは反省する。そして“あること”を高島に依頼した。
第33~36話
ターン敗北の翌日。
ハイランドスコープ社の面々は、レギオン・シャンガインとマスカレイダー・ターンの遺体を納めた棺桶をドラクローに託され、エトフォルテから解放された。
ヒーローたちの遺体が戻ってきたことを聞いた雄駆照全名誉長官は、遺体を今すぐ解析するから、ヒーロー庁の本庁舎に運ばせるよう、防衛対策部長の七星篤人(しちせい・あつと)に指示を出す。七星はエトフォルテ側の妨害工作を警戒し、遺体の解析は別の場所でやるべきだと主張したが、名誉長官は聞く耳を持たない。七星は仕方なく従った。
天下英雄党の甘坂冴恵統制長官は、遺体解析を本庁舎で、しかも自分たちに知らせず行うと聞いて絶句。もしエトフォルテがサイバー攻撃を仕掛けていたら、国のコンピューターが一網打尽にされてしまう、と七星に警告する。
慌てて七星たちが名誉長官のもとに駆け付けた時には、すべてが終わっていた。
変身アイテムに仕込まれていたコンピューターウィルスが発動し、ドラクローと軍師ヒデの映像がモニターに映し出される。
ドラクローが映像の中で、怒りをぶちまける。
『普通に生きている日本人に迷惑をかけたくない。だがシャンガインが仲間を殺し、ヒーロー庁が隠し事をし、ターンが平然と攻め込んできたことを思えば、サイバー攻撃をやらないという選択はできなかった!』
さらにヒデが、名誉長官たちの言動を挑発的に読み取り、我が策略の神髄を見せる、と告げる。コンピューターウィルスは、国のヒーロー活動にまつわるコンピューターを片っ端から壊してしまった。
ヒーロー庁と天下英雄党は頭を抱える。
指揮系統にまつわるコンピューターと、ヒーローの活動を支えるヒーロー税収納管理システムを壊された。今年はもうヒーロー税を賦課できない。
とりあえず指揮系統の修復を急ぐと同時に、ヒーロー税を今年は全額免除。エトフォルテ追撃は指揮系統修復が終わるまで保留、ということで方針を決めた。が、名誉長官はエトフォルテへの敵意をさらにむき出し、甘坂統制長官は名誉長官の強引な対応に容赦なく疑問をぶつける。
会議室に集まった面々はあまりにも個性的かつチームワークゼロで、結局エトフォルテが本当に悪い組織なのか、という根本的な会議は行われなかった。
名誉長官は強引で尊大。
広報官・輪良井(わらい)は言いたい放題で支離滅裂。
総理・高鞠(たかまり)は名誉長官に服従。
副総理・弩塔(どとう)は獣人と聞けば大激怒。
国防大臣・素薔薇(すばら)はとにかく子供っぽい。
統制長官の甘坂はヒーロー庁への疑問と厳しい態度を崩さない。
七星はこれから大変になる仕事を思い、ため息をつくしかなかった。
日本国民はエトフォルテを恐れる一方、高額なヒーロー税を払わずに済んだ、と大喜び。ネット上ではエトフォルテを高評価する声も出始めた。
エトフォルテの面々は安堵する一方、ネットニュースに流れるヒーロー庁と天下英雄党の態度には疑問を覚えずにいられない。
日本近海に墜落してから2週間後。応急修理を終えたエトフォルテは、日本の防衛海域を抜けてアメリカに向かうため、出航する。
第37~40話
ドラクローはムーコ、タイガ、ジャンヌと戦闘訓練をしながら、初めて十二兵団員として実戦に出た日を思い出す。岩人間に殺されそうになったところを、先輩のスレイ、ジャンヌの兄ジャッキーに助けられたことを。
スレイの言葉がよみがえる。
「この先辛いことがあったら、これまでの良かったことを思い出し、この先にいいことが待っていると信じて頑張るんだ。そうやって魂を研ぎ澄ませ。仲間とともに強くあるために。大丈夫。俺たちも一緒だからな」
だが、先輩たちは皆死んでしまった。寂しさを訴えるムーコに、ドラクローは言い聞かせる。寂しい、一緒にいたかった、と思い続けるのは弱気の証だ、と。
そこにヒデがやってきた。休憩しながらドラクローたちは、なぜヒデはそんなに戦いに詳しいのか、と尋ねる。
ヒデは過去を打ち明けた。ヒデの親友、和彦は映画監督志望で、戦いや殺人事件のトリックなどを四六時中考えていた。そしてヒデに悪役(ダークヒーロー)を演じる才能を見出した。
性格も言動も強烈すぎる和彦との思い出話に、ドラクローたちは驚く。そして和彦の、
「寂しさや悲しみは、人を大切に思う気持ちの裏返し。恥じてはいけない」
というヒデへの励ましに、大切なことを気付かされた。
出航から40日が過ぎた。
その間、ヒデたちはエトフォルテでの新たな生活に馴染みつつあった。ヒデは軍師としての能力をドラクローらに鍛えてもらいながら、仲間たちとお互いのことを話し親睦を深めていく。
そんなある日。アメリカのネットニュース『スターライトネットワーク(SLN)』の記者、ジューン・カワグチがエトフォルテにやってくる。日本のTV番組に出演経験もある彼女は、なんとまきなの友人だった。
ジューンは現在の日本国内の状況と、エトフォルテ墜落に関する奇妙な事実を明かす。アメリカではエトフォルテ接近を墜落三日前に察知し、世界各国に通知していた。が、日本政府はそのことを一切報道せず、エトフォルテが悪い、としか言わない。本来なら宇宙人と接触する際、一方的に攻撃してはいけないという決まりもあるのだが、日本政府とヒーロー庁は明らかに決まりを破っている。
ジューンは会社のために、そしてヒーロー庁に追われているまきなとアルのために、エトフォルテを取材して本当の姿を報道したい、と言う。
エトフォルテの面々はジューンを信じ、取材を認めた。
第41話~第43話
ジューンが取材を開始してから5日後。
タイガたち技の部の新アイテム完成のお披露目に立ち会うヒデとドラクロー。ボイスチェンジャー付きの首輪がきっかけでその場のノリが楽しい部活動のごとく一変。ヒデはみんなの声をコピーして歌を歌う羽目になる。
さあ歌おう、とヒデが覚悟を決めた瞬間、甲高い第一種警告音が鳴り響く。エトフォルテに漁船が漂流して流れ着いたのだ。
漁船の中を改めると、男が二人。一人は気絶し、もう一人は死んでいた。持ち物を改めた結果、この二人は日本近海に転移した異世界の国『クリスティア王国』の人間だとわかる。
4年前。魔王の策略で日本近海に転移したクリスティア王国は、日本のヒーローたちの助力を得て勝利。日本政府と有名企業『ユメカムコーポレーション』から復興支援を受けている。
現在の国王はブロン。その前にいた兄のバルテス前国王は、2年前に病気で亡くなったという。支援企業のユメカムは、エトフォルテに加わったマティウスが所属していた会社で、クリスティア王国の神器を複製しようとしていた。
ヒデたちは気絶から回復した男、グラン・ディバイからとんでもない事情を聞かされる。
実はバルテス国王はブロンに暗殺された疑惑があり、娘のリルラピス王女は首都を追い出された。ブロンは日本政府とユメカムに追従し、国の伝統や自然をめちゃくちゃにしている。ユメカムはその片棒を担ぎ、クリスティア国内でやりたい放題。さらにブロンは、島三つを日本に売る密約を計画に移そうとしているという。
ブロンとユメカムの悪行を止めるため、王女たちは訪日中のブロンを暗殺する計画を立てたが失敗。暗殺部隊の一員であるグランは漁船に乗って逃走し今に至る。すべてを打ち明けたグランは、エトフォルテに助力を依頼する。
ヒデたちは船の修理が最優先だから、と断ろうとする。グランは頭を下げて懇願し続け、過呼吸を起こしてしまう。
過呼吸を起こしたグランを介抱し、ヒデたちは今後について話し合う。
ユメカムに所属していたマティウスは、ユメカムの悪行を全く知らなかった。この状況で、グランの言い分を信じていいものか。協力すべきか否か。
エトフォルテの仲間たちは悩んだ。
今自分たちはクリスティア王国南部の海域を移動しているが、そこは謎海流の発生地域。近づけば通常の船舶は航行できない。下手に近づけば船体が壊れるかもしれない。何より、グランが嘘をついていたらエトフォルテは日本だけでなく、クリスティア王国を敵に回してしまう。
ドラクローは団長として、エトフォルテを危険にさらしてはいけないと思う。だが、グランの話が本当なら?エトフォルテが違う形で日本近海にやってきていたら、クリスティア王国のように好き放題されていたかもしれない。
悩んだ末、ドラクローはみんなに言う。
「グランの話が本当なら、助けたい」
みんなと話し合った結果、謎海流問題を解決できれば、グランをクリスティア王国に返す。同時に現地の様子を見て協力の可否を決めることになった。ドラクローは現地確認の名代として、ヒデを指名した。
第44話~47話
ドラクローとヒデはグランに、謎海流問題を解決できるならクリスティア王国に向かうが、できなければ断念してアメリカに向かう、と告げる。グランはこれを承諾し、謎海流を引き起こす魔王軍の兵器『シーネイド』、クリスティア王国で普及している『魔術』、神器『ティアンジェルストーン』について解説してくれた。
現在神器はユメカムの社長令嬢『夢叶統子(ゆめか・とうこ)』たちが所有し、魔法少女『グレイトフル・フェアリン』として活動しているという。ブロンの悪行についても話を聞くが、例の『密約』の詳細はグランたちにもわからない、とのこと。クリスティア人の生活に必要な金属が採れない島を、ブロンはなぜか日本に売ろうとしている。
翌日。エトフォルテはシーネイドを海中にとらえる。シーネイドの特性を見抜いたヒデたちは、海中の重力を操作してシーネイドを空中に引きずり出し、破壊することに成功。安全にクリスティア王国に近づけるようになった。
ヒデはムーコ、カーライル、威蔵、ジューンらとともに高速潜航艇に乗り、クリスティア王国を目指す。辿りついたクリスティアは、獣人風の神様を崇め、獣を模した装飾品を身に着ける風習があった。獣の特性が体に現れるエトフォルテ人は大歓迎され、ヒデたちは嫌われずに済んだことに安心する。ヒデたちは蒸気機関車に乗り、王女たちの拠点オウラムを目指した。
そして、リルラピス・ド・クリスティア王女と対面した。
王女はグランの救助に礼を言うと、エトフォルテに迷惑はかけられないから、すぐクリスティア近海を離れるように言った。仲間の近衛騎士たちも、エトフォルテとクリスティアの事情は別だから、と気遣ってくれる。
この気遣いに甘えて、クリスティアを離れて良いものか。
ヒデたちが迷っていると、ブロンの派遣した部隊がオウラムを襲ってきた。部隊はリルラピスの仲間と町の子供たちを人質に取り、残忍な言動を繰り返して降伏を要求。リルラピスたちは人質を助けるためわが身を投げ出そうとする。
ヒデは敵のスキをついて閃光弾で意識を刈り取り、敵を一網打尽にする策を提案。
リルラピスとエトフォルテの連携による策は成功し、子供と仲間の救助に成功。ヒデは敵の中にいたユメカムの社員、通称監督官を捕らえて話を聞き出す。
その結果、おぞましい密約の実態が明らかになった。
密約に出てくる島には、地球人の生活に必要なレアメタルの鉱脈がある。
ブロンは島を日本に売る。
日本はレアメタルを手に入れて他国に売る。
ユメカムは採掘支援で利益を得る。クリスティア人を島から追い出して。
ヒデがユメカムの悪意を指摘すると、監督官は平然と
「どうせクリスティアは異世界なんだから、好き放題して当然!」
と言い放つ。これは、エトフォルテをヒーローが一方的に敵視し攻撃したのと同じだ。放っておけず、ヒデたちはリルラピス王女への助力を決意した。
さらにヒデたちは、監督官の持っていたタブレット端末の中身を暴く。
端末には、クリスティア人の生活を蹂躙するユメカムの悪業が映像や文書で残っていた。
エトフォルテに残っていたドラクローたちは、映像を見て激怒。
ドラクローは宣言する。
「人の魂を、大切な故郷を汚すようなやつは叩きのめしてやるっ!!」