エトフォルテ防衛戦線ヒデ! 第66話 採掘場解放戦~邪念と無念~

 ヒデは宿舎にある事務室の窓から、宙に浮かぶ破壊神を見上げていた。
 隣にいるジューンが、あぜんとなり呟く。
 「細(ほそ)っ」
 そのまんま。とにかく破壊神は細かった。強そうに見えなかった。
 気を取り直したジューンが言う。
 「でかいけど……。あんまり強そうじゃないわね」
 ヒデは思わず反応していた。
 「そういう奴に限って、ものすごく強くて危険なんですよ!」
 映画では、弱そうな生き物が実は凶悪、という展開がお約束。映画の展開は現実世界の縮図でもある。
 とにかく、作業員と仲間たちの脱出を優先だ。非道を告発する書類やデータは手に入れた。


 ヒデたちが宿舎の窓から離れた直後。
 破壊神デストロが、太陽に向かってゆっくり手を上げた。まるで陽光を称え、わが身に取り入れるように。
 陽の光をありがたがる破壊神なんて。よほど、外に出られたのが嬉しいのか?
 ドラクローもリルラピスも、彼らの仲間も、敵のフェアリンたちも、デストロの陽光礼賛の仕草をしばし黙って見つめる。
 彼らの視線の先で、異変が起きた。
 干からびたキュウリのような体が少しずつツヤを帯びる。そして、体にハリが出てきた。濃い灰色の細った体が、みずみずしい緑色に変わり始める。
 デストロは今の今まで封印されていた。当然、肉体も力も衰えている。
 まさか。
 まさか!
 まさか!!
 ドラクローが思ったことを先に口にしたのは、フェアリン・マイティ(巴)。
 「光合成……!!デストロは、陽の光を吸収して肉体を再生している!!」
 雨上がりの上空に雲はまだ残っているが、陽の光は確実に地表に降り注いでいる。300メートル近い体が、全盛期の力を取り戻したらどうなるか。
 逃げなければ。撤退せねば。誰もがそう思った矢先、ブロン派の騎士たちが絶叫。
 「やばい!!」
 「逃げろー!!」
 絶叫が引き金になり、ブロン派の騎士と監督官はいっせいに逃げ出した。彼らを指揮するはずのフェアリン・ジーニアス(統子)は、己の起こした事態に混乱しているらしく、駆け寄ってきたフェアリン・エクセレン(椎奈)に抱き着いておろおろするばかり。
 こちらに走ってきたブロン派の騎士を龍神拳で殴り飛ばし、ドラクローはフェアリン・マイティ(巴)とともにリルラピスに駆け寄った。
 「王女様!撤退しよう!」
 リルラピスも同意する。だが、襲撃されたふもとの街ガネットは大丈夫か?
 ドラクローは通信機で、ガネットにいる部隊に連絡を取る。
 通信機に出たのは、騎士グラン。
 『王女様!ドラクロー団長!あれは、まさかデストロ!?』
 ガネットからもデストロの姿は丸見えらしい。だが、今問題はそこではない。リルラピスが問いかける。
 「グラン、ガネットの状況は!?」
 『こちらを攻めてきた部隊は蹴散らしました!!基地内の車両も確保しています。我々は、すでに移動の準備を終えています』
 リルラピスが頷く。
 「事態は一刻を争います。こちらも脱出に移ります!」 


 逃げ出したブロン派の騎士と監督官たちは、宿舎に隣接する車庫に殺到する。そこではムーコたちが負傷者を車両に運び入れていた。
 騎士と監督官たちは、エトフォルテとリルラピス派の者たちを見るなり、血眼になって叫ぶ。
 「車をよこせ!!俺たちが使うんだ!!」
 ムーコは相手の勢いにたじろぐも、毅然として言い返す。
 「ダメですっ!!」
 強制労働で多くの人たちを傷つけた彼らに、車両を渡すわけにはいかない。
 あと少しで、負傷者の運び入れは完了する。ムーコはモチフワット繊維で編んだ紐を構えた。心の部の団長として、負傷者は絶対に守り抜く!
 エトスをまとい白く光り輝く紐が、襲い掛かる監督官たちに鋭く伸びた。


 カーライルはマークⅡと斬り結びながら、逃げ出した敵がそろって車庫に殺到するのを見た。
 「くそ!!オレも援護に行かねーと!!」
 突如パワーアップしたマークⅡはとにかく素早く、そしてしぶとい。ダメージを負わせたがひるむことなく、確実にこちらを殺しに来ている。しぶとさだけならレギオン・シャンガインの倍以上だ。
 マークⅡの剣型ヒーロー武装に突き飛ばされ、カーライルは地面に倒れた。マークⅡが剣を振り上げる。
 「やべえ!!」
 最悪の事態を予想するカーライル。直後、マークⅡが奇声を発して剣を落とした。
 「ご、ごぶぶぶふううっ!!??」
 奇声を発しながらもファイティングポーズ。だがその足元は完全にふらついている。剣を構えなおすカーライルの前で、マークⅡが今にも死にそうな声を出す。
 「だず……げ……、ごぼぼ……ごぼっ」
 光沢感のある勇ましいヒーロースーツの内側で、大量に血を吐いたらしい。最後のほうはごぼごぼと言うだけで、もう何を言っているかわからない。
 マークⅡはそのまま倒れ、動かない。死んだのだ。カーライルは釈然としない気持ちで死体を見つめる。
 そこにハッカイが、クリスティア騎士たちとやってきた。
 「ぼーっとしてんじゃねーよ、カーライル!」
 ハッカイに怒鳴られて、車庫に援護に行くことを思い出す。が、気になることを言っておくべきだと思った。
 「マークⅡがいきなり死んだから、びっくりして……」
 ハッカイも不思議そうに言う。
 「俺たちと戦ってたやつらも、勝手にバタバタ死にやがった。訳が分からん」
 ハッカイについてきた騎士が口を開く。昨日、自分たちと一緒に話をした、あります口調の生真面目な騎士タグスだ。
 「自分と戦っていたマークⅡは、胸が痛いとか、血を吐いたとか言っていたであります」
 そういえば、マティウスが言っていた。ユメカムの神器複製品に、同僚が組んだ欠陥システムがあった。肉体強化の欠陥システムで試験装着員が死んだ、と。
 昨日の作戦会議ではエトフォルテから持ち込んだオンライン会議用ディスプレイで、みんなエトフォルテにいるタイガやマティウスたちとも話している。マティウスが神器複製に関わった一部始終は、カーライルも聞いていた。
 まさか、マークⅡのウォッチに欠陥システムが組み込まれていたのか?
 悩んでいる余裕はなかった。死んだマークⅡに背を向け、カーライル達は車庫に向かう。



 宿舎内のヒデはジューンや騎士たちと協力し、もう一度宿舎の奥を見て回る。すでに負傷者はムーコたちが車両に運んだが、逃げ遅れた人がいないか再確認。
 誰もいないのを確かめ、車庫に向かうことにする。途中、武器庫から戻ってきた熊男ハンジと合流した。ハンジは大きな武器を詰め込んだ大きなバッグを二つ肩にかけ、タフさを余すところなく見せつけている。
 宿舎の入口まで戻ると、思わぬ事態が起きていた。
 入口にはまきなとアル、そしてヘリ3号機から降りたパイロットがいた。アルがパイロットに銃を突き付けている。
 ヒデが状況を確認すると、まきなが言った。
 「この人、ついさっきまで入口のそばのトイレに閉じこもっていたの」
 アルが事務的な口調で説明する。
 「この男は光線銃を携帯していました。我々に発砲しようとしたので、取り押さえ無力化しました」
 パイロットはさえない顔つきの中年男で、名前を『舞上(まいじょう)』と名乗った。涙を流し関西弁で釈明する。
 「俺は本当に知らなかったんや!!勤めてたヘリ会社を親の介護で休職したら潰れちまって……。二週間前にユメカムにやとわれて、今日初めてここに……。お腹痛くてトイレを借りたんよ!!光線銃だって今日初めて握ったんよ!!こんなひどいことをしてるなんて、本当に知らなかったんよ!!」
 彼がヘリを降り、宿舎のトイレを借りている間に久見月巴への尋問と戦いが起こった。ずっと隠れているわけにもいかず、意を決してトイレを出て、ヘリに乗って逃げようとした。が、ばったりアルとまきなに鉢合わせた。
 このパイロットの言い分を、素直に信じてよいものか。疑わし気にヒデたちはパイロットをにらむ。
 日本を騒がす軍師ヒデににらまれ、緊張が頂点に達したのだろう。パイロットはひときわ高い声で泣き叫んだ。
 「本当にお腹が痛かったんよぉ!!!!」
 嘘や悪ふざけとは思えぬ、心からの腹痛の訴えであった。ヒデが知りたいのは腹痛の真偽ではないのだが。
 さらにパイロットは泣きながら土下座し、ヒデたちに懇願する。
 「このまま日本に帰ったら、『死人に口なし』でユメカムに殺される未来しか見えへん!!なんでも言うこと聞くから、俺を殺さんといて!!」
 どうしよう。ヒデは仮面の内側で考える。
 このパイロット、ウソ泣きには見えない。だが完全に信じるには材料が足りない。かといって、疑わしいから置き去り、は薄情すぎる。ユメカム本社に帰れ、ではこちらの情報をばらされる。そしてきっと殺される。
 悩んでいるところに、通信機が鳴った。車庫にいるムーコからだ。
 『ヒデさん!車庫を襲った監督官たちはやっつけたよ。あとはドラくんと王女様たちが乗れば脱出できる。それと……ヘリコプター、だっけ?そのままになっているけど、どうする?』
 宿舎に残っているのは自分を入れて14人。車に乗って逃げてもいいが、ヘリがあれば行動の選択肢が増える。エトフォルテには飛行機械の類がなかった。空中移動は鳥族の独壇場で、かつての戦争ではどんな飛行機械も鳥族にかなわなかった。だからご先祖様は飛行機械を作るより陸路・海路を渡る技術に力を入れた、という。
 ヒデは決断し、パイロットに尋ねる。
 「手短に答えろ。ヘリには何人乗れる?」
 「パイロットの俺を除いて、20人」
 「燃料はどのくらい持つ?」
 「ここから東京本社まで4往復できるくらい」
 「かなりの距離を飛ぶのだな」
 「AIが副操縦士の役割を代行する最新式。燃費や航続距離も高性能や」
 とりあえず、何とか使えそうだ。ヒデは言った。
 「私たちの言うことを聞いてヘリを操縦してくれるなら、命は取らない。ただし、途中で変な真似をしたら、殺す」

  
 頭上ではデストロが、天を仰いで陽光礼賛の構えを続けている。肉体が、いきいきと脈動しみずみずしさを取り戻しつつあった。
 アレックスが、ジーニアスとエクセレンを怒鳴りつける。
 「二人で抱き合ってないで、責任とれ!!」
 エクセレンとジーニアスが悲痛な声で言い返す。
 「こ、こんなはずじゃ!」
 「あんたたちがなんとかしてよ!」
 ドラクローは呆れて、内心毒づく。さっきまでの威勢はどこにいった!
 デストロの視線が、下を向く。ゆっくりと口が開かれた。
 「……テイ、ティ……」
 デストロが何かを言おうとしている。破壊神は言葉を話せるのか?
 ドラクローたちは逃げなければ、と思ったが、デストロが何を言うのかも気になり、退避をためらった。
 「……ティアアアアアンンンンジェエエエエエエエルウウウウ!!」
 放たれた言葉は、かつて自分を閉じ込めたフェアリンことティアンジェルへの宣戦布告。300メートル近い巨体の叫びは、採掘場を再び震わせた。次いで破壊神の口内に、光がたまっていく。
 その様子に、アレックスが絶叫。
 「光線をぶっ放す気だ!!」
 もう逃げても間に合わない。あの巨体が放つ光線がこけおどしなはずがない。地面に放たれたら採掘場は間違いなく消滅する!!


 そこに、ヘリの風切音と拡声器による音声が鳴り響いた。
 『統子様!椎奈様!ヘリに飛び乗ってください!!』
 空中に退避した2号機ヘリが、ジーニアスとエクセレンを避難させるために戻ってきたのだ。
 ヘリは搭乗口を開き、高度を落として空中停止する。フェアリンがジャンプして届くギリギリの距離で。
 エクセレンとジーニアスが、逃げの態勢に入る。

 
 逃亡を察したマイティは、ジーニアスとエクセレンよりも早く動いた。
 ヘリの搭乗口に向かって跳躍し、乗り込む。まさかマイティが乗り込むと思わなかったパイロットは、悲鳴を上げる。このヘリは副操縦士の仕事をAIが代行してくれる最新式で、パイロットは一人だけ。
 マイティはパイロットの胸ぐらをつかんだ。
 「デストロの顔の前まで上昇して!!」
 「いやだ!!」
 「なら、上昇の仕方を教えて!!」
 「こ、このボタンを押して操縦桿をこう動かせば、って!わあああ!!」
 マイティはパイロットを強引に操縦席から引きはがすと、操縦桿を操作しヘリを急上昇させた。
 パイロットは後部席で支給された光線銃を抜き、背後からマイティを撃ち殺そうとした。だが急上昇で体勢をくずし、銃口が己の腹部に密着する。さらにヘリが揺れたはずみで、パイロットは引き金を引いてしまった。
 己の体を光線銃が貫く。ユメカムのヘリパイロットとして統子と椎奈を支え、採掘場の凶行を黙殺してきた男の、間抜けであっけない最期であった


 パイロットの末路を全く知らないマイティは、とうとうヘリをデストロの目の前まで上昇させた。デストロの口内には光の玉が形成され、今にも地面に向かって発射されかねない勢いで、バチバチと火花のごとく細かい光を放っている。 
 「させないッ!!」
 この巨大な破壊神は、とても自分の力で倒せそうにない。だが、狙いを絞ればダメージを与え、衝撃で光線の射線をずらせるはず。
 採掘場の凶行を止められなかった自分も、統子や椎奈たちと同罪。だけど、私は責任から逃げない。自分を信じてくれた王女様もドラクロー団長たちも、絶対に死なせない!
 格闘家として勘で、マイティは狙いを瞬時に絞る。
 目だ!目を潰せば痛みで顔をそむける!
 マイティはヘリを飛び出すと、手にしたロッドを振りかざし全力を込めた。
 「フェアリン・マイティ・パニッシャァァァァーッ!!」
 掛け声とともに光の魔術を最大出力で発動。マイティの意思が15メートル近い大きさの光球を形成し、螺旋を描いてデストロの左目に直撃する。眼球が、鈍い音ともに潰れた。
 「グギャアアアアッ!?」
 デストロが痛みでのけぞりつつ右腕を持ち上げ、左目にあてがおうとする。空中で身動きがとれないマイティは、デストロの右手で叩き落とされる形になった。
 そして、口内でチャージされていた光線は、のけぞったことで天に向かい発射された。マイティが乗り込んだヘリは自動制御で上昇を続けており、真っ先に光線に飲み込まれる。
 直後。
 落雷や花火というたとえが生ぬるいほどの、すさまじい轟音が鳴り響く。空がまばゆい光で真っ白になった。まばゆい光が収まった時、上空に残っていた鈍色の雲は一つも残っていなかった。


 「やばいやばいよやばいよ、どうしよう、椎奈!」
 光線の威力に腰を抜かしたジーニアスは、エクセレンにすがりつく。
 脱出のためのヘリは破壊された。先に退避した1号機は、おそらく呼んでも戻ってこない。3号機はエトフォルテどもに抑えられた。ヘリがなければ日本に戻れないのに!
 エクセレンが、花のつぼみのような機動兵器フィオーレに視線をやり、言った。
 「エトフォルテ達がデストロに気を取られているうちに、フィオーレに乗って逃げよう」
 「あれの燃料は日本まで持たないよ」
 フィオーレの移動可能距離はヘリよりも短い。クリスティア国内からの脱出は不可能だ。
 エクセレンが、精一杯の笑顔を浮かべて言う。
 「ここを離れさえすれば、手の打ちようはある。あとのことは二人で考えよう。ね?巴も、うまいこと死んでくれそうだし」
 
 
 「なんて威力だ……」
 ドラクローはあまりの威力に全身を震わせ、つぶやく。嫌な汗が絶え間なく背筋を伝っていた。
 マイティが射線をずらしていなければ、採掘場は光線で完全に消滅し、全員死んでいただろう。
 「そうだ、巴は!?」
 叩き落とされたマイティは無事か?
 ドラクローたちの視線の先で、よろよろと起き上がる者がいる。巴だ。叩き落とされた衝撃のせいか、マイティから巴の姿に戻っていた。近くには川が流れている。採掘場の土砂や投棄された機械の油が流れ込んだ、茶色く汚れた川が。
 一刻の猶予もなかった。デストロが体勢を立て直し、巴の落下地点に視線を向けている。早く巴を保護して一緒に脱出しなければ!!
 ドラクローはリルラピス、アレックス、ウィリアムとともに駆け出した。
 よろよろと立ち上がった巴が、大きく振りかぶり、こちらに向かって何かを投げた。
 神器ティアンジェルストーンだ。神器はドラクローの足元に落ちた。
 巴が声を張り上げる。
 「団長さん!!神器を!!」
 ドラクローたちの頭上で、デストロが握り拳を振り上げた。アレックスが叫ぶ。
 「はやくこっちに……!!」
 アレックスが叫び終わるより早く、デストロの拳が地面に向かって振り下ろされた。
 「巴―ッ!!!!」
 ドラクローの絶叫は、振り下ろされた拳の風圧と、地面直撃による爆発的な砂ぼこりにかき消される。風圧と砂ぼこりで倒れ、身を起こしたとき、巴の姿はなかった。
 彼女の立っていた地点は大きくくぼんでいる。衝撃で舞い上がった土砂が、川の水が、雨のように採掘場に降り注ぐ。巴が生きていた痕跡すら、もう残っていない。
 ドラクローの目元から、涙が流れた。
 「なんてこった……巴……」
 自分たちを信じ、最期まで身体を張って戦った少女が、こんな形で死ぬなんて。
 リルラピスも、アレックスも、ウィリアムも、涙を流していた。
 巴を守れなかった無力感にさいなまれる暇はない。フェアリンことティアンジェルを始末したことが嬉しいのか、デストロが天に向かい高らかに叫ぶ。
 「ティィィイイイイアアアンンジェエエエエルウウウウウ!!」
 巨体の下半身から、黒い汗のようなものが大量に吹き出し始めた。
 ぼたり。
 ぼたり。
 ぼたぼたり。
 身の毛もよだつ滴下音を立てて、黒い汗が次々と地面に振りそそぐ。落ちたそれは球体で、黒い粘膜に包まれていた。
 そして粘膜球体を突き破り、異形がその姿を見せる。
 カエルの体にデストロの顔を融合させたような異形は、ドラクローの腰の高さほどの大きさだ。
 ウィリアムが恐怖と焦りに満ちた声を上げる。
 「破壊神デストロの分身、子供か!?」
 どす黒い表皮と悪魔のような外見は、破壊神の子供そのもの。奇声を発する異形を、ウィリアムが魔術弓で3体撃ち貫いた。
 あっけなく即死する異形たち。だが、このもろさに安堵することは、誰にもできなかった。
 デストロの汗は止まらない。ぼたぼたぼたと絶え間なく垂れ落ち、破壊神の子供が次々と生まれてくる。
 巴の死に泣き続けることも、破壊神の子供たちをまともに相手にすることも、自分たちには許されなかった。
 ドラクローは、ティアンジェルストーンをそっと拾い上げ、リルラピスに渡した。
 神器を胸に抱いたリルラピスが、震える声で言う。
 「……ガネットの部隊と合流し、撤退します!!」
 そして目元を、ぐいと拭った。

 

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