エトフォルテ防衛戦線ヒデ! 第65話 採掘場解放戦~爆発する邪念~

 今採掘場では、フェアリン・ジーニアス(統子)はリルラピス、ウィリアム、アレックスと、フェアリン・エクセレン(椎奈)はフェアリン・マイティ(巴)とドラクローと戦っている。エトフォルテとリルラピスたちは、巧みに攻守を入れ替えながら、採掘場での戦いを支配しつつあった。
 この現状に、スマートウォッチのマークⅡを身に着けている監督官たちは恐れおののく。
 採掘場にエトフォルテとリルラピス王女たちが攻めこんでくる情報は、事前に上司である統子から聞いていた。マークⅡの性能が、カラフルなヒーローチーム「レギオン」風のスーツをまとう、高い戦闘能力を持つ設計であることも知っていた。
 なのに、なぜここまで押されてしまう?
 初期のスマートウォッチ(変身機能を持たない、いうなればマークⅠ)を身に着けた監督官だって、決して弱くない。ヒーロー武装を使いこなすブロン派の騎士もいるのに、みんな逃げ腰になっている。実際、背を向けて逃げ出した者もいた。逃げられず、リルラピス派の騎士に斬られてしまったが。
 自分たちも逃げ時なんじゃないか!
 そう思った時、マークⅡのスマートウォッチが、設計者・掘徒(ほると)の遠隔操作によるバーストモードとオートコマンダー発動を検知した。
 マークⅡたちの体が勝手にファイティングポーズを取る。
 「なんだ、体が勝手に!?おあああああああああ!!」
 そして人体活性化エネルギー『バースト』が、監督官たちの肉体を駆け巡る。全身の細胞一つ一つがたくましく脈打つような感覚に、監督官たちの胸は高鳴る。全身が燃えるように熱く、心まで熱くなってきた。監督官は湧き上がる高揚感に任せ、歓喜の叫びを上げた。
 「あああーっ!!??……体が勝手に動くが、どうでもいいーっ!!力が湧き上がってきたぞお!」
 バーストは肉体機能を活性化させ強化する。肉体と精神の関係性は密接だ。バーストを過剰注入されたマークⅡ装備の監督官たちは、異常事態に動揺するどころか肉体的な高揚感に興奮し始めた。
 「いくぞおおお!!」
 湧き上がる興奮と熱量に身を任せ、先ほどよりも速度を上げて、マークⅡ装備の監督官たちはエトフォルテとリルラピス派の騎士に力強く襲い掛かる。

 
 王室御用達の魔術機構師エイルを襲ったマークⅡは、蹴りでエイルの杖をへし折った。が、エイルは逃げ出すどころか、中国拳法さながらの動きでマークⅡの追撃をいなし、お返しと言わんばかりにみぞおちに前蹴りを突き出した。
 鋭いハイヒールが光沢感のあるヒーロースーツに深々と刺さる。エイルは続けて風の魔術を発動。
 「スティンガーテンペストッ!!」
 クリスティアの武装は魔術機構の塊。エイルをはじめ、エース級の騎士の靴には風の魔術機構が仕込まれている。発動すれば風を足に纏い、大ジャンプや短時間の滞空も可能。応用すれば、相手を大きく吹っ飛ばす強烈な蹴りを繰り出せる。蹴りを食らったマークⅡは竜巻に巻き込まれたかの如く吹き飛んだ。
 が、すぐ立ち上がりエイルに向かってくる。雄たけびを上げて、まるで痛みなどお構いなしに走ってくる。
 エイルは冷や汗をたらし舌打ちする。
 「なんですの!?急にマークⅡの動きがパワフルに!!」
 そばで戦うハッカイも焦っている。
 「わからねえ!だがやることは変わんねえだろ、御用達よう!!」
 違いない、とエイルは思い、やるべきことを口にした。
 「守るために、魔術で戦う!!」
 互いの奮戦が、エトフォルテ・リルラピス派の者たちを勢いづける。十二兵団員のエトスによる攻撃が、クリスティア騎士たちの魔術剣がうなりを上げる。だがダメージを負ってもなお、マークⅡは暴れ続ける。異様な雄たけびを上げながら。
 この勢いに乗って、マークⅠを装着した監督官やブロン派の騎士も反撃に出始めた。


 マイティとドラクローはエクセレンと戦っているさなかに、マークⅡに乱入された。
 マークⅡはマイティの拳や蹴りを受けながらも、お構いなしに攻撃を仕掛けてくる。マイティは手加減していない。たいていの悪の組織の戦闘員や怪物なら、とっくにダウンしてもおかしくない攻撃を受けているというのに。
 理由はわからない。だが倒さねば。打撃に耐えられるというなら、絞め技だ!!
 マイティはマークⅡのスーツをつかむと、柔術の要領で体勢を崩して組み伏せる。間髪入れずに背後からマークⅡの首に手をかけた。柔術由来の特殊な手さばきで、一気に急所を締め極める。中身が人間なら、急所の構造は変わらない。マークⅡは悲鳴を上げる間もなく、その動きを止めた。失神したのだ。
 が、すぐさま立ち上がってファイティングポーズ。何か異様な力で、マークⅡは運動能力だけでなく回復能力まで上がっている。
 もうこうなったら、完全に止めを刺すしかない。止めを刺さねばほかの仲間が襲われてしまう。
 マイティはマークⅡを再び組み伏せると、首を一気にひねる。太い木材を一気に折ったような音が鳴り響く。魔法少女は、レギオン風のヒーロー気取りの首をへし折った。
 この様子を見たエクセレン、小馬鹿にするように笑った。
 「やばいくらい残忍ね、巴」
 マイティは怒鳴っていた。
 「人のこと、言える立場!?」
 人の命を奪った点では自分もエクセレンたちと同罪だが、マイティは決定的に違うと、今なら自分の意思ではっきり言い切れる。
自分は、他人を守るために戦う。フェアリン(ティアンジェル)の力と柔術は、そのために使うと決めた。
 肉弾戦の構えを取ったマイティを、エクセレンが鼻で笑う。
 「馬鹿正直にあんたの肉弾戦に付き合うわけないでしょ。私は魔法少女らしく、光の魔術できらきらと……」
 その背後から、殺気全開の声をかけた者がいる。
 「借り物の力で調子に乗るなよ!!」
 ドラクローだった。振り返ったエクセレンの腹部に、真っ赤な光(エトス)をまとった拳を見舞う。命中したが、全身を覆う光の魔術アブゾーバーが衝撃を殺した。
 マイティが視線を移すと、ドラクローを襲ったマークⅡは死んでいた。顔面を拳で強打されたのだろう。マスクが大きくひしゃげて血まみれになっている。マスクの内側から、煙がのぼっていた。
 原理はよくわからないが、ドラクローの拳は赤く光っている間高熱を帯びているようだ。拳はマスクを砕いて中の肉体を焼いたのかもしれない。エトフォルテ人特有の戦い方を、マイティは格闘家としての勘で瞬時に把握していた。
 この様子を見てもエクセレン、余裕の表情を崩さない。
 「トカゲ野郎のくせにうっさいわ」
 「トカゲじゃない。龍族だ」
 ドラクローがエクセレンに問いかける。
 「もともと神器はクリスティアのものだ。なぜ返そうとしなかった」
 エクセレン、再び鼻で笑う。
 「返す?返す理由がわからない。私たちは今クリスティア復興を手伝っているんだから、持っていて当然」
 「借りたものは返すものだろう!」
 「復興支援をしている間は、借りていたって問題ない」
 ドラクローが怒鳴る。
 「こんなのを復興支援とは呼ばねえ!!そもそもお前の親父の素薔薇大臣は、復興支援を縮小するつもりだったと聞いたぞ」
 エクセレンの顔色が、一瞬曇る。が、すぐに反論してきた。
 「そんな計画もあったけど。パパは支援を継続した。天下英雄党もヒーロー庁も続いている。だから全く問題ない」
 そう。支援が継続しているから、自分たちは神器を持つことができた。マイティの脳裏に、2年前の出来事がよぎる。
 バルテス国王が亡くなり、国王になったブロン。これはブロンによる暗殺疑惑があると、リルラピスたちが教えてくれた。
 その前後から、エクセレン(椎奈)の父、素薔薇晴夫国防大臣は急に子供っぽくなり、ヒーローに盲従するようになった。それまでは、政治家として一目置かれていた人だったのに。
 ふとマイティは、恐ろしい推論を思いついた。推論を、エクセレンに問いかけていた。
 「復興支援を縮小したら、神器を返すことになる。椎奈。復興支援を継続させるためにブロンと協力して、バルテス国王や素薔薇大臣に何かしたの!?」
 そうでなければ、ユメカムはここまで好き放題やれないのでは?
 エクセレン、しばしの後口を開いた。悪意を含んだ笑みを添えて。
 「何かした、と言ったら?」
 マイティは怒りのままに叫んでいた。
 「許さない、絶対に!!」
 マイティは再び、久見月流柔術の構えを取った。
 「柔術の極意は握・即・極(あく・そく・きょく)。エクセレン。お前を握ったら、即座に極(き)める!!そして殺す!!」
 ドラクローが拳を握り、龍神拳の構えを取る。真っ赤な光(エトス)がドラクローの拳に、燃える炎の様にまとわりつく。太い尻尾がたくましく地面をたたいた。
 「アブゾーバーを随分信頼しているようだが、エトスをまとった攻撃は確実にお前を痛めつける。エトフォルテをなめるなよ!!」
 マイティはドラクローに、父のような頼もしさを感じ始めていた。年齢的には兄だろうが、巴には兄がいない。身近の頼もしい男性は、柔術の指導者でもある父だ。
 この人は父のように信じられる。一緒に戦える人だ。だから、言った。
 「団長さん。よろしくお願いします!」
 「ああ。いくぞ巴!」
 二人は、エクセレンに向かって駆け出していく。


 マークⅡ3人が、ジーニアスと戦うリルラピス、アレックス、ウィリアムのもとに乱入した。マークⅡは絶え間なく攻撃を仕掛け、アレックスとウィリアムを王女のもとから引きはがす。
 ジーニアスがこの様子に、にやりと笑う。
 「邪魔な近衛騎士から始末する!!」
 ジーニアスが踊るようにロッドを振り、光の魔術を発動する。ロッドは神器ティアンジェルストーンが、装着者の意思に応じて服装とともに変化したもの。いわゆる『魔法少女』に憧れた夢叶統子たちの意思が反映されている。
 アニメの魔法少女さながらの構えから、光線が乱れ飛ぶ。光線はマークⅡと戦うアレックスとウィリアムを狙った。
 「させません!!」
 リルラピスは己を襲う監督官から距離を取り、アレックスたちを守るため光の魔術を発動。瞬時に大きな光の壁が形成され、二人を守った。
 アレックスが叫ぶ。
 「すまん、リル!!助かった!!」
 体勢を立て直したアレックスは、炎の魔術を発動したハルバードを構え跳躍。最上段から全力で振り下す。マークⅡが燃える炎の斧刃で頭部から両断された。
 一方のウィリアム。風の魔術を発動し全身の素早さを高めると、両手に握ったナイフの二刀流でマークⅡに高速斬撃を浴びせる。突風のごとき斬撃で手足を刻み動きを奪うと、トドメの二刀流で胸部を十文字に斬り裂いた。
 リルラピスは、自分に襲い掛かる監督官に水の魔術を発動する。舞うような動きで大気中の水素と酸素を引き寄せて生成した水を、杖の先端から一点集中でドリルのごとく高速噴射。水のドリルは監督官の左胸を突き破った。
 ウィリアムがリルラピスの側に駆け寄り、謝る。
 「王女様。近衛騎士として不甲斐ない」
 リルラピスは気にしない。
 「身分や立場は関係ない。大切な仲間だから、一緒に全力で戦い守り合うのです」
 大切な人のために頑張ると決めたなら、精一杯その人たちのために頑張る。両親をはじめ、多くの人との出会いの中でリルラピスが得た信念、覚悟だ。
 王族だから守られる。近衛騎士だから守ってもらう、ではない。同じ戦場に立ったなら、戦士としてともに頑張るだけだ。
 リルラピスは戦闘で乱れた呼吸を整え、ジーニアスに言う。
 「フェアリン・ジーニアス。いえ、夢叶統子。監督官たちを強化したようですが、私たちは絶対に負けない。一軍を率いる将としての自覚があるなら、降伏を。そして神器を私たちに返しなさい」
 ジーニアス、痛烈な舌打ち。
 「くそ!!異世界人の分際で!!」
 大企業の社長令嬢にして魔法少女である普段の表情からは、想像もできないほど悔しさと憎悪に満ちた表情を、ジーニアスは浮かべる。そして言った。
 「ユメカムに復興支援してもらった恩を忘れた挙句、ブロン王の暗殺までたくらんで!!何聖人君子ぶった顔してるわけ!?」
 リルラピスは毅然として言い返す。
 「初期の復興支援には感謝しています。ですが、叔父上には父上を暗殺した疑いがある。そして、この採掘場での強制労働を放置し続けた。あなたたちは強制労働を指揮した。私たちは、叔父上とあなたたちの所業をこのままにはできません」
 統子が負けじと言い返す。
 「文明遅れの異世界人のくせに!!おとなしく日本のヒーローに助けられて、私たちをおがんでりゃいいのに!!」
 アレックスが怒鳴る。
 「なんだその態度は!!」
 「私たちが助けてやった異世界よ。私達には好き放題する権利がある!!これまでも、これからも!!」
 ウィリアムが、あきれ果てた顔で言う。
 「僕たちの国でここまでやっておきながら、まだ足りないっていうのか」
 「足りない!!ここは私達ユメカムを成長させる夢の舞台なんだから!!もっと好き放題したい!!」
 「その好き放題のせいで、採掘場の下に眠っている破壊神デストロが目覚めるかもしれないのだぞ」
 ウィリアムの言葉を、鼻で笑うジーニアス。
 「ブロン王も言っていた、大昔のおとぎ話ね。自然保護のために異世界王室が考えた妄想でしょう。ブロン王は信じてなかったけど」
 「採掘場で、我が国で地震が増えているのを知っているだろう」
 「知ってる。それで?」
 「地震が起きるのは、デストロがこの地下で目覚めようとしているからだ」
 ウィリアムの警告に対し、ジーニアスの尊大な態度は止まらない。
 「だから採掘を止めなさい?はっ、上等!!デストロが目覚めたなら、ユメカムだけじゃない。日本のヒーロー総出でとことん相手にしてやろうじゃない!!」
 リルラピスは冷静に指摘する。
 「この状況を知らないヒーローもいるでしょう。あなた、本当にほかのヒーローを呼べますか?」
 ジーニアスの顔から、笑いが消えた。
 「日本政府がこの実態をどこまで把握しているかは知りません。ですが、ここを解放した後、私たちは首都ティアーズに向かい、叔父上から王位を奪還します。そしてエトフォルテの力を借りて、全世界に公表します。あなたたちが『異世界交流国際法』に背く行いをした、と」
 「……エトフォルテとつるんでおいて、ただで済むと思ってるの!?」
 「私たちは、ともに戦う覚悟ができている。たとえ、日本との友好関係が崩れようとも」
 クリスティアで起きたことの真偽を日本政府に問いただすときは、エトフォルテ墜落をめぐるヒーロー庁の対応も、はっきりさせる。エトフォルテに協力してもらった以上、彼らのこともきちんと手伝うと、リルラピスは決めていた。だから、ジーニアスに問いかけた。
 「統子。あなたは?」
ジーニアスが、わなわなと震える。
自分の問いに答えない、ということは、ジーニアスは自分の始めた戦いに責任を持つ気はない、と公言したも同然。
 アレックスが、嫌悪感をあらわにして吐き捨てる。
 「ねーんだな。覚悟」
 ジーニアスが殺気立った声を上げる。
 「……渡さない。この力は私たちの物なんだから!!クリスティアは私達の夢の舞台なんだからぁーっ!!」
 ジーニアスは大きく跳躍し、手にしたロッドを掲げる。
 「フェアリン・ジーニアス・ブラスタアアアアッ!!」
 ジーニアスは空中でダンスのごとくロッドを振り、巨大な光球を形成。一気に放った。
 光の魔術で防壁を張り、アレックスたちを守るリルラピス。
 だが光球の射線が、こちらではないことに気が付いた。
 光球は地上にいるリルラピスたちにではなく、採掘場の坑道に向かって飛んでいく。
 光球は坑道内部に吸い込まれる。坑道内部には、作業用の機械や鉱脈を広げるための爆薬がそのままになっていた。光球は高熱を帯びている。機械を動かす燃料や爆薬が、高熱で次々と引火、爆裂した。
 きらきら輝く黒い煙が、坑道内部から爆音とともに絶え間なく吹き出す。
 鉱脈にあるクリスティウムは天然の魔力鉱石。爆発して粉々に砕け散ったクリスティウム原石は、きらきらと輝く粉塵と化した。今採掘場はきらきらと輝く煙が立ち込める、不思議な空間と化した。
 リルラピスが悲鳴を上げる。
 「い、いったい何をっ!?」
 ジーニアスが無邪気に笑った。
 「破壊神が採掘のし過ぎで目覚めるって言うから、確かめてやったのよ。これで坑道内部も、クリスティウム鉱脈も滅茶苦茶。封印が弱まってるなら、破壊神目覚めちゃう、かもね?」
 最後のかもね、は、まるで歌うような口ぶり。
 ウィリアムがジーニアスを怒鳴りつける。
 「愚かな!!本当に破壊神が目覚めたらどうするつもりだ!!」
 ジーニアスは意に介さない。
 「はっ!目覚められるもんなら目覚めてみなさいよ、破壊神!!」
 やがて、坑道内部の爆音が、きらきらした粉塵が、止んだ。
 ジーニアス、高笑い。 
 「なんにも起こらないじゃなーいっ!!みんな古い妄想におびえて馬鹿丸出し!!あっははは……」
 リルラピスたちはこの光景に、体が震えた。
 いや、違う!ジーニアスの凶行に震えただけではない。
 自分の、いや、自分たちの体が、地面が、周囲の建物が明らかに物理的に震えている!!


 ジーニアスが爆発を起こしたのは、デストロ封印のための神殿を壊し設けた坑道である。
 本来神殿は、デストロ封印地点の真上にあった。神殿で儀式を行うことでクリスティウムを活性化させ、デストロの再生を抑えるために。
 そこからユメカムは、クリスティウムを大量に掘り出した。儀式は行われず、資源をむさぼり尽くそうとする邪悪な意思だけが採掘場にはあった。
 そして、ジーニアスが起こした爆発が、文字通りの起爆剤となった。
 破壊神デストロの、目を覚まさせる起爆剤に。


 地面を震わせ、枯れ枝のような腕が二本突き出てきた。
 次いで、ほっそりとやせこけた悪魔のような顔が現れる。
 腕を天に上げたまま、悪魔の顔も上昇していく。その場に居合わせた者全員が、露出していく破壊神デストロの全身を目の当たりにした。デストロの体から崩れ落ちる土が茶色い煙となり、採掘場に立ち込めていく。
 煙に包まれながら、破壊神デストロの体が上昇していく。
 その身は、細い。
 とにかく細い。
 見れば見るほど、破壊神の風貌は異様だ。
 干からびたキュウリの先端に真っ赤な瞳の悪魔人形の顔をかぶせ、中央にこれまた干からびた二本の腕を取り付け、全体を黒に近い灰色で塗りたくったら、こんな姿になるだろう。キュウリの下部に足はない。どういう原理なのか、キュウリ型の破壊神はふわふわと浮いていた。雨上がりの、まだ雲が残っている採掘場の上に。
 干からびた体が地面から抜けきると、震えはぴたりと収まった。


 

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