エトフォルテ防衛戦線ヒデ! 第76話 決死のデンジャーゾーンへ

 首都ティアーズでリルラピス王女が、マスカレイダーフェイタルブロンと戦っている頃。
 ドラクローは部隊を率いて、デストロの進路上にある集落の住民を避難させつつ、無数にばらまかれたミニトロの群れと戦っていた。


 「ドラアアア!」
 高熱を帯びた拳で進化した犬型ミニトロの顔面を全力でわしづかみにする。悲鳴を上げてびくんびくん、とけいれんする犬型を、全力で殴り飛ばした。
 ドラクローたちの周囲には、大量のミニトロの死体が転がっている。生まれたてのカエル型から、進化した犬型、さらに進化を重ねて二足歩行になったものの死体も。
 周囲に動いているミニトロはいない。安全確認を済ませると、ドラクロー隊の側で戦っていたクリスティア騎士の部隊がやってきた。リーダー騎士は、採掘場解放のため山中に潜伏していた緑髪の弓術士、ジャイロ・ハマーだ。
 「ドラクロー団長。このあたりに散らばったミニトロはすべて片付けた。集落の住民たちも無事だ」
 住民を守れたことに、ドラクローはひとまず安堵する。呼吸を整え、仮面を外し額に浮かぶ汗をぬぐう。仲間の十二兵団員も、クリスティア騎士たちも呼吸を整え始める。
 が、安堵はすぐ焦りに転じた。
 「デストロはティアーズに向かった。王女様とヒデたちが危ない。今すぐ追いかけないと!」
 しかし、問題があった。移動手段である。
 ジャイロが難しい顔で呟く。
 「ティアーズに行く移動手段が、ない」
 助けに行くなら、もっと車を集めて大部隊を編成する必要がある。幸い戦力はある。集落の住民たちが、義勇兵として名乗りを上げてくれたのだ。クリスティア人は一般人でも護身用の魔術や魔術弓が使える。人数は十分だ。
 だが、移動手段がない。
 採掘場から持ち出したトラックと、作業員たちが朝方までに調達した車両は、リルラピスたちティアーズ行きの部隊を運ぶために使ってしまって、もうない。まだ周辺にミニトロが散らばっているかもしれないから、避難部隊用の車両は残す必要がある。空中移動できるヘリは一機だけで二十人しか乗れない。
 ドラクローは採掘場で、フェアリン・エクセレンを殺せなかったことを後悔した。フェアリンを殺せていれば、デストロも目覚めず事態はここまでひどくならなかったはず。
 自分の後悔は、うつむきがちな顔に出てしまったようだ。ジャイロが言う。
 「団長。こんな事態になったのは、自分のせいだ、なんて考えるな。もとはといえば俺たちの国の問題。ここまで手伝ってもらって、みんな感謝してる。だから堂々としてくれ。龍の体がもったいない」
 「もったいない?」
 「龍は、クリスティアでは強い意志を象徴する神なんだ」
 クリスティアの神々は、みんな獣人風。龍は頑丈な皮膚を持つことから、心身の強さの象徴であるという。
 神様扱いはおおげさだが、自分を責めてうつむいてばかりいられない。ドラクローは顔を上げる。今いる仲間にも、スレイ先輩たちにも恥じない態度で行動しなければ。
 すると、通信が入った。別の場所で避難活動を支援しているジャンヌからだ。


 通信機の向こうから、ジャンヌの切迫した声がする。
 『ドラクロー!私たちもティアーズに移動する!?』
 「その移動手段がなくて困っているんだ」
 ジャンヌの声が、弾む。
 『移動手段、あるわ!』
 「あるのか!?」
 ドラクローたちの顔に、希望の色が差す。
 『威蔵と半次が別の車両基地から、さらに車を調達してくれた。車両整備師とクリスティアの騎士のみんなも、あちこちの車両基地から車を集めてくれているわ!』
 威蔵と半次、ヒョロをはじめとした車両整備師たちは、昨日から車両整備基地を回って車両を集めている。ユメカムは復興支援のため、クリスティア国内の道を整備し、給油と整備を兼ねた車両基地をあちこちに建設していた。一つの車両基地にバスやトラックが相当数置かれている。 
 『もうじき私のいる部隊と、威蔵の部隊は合流する。ドラクロー。残ってミニトロに対応する部隊と、ティアーズに向かう部隊を分けておいて!車両がそろい次第、ティアーズへ!』
 「わかった!!」
 エトフォルテへの誘導は失敗したが、デストロはミニトロを生み出しながらティアーズに進んでいる。こちらも追いかけながらミニトロと戦いつつ、人々を保護しなければ。
 ドラクローはジャイロたちと、急ぎ部隊の編成を始めた。


 同時刻。
 首都ティアーズ城の物見台では、ジューンと孝洋がクリスティア騎士二人に手伝ってもらい、首都に向かっているであろうフェアリンを探っていた。
 騎士は二人とも十代後半。銀髪の男性騎士がマグネスで、金髪の女性騎士がニケル。首都防衛騎士団の制服である濃い青色のロングコートをきちんと着ている。二人ともブロンに臣従するのは本意ではなかったが、生計を立てるため騎士団に就職。ブロンの開設した電子記録署にいた、という。
 この部署は読んで字のごとく、騎士団の活動記録を映像・画像で電子的に記録するための部署で、ビデオカメラをはじめとした撮影機材の扱いを二人は学んでいた。ジューンの助けになるだろう、ということでウィリアムが補佐に付けてくれたのだ。
 ジューンと孝洋は電子双眼鏡を構えている。孝洋がジューンに尋ねる。
 「ジューンさん、フェアリンたちは見えたかい?」
 「まだ見えない。そっちは?」
 「こっちにもいない。まだここには来てないのかなあ」
 隣にいる女性騎士ニケルが言う。
 「機動兵器に乗ってるとは聞いたが、途中で兵器を捨て避難民に紛れているかもしれない」
 騎士たちは魔術機構搭載の双眼鏡。光の魔術機構搭載で、視覚を強調する優れ物だ。
 男性騎士マグネスが、ジューンに言う。
 「にしてもジューンさん。よくこの状況で堂々と取材できますね。戦場にいた経験でも?」
 クリスティア人も、ある程度地球の文化を理解している。記者の仕事は安全な場所で写真撮影とインタビューすること、と思っているようだ。
 ジューンも昔はそう思っていた。ちらりと過去を思い出し、答える。
 「取材現場は常にデンジャーゾーン。そういう訓練を受けたのよ」


 ジューンはもともと、アメリカの有名な科学雑誌の記者である。
 約10年前。就職早々、新人研修兼防災訓練と称して荒野にぽつんと立っている『サバイバル研修センター』に、同期の新入記者たち46人と一緒に連れていかれた。
 記者の新人研修って、インタビューや撮影の勉強から始めるんじゃないの?
 センター内のホールで同期たちと呆然としていると、新人教育担当の男性上司が一段高い場所から新入社員たちを見下している。
 昨日まで自分たちと接していた穏やかなロマンスグレーの紳士から一変。上司は軍隊の鬼軍曹同然の口調と化した。
 「今、『新入記者の研修ってインタビューや撮影の勉強からやるんじゃないの?』と思ったやつ。Too sweet(甘すぎる)と言わざるを得ない!」
 上司は新人たちを鬼のような形相で怒鳴りつけた。
 「我が社はアメリカの最先端科学技術を追いかけている。取材先の研究所がテロリストに襲われた。有毒なガスが漏れて死体がゾンビになった挙句、記者がゾンビにかみ殺された、という事態はしょっちゅう起こりうる。覚えておけ。取材現場は常にデンジャーゾーンなのだ!」
 しょっちゅう、って研究所の警備体制的にどうなんだろう。常にデンジャーゾーンって、映画じゃあるまいし……。
 ジューンの胸の内を見透かしたように、さらに厳しい声で上司が言う。
 「わが社の大切な記者が、パニック映画のごとき状況下で無残に死ぬのは耐えられん。ここで1か月、みっちりサバイバルスキルを身に着けて今後に生かしてもらいたい!インタビューや撮影はそれからだ!」
 同期たちは猛烈なブーイングを発する。ジューンも非難の声を上げた。
 いくらなんでも横暴だ。パワハラだ。ブー!
 が、上司の鬼軍曹口調は変わらない。
 「これはパワハラでも何でもない!当社の新人研修は、防災訓練も兼ねた業務の一環で行われる。事件・災害がいつ発生するかわからない以上、訓練もこのように予告なしで行う!」
 嫌だ!帰りたい!同期の青年が甲高い声を張り上げると、上司は言った。
 「どうしても嫌なら、帰って良し。ただし、我々は君たちに辞表をきちんと書かせるぞ。送迎バスは私が指示するまでここには来ない。最寄りの街は35キロ先。私は君たちに最低限の水と食料しか渡さない!この意味が解るか!」
 つまり、音を上げたら強制的に退職。脱走は不可能ということだ。
 「訓練に耐えられないやつが、将来待ち受けるデンジャーゾーンを生き延びられると思うな」
 青年はなおも抵抗する。
 「じゃあ、会社が安全な取材環境を提供してくださいよ!」
 「そんなものなどない!これ以上ブーイングした者は規律違反とみなし、特別室に連行するが、良いか!」
 連行したら何をするの!?
 もう上司は説明せず、だんまりを決め込む。
 ジューンは怖くて聞けず、同期たちのブーイングは、ぴたりと止んだ。


 サバイバル研修センターで1か月。
 ジューンたちは銃の撃ち方、ガスマスクの装着から応急手当まで、本当にみっちりとサバイバルスキルを仕込まれた。自分を含めた新入記者47人は、1か月後には20人になっていた。
 正直やりすぎだとジューンは思ったが、記者をあきらめたくなかったので頑張った。
 あとでこの訓練が正しかったと思い知る。入社半年後。取材先の研究所で遺伝子改造したライオンが脱走して大暴れ。ジューンは研究所員を連れてなんとか避難できた。
 実験動物はその後駆け付けたヒーローに倒される。避難に精いっぱいで、ヒーローの活躍を撮影できなかったが、ロマンスグレー上司からは称賛された。
 「研究員に死者なし。カワグチが避難を手伝ったからだ。それを誇りなさい」
 会社での彼は絵に描いた理想的な上司で、研修センターでのあの鬼軍曹ぶりは何だったのだろう、とジューンは不思議に思った。変貌の真相は今でもわからない。
 こんな状況は、あと3回ほどあった。


 後にジューンはアメリカ留学中のまきなと友人になり、カフェでこの話をした。
 呆れられるかと思いきや、まきなは驚かなかった。
 「私も日本の大学で、近いことをやった」
 非常時の医療活動への耐性をつけるため、まきなはほかの学生たちと一緒に、医薬品をいっぱい入れたバックパックを背負い山に入った。ひたすら歩いて、山間部の集落へ訪問医療活動を2週間やった。宿泊は原則野宿。道中怪我をした者には、その場で治療をしたそうだ。土砂降りの雨で体力を削られた上に、山中でハチに刺され死にかけた者がいたという。
 まきなは言った。
 「危険な環境で医療活動を行うことはあり得るからね。デンジャーゾーンへの覚悟は、やっぱり持っておかないと」
 それにしても、とまきなが昔を振り返る。
 「なんでこういう訓練を指揮する偉い人は、みんな鬼軍曹みたいになるのかしら」
 鬼軍曹は万国共通なのか。ジューンは苦笑する。
 「訓練、というシチュエーションが人を鬼軍曹にするのかも」
 「私の訓練を指揮したのは大学病院の先生で、普段は結構きさくでひょうきんな関西のオバチャン、みたいな人だったのに……。山の中ではとっても厳しくて怖くて、私怒られて泣いちゃった」
 「どんな風に怒られたの?」
 「『アンタ、医療活動ナメてんのかーい!!』」
 ジューンは飲んでいたコーヒーを吹きかけた。
 「武智まきなが、『ナメてんのかーい!!』」
 まきなが他人の物真似をするとは思わなかった。彼女は新進気鋭の義肢開発者で、真面目で誠実と業界で評判だったから。
 それが『ナメてんのかーい!!』と来た。ジューンは笑いが止まらない。
 「いや。私じゃなくて先生が言ったのよ?」
 まきなはウケ狙いではなく事実を言っただけらしい。が、逆にそれがジューンの笑いのツボをさらに刺激した。
 「コントみたいな鬼軍曹ね。私も訓練受けたい」
 「私の演技が下手でコントっぽく聞こえたんだろうけど。実際には超怖かったんだから……」
 「はいはい。ね、それ今度パーティの余興でやってよ?絶対ウケる」
 まきなが全力で首を振り否定する。
 「絶対いや!」


 こんな感じで、ジューンは記者時代
 『取材現場は常にデンジャーゾーン』
 を実感していたから、エトフォルテへの取材にも覚悟をもって臨んでいた。
 まさかクリスティア王国に行くことになった挙句、ここまでひどい現状だとは思わなかったが。
 展開が激しすぎて、正直疲れてるけど。記者として好奇心が止まらないのも事実。
 だから、私は立ち止まらない。
 記者として、まきなの友人として、エトフォルテとクリスティアで起きたことは全部記録して世に送り出す。ヒーローの戦闘現場に、我が身をさらすことになろうとも。
 自分の取材が、誰かの「Beautiful day」(良い一日)につながると信じて。
 ジューンは覚悟を決めて、双眼鏡をのぞき込む。

 
 市街地は城内地区に避難しようとする市民であふれかえっている。この中にまぎれてやしないか、とジューンも考えたが、フェアリンの衣装は目立つ。変身を解除しても顔が知られている。今までの所業があるから、フェアリンとみれば市民は殺気立って暴れるだろう。
 首都ティアーズの広大な敷地の中から、二人の魔法少女を見つけ出す。双眼鏡を駆使しても、なかなか見つからない。
 まさか、ヒデの予想を裏切り首都とは別の場所に向かったのでは……。だとしたらお手上げだ。
 ジューンたちに焦燥感が募る。
 孝洋がいったん双眼鏡を外し、額の汗をぬぐい毒づく。
 「やりたい放題の挙句、俺らがデストロに襲われるのを見物しようなんて!どういう神経してるんだ」
 孝洋と話しながら、まきなのことをちらり、と思い出すジューン。まきなの言葉を口にした。
 「ヒーロー活動なめてる、としか思えない」
 「全くだ!」
 そして、孝洋の言葉で気が付いた。思わず英語で叫ぶ。
 「あ、Watch(見物)!きっとやつらは“高みの見物”決め込む気だわ。高い建物を探して!」
 フェアリンたちは高い建物に陣取り、デストロが確実に接近したのを見届け、離脱するのでは?
 ジューンたちの視線は、高い建物を探して目まぐるしく動いた。そして、騎士ニケルがついに発見した。
 「慰霊塔に向かって、何か飛んできた!」
 ジューンは双眼鏡からデジタル一眼カメラに持ち替え、望遠レンズをズームした。
 市街地から離れた郊外に、クリスティア王国の国章、水瓶のレリーフを飾った高い塔と、多数の石碑が並んだ広場がある。4年前の魔王との戦いで亡くなった人々を弔うために造られたものだと、ニケルが教えてくれた。
 広場に向かって、採掘場で見た機動兵器フィオーレが飛来し、着陸。しばらくすると、塔の最上階に向かって人影が跳躍する。
 ジューンのカメラは、フェアリン・ジーニアスとエクセレンの姿をついにとらえた。
 二人はデストロの方向をしきりに気にして話し合っているようだ。この距離ではさすがに内容までわからない。が、デストロをおびき寄せようとしているのはもはや明白。


 ジューンはフェアリンたちを撮影した。そして考える。
 この位置からでは望遠レンズを駆使しても、フェアリンが小さすぎる。フェアリンの生の声と動きを、出来るだけ近くで映像と写真におさめたい。
 孝洋がジューンに尋ねる。
 「俺、連中を攻撃できる位置に移動しようと思う。ジューンさんは?」
 ジューンは決めた。
 「一緒についていく。戦闘の記録を撮影する」
 とっておきの取材道具の出番だ。
 ジューンは持参した金属製のケースを開けた。中にあるのは撮影用のドローン。全長50センチメートル、4枚のローターで動くアメリカ製の超高性能品。駆動音を限界まで抑え、撮影ターゲットを一定距離で自動追尾する優れ物である。
 孝洋が目を丸くする。
 「ドローンなら、ここに残ってもいいんじゃ……」
 「できるだけ近づいてやつらの言動と姿を捉えたいの。大丈夫。絶対に迷惑はかけないから」
 城内にとどまってもドローン操作はできるが、近づけばさらに確実な映像と写真を撮れる。自分の五感を駆使して対象者に近付かなければ、記者は物事の本質を捉えられない。これは雑誌でもネットニュースでも同じことだ。
 孝洋はためらっていたが、やがて頷いた。
 「わかった。危ないと思ったら、ちゃんと引き返してよ。あなたに何かあったら、俺父ちゃんと母ちゃんにぶん殴られちゃうから。両親も俺もファンなんだ」
 「じゃ、あとでサイン書いてあげる。パパとママと、あなたの分も」
 「やったぁ!」
 すると、騎士のマグネスとニケルも言い出した。
 「あの~。俺たちにもサイン書いてもらえますか?」
 「日本のTV放送、贈呈されたアーカイブで見た。あなたの番組めっちゃ面白かったから……」
 これにはジューンも驚いた。日本からクリスティア王国に、文化交流の一環で大量の映像作品(古今東西の映画やTV番組など)が送られた、と風のうわさで聞いていたが、まさか自分の出ていた番組を見られていたとは。
 もちろん、ジューンの答えは決まっている。
 「OK!」


 その後。ジューンたちは玉座の間に待機していたウィリアムと合流。
 フェアリン退治と撮影について手短に打ち合わせをした。
 そしてウィリアムは弓矢を、アレックスはハルバートを構える。
 「行こうか、アーリィ」
 「ああ。行こう、ウィリー」
 二人はそのまま駆け出し、ブロンが割った城の窓から飛び出した。風の魔術機構搭載の靴を使い、二人は屋根から屋根へ大きく飛び渡っていく。
 二人を見送ると、箱を抱えたパズートが入ってきた。
 「ウィリアムたち、行ってしまったのか?」
 騎士マグネスが答える。
 「行ってしまいました」
 「持っていってほしい物があったのに!!」
 パズートの困り顔から察するに、かなり大事な物らしい。
 ジューンは言った。
 「パズートさん。私は孝洋と一緒に城を出て、戦いの様子をカメラに収めます。私たちが持って行っても良ければ、運びますが」
 渡りに船だ、とばかりに、パズートは喜んだ。
 「助かる。運んでほしいのは、この箱だ」
 箱は木材と金属の組み合わせで、水と魔術の王国らしくメタリックブルーで彩られている。大人の両手でやっと抱えられる大きさだが、意外と軽い。
 「神器を封印するための『封魔の箱』だ。フェアリンたちを倒したら、これにティアンジェルストーンを納めるよう、二人に言ってくれ。ストーンが発する力、アンタたちの言う電磁波や電波を外部に漏らさぬ効果がある」
 これにおさめれば、フェアリンの力をデストロは感じられなくなる、ということだ。
 ジューンと孝洋は、箱や武器を持って外に出ることにした。騎士のマグネスとニケルも同行する。
 「そうそう。移動には車を使うと良い。城の車庫に行ってくれ。車庫の兵士にはもう話をつけてある」
 パズートの配慮がありがたい。さすがに足で近衛騎士たちを追いかけるのは、無理がある。
 ジューンは深呼吸し、高ぶる胸を落ち着ける。恐怖と同時に、取材への好奇心で胸が高鳴るのは記者の性。
 そして、故郷の言葉である英語で気合を入れた。
 「Let's go to the danger zone!(いざ、デンジャーゾーンへ!)」


 
 

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