エトフォルテ防衛戦線ヒデ! 第21話 害敵必討~残り5人~

   
 シャンガインのマスクの内側にはメンバーの生体反応を示す表示がある。メンバーが死亡すると、メンバーの表示が消える仕組みだ。
 ハイパーシャンガイオー墜落から10分もたたないうちに、イエローとゴールドが死んだ。エトフォルテからは絶え間なく砲弾が飛んでくる。シャンガインの反重力飛行装置はバッテリーで動くから、海上で切れれば溺れるしかない。
 「エトフォルテに取りついて、獣人を接近戦で倒すしかない!!」
 レッドはメンバーにそう宣言した。シルバーはなおも反対する。
 「だから危険すぎるって言ってるだろう!!引き返そう!!」
 「絶対にこの危険は乗り越えられる!!俺たちはヒーローだぞ!!」
 間に合わせの2代目シルバーの反対を、最高潮のイライラとともにレッドは押しのけた。
 「嫌ならお前は来なくていい!!シャンスナイパーでちゃんと援護しろよ!!」
 そして、ほかのメンバーに指示を出す。
 「グリーンはシャンバズーカで、この前の裂け目を狙え。裂け目を通れば獣人どもの住処だ。中でバズーカを撃ちまくれ!!」
 「おう!!」
 この前の裂け目とは、シャンガイオーの剣を突き刺した甲板上部のことである。シャンガイン達は突き刺してできた裂け目からエトフォルテの居住区に侵入した。今その裂け目には防護板が置かれているが、新武装のシャンバズーカなら壊せるはず。
 「ブルーとピンクは俺に続け!!接近戦で獣人を殺す!!」
 「わかった」
 「オッケー!!」
 「カメラ映りを意識して動けよ!!」
 4人はいっせいにエトフォルテに向かって飛行する。
 一人残されたシルバーは、狙撃銃型の新兵器シャンスナイパーを構えて、ぶつぶつと呟いた。
 「何がカメラ映りだ。ハイパーシャンガイオーが落ちたときに、撮影用ドローンは全部壊れたってのに…おっと!!」
 上空から、空色迷彩を纏った鳥獣人たちが襲ってくる。シルバーは距離をとって、鳥獣人たちと戦い始めた。
 

 エトフォルテに最接近したレッドたち4人。口火を切って、グリーンがシャンバズーカを立て続けに2発撃った。
 着弾点に獣人はいなかったが、裂け目を覆う防護板が爆風とともに大きくひしゃげ、人一人が入れる隙間ができた。
 「もっと撃ち込んでやる!!」
 バズーカを再び裂け目に向けた瞬間、光の刃がバズーカを斬り裂いた。
 さっきのメカ女だ!!
 「同志の故郷を傷つけさせない!!」
 メカ女はビームの刃を振り回す。もうバズーカは使い物にならないから、捨てるしかなかった。グリーンは剣型の武器シャンカッターを抜いた。勇ましい効果音とともにビームの刃が展開される。空中で激しく斬り結ぶ。だがメカ女の方が素早い。小太りのグリーンは不利を感じ取る。
 「裂け目に飛び込んでしまえば!!」
 メカ女を押しのけると、反重力飛行装置を全速力で起動する。
 そしてグリーンは裂け目の中に飛び込んだ。
 

 一方レッドたちは、グリーンが裂け目に飛び込んだのを見届けた。
 「よし!俺たちは肉弾戦だ!!」
 レッドは格闘専用の籠手『シャンガントレット』を、ブルーは大型剣『シャンカリバー』を、ピンクはビームの鞭『シャンリボン』を構えて甲板に着地する。
 獣人たちはこの前のように、大勢の『戦闘員』を繰り出してくるはず。ヒーローとして定番の見せ所を、と意気込んでいた3人は、向かってきたのが3人だけなのに驚いた。
 一人はこの前もいた蛇型の女獣人。もう一人は燃える龍のような獣人。最後の一人は
 「日本人か!?」
 ブルーが叫ぶ。獣人と同じ制服を着ているが尻尾がなく、日本刀を構えて一直線にブルーに斬りかかってきた。
 そして蛇獣人がピンクに、龍獣人が自分に襲い掛かる。龍獣人が真っ赤に光る拳を突き出して叫ぶ。
 「ここはヒーローショーの舞台じゃねえ。お前たちの処刑場だドラアアアア!!」
 レッドは声で理解した。
 「通信機のドラクローか!?リーダーのお前を殺せば、獣人どもは総崩れだな!!」
 レッドとドラクローの拳が激しく交差する。



 ピンクと対峙したジャンヌは、問答無用で槍の連撃を放った。だがエトスを纏った連撃は微かに左上腕部をかすっただけで、ほとんどかわされてしまった。距離をとったピンクが上腕部の様子を確認する。スーツが少し破れたのを気にしてか、声を張り上げた。
 「新しいスーツをいきなり破いて!何なのよ、アンタは!?」
 「最長老ネイクスの孫。第五団長ジャッキーの妹ジャンヌ!!」
 「アンタの名前なんてどうでもいい!!」
 どうでもいいなら最初から聞くな。
 「あたし、蛇がほんと嫌いなの。ただでさえ獣人は汚らわしいのにスーツを破いて!!だからとっととアンタを殺したい!!」
 「奇遇ね。私もお前を殺したくてたまらない!!」
 ジャンヌは手にした槍に改めてエトスを流す。明るい緑色のエトスが輝く。
 「兄さんを最後に撃ったのはお前だった!!」
 「シルバーにとどめを刺した蛇男の妹なんだ!ますます殺したくなった!!このシャンピンクの新しい武器、シャンリボンの本当の力を見せてあげる!!」
 ピンクはシャンリボンをくるくると回し、踊りながらリボンをジャンヌに放った。
 「キューティ・ステップ・リボーン!!」
 ビームをまとったこのリボンは鞭にしてしなる刃だと、事前の放送で見ていた。
 放送でイメージを掴んでいたが思ったより動きが早い。完全にかわしきれず、リボンがジャンヌの全身を斬り裂く。尻尾の一部を斬られた。鋭い痛みに声を上げるが、体は致命傷を避けている。十分動ける。
 「あれ!?この前は簡単に殺せたのに!?」
 目の前でピンクが狼狽している。マティウスのビームコートスプレーだけでなく、タイガが設計した新しい防具のおかげだ。制服の内側に着るこの防具の縫製には、ムーコたち心の部もかかわっている。
 今自分は、仲間の願いをまとっている。そしてジャンヌは、アルの言葉をふと思い出す。
 温もりが力になる、出力リミットが二段階上がると、嬉しそうに語っていたアルを。
 今なら自分にもわかる。仮面の内側で自然に笑みがこぼれた。
 「だったら、私の全力は三割増しじゃん!!!」
 だから尻尾の痛みにも耐えられる。すでに“仕込み”は済ませた。ジャンヌは槍を構えて駆け出す。蛇族の戦い方を見せてやる。

 「この、この!!」
 駆けだしたジャンヌに、再びビームリボンを放つピンク。
 ジャンヌはしなやかに舞いながらリボンの斬撃をよけていく。体のつくりが人間と違うのか(というか、絶対違う)、ダンサーも驚くような柔軟性を見せつけている。
 全く攻撃が当たらなくなったことに焦りを覚える。そして無駄なく動いてかわすジャンヌの動きを一瞬綺麗だと思い、内心絶句した。蛇女のくせに!!
 次第にピンクの動きは乱れ始めた。息が切れる。
 おかしい。体調は万全でもっと長い時間戦ったこともあるのに、息が切れるのが早すぎる。目がかすむ。なぜ?スーツは破けたけど、その下の二の腕は少し血がにじんだ程度なのに。
 逆にジャンヌの動きはさらにキレを増し、距離を詰めていく。距離を詰められたらリボンはもう使えない。慌ててシャンカッターに持ち替えて、ジャンヌを横なぎに斬りつけた。
 ピンクの視界からジャンヌが消える。素早く地面に伏せてかわされたと知ったときには、もう遅かった。
 人間以上の柔軟性で足と尻尾を滑らかに動かし、ジャンヌはピンクの首に尻尾を巻き付け、さらにピンクの腕に両足をかけた。腕ひしぎ十字固めだ。
 やられるわけには!!
 ピンクは全身に力を込めて、立ったまま耐える。首に巻き付いたジャンヌの尻尾、さきほどシャンリボンで斬りつけた傷跡が見えた。ピンクは左手を動かし、指を突っ込んだ。
 この痛みでジャンヌは手を離すはず。
 が、力は緩むどころか、さらに強くなった。
 「みんなの無念を思えば、傷口に指を突っ込まれたくらいでッ!!」
 首が絞まる。そしてピンクの右肩はついに脱臼した。


 一方のジャンヌ。関節技を解き、槍を拾上げエトスを流す。
 「みんなの無念はここで晴らす!!碧蛇咬輪槍(へきじゃこうりんそう)!!」
 大きく踏み込んで放った全力の一突きは螺旋のエトスを描き、ピンクのみぞおちに命中した。
 明るい緑色のエトスを纏った槍がスーツに食い込む。螺旋がスーツを巻き込んで引きちぎると、ついにスーツの下の肉体に槍が突き刺さった。
 「エトスと毒撃の合わせ技!!これが蛇族の奥義よ!!」


 もはやピンクは、己の体から槍を引き抜いたジャンヌを呆然と見つめることしかできなかった。
 最期に思ったのは、ジャンヌの『毒撃』という言葉。
 体が急に重くなったのは、槍がスーツをかすかに破いた後だった。
 …槍に毒を仕込んでいた!?いやだ!!蛇女に巻かれた挙句毒で死ぬなんて!!
 死を思った瞬間、得体のしれない何かがピンクの脳を満たしていく。

 ジャンヌの槍は蛇族の特技である毒撃を生かすため、一定量のエトスを流すと穂先に毒が染み出す細工が仕込んである。毒の濃度はエトスを流す量で調整できる。最初にピンクのスーツを破いたときは抑え気味で、碧蛇咬輪槍を放った時が最大濃度。万が一槍を奪われて仲間に投げつけられた場合を警戒したのだ。
 ジャンヌは引き抜いた槍の血を振り払う。みぞおちから入った最大濃度の毒はピンクの全身を一気に侵すだろう。ピンクの膝が崩れ落ちて、
 「な!?」
 ジャンヌはとっさに槍を構えた。ピンクが膝を立て直し、その左腕が腰に残っていたシャンバスターを抜いたのだ。致命傷のはずなのに照準をジャンヌに合わせて引き金を…!?
 瞬間、上空から銃を撃ったアルが、シャンバスターを弾き飛ばす。
 「同志ジャンヌ、止めを!!」
 もう一度槍にエトスを流し、ジャンヌは再びピンクを突く。念には念を入れて、地球人の急所が集中している正中線にそって三段突き。今度こそ、完全にピンクの動きが止まって倒れた。
 「あれから動くとは思わなかったよ」
 アルに軽く手を振り、ジャンヌはピンクの死体を見る。
 「最初の突きと毒でほぼ死んでいたはず。人間の心、“執念”のなせる技でしょうか」
 「執念…」
 アルの分析どおり、執念なのか。いや、別の力にピンクが突き動かされたように、ジャンヌには見えた。その力が何なのかは、わからないけれど。
 ほっと一息ついた刹那、前触れもなくアルがジャンヌに抱き着いてきた。押し倒されて尻尾が痛む。
 抱擁している場合じゃないとアルに怒ろうとしたら、
 「狙撃されている!!退避を!!」
 さっきまで立っていたところを、光の弾丸が通過した。アルにかばわれて、ビームコートスプレーを吹いた臨時の防護壁の裏に退避する。すでにムーコたち心の部の救護班が待っていた。
 「私はドラクローと威蔵の援護に行かないと…」
 「わかってる!!ヌーちゃん、尻尾の応急処置だけさせて!!傷口が広がったら動けなくなっちゃうよ」
 ムーコにぴしりと止められて、ジャンヌは戦場に戻ろうとする足を止めた。戦いの高揚感で紛らわしていたけれど、ピンクが指を突っ込んだ尻尾の傷口は改めて見ると酷かった。このまま戦っていたらいずれ肝心な時に動けなくなっていただろう。狙撃からかばってくれたアルも、心配そうに傷口を見ている。
 「…ごめん。ありがと」
 救護班に振りかけられた消毒液の冷たさと刺激が、痛いけどありがたかった。


 「わずらわしい鳥獣人だった…!」
 海上に残っていたシルバーは、襲ってきた鳥獣人たちのしぶとさに舌打ちした。連中の服にはビームを弱める加工が新たに施されたらしい。だから攻撃が当たってもなかなか退かない。なんとかシャンバスターを二人の翼に命中させると、鴉のような少年獣人たちにかばわれて撤退した。やっと狙撃銃『シャンスナイパー』を構えられる。
 「レッドとブルーの相手は戦闘中で狙えない。なら狙うは…」
 ピンクを殺した蛇獣人の頭部に狙いを定める。が、メカ女が蛇獣人をかばって押し倒した。倒れたところをもう一度撃とうとしたが、今度は砲弾が飛んできた。
 シルバーはシャンスナイパーのスコープをのぞき込んで砲台の一つを確認する。銃座に乗っているのは、柴犬のような髪色の獣人だ。その頭部に向かって一発撃つ。長距離戦用のビームは、銃座にヒビを作ったが貫通しなかった。
 「ここにもビーム対策か!!」
 そういえば数年前、どこかのヒーロー組織の武装デザイナーとやらが、ビームの威力を押さえるスプレーを開発した話をシルバーは思い出す。連中はそれと同等のスプレーを服や銃座に吹き付けたに違いない。これも軍師ヒデの入れ知恵か。いや、軍師の事はどうでもいい。
 「出力を上げて同じ場所に撃てばいいだけのこと!!」
 柴犬獣人はまだ銃座にいた。ほかの銃座からの砲弾をよけながら、シルバーは二発目、三発目を撃つ。ヒビがさらに大きくなり、三発目でついに突き破った。とっさに頭部をひねった柴犬獣人の肩から、血が飛び散る。



 

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