決戦の日曜日。朝8時。
エトフォルテの指令室に集まったドラクローとヒデたちは、指令室のモニターに映し出されたネットニュースの映像を見ていた。
日本の家庭やパブリックビューイングで流されているものと同じ、獣人撃滅に行くレギオン・シャンガインの映像だ。映像は指令室以外の場所で準備しているハッカイやまきなたちも見られるよう、船内各地に用意された小型モニターにも映し出されている。
てっきり朝8時にはエトフォルテを襲撃するものと想定して一晩中警戒していたヒデたちは、映像を見て拍子抜けした。
映像は生中継で、全国各地のヒーロー庁公式パブリックビューイングの会場の様子から始まった。会場は朝から酒や軽食の屋台が並んで、まるでお祭り。パブリックビューイングはヒーロー庁公式支援とあり、シャンガインのグッズが大量に並んでいる。
そして素顔のシャンガイン達が基地から現れ、決め台詞。
「「「「「「「正義をもたらす7色の光!!」」」」」」」
さらに追加メンバーの2代目シャンシルバーの紹介、改良したピカピカのスーツと新たな武装、強化武装を施したロボことハイパーシャンガイオーのお披露目(性能自慢)が立て続けに流され、これだけで約30分。合間には子供向けのグッズCMとヒーロー庁の公式スローガン『ヒーローが日本を元気にします』が声高らかに流れている。
CMが終わりやっと出撃かと思いきや、今度は歌と踊りのコーナーが始まる。
歌と踊りは変身前のシャンガイン本人によるもの。いかにもリーダー格風情の男子レッド。クールなメガネ男子のブルー。ぽっちゃり男子のグリーン。活発そうなスポーツ女子のイエロー。しぐさも衣装もアイドル風女子なピンク。髪を金色に染めたミュージシャン風の年長男性ゴールド。そして真面目で堅物そうな2代目シルバーは、ゴールドと同年代の男性だ。
2代目シルバーはヒデの目から見ても明らかに動きがぎこちなく、間に合わせでシャンガインに入れられたように見えた。
ドラクローは映像を見て完全に呆れている。
「敵に強化した武装をお祭り騒ぎで公開してから戦いに行く戦士なんて、いるんだな」
「エトフォルテはニュースを見てないと思っているのか、見せても負けるはずがないとうぬぼれているのか。あるいは焦らし戦術か。おかげでこちらは対策をとれますが」
ヒデも正直呆れるしかない。映像を見つつ、昨日までの対策に修正が必要かをドラクローたちとこまめに確認していた。
ムーコは怒りと困惑がない交ぜになった表情を浮かべる。
「遊び半分で私たちを殺しにくるみたい。許せないよ」
許しちゃ置けないと、タイガも同意した。
「とりあえず、ロボを複数繰り出してこないとわかった。博士とマティウスのところに行ってくる」
タイガは目をこすり、あくびをかみ殺してから指令室を出ていく。
モニターをにらむジャンヌは、鋭い殺気を隠さない。
「こっちは交代しながら仮眠とって一晩中神経すり減らしてたのに。こんな奴らになんか、絶対負けない」
歌が終わり、『CMのあと出撃!!』とテロップが流れた。いよいよエトフォルテも防衛体勢をとるときが来た。
ドラクローが指令室のマイクを掴み、船内にいる全員に呼びかけた。
「ドラクローからエトフォルテの全員へ!
シャンガインがこの後エトフォルテに向かって出撃する。皆、緊張していると思う。怖さも感じてると思う。実は俺もだ。
こういう時は俺の先輩でもあるスレイ団長から教わった、とっておきの方法がある」
一呼吸おいて、ドラクローは口を開く。
「深呼吸を繰り返し、魂を研ぎ澄ます。簡単に言えば、今までの良かったことだけ思い出す。そしてこれから良いことが待っていると信じるんだ。
今は、良かったことを思い出すと辛くなるけど…。俺はその辛さを怒りに変えて、エトフォルテの未来を守る力にする。害敵必討(がいてきひっとう)。その先にある未来で、みんなが笑っていられるように!!」
船内各所で、「団長、よく言った!!」と歓声が上がる。歓声は指令室にも届いていた。
「ヒデ。お前からも一言頼む」
ドラクローからマイクを渡され、ヒデは口を開く。
「勝つために生きるために、みんな今日まで全力で考えて本気で行動してきました。
だから、浮かれ気分で来るシャンガインに私達は絶対負けない。勝ちに行きましょう、必ず!!」
自分もスレイの教えを信じる。今までの思い出を力に変えて軍師の務めを果たす。ドラクローたちエトフォルテ人と仲間になった日本人とともに、シャンガインを倒し皆で生き残る未来のために。
再び歓声。それに交じって、モニターからハッカイと威蔵の声が聞こえた。
「まあまあいいこと言ったぞ、日本人。やられっぱなしで終わるエトフォルテじゃねーからな」
「いざとなったら現場で戦う俺たちがフォローする。だから、逆境は必ず切り開ける」
さらに、別のモニターからまきなとアルの声。
「ヒデくん。アルの準備は整ったわ。作戦どおりによろしくね」
「バトルアイドール・アルファ。飛行準備に入ります」
モニターの向こうには空戦用ジェットパックを装着し、専用アーマーに身を包んだ金髪のアルがいた。本気の戦闘モードに入ると、アルの髪は普段の茶髪から金髪にチェンジする。
通信が終了すると、ドラクローがぽん、とヒデの肩に手を置いた。
「やるぞ、ヒデ!」
「はい。エトフォルテはこれより、防衛戦線を展開します!」
ハイパーシャンガイオーが轟音とともに基地を飛び出し、テーマ曲に乗って空を舞う。
その様子は操縦室内のカメラと、ハイパーシャンガイオーの周囲に飛び交う10機の撮影用無人機(ドローン)によって、TV・インターネットで中継されている。
宇宙船を目視で確認できる距離まで近づいたその時、操縦室内に警告音が鳴り響いた。
「国際レスキュー通信が入った!!」
シャンガインは、ハイパーシャンガイオーを空中で一時停止させる。国際レスキュー通信とは、世界共通の救助要請通信。受け取った者は必ず返信し、付近に要救助者がいないか確認しなければならない。
「こちら日本のヒーロー。レギオン・シャンガインだ。救助要請を受け取った。そちらの位置と名前を教えてくれ」
レッドの質問に、通信機の向こうから男の声が答える。
「…この通信を受け取ってくれたんだな」
「当然だ。俺たちは日本のヒーローだからな」
次に男は、奇妙なことを聞いてきた。
「おいお前ら。俺が何語を話しているかわかるか?」
「何語も何も日本語だ。なんでそんなこと聞くのさ」
イエローが首をかしげる。
すると通信機の向こうの男の声に、明らかな怒りがこもり始めた。
「そう、日本語だ。
俺は翻訳機を使って話しているエトフォルテ人。十二兵団力の部第十団長のドラクロー。お前らが殺した獣人の仲間だ。
翻訳機は、この前の日曜日も正常に作動していたぞ」
エトフォルテの指令室から、ヒデたちは国際レスキュー通信を送ってシャンガインの動きを止めていた。
イエローの反応ではっきりしたその事実は、ヒデだけでなくドラクローの怒りに火をつけた。ドラクローが怒鳴りつける。
「お前ら、日本語で敵意はないと伝えた俺たちの仲間を襲ったなっ!!皆を殺した様子を日本中に見せた。あれは一体どういうことだ!!答えろっ!!」
通信機の向こうで、ええ!?という驚きの声。おいレッド、事前の話と違うじゃないかと口にした男は、声から察するに追加メンバーの2代目シルバーだろう。
レッドがこちらに問いかけてきた。
「そ、その船には、もしかして日本の悪の組織の残党でも乗っているのか?そいつが日本語を教えたのか?」
ヒデはドラクローからマイクを借りた。
「悪の組織の残党ではないが、私が彼らに力を貸した。日本語は教えていない。エトフォルテの翻訳機は日曜日の朝から正常に作動していた。あなたたちはそれを聞いたはずだ」
「誰だお前は!?」
「エトフォルテの軍師ヒデ」
しばしの間の後。
「日本人みたいな名前だな」
レッドが間の抜けた声を出す。馬鹿にして、とも思ったが感情を抑え、ヒデは冷静に口を開く。普段の口調を変え、冷静なエトフォルテの軍師としてシャンガインと対峙する。
ヒデは、映画研究部で悪役を演じたときを思い出す。悪役はいい人っぽいと主人公に、そして観客に思われたらお終いだと、和彦に何度も言われ続けた。
冷静かつ冷徹な軍師としてふるまえ。シャンガインから時間をかけ情報を聞き出し、やつらの感情を揺さぶれ。
「日本人だ。ドラクロー団長の質問を繰り返そう。
なぜ日本語で敵意がないことを伝えたエトフォルテを襲った?ヒーローなら、礼儀を知る戦士なら、戦いの理由をきちんと説明できるだろう。理由もなく他人の命を奪う戦士などいないのだから」
シャンガインたちから返事がない。5秒、10秒、30秒と時間が過ぎていく。
それでも、返事がない。空中のハイパーシャンガイオーも動かない。
まさか、だんまりを決めとおすつもりなのか。指令室に、皆の苛立ちが漂い始める。
ヒデの問いかけから1分後。背後に控えていたまきながヒデの肩を叩く。振り返ると、まきなが小声でささやいた
「ヒデ君の問いかけの後、ニュース中継が完全に途切れた」
ところかわって、日本。
多くの市民がお祭り気分で見つめていたパブリックビューイングの大型モニターには、ヒーロー庁のロゴと勇ましいBGM、そして次の文章が映し出されていた。
『ただいま強烈な電波障害で映像が乱れております。しばらくお待ちください』
日本各地の家庭で、パブリックビューイングで、市民たちは口々に叫んだ。
「えー。また電波障害?」
「獣人たち日本語ぺらぺらやん。敵意がないとも言うとるで」
「日本人の軍師ヒゲだかフデだかがいるとか聞こえたさあ」
モニターやTVを、不信感をあらわにして見つめる全国各地の老若男女。
仕方ないからスマホゲームで時間をつぶそうとしたパブリックビューイングの青年は、異変に気が付いた。
「あれ?ネットにつながらない」
市民たちの不信はテレビからスマホに向いた。
「電波状況ヤバい。電話もネットも使えない」
「この前は関東やろ!?今日はここ関西でもか!?」
家にいた市民は、ヒーロー庁のロゴしか映らないTVの前でパニックを起こしていた。パソコンもラジオも固定電話も使えない。
日本中のあらゆる情報機器が、ヒデの問いかけ直後から一斉に使えなくなっていた。
指令室で映している日本のネットニュース映像は完全にブラックアウトしている。戸惑いを覚えたヒデだが、冷静に状況を確認する。
「モルルさん。私たちがシャンガインに送った国際レスキュー通信は?」
「この通信は途切れていません。日本で起きている問題とは全く関係ないと言えます」
情報解析担当のモルルの回答なら間違いない。ヒデはもう一度通信機を使った。
「私の声は聞こえているだろう。そろそろ何か言ったらどうだ」
通信機の向こうから、かすかにうめき声と荒い呼吸が聞こえた気がした。さらに数十秒後、レッドの怒りに満ちた声が聞こえてきた。
「今日本全体がこの前と同じ強烈な電波障害に襲われている!!お前たち、また妨害電波を出しただろう!!」
日本で1週間前の日曜日と同じ状況が起きていた。エトフォルテのせいではないとはっきり言わなければ。
「そんなもの、エトフォルテは一切出していない。今日送ったのはこの国際レスキュー通信だけだ」
「なら、今日本を襲っている妨害電波は誰が出しているんだ!!」
「知るかドラアっ!!」
ドラクローの怒号が、エトフォルテ側の気持ちを代弁していた。大体、エトフォルテから強烈な妨害電波が出ていたら、国際レスキュー通信だって阻害される。この会話だってできないではないか。
「妨害電波が気になるなら、陸地に戻れ!!電波出してる悪党を倒してこい!!お前らにも敵対する組織がいるんだろう」
「その心配はない。今日は別のヒーローが俺たちの敵の相手をしてくれている。俺たちはヒーロー庁から宇宙船の撃滅を任せられた」
「ヒーロー庁はなぜ指示を出した!?」
ドラクローの怒りを小馬鹿にするように、グリーンの声。
「わかりきったことを。先週日曜日、お前たちが妨害電波を出した。そしてお前たちが残忍な獣人だったからだよ」
ドラクローの怒りが限界寸前まで昂っているのをヒデは感じる。だが、ここで戦いを仕掛けるのは早すぎる。こちらの作戦を気取られてはならない。もう少し時間を稼ぎつつ、シャンガイン襲撃の真相を探らねば。
ヒデはマイクを掴んだ。
「妨害電波など出していない。そもそも、あなたたちはシャンガイオーでエトフォルテを攻撃し、中に入るまでエトフォルテ人が獣人だと気づかなかったはず」
一呼吸おいて、ヒデは静かに問いかけた。
「獣人でなかったら、殺さなかったということか」
返事をしたのは、ゴールド。
「普通の人間に見えたとしても、殺したさ。だってお前ら日本の防衛海域に攻め込んだ敵性宇宙人なんだから。現にこの前、お前たちはシルバーを殺した」
ジャンヌがマイクをヒデからもぎ取り、叫ぶ。
「エトフォルテは見えない光線兵器に撃墜された。私たちもおじい様たちも、迷惑をかけるつもりはなかったの!!ちゃんと言ったのに襲ってきたからっ!!」
悲痛なジャンヌの叫びに対し、レッドが仲間に問いかける。
「聞こえなかったぞ。この前は日本語なんて。なあ、みんな」
うんうん、と同意するシャンガイン達。俺はいなかったから、と返した2代目シルバーはともかく、残る6人が口をそろえて『エトフォルテ人は日本語を話していない』という。
息をするように嘘を吐く、という表現がある。ヒデからすると、彼らは嘘を吐くどころかあの日全く日本語を聞いていなかったという認識の様だ。
絶対におかしい。嘘や誤魔化し以上の何かで、シャンガインはエトフォルテに聞く耳を持たなかったとでもいうのか。
さらに、冷徹な声でブルーが追い打ちをかける。
「大体、そんな光線兵器はこの星に存在しない。国際条約で、衛星兵器の打ち上げは厳しく制限・監視されている。うまいこと言って日本をだますつもりだったんだろう」
「同じ防衛海域に転移した異世界の国とは友好関係を結んだってのに、私たちはなんでっ!!」
今度は可憐なアイドル風の声。ピンクだ。
「だってあっちには獣人いないし、宇宙から落ちてきてないし。大して迷惑じゃないし」
ここまで獣人を馬鹿にしているシャンガインは、日本の国家機関ヒーロー庁から生まれたヒーロー。言動が政府の方針と完全に矛盾していることにヒデは気が付いた。涙を流すジャンヌからマイクを借りて、ヒデは問いかける。
「政府は獣人の権利を保護する国際条約に参加する公約を掲げていたはず。ヒーロー庁直属のあなたたちの発言は、公になれば問題になる」
海外の獣人事情はともかく、この方針自体は新聞やニュースでも取り上げられたから、ヒデだけでなく多くの人が知っている。
直後に返ってきたピンクの答えは、エトフォルテにいる全員を唖然とさせた。
「だったら、聞いた人を皆殺しにしちゃえば問題ないよね。汚らわしくて残忍な獣人とそれに協力した日本人は、きっちり殺さないと。これは、日本政府とヒーロー庁の方針だから。あの条約も、実は政府の人たちは面倒だと思ってるんだよね」
「狂ってる」
ドラクローのつぶやきに心の中で首肯するヒデ。もはやシャンガインは言っていることがめちゃくちゃで、エトフォルテを滅ぼすという意志に偽りがないのも分かった。
そして、リーダー格のレッドがきっぱりと言い放った。
「お前らが日本語を話すのは、軍師ヒデとかいう悪党の仕業だ。俺たちはこの前、一切日本語を聞いていない。
さあ、これ以上の会話は面倒だ。軍師も獣人も全員始末する。そして俺たちは正義をもたらす7色の光として、未来永劫日本を明るく照らすんだ」
「面倒だから。獣人だから。そして名声を得るために俺たちを殺す」
ドラクローがレッドの言葉を復唱する。
そして、怒号をぶちかました。
「十二兵団の掟第三条!十二兵団は他星の知的生命体とその文化に敬意を払い、いたずらに戦いを仕掛けてはならない!
だが俺はもう、お前らに敬意も哀れみも感じる気にならねーぞドラアアッ!!!」
ハイパーシャンガイオーの内部で、ドラクローの怒号を聞いたシャンガイン達はその迫力にたじろぐも、すぐに動いた。
「ネオツインバスターだ!!」
レッドの指示に従い、メンバーが操縦桿やレバーを操作する。ハイパーシャンガイオーの肩に取り付けられた、新たな砲身が勇ましく動く。
狙いをエトフォルテに定めて発射しようとした瞬間。
ぷつんぷつん、と操縦室のモニターが切れ始める。1分もしないうちに、モニターの9割が真っ黒になってしまった。
「何だよ、これ!?」
イエローが慌てる。ほかのメンバーはスイッチやレバーをガチャガチャといじった。しかし、ネオツインバスターもほかの武装も動かない。
『ご自慢の武装ショーは空振り。お前たちはガッカリ。グッズの売り上げに響くだろう』
通信機から、軍師ヒデの声。今やハイパーシャンガイオーは空中姿勢制御とこの通信以外の機能を、完全に封じられていた。
『素早く直したいならモニターを手で叩いてみてはどうかな?』
ヒデの言葉にグリーンが反応し、バンバンとモニターを叩く。何やってるんだ。大昔の家電じゃあるまいし。
レッドはさきほどまでの優位性が一気に崩れていくのを感じていた。まさか、自分たちはすでにエトフォルテから何かしらの攻撃を受けているのか?ついさっきまで正義と希望を全国に映し出していた操縦室に、不安と焦りが増していく。
再び軍師ヒデの声。
『お前たち。なぜこんなことになっているか?と焦っているな。知りたいか?』
「教えろ!!」
『教えませんよ』
ふふん、と通信機の向こうから鼻で笑う軍師ヒデ。なぜ丁寧語を!?というどうでもいいツッコミがレッドの脳裏をよぎる。完全に、軍師ヒデはシャンガインを馬鹿にしていた。
そしてドラクローの声。
『お前らがベラベラ話してる間に、こっちの準備は整った!!エトフォルテは防衛行動に移る!!害敵必討の掟に従い、お前たちを絶対に生かしては帰さない!!』
直後、かろうじて起動していたモニターが警告音を発した。ピンクが叫ぶ。
「誰かが緊急脱出ハッチを開けた!?まさか、獣人がとりついて!!」
緊急脱出ハッチは操縦室と直通で、緊急時に外からでも開けられるようになっている。だが、解錠には専用のパスコードが必要だ。パスコードは限られた人間しか知らない。シャンガイン達は完全に混乱していた。レーダーに捕まらず、獣人がハイパーシャンガイオーに取りつくだけでもありえないのに。
やがて操縦室と緊急脱出ハッチにつながる自動ドアが、すっと開いた。
そこに立っていたのは、人間の体にロボットのパーツを取り付けた、いわゆるメカ少女的な外見の金髪少女。
金髪少女が、静かに口を開く。
「獣人はとりつけませんが、バトルアイドールはとりつけます」
はあ?と間抜けな声を、グリーンが出す。それをよそに、金髪メカ少女が手にした金属ケースを開き、中身を思い切り操縦室内にぶちまけた。
ケースの中身は、テニスボール大の金属球。数は30個近くあるだろうか。
金髪メカ少女はくるりと身をひるがえし、操縦室を出ていく。
シャンガイン達は金属球を拾い上げる。金属球には粘着性の物質がコーティングされ、触ると強烈にべたついた。よく見ると金属球には、タイマーのように時間が表示されている。
30,29,28…。
ゴールドが叫ぶ。
「これ、爆弾じゃないか!?」
レッドが落ち着いて返す。
「落ち着け!!改良された俺たちのスーツが、こんな小さな爆弾でやられるもんか!!」
すると通信機の向こうから、軍師ヒデの声。
『操縦室の耐久性は?』
操縦桿やコントロールパネルに、爆弾がべったりと張り付いている。タイマーの数字は容赦なく減っていく。
…5,4,3,2,1,0。
操縦室は、激しい爆炎に包まれた。