木曜日の作戦会議で、まきなとアルは提案メモにこう書いた。
・シャンガイオーの操縦室を破壊する。
・シャンガイオーにサイバー攻撃を仕掛ける
対空砲台を失ったエトフォルテは、飛んでくるシャンガイオーへの攻撃手段がない。シャンガイオーを倒さないと、と皆が頭を抱える中、まきなは言った。
「倒すのは無理でも動かせなくすることはできるわ」
まきなはヒーロー大図鑑の、シャンガイオー紹介ページを皆に見せて解説する。
「シャンガイオーには、緊急脱出ハッチがついている。ハッチは点検のため、スタッフがパスコードを打てば外からも開けられる。中に入って進んでいけば操縦室。操縦室に爆弾でも投げ込んで、操縦桿やスイッチを壊せれば機体を無力化できるわ」
すると、飛んでいるシャンガイオーを止めて誰かが近づく必要がある。まずはどう止めるか、が課題になった。
ヒデは映画作りで得たミリタリーの知識を引用した。
「エトフォルテの通信を無視するというなら、地球の通信を送ってやつらの注意をひきましょう。国際レスキュー通信、というのがあります。世界共通のレスキュー要請用の通信。連中も一応ヒーローです。地球のレスキュー通信には反応し、現状確認のため空中で一時停止するはず」
国際レスキュー通信の周波数はアルに搭載されている。こちらの時間稼ぎもかねて、シャンガインから情報を引き出すためにドラクローとヒデが話しかけることも決まった。
次はどう近づくか。これに答えたのは、アル。
「私は空戦用ジェットパックを装備すれば飛行可能です。ステルス機能を発動すれば周囲の風景に溶け込み、レーダーに捕まらず接近できます。
空中で機体に取りついて、ハッチの端末にパスコードを打ち込みます。ハッチの位置はヒーロー大図鑑でわかります。コードの解読は、機械である私なら2,3分で済むでしょう」
仮に2号機や3号機が来たとして、同じように対応できるか?皆が質問すると、答えたのはマティウスだ。
「仮に新手が来たとしても、脱出ハッチの位置は同じところで作られたロボなら、戦術デザイン的に大差ない。アルなら探すのは容易いわ」
トータル武装デザイナーを名乗るマティウスならではの意見。ヒデとドラクローは、この判断を信じることにした。
さらにまきなは、解錠コードを打ち込む前にシャンガイオーへサイバー攻撃を仕掛けると提案した。
「高性能の戦術コンピューターウィルスがアルには搭載されている。シャンガイオーの駆動と武器システムを止めてしまいましょう」
「なんかすごい名前だけど、本当に効くの?」
疑わし気なジャンヌに答えたのは、アル。
「敵基地の指令系統や武器管制システムを使えなくさせることに特化したコンピューターウィルスです。戦闘用ロボットにも使う想定で開発されています。駆動と武器を一時停止するなら、ウィルスを注入し10分から15分程度で効果を発揮するでしょう。シャンガイン達はロボの整備をスタッフ任せにしているから、止めてしまえば現場で修復できない。効果は抜群だと見込みます」
ロボットの機能をいじるウィルスなら、いっそシャンガイオーを自爆させてしまえばいい、とカーライルが提案すると、まきなは首を横に振った。
「万が一シャンガイオーが自爆直前にエトフォルテに近づいたら、爆発に巻き込まれる。私は反対」
たしかに危険すぎる。自爆誘発は満場一致で否決された。
あと必要になるのは、中に投げ込む爆弾。アルが持ち運び出来て、強力なものがいる。
それについて提案したのは、タイガ。
「あの爆弾製作のプロが遺したのを使っちゃおう」
面接で爆死したもう一人の男。強力な爆弾製作のプロを名乗った男は、球形小型時限爆弾を持ち込んでいた。一個でも相当な威力があることは、技の部の手ですでに解析済みだ。
ハイパーシャンガイオーが真っ逆さまに海に落ちていくのを、ヒデたちはエトフォルテの指令室モニターで万感の手ごたえをもって見つめていた。
鋼の巨体が海に沈んだ十数秒後。
白い風船のような物体を展開して、鋼の巨体が浮かび上がってきた。
「浮袋(フロート)を射出して浮かび上がってきた!!アルさん、シャンガインのメンバーは!?」
ヒデの通信にアルが応答する。
『墜落する機体から脱出していません。…今、脱出ハッチが開けられました』
「機体ごと仕留められる可能性は?」
『現状から判断しますと、大です』
判断しますと、大です。
マスト・ダイ(must die)。デス(death)。
日本語が攻撃的な英語に脳内で変換され、ヒデは次なる指示を出した。
「光学防壁(シドル)を展開し、魚雷戦に移行します!!落下位置から光学防壁展開範囲及び魚雷射程距離を計算し、魚雷発射用意!!」
魚雷室に待機していた技術主任リーゴは、部下たちに魚雷発射を急がせる。
『任せろ軍師!!あのデカブツの腹が壊れるほど、たらふく魚雷を食わせてやる!!』
勢いづいたリーゴの通信に反応し、ニヤリと笑う指令室のドラクロー。
「ノってきたな主任。腹だけじゃねえ。全身をぶっ壊してやろうぜ!!」
シャンガイン達は、緊急脱出ハッチから息も絶え絶えに這い出した。
「なんかこの前と全然違うじゃんよお」
グリーンが不平不満をぶうぶうとこぼす。皆うんざりしたそぶりを見せながら、フロートで浮かぶシャンガイオーの腰部分に立ち尽くす。
「軍師ヒデとかいうやつの仕業に違いない。やつらが俺たちの情報を獣人に伝えたんだ」
レッドはそう判断する。そうとしか考えられない。宇宙から来た獣人がこちらの手の内を知ろうと思ったら、日本人が知恵を与えるしかない。
憎たらしい軍師ヒデ。そして日本語を覚えた獣人軍団エトフォルテ。
遠く離れたエトフォルテをにらみつけているうちに、シャンガイン達は海上の異変に気が付いた。
エトフォルテ正面からこちらに向かって、海の上を白い線がすうーっと伸びていく。2本、3本、10本と、すさまじい勢いで線の数が増えていく。
「魚雷だ!!」
ゴールドが悲鳴を上げる。機体を動かせない以上、回避は不可能。あれだけの魚雷に機体が耐えられるかも怪しい。もう、飛行して離れるしかない。
シャンガイン達は腕の変身ブレスレットを操作し、反重力飛行装置を起動する。背中の飛行装置からマントが飛び出し、一斉に空中へ跳ねた。
「エトフォルテに飛んで、獣人どもを皆殺しにするぞ!!」
レッドの指示にシルバーが反対する。
「事前に聞いた話と全然違う!!明らかに獣人どもはこちらを殺す算段をつけている。引き返したほうが安全だ」
シルバーの提案をレッドは拒否した。
「飛行装置のエネルギーが陸地まで持たない。新しい武器もある。獣人を皆殺しにして、エトフォルテから陸地に救援要請をすればいい」
「でもこの前、初代シルバーを殺されて…」
「このレギオンのリーダーは俺だ!!入りたてのお前よりチームのことをわかってる!!スーツも武装も強化したから大丈夫だ!!」
「なんだと!!俺も考えて…」
「二人とも待て!!あの船、また何かしようとしている!!」
空中で喧嘩を始めそうになったレッドとシルバーを、慌ててブルーが止める。
エトフォルテの中央から上空に向かって光が放たれる。光は上空で一時停止し、やがて船体前面に向かい弧を描き始めた。
光の壁-バリアを張って閉じこもるつもりか。
「前に向かって進むしかない!!」
レッドは強引に前進飛行を開始する。閉じこもられる前にバリアの内側に入らねば。
残るメンバーが続き、シルバーもしぶしぶと言った体で続いた。
しばらく飛んでから、レッドは後方を確認する。メンバー“5人”がマントをはためかせきちんと自分に続いている。安心したのもつかの間、とんでもない忘れ物に気が付いた。
イエローがいない!!
さらに、バリアが自分たちの進路をふさぐように下りてこないことに気が付いた。
エトフォルテは下ろす位置を間違えたのか?
ブルーが、バリアの展開位置を見て叫んだ。
「バリアは、俺たちがさっきいたところに展開されていく!!」
そこには、ハッチを最後に這い出し飛び出そうとしているイエローがいた。転落の衝撃でどこか痛めたのか、動きがおぼつかない。
「イエロー!!早く飛べ!!」
グリーンの絶叫に応えるようにイエローが飛ぶ。だが、間に合わずバリアの中に取り込まれてしまった。
ああっ、と、シャンガイン達は悲鳴を上げる。
光の壁の中で、イエローの体はじたばたと前進しようとしていた。その体が消えていく。風呂の中に入れた炭酸発泡入浴剤のように、光の泡を全身から発して。
シャンガイン達はその光景に絶叫した。あのバリアは、自分たちを殺すつもりで展開していたのだ。
その叫びをかき消すように、ハイパーシャンガイオーに魚雷が次々と命中していく。
魚雷はパワーアップした鋼の巨体を、容赦なくバラバラに爆散させた。
シャンガイオーを行動不能にするサイバー攻撃&爆弾作戦の決定後、再び図鑑を見たエトフォルテの仲間たち。
シャンガイオーには海中水没を防ぐために巨大フロート、つまり浮袋を機体から射出する機能があるという。この機能はコンピューターウィルスや爆弾で操縦不能にしても使えるから、機体は完全に沈まず海上に浮かぶ。完全に壊してしまう必要があった。
ドラクローはハッカイとタイガの提案メモを手に取り、読んだ。
・魚雷攻め
・魚雷を強化する
ハッカイは大きく頷く。
「海戦用の武器として魚雷がある。シャンガイオーを船の正面に叩き落として、魚雷を浴びせりゃ効くはずだ」
そして、軽く咳払いして続けた。
「万が一外した場合、一定距離を進むと魚雷は自爆する。そうだよな、タイガ」
「そうだな先輩。自爆距離は調整できるから、陸地にいる日本人を巻き込まない距離で自爆させればいい」
魚雷は巨大ロボとの戦闘を想定したつくりではないが、破壊力を強化することは可能だとタイガは言った。
問題は、シャンガイオーを魚雷で爆砕する前にシャンガインが脱出を図った場合だ。
この事態を解決する提案メモは、孝洋とモルルのものが使われた。孝洋のメモはこうだ。
・バリアを武器に
タイガが首をかしげる。
「バリア…光学防壁(シドル)のことか?防御用の壁をどうやって武器にするんだよ」
孝洋が手を動かして、何かを挟み込む動きを見せた。
「昔映画で見たんだけど。光の壁、バリアで相手の体をはさんで、ズバン!!って切っちゃうやつ。できないすかね、団長たち。海に落ちたロボを上からバリアで挟んでズバン!!しちゃうとか」
その手のシーンが出てくる映画をヒデは何本か知っている。タイトルを言いかけたが、この場はわからない人が多数だと思いやめた。
この質問に答えたのは、モルル。
「光学防壁ではさんでロボをズバン!!は、できません。シャンガイオーは耐熱性能が高い機体のようなので」
「そうかあ。駄目かあ」
残念そうに首を振る孝洋に、思わせぶりな笑みを浮かべるモルル。
「ですが、孝洋のメモと同じことを私も考えていました。ズバン!!以外の使い方ならできます」
どんな使い方だろうとヒデは思う。
そういえば、さっき耐熱性能の話が出てきた。光学防壁は熱を放つらしい。と言うことは、
「熱を利用するんですね、モルルさん」
「そうです、ヒデ。ロボを壊すのは無理ですが、メンバーを壁の中に取り込めば有効です。その場合発生する状況はズバン!!ではなく、ジョワア!!、ですね」
モルル、真面目な顔で光学防壁の効果音を語る。効果音の意味をヒデたちが測りかねていると、モルルは自分の書いたメモを取り出した。
・光学防壁による蒸発攻撃
「専門用語を抜きにして説明します。光学防壁は光の粒子を集めて壁を形成しています。粒子自体は生き物に対し無害です。壁を外側から触っても問題ありません。しかし、内部空間では高熱を帯びています。この中に取り込まれたら、並大抵の防護服では助からないでしょう。ジョワア!!と音を立て、光の泡と化して蒸発します」
表情一つ変えずにモルルは説明を終え、ホワイトボードに光学防壁発動の様子を書いてみせた。
「エトフォルテの中央にある発生器から、本来はドーム型に光学防壁を展開します。展開範囲は敵にも目視できますが、動きを止めれば壁の中に取り込めるかと」
ドラクローがホワイトボードに、爆弾で落ちたであろうシャンガイオーの絵を描いた。光学防壁と重なる位置に。
「故障している今、エトフォルテを中心に四分の一程度しか光学防壁を展開できない。防御に使えないなら、武器として使うのはありかも、な。海上に落ちた機体に光学防壁を下ろす。這い出した連中を光学防壁の中で消滅させる。ヒデ、どうだ」
「シャンガインのスーツの耐熱性はどうでしょう、マティウスさん」
ヒーロー図鑑のページを見たマティウスは、光学防壁内部の温度とスーツの耐熱性能を比較した。その結果、
「10秒も持たないわね」
「だったらいけるな。いいか、孝洋」
提案した孝洋は、自分の考えが敵にもたらす凄まじい未来に戦慄したようだが、
「あ、ああ、団長。敵もバリアを武器にしてくるとは思わないだろう。相手が想像できない戦術を使わなきゃ」
覚悟を決めた表情で、頷いた。
イエローが光学防壁の中で消えたのを見て、恐慌をきたすシャンガイン達。魚雷爆発で跳ね上がった水しぶきを浴びて、全員泣きだしたかのような様相を呈してる。
彼らよりさらに上空から、アルはその様子を見つめていた。
「イエロー、光学防壁の中で死亡確認。残る6人は健在。ハイパーシャンガイオーは完全に破壊されました」
『アル、よくやってくれた。次の作戦に移るぜ!!よろしく!!』
ドラクローの声にアルは頷く。
「了解、同志ドラクロー。シャンガイン達をエトフォルテに追い込みます」
エトフォルテから支給されたマシンガンを構えたアル。ステルス機能を発動して周囲の風景に溶け込み、急降下を開始した。
恐慌をきたしたシャンガイン達は、メンバー同士で言い争いを始めた。シルバーとグリーンは、撤退を提案した。
「これ以上前に進むのは危険だ!!バリアがふさがってないところから逃げよう!!」
「そうだよお。帰ろおよお」
だが残る4人は猛反対した。
「汚らわしい獣人に仲間を殺されて、アンタたち悔しくないの!!」
「ピンクに賛成だ。獣人に二度も負けて帰ったなんて、恥ずかしくてファンの前に出られない」
ピンクとゴールドは怒りで我を忘れていた。
「わざとふさがず、俺たちを誘導している可能性もある。前に進むのも危険だが、逃げたほうがさらに危険だと俺は思う」
ブルーの考察に再び黙り込むシルバーとグリーン。
そんな彼らを、上空から銃撃した者がいる。
ステルス機能で空中に溶け込みながら、銃を乱射するその影は、
「さっきのメカ女か!!」
レッドは叫ぶ。ほぼ透明でもおぼろげに見えるシルエットがメカ女だ。
「もう、前進しかないっ!!」
シャンガイン達は、エトフォルテに向かって飛び出した。
メカ女が撃ってくる銃は実体弾。当たってもシャンガインのスーツにダメージはないが、得体の知れなさがシャンガイン達にメカ女への反撃をためらわせた。そうこうするうちにエトフォルテから砲弾が飛んでくる。マスクの機能を使って目を凝らすと、甲板の上に砲台が8台新たに置かれている。砲弾はそれなりに大きく、当たれば死なないまでも衝撃で動けなくなるだろう。
「砲撃をかいくぐって、甲板に取りつく。獣人どもを接近戦で仕留めるぞ!!」
レッドの勇ましい指示に呼応するメンバーたち。すると今度は、上空から新たな銃撃が降り注ぐ。上空にいる誰かが撃ったようだが、姿が見えない。メカ女がほかにもいるのか。
「俺が上に行く!!」
ゴールドが銃撃の方向へ飛翔した。メカ女が追いすがる
ゴールドは高速飛行しながら、マスクの中で目を凝らす。
青空と雲に紛れて、誰かが銃を撃っている。メカ女と同じステルス機能か?
いや。違う。
鳥獣人たちが服や仮面を雲や空の色に似せて塗っているだけだ。翼までは塗れなかったようで、黒や茶の翼が上下運動を繰り返している。こんな子供だましで奇襲を仕掛けようとは。
ゴールドはさらに加速して、鳥獣人たちに迫る。新たな武器、シャンジャベリンで突き殺してやろう。
あと一歩と言うところで、加速に突然ストップがかかった。何かが体の前面に強烈に張り付く。
「あ、網!?」
極細の、接着剤を塗りつけた網が鳥獣人たちの前に張られていた。加速したことで視界が狭まり、網を認識できなかった。
網にかかったゴールドを、両端のロープを持ってぐるぐると巻き始める鳥獣人たち。
あっという間に、ゴールドは網にまかれてしまった。
「くそ、くそ!!」
網は細いが強靭で、しかも接着剤が塗られている。ゴールドは空中に浮かぶ金色のミノムシと化した。
魚雷攻め、光学防壁作戦が決まり、エトフォルテは次の状況を考える。
魚雷と光学防壁でシャンガインを倒せなかった場合、どう立ち向かうか。壊された対空砲台に代わり、陸戦用自走砲を甲板に設置することがタイガの意見で決定したが、恐らく自走砲で仕留めるのは難しい。シャンガイン達は背中に反重力飛行装置を身に着けており、身軽に空を飛べるからだ。
ドラクローは皆に言った。
「絶対に連中は生かして帰さない。やつらが俺たちを殺すつもりで来るなら、エトフォルテに追い込んで奴らを仕留める」
もちろん、エトフォルテ側の安全を確保したうえで、である。
「なら、俺たちも空中で迎え撃つ準備をしたほうがいいと思う」
カーライルは不安げに、それでも皆の顔をまっすぐ見て提案した。
カーライルが書いたメモにはこうある。
・鳥族団員で空中戦
この前の戦いでシャンガイン達は二手に分かれ、一方が反重力飛行装置で飛びながら光線銃を乱射。さらに一方が地上で戦い団員を殺して回っていたという。エトフォルテで唯一空戦能力を持つ鳥族の団員たちは、団長スパローンも含め空中戦で同族を多数失った。
「やられっぱなしのまま終われない。鳥族の誇りにかけて、空中で奴らを叩きのめしたい」
カーライルの悔しさを、ヒデはその表情と口調から痛いほど感じ取った。ドラクローも同じだったらしい。
「こちらが空中にいることを悟られず奇襲を仕掛けられるといいな。博士。アルにはステルス機能があると言ったが、俺たちにも使えるか?」
「ごめん。アルに内蔵されている機能だから、ほかの人には使えないの」
ステルス機能は使えなくても、風景に溶け込んで待ち伏せするならほかの手段があるのでは、とヒデは思った。
「ドラさん。十二兵団の団員服と仮面の色は、変えることはできますか」
「活動を逸脱しない範囲でなら」
「マティウスさん。空中戦向けの迷彩を施した団員服ってデザインできませんか」
たしか軍用戦闘機で、空色に似せた迷彩を施した例はなかったか。ヒデはミリタリー映画の知識を引用してマティウスに聞くと、二つ返事で快諾してくれた。
「シャンガインは高速で空を飛ぶから、一瞬で迷彩かどうかを見抜くのは難しくなる。高速移動すると視界はどうしても狭まるからね。空色迷彩、奇襲に使えるかも」
視界が狭まるというマティウスの言葉に、ヒデはふとひらめいた。
「視界が狭まるのを利用して、空中に網を仕掛けるなんてどうでしょう?細くて強い網を仕掛けて、飛んできた連中を止めて縛り上げるとか」
「猛獣捕獲用の網なら、いけるか?」
「いけると思うよ、兄貴」
ドラクローが答え、タイガが同意する。人間より身体能力が高いエトフォルテ人が相手にする“猛獣”用の網なら、ヒーローにも効くはずだ。
「仮面と制服を空色に塗って空中に待ち伏せ。効くかなあ」
カーライルは首をひねっていたが、マティウスが断言した。
「大丈夫!!私絵心はあるから。ばっちり空色迷彩を描くわ!!」
「いや絵心の問題じゃなくて…」
カーライルはマティウス独特のノリに乗り切れないようだ。タイガがフォローする。
「面接の後いろいろ話したんだけど、マティウスの武装に関する知識と技術は本物だ。オレはマティウスを信用できる。カーライルも信じてくれ」
「…まあいいや。タイガが言うなら信じるよ。ただし、俺たちの翼に絵の具塗るとか勘弁してくれよ。かぶれて飛べなくなると困るから」
「まっかせなさーい!!このマティウス・浜金田。モットーは『使用者の安全第一』だから」
マティウスは面接のときのように、明るいノリで胸を叩いた。
「締めろっ!!」
鳥族の団員が網の両端に取り付けられたロープをさらに締め付けた。
「くそ、出せ!!」
ゴールドは網を破ろうと身をよじるが、新武装シャンジャベリンごと網はきつく閉じられている。
その間に、ロープを握っていないカーライルとほかの鳥族団員5人はそれぞれの剣を構えた。
「この前は好き放題みんなを殺してくれたじゃねーか!」
カーライルは己の剣にエトスを流した。黒紫のエトスが刃に走る。
「鳥族のスパローン団長には奥さんも子供もいたんだ。お前たちは団長だけじゃない。奥さんも子供も殺した!!どんな気持ちでやったんだ!!言えよ!!」
「そ、それは」
「黙れ!!鳥族皆の怒り、千鳥の陣(ちどりのじん)だ!!」
ゴールドの釈明を一方的に打ち切り、剣を構えて一瞬で最高速度まで加速。千鳥の陣は鳥族の飛行法『飛走術(ひそうじゅつ)』から繰り出される、複数の鳥族が高速斬撃を絶え間なく浴びせる必殺の陣形。カーライルあわせて6人の全力の斬撃が、ゴールドの体を網ごとズタズタに斬り裂く。
自身のエトスの色にも似た、黒い高揚感と達成感が一太刀ごとに増していく。駄目押しに、カーライルは剣をゴールドの腹部に突き刺す。
「くたばれっ!!」
そして一気に横に薙ぎ払った。